ジュリアン・O、浸蝕。そして青の浸蝕 ...for Julian Onderdonk /a;...for oedipus rex #024
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください
(承前)
ほしいのが男とも、女とも、真魚。結局、どちらとも謂わずに笑みと、すこし遅れた口づけとにごまかして仕舞う彼女は子宮のあいまいな下方、やや側面。または股関節にもそれぞれ別々の、それぞれにおなじく深刻な鈍痛を感じ、さわがせ、しかも耐えていることをは明かしはしない。いずれにせよ、
あ
知ってる?…ね。きみも
やがて
やや、新鮮な
ね?…こうやっ。やっ。やっ
日が暮れ、波紋が
はがゆさ
て、…ね?はぐくまれたん
真魚を春雨とふたりぼっちにして仕舞い、明ければインドネシア、スマトラ島での大地震の惨状を知ることになる。つづき、水曜日には同じ国の空港で、着陸に失敗して燃えあがり、すくなくはない死者たちを出したことさえも知る。そんな時期。前月にはジョージ・ブッシュのアメリカで、バラク・オバマ2世氏が立候補し、やがて6月にはスティーブ・ジョブズ氏がi-phoneを片手に新作発表会をする。その年、交際相手の、双方ともにかならずしも待ち望んでいたわけではない妊娠に、
ん?
とまどいを、ただ
言わないよ。わた
波紋。真魚からの
ん?
なぜ、あなたは
ごめんなさいって
告白。しかも
ん?
絶望じみて
だっ…わたし。だって
無言の。…妊娠検査薬をひだりのくすり指と親指とにつまんだまま、朝のトイレからのやたら鈍重な腰の歩みに、真魚。彼女は2階のベッドにいまだたわむれつづけていたふたり、春雨と波紋に
見て。あたらしい
これは、あるいは
見せたのだった。その
風景が、…ね?
どう?明確な
鮮明な
見えていませんか?
幸福です
変色を。数日後には、すでにすばやく波紋は真魚の理想的な夫になりおおせていた。だから、やがての子煩悩な、妊婦に口うるさいパパにも。すでにして妊娠も、出産も熟知する真魚。棄てたにひとしい3人の息子たち。うち、あとのふたりは双子だったとはいえ、そのどちらも婚姻を結びようもなかった出産だった事実は、あるいは稀れな苛酷とこそ謂われるべきだったにちがいない。真魚にとって、家事を手伝うなどという些末より、父になるべきひととして父に他ならない男がかたわらにいればまさに、その男は未曽有の
なる。幸福に
と、解釈された風景は
愛?
稀れ人だった。真魚は
なる。幸福に
赤裸々に、われわれを
愛されたい?
そっと、そのひとの
な、
幸福にしてゆく
愛?
投げあたえるここちよい翳りと、取り残された直射のここちよすぎのあたたかさとに、あお向けたまま
愛?
息を
ふれた
ね?すべてを
吐く。と、
やさしさが
あなたは
ため息をも。
唐突に
ね?すべてを
ひだりから、
肩に
愛は
ななめ、頭のほうによじれた翳りを落とした
と、…ん
波紋。その、
波紋。はっ
あわい
陥没してゆく
昏みに
波紋。はっ
聞き取られる可能性のないしずかさで。13歳になるべき年、真魚は過呼吸と窒息と体内の酸素の極度の肥大化とを同時に、同じ肉体に体験した。まだ、小学校をぎりぎり卒業しない12歳、しかし大人たちはもうこの子は、と。充分女の
見て。これは
放っとかないよ
なっ…穢い?
匂いがするね?
うつくしいもの
あれは。もう
わたしは
と。郁乃に、…母。称賛の
見て。これは
男が。あんた、
いっ…くさい?
ささやきをもらさえしていた頃の2月おわり、夕方のまえぶれのない破滅の突然。昏みきったばかりの6時すぎ、おなじ年頃の世田谷区若林界隈の少女を無数に強姦し、または加虐しつづけた、あるいは伝説的な猟奇的犯罪者、真砂真咲という名の当時32歳の男が真魚を
と、ふと
え?
