小説《カローン、エリス、冥王星 …破壊するもの》イ短調のプレリュード、モーリス・ラヴェル。連作/ザグレウス…世界の果ての恋愛小説⑤ ブログ版
カローン、エリス、冥王星
…破壊するもの
《イ短調のプレリュード》、モーリス・ラヴェル。
Prelude in A minor, 1913, Joseph-Maurice Ravel
《in the sea of the pluto》連作:Ⅳ
Χάρων
ザグレウス
「…見える?」
言った。
ハオの眼差しが、何を捉えているのか、身を閉じて丸まった私に確認することなど出来ない。…なにが?
その、口にはしなかった私の言葉の存在に気付きもしないままに、「見えるよ。」…あそこ、「ハナちゃん。…」聴いていた。
私はハオの声だけを。「血を、流してる。」
もはや、
「色、…いろ、」
かならずしも
「…ね?」
彼の声、あるいは
色…「それ。それさえ、」も、
言葉。そんな音声の群れ
…さえ「も、もう、」
そんなものにはすでに
「なにも」…かも
興味さえなくしたままに、私は
なにも「…かも。なにも」
ただ、力尽きた
「かも、なくして、」ね?
その身体を、そっと
で。「…見えるよ。」
丸めているしかない。覆い被さって
「影みたいに。ぼ、」
おしかかるその
「ぼこっ…って。なんか、」
ハオの体重を
…やば。「そんな、」ん、「そ、…」
感じながら。知っていた。私は
「…そんな風に空いちゃった穴ぼこみたいに、」
すでに
「…ね?」
眼を醒ましていた慶輔が、
んー…「ハナちゃん、ち、」
寝た振りをしているわけでもなくて、ただ
「血を流してる。」…血。
眼を閉じて横たわっている
「窓の向こうに、」で、
その
「ガラスに」ね?「べたっ…て。」
気配には。私は、
「べ…」
そして、
「べちゃっ、…べ、」
想う。
「…ったっ。」
当たり前だった。ハオの
「…て。」ね、…「へばりついて。ね?」
声。私に愛され、…かならずしも
もう…「…流してる。」
愛されているわけでさえもなく
「真横に。血。」
その全身を愛されて、その
「…とろとろ、」…ね?「ま、」
返礼として私の
「真っ赤な、…眼」
全身を愛しながら、
…と「ん?」
立てる声。はでに
「口?…か?…あ」
ハオがまるで過剰な
…あれ。「馬鹿。…」すげぇ…
演技をした女のように
「変なの。ね、」すげぇ…
立てた声。それは
変。「足の裏みたいなとこにへばりついるよ。」…てか、
慶輔を起こさないわけもなかった。彼の、その
「ハナちゃんの」…ん?「…頭。」
浅い眠りを。…知ってる?ハオは言った。私の耳に唇を寄せて、眼を閉じている慶輔には気付きはしないままに、と。「…知ってる?」想った。慶輔のその眼差しが見開かれたならば、彼の眼差しには、私がハオに強姦されて仕舞ったようにしか見えないはずだった。力なく、「ハナちゃんは、…」ただ単なる犠牲者に過ぎないように身を丸めた私。彼の「知ってるよね?」眼差しがそれを捉えたならば。
「あの、…」
私は声を立てて笑いそうだった。
「あの風景?…やがて、俺が世界を滅ぼそうとしたときに、俺が見い出した風景。ハナちゃんが、俺を射殺したときに、俺が見た風景。」…まさか。「覚えてる。…まだ」私は、ハオを「…俺は、ね?」殺しはしなかった。「見てた。…ね?」仕掛けるような、挑戦的な「…知ってるでしょ。ハナちゃんの」気配さえ何もなく、「背中の向こう、…」どうするの?と。そう「…夜。」言った瞬間のハオの「もすぐ夜があける。」ただ、切実な歎きを感じさせた「もうすぐ、…そんな、…」眼差しに、「…さ。」…ねぇ。私は「ね?」知った。「燃え上ってるみたいに、」本当に、…はなちゃん。「ね?」すがり付こうとする人間の…どうするの?「色合い。…」曝す眼差しは寧ろ、ないものにも縋りつくことあるいは縋られることさえ拒否して、むしろ意志のある孤独を曝す。…はな。
