ジュリアン・O、浸蝕。そして青の浸蝕 ...for Julian Onderdonk /a;...for oedipus rex #032



以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください



(承前)

…あれ、「なに?」…あの

   あ、いま

絵、「うちの?」あれ、

   なんか、ね?

と。「あれ、

   わたしが、…あ!

すごいね」

   かなしみだしたよ?

つぎの日の

   なんで?

学校、昼休みのとおりすがりに春雨は笑った。まなざしに、気配。奇妙に無言の、しかも俊敏な思考の錯綜の潜在をあばきたてている、

   雨よ

      叫ぶように

         うつくしかっ

そんな。真魚は、

   やさしい雨

      泣き叫ぶように

         きみが?

深刻な、しかし

   雨よ

      なぜ?

         うつくしすぎるとさえ謂わんばかりに

どこまでも稀薄な情熱を春雨の、はじめて見せた目つきに見つけていた。帰って、言われてから見ればたしかに、ただ暑苦しくのみ思われたそれはなにか

   発酵。色彩の

      いい?

途方もなくさえ

   発光を欠いた

      いっ。裂いても、これ

見えた。シーレーノスも

   発酵。色彩は

      いい?

サテュロスsatyrosも、

   重力に敗れた

      いっ。引き裂い

11歳のまなざしはそもそも情報として知らない。ディオニューソスDionȳsosくらいなら、名前だけは聞いたことがある。酔いしれたけものたち。そのひとりに腰をだかれた微笑の女の豊満。あるいは、たわわすぎた憎々しい糜爛。腹に手をまわされた、もうひとりの女はのけぞりかけてなにか訴えてはいるものの、

   くさっ

      おどろくべき、それは

         飲む?

肉体。それは

   くさってない?

      朝の

         百合と、蜜蜂の

おなじ糜爛した

   その

      突然の

         ミックス・ジュース

憎々しさをのみ

   ため息さえ

      失笑であっ

         飲む?

見せつける。そしてこどもたち。やわらかなじぶんのそれを、放尿するかにも自慰するかにゆびにいたぶるおさな子たち。女たちとおなじ種類の憎々しい

   肉体の、いわば

      花よ

肉。その

   赤裸々な

      かぐわ、わ、わっ

端、だから

   無慚を

      きっ

やはり憎々しい

   え?

      花よ

肉体を、まるでいま、前のめりに倒壊しそうにうつむいた老人があるく。筋肉さえ糜爛に弛緩する。彼だけが、すべて感情など干からび、枯渇したとでもいいたげな沈黙を、しかめっつらに足元に吐き棄てていた。その絵は、真魚になにをも語りかけず、しかしあるいはだれかにはささやくかもしれないささやきがもしも聞き取れさえしたならば、どうしもうもなく稀有な、世界の真実があばかれてくれそうな気がする。ただ、ささやくべきなにもない沈黙にすぎないことの自明を前提にした風景のなかで。もっとも、それから春雨がその贋作に魅了され、入り浸ったなどという事実はない。まるで、忘れられたかに、と、そう謂うより苛酷になにも

   存在しなかった

見られはしなかったかに、

   なにも。傷みも

春雨。なにもなく、

   歓喜も。そして

だから

   絶望も。すでに

贋作はあいかわらずリビングにだれの目をもひかないまますごした。やがて、思い出した真魚は波紋を手伝わせ、油彩をアトリエに運んだ。見て、あのときかつてを思い出すふうもない春雨は、…ルーベンス?「これ、」

   こんにちは

      匂いたつかの

「ルーベンスじゃない?これ」

   きみの

      昏みであった

「偽物」真魚は

   終わりだよ

      沈みこむかの

ひとりで笑い、その午後2時、波紋は搬入の疲弊をすなおにさらした。八木松影は、画商とは名ばかりの贋作商人だった。もちろん画廊は日本人画家の真筆も扱う。ときには海外作家の真筆も。その、思えば稼ぎ過ぎた富の基本はしかし、ただ贋作だけがなした。共謀の画家、蔦川葛。1902年生れ。だから松影の7歳年長にあたる。21年から31年まで、画家はパリにいた。どうしても洋行してみたかったのだ。密航手段の詳細は、いまはだれにも知られない。とまれ、なぜか例のオットー・ヴァッカーOtto Wackeと交遊し、その

   いや。わたしは

      なんという

         肌。しろい肌のほうが

弟、レオンハルトの

   家畜ではな

      みすぼらしい

         ね。むしろ、…どう?

工房に

   いや。わたしは

      都市だろう。この

         異端なのだが

27年の一年だけ

   毛虫ではな

      モンマルトル

         内臓が、ええ。透けるよ

出入りしていたと謂う。松影は葛の娘をも知る。葛の帰国後、パリで残されたルルというモデルの女がひとりで生んだ。生んで、ルルは娘を連れて渡日するその船上で死んだ。なんらかの感染症で。チフスとか?マラリヤとか?奇蹟的に、娘は松影の手に落ちた。高熱のうわごとにも松影の名と知りもしない所在を繰り返し続けた病状末期のオランダ女を、

   微熱を、せめて

      ねぇ。吸い込みなさい

だれかが

   きみに

      吐息を。この

憐れみ連れこんだのだった。その名は、もしくは性別も年齢も国籍さえも、もはや

   激怒を!

      体臭。…執拗に

         すみやかにきみは

わからない。やがて、

   末期の、この

      熱気しかない

         飲め

真珠…マジュと

   激昂を!