壊した。
咬みついたのだ!わた
え?
うしろから
世界が。わたしに
え?
軍手の左手に覆われた口、覆われずとも恐怖の過剰に、失禁と発汗の大量以外に吹き出るものの現実的にあり得ない沈黙。真魚はそれでも
なぜ?わたしたちは
きこ、
ないの。いっさいの
生まれた男児を、
息をしますか?まるで
聞こえた?
声は。叫ぶ
こころの底から
生きているかに
轟音
声も、な
愛した。ただ、こころの浅い場所に俊敏に飛び交ってゆく嫌悪をも否定できはしないままに。父親、織部克哉はやがてその雅雪と名づけられた子も真魚も、もろともに殺して仕舞うにちがいなく
こどもだったから
思われた。
わたし、まだ
虐待。あるいは
なにもできないこどもだっ
教育的折檻。またはそうとしか明確には意識されていなかった
傷い?…いいえ
こどもだったから
虐待。ささいな、
かならずしも
わたし、まだ
もはや
あえて、傷みなど
なにもわからな
克哉以外には理解できない切っ掛けで加えられる発作的暴力。真魚は、じぶんに加えられるそれと、加えて雅雪に加えられかけ、守って身に被ったそれとで、傷みと
優雅な、雪
あたたかいんだよ
傷とを肉体に
雪がやさしく
知ってる?さわると
絶やす須臾など
降りますように
あったかいん
一秒もなかった。あまつさえ、当時、松陰会流空手の道場を富谷図書館はすむかいに開き、みずから師範をつとめていた丸太の男の殴り潰れて熟れた拳だった。ほほ骨にひびさえ入っていた。右耳はすでに不自由になった。母親郁乃は、克哉になにを謂うでもなくただ、傷んだ真魚をときに病院につれてゆくにすぎない。落ちたとも転んだとも轢かれたとも言い様はいくらでもあるうえ、知っていた。真魚は、看護師に郁乃が、娘には
お父さんに、名前
おれに?
だって!だって!だっ!
自傷癖がある、
つけてほしいんだ
莫迦。おれは
もう、いたぶらいでいただけますか?
と。そんな嘘を
ね、…いいかな?
おれに?
だって!だって!だっ!
ついていたらしいことをも。犯罪者の弟、2歳下という真砂深雪。雨の日の突然の訪問に、玄関先の土下座謝罪の彼が、やがて紹介した不幸な夫婦に雅雪を手渡してからは、…朝日。
なんで、お前
犯罪者の、だ
あの。
秘密に、なん
犯罪の、だ
赤坂氷川神社の
なんで、お前
落とし子と謂うこと、
境内の端の、
だ!
あっ
だ!
昼日中は幼い子の肌にきびしすぎ、夕暮れてからは真魚がさびしすぎるだろうという
あ
配慮。それでも
と、不自然な
結局は、ひたすら
歓喜
悲しさが純粋にその純度を増したにすぎなかった早朝。6月の別れ。紫陽花を見るたび、思い出そうにも残像もなく、写真の一枚のデータもプリントも残されなかったおさなすぎる顔を、不在の空虚に傷みを咬んだまま真魚はひとり思い出す。知っていた。二度と会うことはないと。
と、猶も
ごめんね?
決意した。
唐突にわたしは
歓喜
会ってはならないと。
なれるね?
ええ。やや不自然な
雅雪。その
ママに
ごめんね?
すこやかを踏みにじる権利が、
雪
見て。いまだに
いいですか?
じぶんに
やさしい雪は
世界は、ね?…この
生きていても
赦されてなるものか、
雪
見て。われわれにも
いいですね?
と。だから、
きみに、降ったかな?