と。
そのハオの声を聴いたとき、私は彼が花、と、その単語を口にしたのか、それとも私を呼んだつもりだったのか、判断できないままに、あるいは、そんな判断など最初からしようとさえもせずに、嗅ぎ取られた彼の体臭。
「きれいなはな。」
ハオの、その、確かに
「…ブーゲンビリアの。花々。知ってた。」
なやましげな。
「俺は」…ハナちゃんも、
おそらくは
でしょ?もう、…「知ってた。」俺たちは、…
普通に考えれば悪臭に近い、
「見てた。」ね?「ハナちゃんの手の」ん、…
少なくとも私には、その
ち、「ちっちゃな銃。…」銃口、…「ね?」
女たち。…彼女たちが
「…あれ。」
彼に
…不意に、「ね?」
群がって尽きない、
「なんか、もたせるだけもたせといて、」…さ。
体臭。
「ね?」
至近距離のそれは
「いきなり俺に、」…笑う。「まじ」
私の
うける。…「まじ」
鼻の中に、
「俺にばぁーんって。…」ね?
耐え難い苦痛を
「ば、…」…ぁー、ん。ば
与えた。じかに
…ん。「…あ。」ん。…、ぁば、ぁあー…「ぁーん。…」
禁忌にふれさせられるような。
…って。と、言ったハオの言葉に私は反応など示してやる気などなくて、私は知っていた。「どうするの?」そう言ったハオの眼差しから私は眼を背けはしなかった。背けられなかったのではなかった。単に、背ける必然などなかった。足元にハオが射殺した《盗賊たち》、その金髪の男の死体が転がって、私の足が彼の手のひらを踏んでしまっていたことには気付いていた。「…俺?」ハオ、その「自分?」やさしい「どっち?」声を聴く。
ハオに指図されるつもりはなかった。私は一瞬だけ微笑んでやろうとした。最後に、ハオに。間に合わなかった。頬が崩れ、眼差しが笑んだ色彩を浮かべ始めたその寸前には、私は自分の側頭部を吹き飛ばしていたのだから。ハオに渡された、彼の改造拳銃で。「…ばか?」
不意に、慶輔がそう言って笑い始めたとき、ハオはただ、呆然とした眼差しを慶介に曝していた。素肌を曝し、同じ全裸の、丸まった私の体の上に覆いかぶさったままで、…あ。
その、喉に鳴ったちいさな音声を聴くでもなく私は聴き、「起きてたの?」ハオ。
それはハオの声。…救ってみなよ。ハオは言った。「慶輔さん、…」俺か。…それとも、「起きてたの?」ハナちゃん自身か。
…ね?笑った。ちいさく鼻にだけ息を乱して、わたしは。
笑う。「…まじ?」ハオは、声を立てもせずに、その眼差しに邪気もなく、「…は?」…笑う。「まじ?」もう十分なんでしょ?…と。
その時ハオは言った。もうすぐ。…「起きてたよ。…」ね?…さ、…「さっき」…から。
「まじだ。…」世界が終る。もうすぐ、俺たちの、…
と。ハオは私を見つめていた。片腕を、
…世界が。「…ひでぇな。」
負傷した自分の血に塗れさせていたハオは、…俺たちが、…と。
「なにが?」
共謀して吹っ飛ばし核弾頭で、だよ。「…なにがだよ。」笑った。
…ね?
声もなく。
「勝手に、…」ハオは、…俺の、…「さ。」
もう「ね?」…言った。
…い。「いとしのハナちゃん強姦しといて、お前」
十分だろう?「なにがひどいんだよ。」やさしい「…糞だな」色彩。その。
ハオの眼差し。
…大量に、
私を見つめたその、…壊して廻っちゃった。ハオの。「聴いてたよ。」…俺も。
…じゃない?
