小説《カローン、エリス、冥王星 …破壊するもの》イ短調のプレリュード、モーリス・ラヴェル。連作/ザグレウス…世界の果ての恋愛小説⑯ ブログ版





カローン、エリス、冥王星

…破壊するもの



《イ短調のプレリュード》、モーリス・ラヴェル。

Prelude in A minor, 1913, Joseph-Maurice Ravel



《in the sea of the pluto》連作:Ⅳ



Χάρων

ザグレウス





以降、一部暴力的な描写が含まれています。

ご了承の上、お読み進め下さい。





「もはや、」

「うける。」

「もう、」

「素っ裸で。部屋の中、」

「笑うしかない。…まじ、」

「走り回って。…で、」

「哀れだな…」

「倒れた。…そこ」

「…じゃね?」

「バルコニーで。ね?」

「政府って。…」

「この子、…なんか、」

「所詮、こんなもん?」

「病気?」言った、ジウの眼差しは壁際に******立ちつくしていた、タオを捉えていた。タオの全身は小刻みに震えていて、…いいです。

「あたまのおかしな、…」

眼差しがつぶやく。…赦します。

「ね?」

…すべてを。わたしは

「外人が二三人、」

赦します。あなたは

「発砲しただけだぜ。」

赦してください。どうしようもなく

「それで、…」

間違って仕舞った、この

「…うける。」

わたしを。哀れみさえもなく、ただ

「この騒ぎかよ。人間って、所詮こんなもんなのね。」

素直に。…と。「どんな感じ?」私は、自分が言った声を聴いた。それは、明らかにハオに対してつぶやかれたものだった。「やつら、…」

…さ。

「どんな感じよ。」

「一般人大量と警官十五人くらい。…なんか、話し合ってる。そこで突っ立って。」…ばか?

ハオは言った。「だれも、こっちのほう、見上げないんだけど。」

声を立てて笑っていたハオの足元で、マイはもはや身じろぎさえもしない。彼女の中で、何かが壊れていた。私は、ジウが言ったことを、信じる気にはなれなかった。ジウが、彼女を追い詰めたに違いなかった。「…発砲しようとしたのは事実だよ。」

ジウは言った。想わせぶりな、企んだ表情をわざと作って、…なに?

と。…この、

「…世界?…この世界に?」

ば、っ、…

「想いきり、心臓に、」

きゅー……

「ど真ん中に、」

…ん、…って。

「ね?」…それ。

「それは事実」…想った。「発砲してやろうって。…」けど、…さ。「関係ないよ。…出生?そういうのは。国籍とか、人種とか。ぜんぶ、そういうの、うさんくさくね?…関係ねぇから。強姦されたお袋さんとか。***。関係ねぇ。」…勝負。「まじ。」本気の勝負。「そんなもん、全部、」…一対一。「ね?」…俺と、「俺ね、信じてないから。」…世界との。てか、…「世界って何だよ?…くそつまらない。どこにあるんだそんなもん。くっそつまらない妄想みたいなもんに惰性でしがみついてるだけだろ?…違うから。」…俺。「違うからね?」…俺は。

だれも、ジウの言葉など聴いてなどいなかった。私はただ、ハオをあやうんだ。

「欲求不満なんだろ?」私は言った

ハオはただ、悲しみを曝した。

「愛されたいの?むしろ、」

その全身で。

「だれかに。…なんか、お前、」

たとえ、それが自分勝手に取り付かれたものに過ぎなかったにはしても。

「甘えてんじゃん?」言って、笑う私を、ジウは見つめた。…*****のくせに、…と、口につぶやかれた私の言葉を、ジウはもはや聴いてはいなかった。「オナニーのしすぎで死ねよ。」

私は言った。微笑みながら、ジウに、…お前、「生きる価値ないよ。」…糞だから。「存在する意味、完全にない。」恥ずかしいから。…お願い。「死ねよ。」

「殺して欲しい?」ジウはささやく。私に伺うような眼差しをくれながら、そして、「あんた、殺されたいの?」

「…馬鹿?」

「俺、ずっげぇ、誇り高いの。******奥さん、寝取られて黙ってるようなあんたと違って。」…何様?…、「俺ってさ。…」まじ、お前、「人に難癖つけられて、」…何様なん?「黙ってるタイプと違うからね。」…知ってた?「あんた、…」まじ糞。「あんた、まじ、やられるよ。」

あんなたわまずぃだめ

「やっちゃえば?」

言ったのはハオだった。ハオはただ、邪気もなく微笑みながら私たちに均等にその眼差しをくれていた。彼を見あげて笑った私の笑顔を、ハオは確認した。

ジウの呼吸が鼻から漏れて、チャンは彼の肩の向こうで何も言わない。ただ、彼女はそこに目覚めていて、そして、息遣う。

私はそれを確認する。

バルコニーの向こうに、日差しがゆっくりと暮れ始めていく。その、日没の鮮度が、次第にあざやかになってくままに、私たちはただそれを気付きながら、何も言わないですますしかない。「…教えてあげる。」

ジウは言った。…風景。

「俺が、…さ。」

…ね?

「見てきた風景。」

言ったジウは、立ち上がってバッグから機関銃を抜き取った。…すげぇ。

…と、彼はひとりで口の中に嘆息して見せて、銃器の中の銃弾を確認した。「…暴発したりして。」

本望だろ?と、私が「いきなり、…」言ったとき、その「吹っ飛んじゃえよ。」聴こえていたはずの言葉をはジウは、無視して仕舞う。ば、…

ぁあー…ん。…「…って。」

私は声を立てて笑った。

「お前も死んじゃうよ」耳元にハオが、こまかく笑い散らしながら乱れた言葉を揺らした。「…一緒に。」

…ね?