うつく
死んで仕舞っても
一度も会わない。雅雪には。のち、16歳の真魚に唐突にきざした妊娠の兆候。こころあたりとしてはひとりしかなかったものの、彼にそうと告げるのは
違和
股関節が
怖かった。殴られる
下腹部に
翳る。…かの
恐怖が
なまあたたかい
あいまいな傷みを
先立ったから。だからただ、妊娠の事実だけ郁乃に告げ、そして深雪にも克哉にも、それぞれにそれぞれの強度と狡猾をさらす馴れきった拳と脛とつま先の餌食になってやった。腹を両腕に守り、激昂の気配の兆すたびに顎を突き出した真魚。その、こころを知ったふたりは心を好むとも厭うともなくただ、
こわせばいい
死ねないよ
生きて
頭部と
わたしを、ただ
だって、けなげに
お願い。しっかり
胸を
こころをだけ
成長してん
生きて
撃つ。だれにでも尻を突き出すと知ったあまりにも身近な女への憎悪と嫌悪の命じるがままの
いっ
加虐。かたわら、郁乃は目をそむけた。どこまでも克哉には柔順で貞淑な女だった。生まれれば、克哉は
傷いんだ!
いっ
ひとり心を
おれの、この
いっ
すばやく変えた。あの、
激怒そのものが
いっ
狂気か詐欺かと思われた溺愛。しだいに離れて行った深雪の冷淡との対比に、当初、真魚は歓喜と感謝にあふれかえった。やがて、数か月程度すぎた後にはひたすらな違和が、ただ神経を赤裸々にさいなんでしかたがなかった。雅雪。彼と、そして真那、真樹。そう克哉みずから2週間がかりで名づけられた双子との圧倒的な
生きてる?
格差。いけない、と
生きてる?
思いながら、こころが双子から離れていくのを4つの敏感な虹彩はすでに
だれ?
まるで、だから
察していたに
あなたは
実母をさがすかの
ちがいない。双子は
だれ?
双渺を
克哉と郁乃にはなついたが、生みの母にはけっしてなじまなかった。20歳になるのを待たずして、だから双子はまだ3歳とか、4歳だったにすぎなくも、いちばん母親の抱擁と留保なき承認が必要だったかもしれない頃には真魚は、実家を出た。もともと小学校から親しんでいた春雨。その、
来ない?
え?
お前の目って
若くして
いや、…さ
だめだよ。わた
なんか、さ
それなりの評価を
必要じゃん?おれ
穢いよ。わたし
風景を、…さ
得はじめていた
モデルとか、
え?
おれには、さ
画家の、当時の
助手。…とか?
だめだよ。だっ
見せてくれんだよ
調布のマンションに入り浸るようになった。もはや
ね?
ね、
克哉は口を
ね?
ね、
出そうともしない。真魚は生きて在りながら、父の視界のなかではじぶんがすでに亡きひとにもひとしくなっているのを思う。怒りも、憤慨さえもないいつか、やさしいだけになっていた父。その
ぼくらはいつでも
虹彩の
幸福を
色彩に、真魚は
きざす
亡きものとしてのみずからを見る。郁乃にとってはたぶん、まだしぶとく生き延びている。腫れものにふれるかの、極端に慎重なまなざしに郁乃は、めずらしい自宅での滞在の機会には双子の成長をなど、そっと笑って
しあわせ?
雪が、さ
聞かせものだった。あの、
よかったね?
にあっ
旧山手通り、カトリック初台教会と
なぜ?ここって
ざわめきが、ふと
生きてる
看板を立てた荘厳な
ね?なぜか
ここらへんでだけ
わたしは、確かに
教会の
雪が、…ね
途切れたようにも錯覚された
いまさら、
向かい、
なぜ?
雪が。そう
舞い散る色彩
雪たちが、…そう
もう。どうしようもないくらいにも
なぜ?
似合う、気が
見ないでください。もしも
そう。わたしにだけは
わたしに、そこで
なぜ?ふいに
その町は
いいよ。いますぐに
出逢ったのなら
かなしみにさえ、も
その町が
雪に稀れにも
追放して!世界から
そこではわたしは
似通った。…と、
おおわれた時には
なぜ?
そう、思われた気が
わたしを。あなたがたの
死んでいるから
錯覚?赤裸々な
そう。あいまいな午後は
生きていないから
笑みのこちらに
この胸が
生まれなかっ…むしろ
喉のあたりが
ざわめくのだから
雪が。そう
舞い散る色彩
雪たちが、…そう
もう。どうしようもないくらいにも
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