ハナちゃんもだよ。…ほら。
…じゃない?
「…俺。」…なんだよ、この…
糞餓鬼ども。
笑い声。《盗賊たち》の死体の頭を、爪先にかるく蹴って立てたハオの
「ず、」
笑い声。…くっそ、…く。
…もう、「ずぅ、」
…そ、…くっそ、「…ぅ、うー…」…ガキ、
…ね?もう…「とず、」
…ぅ「うー…っと。」…俺。
十分だろ?
「あんあんあんあん…」てか、…
違う?…ね?
馬鹿?「お前ら、…さ。」
…どっち?
「馬鹿?」むしろ…
俺?
「…ほんと糞」
ハナちゃん自身?
「糞以下だね。まじ、」
選びなよ。
「…かす。」てか、…
一人くらい救って見せてくれ。…ほら。
まじ。「…死んで。」
ぶっ殺して。…ね?
「どっち?」ハオは声を立てて笑い、慶輔にささやき声を立てる。早口で、それがだれにも聞かせたくなくない秘密のたくらみかなにかででもあるかのように、…俺?
「いとしのハナちゃん?」…どっち?「どっち死んで欲しい?」
…どっちも。その声が発話されないうちに、ハオはすでに笑い転げていた。「笑う。」言って、ハオは立ち上がり、慶輔の眼の前にその肉体を曝したが、…あ。
と。「笑うしかない。…」私を戸惑わせたもの。
その「…ケイさん。」気配。
あきらかに「どっちもって。」正常ではないはずのハオの身体を目にしたはずの、慶介の微動だにしない当たり前の気配に、「…さいっ…」私は
「…さ。」
慶輔がハオを知っていたことに気付いた。「っい。…てぇ…」最低。…と、そう言ったハオの声を、頭のはるかな上に聴き取りながら、笑い声。ふたりの美しい男たち。あるいは、男と、男と女の肉体のキメラ。…それほどではない。たんなるホルモン以上にすぎない。彼は。…と。想った。
「…変態の豚。」
私は。…所詮は、…と。
「…ど変態の糞」
男にすぎない。生み出せは、…と、そう
「…糞。」
想う。私は、ハオはかつてなにものを生み出しはしなかった、と。無際限なまでの
「…ねぇ。**の糞だね。」
女たちの欲望と、羨望と、破壊と、暴力と、嗜虐を生み出しながら。
「あんたの眼。」ハオはつぶやく。「俺の体見てるあんたの眼、糞だよ」…欲しいの?「糞なの?」…**してんの?「まじ、…」…腐ってんの?「糞なんだけど。」
私は眼を開かない。「****した?」丸まったままで。「…たわわな、」何も「…ね?」見たくないわけではなかった。「ゆれるたわわな俺のおっぱいで。」すべてを「糞野郎。」見い出すことなど出来ないが、なにも「死ねよ。…」見ないことなど出来ない。眼を「…価値ない。」閉じた、暗やみあるいは「生きる価値、」単なる暗転の「…ないから。」色彩を「死んで。」見つめて、「お願い。死んで。」知っている。私は。「糞だよ。」すでに、「お前のぜんぶ。」知っていたそれ、ハオの「存在。」見出した視界、「もう、その存在そのもの」眼差しが捉えたそれ、「終ってるからね。」眼差しのなかに、「生まれなきゃな、」しずかに「…よかったね?なに?」微笑んで「**してる?」自分を見やっていた慶輔を「欲しいの?」ハオは「****。」見つめた。「欲しいの?」口元に意図的に下卑た、「お願い。」ただただ「穢いから。お前、」軽蔑的なゆがみだけ、「…して。」慶輔のためだけに「自分でして。」曝してやって、「…猿。」…嘆き。
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