小説《カローン、エリス、冥王星 …破壊するもの》イ短調のプレリュード、モーリス・ラヴェル。連作/ザグレウス…世界の果ての恋愛小説⑮ ブログ版





カローン、エリス、冥王星

…破壊するもの



《イ短調のプレリュード》、モーリス・ラヴェル。

Prelude in A minor, 1913, Joseph-Maurice Ravel



《in the sea of the pluto》連作:Ⅳ



Χάρων

ザグレウス





以降、一部暴力的な描写が含まれています。

ご了承の上、お読み進め下さい。





…って。

ね?…

「言ったの、あんたじゃん?」ハオは、「…違う?」その、ジウの早口の声を聴き取っていたにもかかわらず、なにも答えてやろうとする気配は見せなかった。「…糞だよ。」無言のままにただ、ハオは、「やっぱ、…」あお向けたマイを「…うける。…」見ていた。「あんた糞。」

…知ってたけどね。

ジウは声を立てて笑う。「最初からわかってたけどね。…なんか、あんた詐欺師だから。てかそれ以下。詐欺師のほうがまだ生産性あるからね。すくなくとも自分が騙し取った金で遊びまわるくらいの生産性は露骨にあるわけじゃん。…くっそでもね。あんたほどくっそじゃないよ。」…くっ、…

と。

…っそ。まじ、「くっ…、」

くしょ

…そ。そう言って、私を振り向きたジウに、「お前でしょ?」私は言う。

「お前、…」

「…わかってた。」

「まじ」

「…俺。」

「糞だからね。」

「俺ね、最初から、」

「自分のわけのわかんない、…なに?」

「わかってた。」

「妄想?…的な?」

「…まじ。」

「被害者妄想?…」

「これ、…」

「それ、」

「まじだからね。実際、」

「含めて?…糞じゃね?」

「あんた、単なるできそこないじゃん?」

「自分勝手に傷付いた気になってんじゃねぇよ。」

「…違う?」

「傷付いてんだったら、お前、」

「体だけじゃないよ。」

「死ね。」

「…あたまのなかも。」

「自分で。いま。」

「…なにさま?」

「このねぇちゃんの方が、まだ、」

「適当に煽っといてさ。…」

「素直じゃん?だって、」

「自分は何もしないじゃん?お前、」

「自分で目玉抉り出したんだろ?…くそ。」

「ただ、適当にかき回してるだけ。」

「お前、」

「知ってた。」

「…まじでカス。」

「おれ、」

「詐欺師。」

「…すでに気付いてたからね。」

「それ以下。ってか」

「…そ。」

「まがいもの。…お前がさ、」

「てか、」

「なんか、…」

「だから乗ったんだよ。」

「見ちゃった脱北の風景だかなんだか知らないけど」

「むしろ。」

「そんなもんふくめて全部」

「お前のあおりに。所詮、」

「くっそなまがい物でしょ。…嘘ついてんじゃん?」

「無能男の戯言じゃん?」

「…むしろ。」

「だからさ、…」

「犬っころだって好き勝手に交尾するんじゃね?」

「乗ってやったんだよ。」

「腹すかせりゃ共食いくらいすんだろ。…かす。」

「一番、…」

「お前、かす。」

「いっちばん、」

「ありふれてんだよ。」

「むごたらしく、この、」

「お前が見た風景なんて。…」

「世界を崩壊させてやるために。」

「…カス。」と、言った私にいきなりハオは、振り向き見て声を立てて笑った。「…お前もでしょ。」

ハオは、もはやおもしろくて仕方ないのだった。…お前なんか、

「ジウ以下のちんけなカスじゃない?」

…見たかよ。

ジウは言った。口もとにただ言葉をこぼす。独り語散るそのささやき声を。「悲惨だぜ。」

…みたかよ。

「いっちばん。…いっ、…ち。ばん、…むごたらしく、」…きったねぇ詐欺師の糞が仕込んだ家畜以下のクズが、…「滅ぼして仕舞う。」…この、…

「残酷な世界を?」と。

理沙は言った。注射を打った後で、かすかに唇を震わせながら、彼女は。「…抱き締めて。」

わたしごと。…「ね?」

すでに、その、「…あなたの」

…ね?

焦点の定まらない、「この」

ざんっ、…

眼差しで。

ざ。…「残酷な、」…ね?

微笑みながら。

「世界ごと。」…ん。

理沙は、

ほら、…「ね?」大好きな

「わたしを」…なんども強姦して。

理沙がつぶやく。「なんども、狂っちゃうくらい、めちゃめちゃめちゃに。」…ね?

「頭の中で。」

…もっと。…わたしの、…「ね?」

体も、…「魂も、なにも、もう…」

なにもかも、…「全部。」

ね?

