小説 op.5-(intermezzo)《brown suger》⑤…君に、無限の幸福を。【修正版】
以下、いじめと性暴力と人種差別等に関するかなり辛らつな描写を含みます。
よって、かなり修正してあります。
完全なものは、後にアップする完全版のほうで、読んでいただければありがたいです。
当たり前ですが、私自身は、そのような行為を容認するものではないことは、断っておきます。
とはいえ、現実として、横行している事実も、また、否定できません。
書かれているのは、ようするに、人種的にはフィリピン人の、日本国籍の少女が、学校で傷付いていく過程が書いてあります。
2018.06.22 Seno-Le Ma
brown suger
#3
いずれにしても、マリアと Thanh が愛し合うようになったことは、誰もが知っていた。
それに対して、何を言うわけもなかった。むしろ、祝福と、囃し立てる声が掛けられ、Duy がマリアに、おなかのふくらみを両手で書いて、ベイビィと言ったとき、マリアは笑い乍ら思い切りひっぱたいた。
それはブーゲンビリア
Thanh が Canh たちに拾われてから覚えたのは、人の***殺し方と、***と、バイクだった。
隣の庭に咲いていたのは
ダナンの海岸通りからホイアンへ、皆が昼寝を始めたとき、Thanh は一人で、誰かのバイクにまたがった。
エンジンをいれ、
それは花
疾走する。グリップを思い切り回し、エンジンを蘇生させる。
名前は知らない。たぶん綺麗な
いつも40キロから60キロの間でしか回されていないそれは、
花のような名前
きっちり15秒後には、自分の本当の姿を思い出し、一分後には完全に自分自身を取り戻す。
その、蘇生の瞬間が、Thanh は好きだった。街中の大通り、バイクと車の群れを掻き散らすように、隙間をくぐって疾走する。モーターが発熱し始めたことにはとっくに気付いている。
エンジンの音響は、速度の中で、至近距離に鳴り響いたはずなのに、むしろ後ろのほうにしか聞こえない。
もっと
もっと、早く。
もっと
すれ違いざまのバイク、
早く、いま
あるいは、交差点でもたついた、鼻の先を掠められて激怒したバイクが
誰よりも
クラクションを鳴らしてみせる。
何ものよりも
それらはすでに、背後に捨て置かれた背景に過ぎない。
風景は、
…速度
眼差しの片隅で流れ去る。そうには違いない。そんなものに興味はない。
疾走には速度がある
目の前にはゆるぎない前方が、近づいても近づいても遠く、向うに存在し続けながら、
それは花
Thanhを駆る。
無数のバイクを、
名前は知らない
なぎ倒すように追い抜いていく。車、トラック、それら、でかいだけの図体を曝した鉄のでくの坊の出る幕ではない。海風を含んだ風圧が時に左右から Thanh をなぎ倒そうとするが、スピードそのものがそれを許さない。
そこには留保無き闘争があった。風圧との。暴力的な、力そのものとの。疾走すること、それは風になることなどではない。風圧と化した、巨大な空気そのものとぶつかり、それを突き破り、征服しようとすることなのだ。
けっしてひれ伏してはくれない、目に見えない執拗な力そのものを。
毎晩、誰かが、マリアの上で腰を振る。Thanh は手を出そうともしない。触れたことしかない。唇にしか。
あるいは
お前も来いよ、と Duy がロフトから手を振る。
彼女の唇は
いいよ、と、Thanhは手を振る。マリアはDuyの下で、いつものように、あの、
…そして肌にしか
歌うような声を立ててた。
なめらかで、すべるような
**************少女が二人、Cảnh の部屋でマリアにからだを洗ってもらった。
マリアの、あの外国製のゴーツ・ソープで。
戯れたマリアが歓声を時に立てるが、少女はまだ口を開かない。もう少し、彼女たちが心を開くまでには時間が掛かる。それは Cảnh たちの仕事に過ぎない。
知ったことではなかった。たとえ彼女たちが
Cảnh たちの、単に趣味過ぎない仕事。
生まれてきたことそのものを
たいしてかわいくもない、いまだに泥つきのような彼女たちを
後悔したとしても
口説き落として、裸に向き、優しい愛撫でからだも心も開いてやる。*****************、それ以上のことはしない。そこから先はマリアが*******。
Duy のやさしい、*****が、まずしい少女の、そのくせに日に焼けてはいない肌を**********。
だいじょうぶだ、と、Duy がいう。
何も問題ないし、何も心配などないのだと。
Không sao、Không có sao、その、Duy のフェなまりが強いベトナム語には、中部の山の中に生まれたその少女には聴き取りにくかった。耳元のささやきを、顔をしかめながらなんども少女は
なに?
