小説 op.5-(intermezzo)《brown suger》③…君に、無限の幸福を。
勝っちゃいましたね。
昨日のワールド・カップですが(笑)。
ラッキーな勝利というわけではなかったと思います。ハンドのところ、コロンビアは防ぎきれなくて思わず手を出しちゃったので、その時点で破綻させられちゃっていた、ということですからね。
そういう意味では、あれは偶然でも運でもなく、必然。
そこから先、コロンビアよりになった審判(数的不利と、スタジアム真黄色の大歓声がそうさせたのでしょうか?)のもとで、よく耐えたなと。
あまり仕掛けられなかったので、耐えた、という感じでもなかったのですが。
よく、持たせずにキープしましたね。
個人的なMOMは柴崎と長友かな?
しかし、…ね。
ここぞと言うときの連携不足で、前線のパス全然通ってなくて大丈夫?っていう不安も残しつつ(笑)。
ちなみに僕は、客観的には3-0敗退予測だったり、
不可能な希望的観測2-1勝利、だったりしましたが、
そんな事はなかったことにして(笑)。
でもね。FIFAランキング60位以下の弱者が、アジア枠という地位枠制度に守られて、
それで本戦に出られちゃっただけ、というのが、アジア・チームの現実ですからね。
今後も現実から眼をそらさずに、勝っても負けても、
弱者による爽快なジャイアント・キリングを心の中で期待しながら、試合を楽しむ。
それが、アジア人および日本人の正しい応援の仕方かなって。
日本、負けたときのバッシングひどいからね。結構(笑)。
セネガルも勝っちゃったし、ちょっと、おもしろくなってきたね。…
2018.06.20 Seno-Le Ma
brown suger
Duy と同じように柔らかく膨らんだ、そのたるんだ腹部と、女に固有の、申し訳程度に贅肉をつけた乳房らしきものが、馬乗りになった Duy の全身の動きに合わせてそれでも懸命に、揺れていた。
子どものような
それでもマリアよりは、
…体。まだ
よほど女らしい身体、には違いない。
子どものような
子どものマリアよりは。
Thanh にTシャツの襟首を後から引っつかまれて、床に投げ出されたときに、**********を曝しながら、Duy は Thanh を見上げるしかなかった。
何をしてるんだ?
…と
Thanh の眼差しは無言のままに、Duy を責め、Duy の眼差しは同じ無言で Thanh に詰めかかった。
女は息遣っていた。
たぶん、意識はそのまま失心して仕舞おうかと、その誘惑を半ば受け入れて仕舞いながら、それではいけないのだ、と、意識のどこかが覚醒を要請する。
その、まだるっこしい葛藤が、にもかかわらず、瞳孔にあからさまに、明示されていた。
Duy の反撃を恐れているかのように、Duy から目線を外すことなく、女の体の上に乗っかった Thanh を見たとき、Duy は声を立てて笑った。
お前もかよ。
なんだよ。…やりたかっただけじゃねぇか。
…と
Duy が口笛を小さく鳴らした。
好きにしろよ。
でも、お前、知ってるの?…マリア以外の、女の抱き方。
Thanh の手のひらが、優しい愛撫を、女の首筋に与えた。
女の体が一瞬、痙攣したのには、Duy も気付く。
その、視界の端で。
日本流儀のフェラチオだけで
難しいんだぜ。
まだ、マリアのそれさえ
女を抱くって。…あんなに、
体験したこと
簡単じゃないんだぜ。
ないくせに…
女の体に無理やり侵入させたときに先端に感じた、こすれるような細かな痛みの群れを Duy は想いだす。
Thanh は女の首をひねって殺した。
それはマナーのない行為だった。仕事は容赦なく、速やかに片付けられなければならなかったし、
しなやかに
やりたいなら、やることだけを
掠娶るように
やるべきだった。それに、
一瞬で
マリアが外で待っていた。
彼女に失礼だった。
そんな事は Duy も知っていた。ドアを開けた瞬間に、その女の、ほとんど裸の体が目に入った。誰かがいるとは思わなかった。着替えの途中で、唐突に思い立った無駄毛の処理をその女が始めたに違いないことには、あとで、女の体の中に入って何秒か後に気付いた。必要だったのだろうか?