意味もなく、みだらに見えるほどに好き放題息を荒らげたマイをまたいで、ジウはバルコニーに身を曝した。ヘリコプターが飛んでいるわけでもない空を一度確認して、自分の身の安否を気遣うジウが、私には滑稽だったが、…お前、誰?って。

ハオは言った。私の耳元に、寄り添うように。「いきなり、あいつ、あの女の鼻先に拳銃突きつけて。…」

バルコニーに身を乗り出したジウが、

「言ったの。…お前、」

不意に、下にたむろする

「誰?って。」

彼らに

「そしたら、…うける。」

奇声を上げた。《ほ》に

「女、…え?」

《き》の音を混ぜたような、そんな

「…って。え?って、そんな顔して」

音に、私の耳には聴こえた。彼らは

「逃げ出したの。部屋ん中、」

見あげたに違いなかった。いっせいに

「ぐるぐる回って。あれ?って。」

上空、彼らの頭の上で鳴った

「想った。おれ。こいつ、」

奇声を。

「壊れちゃった?」

声を立てて笑ったジウの背後に向けて

「…みたいな。…ジウもさ、」

タオがいきなり

「面食らってんのね。」

疾走したのを私は

「だから、」

確認した。耳元に

「なんにも出来ないの。おれも、」

ささやき続けるハオの声に

「実際、なにがどうなってんのか」

気を取られながら、私の

「わかんないしね。」

傍らを滑る抜けたタオの

「うける。…でもさ。」

気配を私は感じていた。私の

「逃げないんだよ。」

皮膚は。

「あの女。」

タオに背後から体当たりされた

「部屋ん中、」

ジウは、

「ぐるぐる回ってるだけ。」

よろめいた。…あ、

「…壊れてる。」

と。か弱げな声を

「やっぱ、もう。」

立てて仕舞いながら、あるいは

「…頭ん中。で、…」

そしてジウの腕から機関銃を

「…もう駄目。」

奪ったタオは、一瞬

「みたいな?もう、…」

振り向いた。私を、

「逃げ場所さえなくなりました。」

彼女はそして振り向き見て、

「終に、」

微笑む。…ほら。

「追い詰められちゃいました。」

うばっちゃった。

「…的な。」

そんな

「なんか、気付いたみたい。いきなり。」

微笑み。乱射した。

「立ち止まって。窓際で。」

バルコニーの手すりに身を預けたタオは

「想いあぐねて、口」

下の男たちに無差別に、

「ぱくぱくさせて」

その機関銃を乱射し、

「立ちつくしてんの。…馬鹿。」

叫喚。下のほうで立った、その

「ほんと、…ただの、…で。」

みもふたもない悲鳴、

「ジウが近寄ったのね。でも、」

怒号、あるいは、嬌声のように

「ジウなんか見てないのね。もう、…」

感じられた甲高い声。人の

「…もはや。」

人々の、

「聴かないわけ。」

声。叫喚。ふるえる

「ジウが何言っても。つぶやいても、」

タオの身体は、

「わめいても。」

機関銃の掃射の震動に

「怒鳴っても、」

素直に体中を

「叫んでも、」

震わせて仕舞いながら、

「慰めても、…さ。」

見た。私は

「…ね?」

乱れる彼女の髪。そして

「殴った。…俺のほう、あいつ、」

肩。腰、あるいは、

「どうする?見たいな顔した直後に、」

尻**。太ももの、…見る。

「振り向き様にあいつ、」

足元のマイはその

「殴った。あの女、…。」

豊かな身体を曝したままに、

「ぐげ…って。」

息づかう。あららげて

「ぐが、…みたいな?ぎゃっ?」

唇をさえふるわせ、笑っていた。

「…とか、さ。そういう」

ジウは、声を立てて、

「声、一回だけ、」

私たちを振り返り見て、そして

「派手にあげてぶっ倒れてんの。」

知っていた。私たちはみんな

「…うける。」

彼がほんの一瞬前まで

「後頭部直撃。…からだ、」

惨めなほどに、不意のタオの暴力に

「想いっきりのけぞらしてたからね。」

戸惑い、何が起ったのか、

「ひでぇ。…どー…んって。」

ただ理解できないひたすらな

「ひっでぇ音たててんの。頭の、」

思考停止の、停滞した

「…******たんじゃね?…笑う。」

眼差しを震わせていたに過ぎないことを。

「直撃笑うって。まじで。…なんか、」

おびえることさえ出来ずに、タオを

「為すすべなくてさ。…ねぇ。」

見つめていたことを。その

「俺、どうしたらいいんですか?的な」

機関銃を乱射するタオを。

「そういう顔してたから、…あいつ。」

銃弾はすぐに尽きてしまう。

「ジウ、…ね?立ちつくして、」

タオは、それでも、数秒間は

「そういう顔してたから、…」

いまだに発砲されているかのように

「言った。」

惰性で

「やっちゃえって。」

銃先を振り回してた。

「壊して遣れよって。」

引き金を引いたまま

「…そうするしかないんじゃん?」

逃げ惑う人々に向けて。

「一番いい、」

言葉もなく、そして、

「解決法じゃん?」

気付く。タオは。自分の機関銃が掃射を終えて仕舞ったこと、そして、自分が、あきらかに人々に発砲した事実に。…で?

私は言った。初めてハオを振り向き見て、「****?…あいつ」

「まさか。」ハオは笑った。「脱がしただけ。」






Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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