確認し、その都度、Duy は
どうかしましたか?
繰返す。マリアが Thanh の耳元に
…何か?
何か
何かおっしゃいましたか?
ささやいた。Thanh には、彼女が何を伝えようとしたのか、わからなかった。撫ぜるような、空気のふるえ、それだけが耳の中できらめきを持つ。…マリアのソプラノは、許し難いほどに優しい響きを持っていた。
Thanh はまばたき、
…ねぇ
微笑むマリアを至近距離に、
なに?
見詰めた。
すべてを納得していた少女が、Duy に****許すのに時間は掛からない。ロフトの上で、彼女が不意に後から抱きしめた Duy に********、ながいながい、Duy *******。
****************、Thanh は気付いている。なにかのはけ口さえ求めて。
******************************************?ひそめた呼吸がマリアの匂いを嗅ぐ。髪の毛と、体臭のいりまじったその、それらさえもが、ときに自分を**させることには気付いている。
Thanh はマリアを求めている。その事実と、
君は羽撃く
彼女を愛している心の事実が、微妙な
花にたかった
すれ違いと食い違いを持っているような
蝶のように
気がする。そのあられもない実感が、Thanh をうずかせた。
時に、吐き気をさえ感じさせるほどに、喉の奥で。
マリアは13歳だった。
日本の千葉で生まれた。海岸沿いの町だった。
その町が、いつでも海の匂いがすることを、マリアは東京に行った時、初めて気付いた。
東京の、無色透明な空気によって。
母親はフィリピン人だった。我那覇秀樹という名の50絡みのやくざが連れてきた女たちの一人だった。
千葉の場末のパブの中の誰もが、秀樹の手の付いた女であることは認識していた。フィリピンにいるときには、すでに妊娠していたに違いなかった。男の名前は、秀樹が何度問いただしても明かさなかった。顔中青タンだらけにしながら。
彼女が公然のものとして、複数の客に抱かれているのも事実だったが、日本に来て、まだ、二ヶ月もたっていなかったのに、妊娠は四ヶ月を迎えていた。
実際問題として、秀樹はすでに男性として用をたさなくなっていた。何が悪かったのかはわらない。まともな人生では、確かになかった。いずれにしても、秀樹はすべて、自分が打っている覚醒剤のせいにしていた。
強くなるぞ、秀樹は言った。Đạt に
ジュリーもすでに
…これを**と
フィリピンで覚えていたし、
強くなる
彼らにかけている部分は、覚醒剤******が、すべてみたして、欠落を消し去った。
あるいは過剰なもの、たとえば秀樹の暴力さえも。
父親は、友達のおじいちゃんより老けて見えた。
秀樹は荒れ放題の肌を曝した。水気を
中学校にさえ行きたくなかった。小学校の卒業式に流した涙は、
失って、かさついた
感傷的な雰囲気に感染した、
その
つられ涙などではなかった。
留保無き息苦しさからのとりあえずの、完全なる解放と、やがてすぐに訪れる、別種の抑圧が口をあけて待っていることへの、喜びと絶望がない交ぜになって、ついには決壊させた涙だった。
反抗的と言うわけでもなく、意図的に無反応で、ほぼ沈黙で一日を過ごす、かならずしも頭が悪いわけでもない手の焼ける少女がながした、唐突な滂沱の涙に、教師たちはもらい泣きせざるを得なかった。
中学校のとき、その六月には、マリアはすでに*******。目立つ少女だった。
****から
褐色の肌。明らかに
きょうしつで
南国のアジア人の、濃い、はっきりした、
いき、しないでください
モデルか何かのような顔立ち。
***?
化粧していない顔が、凹凸のない日本人顔の少女たちとの対比で、濃いメイクを施された**の
すでにむいみだから
つくられた顔にみせた。
***ください
***********。一つ上の少年たちが、休みの日に家に呼び出して、その部屋の中にいた一人の団子づらの少年と、一人の肉まんづらの少年と、
彼らの名前をついに覚えられなかったのは、マリアの
一人の、残念ながらにきび面のイケメンくんが、
無関心のせいだったろうか?