今日、それが。
女が何か言う前に、女を殴った。
女の手ごととつかんで、その指が挟んだかみそりを、彼女の右眼の先に見せ付けた瞬間に、女は叫びそうになった。殴りつけられたレバーのあたりが、鈍く、激しく、鋭く、執拗な痛みを巣骸骨の中に響かせて、女の呼吸を困難にさせる。
女は、吐きそうだった。
学校で、彼女が習ったかもしれないマナーに違反するのだろうか?女はそれをこらえ続けていた。こみ上げる嘔吐を。
あるいは、怖かったから?
手のひらに口をふさがれて、
舌にあの
裂けた唇の内側が
味を感じさせることが
血を流し始めている中に。
そんなマナーがあるのか、Duy は訝った。
女は下着しか身に着けていなかったから、自分がズボンを脱ぐほうに、むしろ手間取る。女の体の下で着られることのなかった外出用のカクテルドレスと、ピンク色の部屋着がもみくちゃになる。
日焼けを極端に恐れた部屋の部厚いカーテンは閉じきられて、ただ、隅からあざやかな漏れ日をだけ、薄暗い空間に曝す。
Thanh の眼差しは外された。
女を見た。絶命する瞬間に、女の四肢は痙攣した。
一瞬だけ、鋭く。
死んだ?
それを、いまさらのように
もう
思い出し、
お前
もう一度確認した。救いようがない気がした。
女も、Thanh も、自分自身も。何もかもが惨めで、穢らしく、その、匂いさえたてない透明な腐臭を感じた。
女の体には匂いがあった。
髪の毛の匂い。汗ばんだ、皮膚の匂い。Thanh はマリアを想いだした。彼女の不安を。いま、彼女は街路樹の申し訳程度の日差しの中で、いかにも外人じみたキャミソールから、覗かせた褐色の肌を日差しに曝し、自分たちを待っているはずだった。
いつもより時間が掛かっている自分たちを。
あるいは、怯え?
その不安を想うと、胸が潰れた。
不意に感じられた、彼女の、その
焦燥感さえ、
なにかの唐突な終わりに怯えた、彼女の
Thanh の喉の奥を熱くする。
Duy は、自分を見つめていた Thanh の目線が外されて、所載なげに女の顔、その開かれたままの眼差しを見やるのを、仕方がない、と想う。
どうしようもなく、なにも
Thanh は、まだ、この世界に生きることそれ自体に慣れては居ないのだから。
なすすべもなく
まだほんの子どもで、彼は何も知らない。
Duy は、Thanh に
この町の海辺の朝焼けのぞっとするほどの美しさも、
微笑んでやった
女の体内が最初に持つ触感の痛々しさも、木漏れ日の下の風と、時速140キロのバイクの上の風圧の違いも。
雨期のサイゴンに咲いた花の
海の海水の潮の味の懐かしさと惨めさ。
その美しさ。浴びるほど飲んだ
夕暮れ時の潮風のべたつく臭気の、許し難い生々しさ。
朝の苦痛。惨めな、穢れ果てたような
ふいに見いだされた蝶の羽ばたきの、心もとない悲しさ。
悲痛な感覚…そんな、それら
殺される寸前の、毛をむしられたニワトリのまなざしが持つ、目に映るものすべてへの畏怖。
…それらの、すべて
悲しみ。
引き裂かれるような
喜び。
痛みをさえ伴った
美しさ。
それらの留保無き
醜さ。
存在
それら、…それらさまざまなものの、
さまざまなそれらの、
さまざまなすべて。
立ち上がった Duy が Thanh の頭を、乱暴に撫ぜてやったのを、どうして、… Thanh は
どうして何も言わないの?
拒否などしない。
Duy はそう想った。沈黙する
マリアを、
Thanh の眼差しに
安心させてやらなければならない。
うな垂れた Thanh と、彼を励ますように肩を抱いた Duy が、目線の先の白い豪奢な家から出てきたのを見たとき、マリアは微笑みながら手を振った。
WiFi もなければ何もないいま、スマホのゲームだけが、彼女の時間を潰させた。その、翳りのない、日陰に埋もれた表情が目に触れたとき、しかし、Thanh は何も想う事ができなかった。
頭の中で…マリア、とだけ
つぶやいて。
マリアの顔を、ふたたび見る勇気もなかった。Thanh は、
マリア、と
見詰めてしまえば、何も言わずに抱きしめて、
Mà...Lỳ...À
唇を、
...Maria
自分の唇で塞いでしまいそうだった。
…やめちゃったから、と。マリアには理解できない早口のベトナム語で、途中でやめちゃったから、と、いますぐお前とやりたいんだよ、そう笑いかける Duy に、…Nói gì ? もちろん、そう ノイ… マリアは ジー… わざと困った顔を派手に曝しながら言うのだが、
なに言ってるの?