「めちゃくちゃにしてよ。」頭の中で。

あんたの、「ね?」頭の中でだけ。わた…

「…し。」わ。

わたしを、…「ん?」見つめながら。…と、言った、その、理沙、そして、見る。理沙は、私を、見ていた。私は。

ベッドに身を起こしかけた彼女の向こう、朝焼けを曝した空の、夕焼けるような色彩。

夜が静かに崩壊していく、その、…つぶやく。「…こんなこと、したくなかった。」

ジウは。

ベッドに座り込んだうつむいて、やがて、私を見上げた顔は微笑んでいた。「まじだよ。…おれ、…」

…と。ジウはつぶやいていた。「こんなこと、」自分勝手に、その「求めてなかった。」声を好き放題私たちにふれさせながら。…じゃ。

「さ。…」

なんで、…と。

私がそう言ったのは、単にいかにも物憂いジウに気づかっただけにすぎない。「…世界を汚したの?」

「汚した?」…だろ?と。私は不意に言ったハオに答えた。「違う?」…ね?

「じゃない?」

引き金を引いたんでしょ?…嘘を、…「わけのわかんない嘘と、まことしやかな正当性と理論とをぶちまけて、丸め込んで、洗脳して、」…くれてやっただけ。

ハオはつぶやく。「あいつらに、」…と、そして、…嘘は言ってない。

ジウが言った。「だって、…」

「くれて遣っただけだよ。あいつらの、」

「おれ、まじだからね。…おれ、」

「欲しがっていたもの。それが、」

「すくなくとも俺は俺が信じたものと、」

「それが何かはわかんない。けど、」

「なに?」

「実際、」

「なんだろ?…」

「求めてもいないものに、」

「心中する気。あくまでも、…ね?」

「…さ。」

「俺は、俺を」

「縋りついたりしないって。煽動…、」

「つらぬく。そのために、」

「した、…けど。」

「たしかに、…さ。」

「あくまでさ、」

「丸め込んだけどね。…実際、兵態どもは、…」

「あいつらはあいつら自身の」

「…けど。」

「求めてるものに、縋りついたわけ。違うよ。…」

「そんなもんじゃん?…ね?」

「見てる風景。」

「…違う?」

「完全に、…」

…ね?ハオはつぶやく。「…違うと想う。」言って、ハオは私から目線を外した。「俺はきっかけを与えただけ。与える気もなかったけど。こいつら、みんな、自分なりに自分のみたい風景、見てんじゃん?…好き勝手に。」…てか。

と、そう、想い出したように不意につぶやいて仕舞った私は、チャンの枕元にひざまづいて、彼女の息遣いを聴いていた。「教祖様じゃん。」笑う。

声を立てて、ジウが。

「あたまのおかしな集団の、教祖様だろ?」…まさか。

ジウは私に慰めるような眼差しをくれた。「みんな気付いてるよ。」

「なにに?」

「俺の言ったこと、しでかしたこと、全部、まやかしだって。」ジウは、そう言って、声を立てて笑った。…まじだけどね。

「方法論はともかく、…」

おれは、…「さ。」あくまで、まじだけどね。

ハオはもはや、ジウを見棄てていた。その事は明らかだった。ジウに、ハオの興味を引き獲るものは何もなかった。ハオはバルコニーに出て、外気に当る。足元のマイには気もとめない。そんな存在など、もはやこの世界には存在しないとばかりに。「自分から脱いだんだよ。」ジウは言った。

俺が、…さ。と、ジウは微笑み、「銃、…」声を潜めた。「向けたら。」

…冗談だぜ。「やばいな。」

ハオはバルコニーで、言っていた。「…あいつら、」

声を立てて笑い、かならずしも誰かに聞かせる気もないその言葉の群れが、「なんか、…さ。」

ジウと、私の耳にもふれる。「いきなり、」声。

ジウの。

「…叫んだ。」

「警官、いっぱい、…」

「こいつ、…」

「…すげっ。」

「違う。…てか、」

「見ろよ。…あいつら、」

「小声で。…いきなり、」

「機関銃持ってるよ。…まじ?」

「んんー…」

「うける。…」

「みたいな?…なんか、…」

「…すげぇな。」

「けど。で、」

「なに?」

「妙に挙動不審な感じ?」

「市街戦でも始めるの?」

「…うける。」

「…ばか?」

「汗だくだからね。こいつ。もはや、」

「あいつら、馬鹿なの?」

「ふるえてんの。なに?」

「戦車来たりして。」

「壊れちゃった?」

「そのうち。…」

「…的な。」

「なんなんだよ、」

「自分で服、」

「教えてくれよ」

「引き裂いてさ。…で。」

「なんなん?」

「想ったよ。」

「このノリ。」

「むしろ。…俺ら。こいつ」

「…これ、」

「あついの?…みたいな。」

「戦争かよ。」

「違うの。いきなり逃げ出そうとして。」

「もはや、」

「うける。」

「もう、」

「素っ裸で。部屋の中、」

「笑うしかない。…まじ、」

「走り回って。…で、」

「哀れだな…」

「倒れた。…そこ」

「…じゃね?」

「バルコニーで。ね?」

「政府って。…」

「この子、…なんか、」

「所詮、こんなもん?」

「病気?」言った、ジウの眼差しは壁際に******立ちつくしていた、タオを捉えていた。タオの全身は小刻みに震えていて、…いいです。

「あたまのおかしな、…」

眼差しがつぶやく。…赦します。

「ね?」

…すべてを。






Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000