マリアにのしかかった。
団子の家族は、小さな庭で、小学校の友人たちを集めた、妹の誕生日パーティのバーベキューに忙しかった。
最初に、イケメン君が口火を切った、わざと卑猥な冗談を耳にする前から、彼らが何を求めているのかは知っていた。
多くの、学校の人間たち、彼女が一切口を利かなかった彼ら、彼女たちが、すでに彼女を**扱いしていることくらい、知っていた。
机の中の引き裂かれたノートも、****をかたどったらしい太陽のマークの落書きも、それらはいじめだったかも知れない。マリアはその事実に気付かなかった。
床に座り込んで、スナック菓子を食べながら、団子が彼女の背後に回って、マリアを抱きしめるような格好を見せたとき、
もっと
はやくすればいいのに、と
もっと、はやく
想った。
あっという間に
それらはながいながい儀式のようなものだった。
声を立てる暇さえなく
チキンたち。
掠め取るように
誰のためでもない、無意味な儀式を重ねなければ、その行為さえできないチキンたち。頭の後ろ、耳の近くで噛み砕かれたポテトチップスの音がする。しゃり、じゃり、じゃっ、じゃ、そしてその香辛料のきつい、揚げられた塩の匂いが。
フィリピンも、**********?至近距離のイケメンが、口臭を撒き散らしながら口元をゆがめながら行った時、思わずマリアは声を立てて笑った。セーラー服の上から、***************************************************、動いた。
その行為は子どものころから知っていた。****打った父と母の、その。
あれからなんどか妊娠し、そのたびに堕胎した母の、****************************、母親はながいながい息をついた。
溶ける。光が
まだ、指先の触感しか感じてなどいなかったくせに。
パブロフの犬のように。
眼差しの中で
*********少年たちを、
溶ける
ときに目を細めて見ながら、なんという不均衡な行為なのだろう、と
瞬きのうちにさえも
想った。まるで、下になった存在は、
溶ける
もとめているにもいないにも関わらず、常に
形態さえもが
******ように見える。あるいは、そう感じられもする。
まだしも、犬の交尾のほうに、生き物としての神聖さと尊厳があった。
********、エッチのとき、目、閉じないのな。学校の自販機の横で、そんな無駄話を友達にしている**を、マリアは見たことがあった。
何人かの、少年たちが、彼女になけなしの金をつかませて彼女を抱き、事実は色をつけて、
***ください
それは学校の誰もが知っているに違いなかった。
*****、すぐに
学校側は知っているのかどうかわからない。気付かないわけもない気がする。いずれにしても、
***ください
問題児の方は、自分のほうに違いない、と
***から
マリアは思った。
***ください
どうでもいいけど、と、…**から***ください。そう書かれた手紙を、マリアは英語の教科書の中に発見した。
居場所がなくなることはない。最初からそこに
…気付いた?
存在している自分を、
風の中で
求めてなどいなかったから。
花が揺れた気配
ベトナムにつれてきたのは秀樹だった。不登校になる前に、マリアを学校側が不登校にした。自宅静養が必要だ、と言う名目で。担当の教員が、毎週月曜日のきっかり二時に二人で、マリアに会いに来た。
死んだように寝ている母親以外、誰もいないマンションの一室に。起こさなくてもいい、と教員は優しさを見せびらかすように言った。誰も彼も、マリアがやくざの娘だということくらいは知っていて、そして、いつならお父さんに会える?聞いた教員に、マリアは午前中か夕方だったらいる、と答えたはずだった。
秀樹の、中国人向けの商売。******。その手伝いのようなもの。
ときに、垢抜けない少女たちをもてあそぶ以外に、とくに、何の仕事もなかった。
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