      臭気が。…すでに、その

         唾を

名づけられ、八木の、

   最後の、この

      よごれた爪にさえ

         飲め

空襲で死ぬ最初の妻と、つぎの2年足らずで失踪した妻と、すぐさまに連れこんだ最後の内縁の妻とが育てた。葛の贋作はすべて松影を通したから、ナチスとロシア革命の没落貴族由来の贋作なら、八木の家屋に「ルーベンスって、」大量に「この、」収蔵されていた。「贋作?」

   ここ。この

      どこ?

「これ?」

   あたりかな?ひかりの

      これ、さ。どこに

「戦前の、なんか」

   このくらいが、い

      どこ?

「じゃ、」と。春雨。「ないよ」言って、ふと「贋作じゃない」やや辛辣に笑った。「だって、これ、あきらかにルーベンスだもん。もう、」その「あからさまなくらい」こともなげな真顔の自然さに、真魚は春雨にいうべき言葉を「疲れた?」失うしかない。「ちょっと、」

   ひかり。…が

      ほ、

         すてばちなまでに

「おれ?」

   さ。ね、飽和

      ほ、

         ぶしつけな

「右手さがってない?」笑った。春雨は、波紋に故意にその失笑を聞かせて、軽蔑にはあやうくいたらない乾いたひびきは、波紋にあからさまな侮辱と聞かせた。「だいじょうぶ?」

「おれ?」過剰な失笑。波紋。「もう、無理?」

「全然」春雨は、と。真魚。ときに、いきなり強烈に残酷になる、と。うつむきかけた顎そのままに、声をたてずにじぶんだけに

   聞きなさい。これが

      だいじょうぶだ。まだ

わらった。慎重に、

   これが、この

      笑んだ

息遣いをさえ

   わらい声。喉の

      と、きみは

消して。

   匂い?匂う?ほ ;contrapunctus à 4

      残酷な手首が

    慎重に、だから

     まるで、ひら。ら。ら、いた

   ほ、

      炎上しながら

    息を、その。そっ

     傷口の…と。ように

   ほ、

      落ちていったね?

    吐いてみようか?

     きみは、いっ。くちびるを

   ほ、ん?


   ほら。窓のそとには

    ほ、

   雨。あれら、あ。雨たちが

    ほ、

   飛沫を、あっ。散らして

    ほ、

   匂いを、ん?散らして


   見て、あっ。見、…ね?

      微震。まばたきに

    だから、ええ。かならずしも

     そう。いまや

   え?

      えづきはしない、まだ

    ね?わたしたちは

     わたしたちさえ

   ほ、

      喉の、ほら。この気配にも

    みにくくは、な

     いまを直視した

   ほ、…え?


   ほら。どこ?隙間から

    ほ、

   雨。あ、あれら。あ!雨たちが

    ほ、

   あ!気配を消して

    ほ、

   匂いを、あ!とどけて


   そんな日は、…あ

      微震。世界。わたしたちをも

    赤裸々に、猶も

     まるで、ええ。さらされた

   ん?ほ、

      ふく、く。…わたし?めたそれが

    回復してゆく

     骨格のように

   ほ、

      わたしたちを、ね?壊した

    感情的な、そんな

     どん…きみは前歯を

   ほ、…どう?


   好き?

    感覚。この

   好き?


   と、いきなりの ;antiphona

    なぜ?なおも

   声を。あなたの

    きみは、ふと

   声を。わらった

    なやましそうな

   繊細な微動を


   まなざしで。…ね?

    なぜか、わたしも

   見えるだろうか?

    受け入れられずに

   きみに、または

    やや、唐突な

   わたしにも、この


   鬱を。しかも

    朝日はひたすら

   やや、はなやかさのある

    ふ、

   鬱を。わたしは

    ふれて

   きみに、おそらくは


   ふ、…ら

    見蕩れたのだろう?

   だからわたしを、または

    と、いきなりの

   きみをも、ここ

    まばたきに。あなたは

   際限もない


   まばたきで、すぐさまに

    大気のなかに

   まどわせた。わたしを

    綺羅めかせていた。なにも

   なぜか、わずかにも

    感じられない

   受け止められずに


   微細な、び

    やや、突飛な

   微弱な大気の

    失望を。しかも

   圧力のなかに

    やや、自嘲さえある

   微光。…を、


   失望を。わたしは

    きみは、きみにさえ

   きみを、おそらくは

    気づかれないまま

   抱きしめたいのだろう?

    もてあそぶ。その

   と、いきなりの


   髪の毛先に

    陽光を。あなたの

   微細な、び

    口蓋は、ななめの

   微妙な気温の

    いたいけない朝日を

   あたたかさ。そして


   なぜか、まえぶれも

    冴えた感触。…に

   なにもない須臾に

    あしたは、そう

   飲みこんでいた

    わたしたちさえ

   やや、赤裸々な


   わらい声を、…ね?

    羞恥を。しかも

   こだまさせたりするのだろうか?

    やや、軽蔑さえある

   きみに、ん?または

    羞恥を、わたしは

   わたしにも、この


   たぶん、ええ。わたしが。あなたを

    世界が全力で

   しあわせにするのが、そう

    ここちよすぎて

   事実、それが…ね?

    やさしすぎ、そして

   現実以外のなにものでもないから


   いたたまれなくて。だから

    わたしも、あなたに

   わたしも、あえて

    ほほ笑みを

   執拗に、沈黙をなど

    そっと、うか

   しようとは、しな


   え?


   そっと










Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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