ノイ、ジー。 そう、Thanh は
それは確かに、彼女が毎日百回近く繰返す、
口の中につぶやいた
彼女のお得意のベトナム語だった。
マリアを真似て
Cảnh は出掛けている。
中国人のために、サイゴンに出張している。タン・ソ・ニャット国際空港に。人身売買。山間部の貧困家庭の、あまった少女を中国人に売りつける。
もっとも実になる稼ぎに違いない。
あからさまに貧しげな少女たち。たぶん、いかにも先進国めいた、明らかな東南アジア人のマリアの、極度の人種差別を感じさせれ眼差しさえ、むしろ、連れてこられる彼女たちにとっては、未来の希望なのかも知れなかった。
マリアを、いくつもの怖気づいた無言の眼差しが、舐めるように捉えた。
Cảnh の部屋、熱気のこもるロフトの上で、裸に向かれたマリアが馬乗りになって、Duy に奉仕する。
いつの間にか、調子の外れた歌声にしか聴こえなかった彼女の、その時の声が、美しいもののように、Thanh には聴こえた。
まだ、彼女を抱いたことはない。
来なさいよ、と、マリアは何度か誘った。ときに。皆が終わった後で。哀れみと気遣いのあふれた眼差しで。
まるで
断りきれない優しさが、
お姉さんかなにかのような
彼女の上に馬乗りにさせ、その瞬間に、いつか自分も、彼女を殺して仕舞う気がして、かすかな恐怖を感じた。
囃し立てる周囲の声が、彼の恐怖を鼓舞し、その気をなくさせる。
マリアを傷つけることだけはしたくない。
Thanh は体を離す。マリアの、不安げで、真実を伺わなければ気がすまない無言の眼差しが、皮膚に痛い。
…どうしたの?ほら
Thanh はうつむき、無言を曝すしかない。
ふれてごらん
暑いロフトの上で、汗だくになっているに違いなかった。
あなたの
マリアが、女らしくもない
求めたものが
痩せぎすの、
ここにある
貧しい身体を曝し、派手な声を立て、体の匂いにむせ返っているに違いない。
美しい、と想う。その身体の形態を、ではなくて、その身体が、今、そこに生きてあり、生きていること、それ自体が。
Thanh は自分が**しているのを知っているし、
欲しい?
性欲が、
何が?
無残なほどに喉の奥を
何が
満たしているのも
欲しいの?
知っている。
その
憧れ?
眼差しの奥で
手を触れたい、と想う。まったく、傷つけることなく。なんの触感さえ与えずに、そうやって彼女に触れることさえできたなら、Thanh は、迷うことなく彼女に襲い掛かるに違いなかった。
むしゃぶりつくように
Duy をいま、殺して仕舞っても、何の
しゃぶりつくように
後悔もしないに違いない。
想いを咬んだ
ただ、マリアが欲しかった。Thanh は、彼女の上半身を、
Thanh は、解消不能で、不可解な、自分のその
見詰めた。
想いを
そこに、無防備なまでに捨て置かれている、美しさの実態そのものを。
…マリア
Duy とのそれに夢中になったマリアはいま、目線を Thanh に投げることさえしない。
Thanh の血管を、流れ始めた覚醒剤は、静かに彼の血液を鼓動させる。
夢を見た。悲しみが、背骨を砕いてしまうくらいに、それはリアルな夢だった。
音楽を聴いた
信じられない、
何も、
…と想った。
Thanh が何人も手をかけてきた老婆たちと同じ、無残なまでの老醜をさらして、マリアは今、
聴こえなかったけれど
目の前にたたずんでいた。死んでしまいたいという記憶が、
音楽が
幾重にも連鎖して、
聴こえ、僕は
Thanh の視界の中を、しかし、
聴いた
遠く、駆けずり回っていた。
それは、いわば
それら
記憶された感情に過ぎなかった。
いかなる現実としての
果てまでも
てざわりをも失ってしまったそれは、もはや、
なにかの
哀れむしかないものだった。
美しい、と
尽きた、その
想った。
果てまでも
このまま永遠に、自分たちは腐り堕ちていくに違いないことが
響く
確信された。むしろ、
鳴り
求められたのは、
鳴って
それでこそあった。
鳴り響いた
マリアの背景は
その
海だった。現実のそれとは違って、
音楽は
視界の制約を解き放たれたそれは、
聴こえ続けた
遠い向こうまで、無慈悲なまでの果てもなさをただ、
僕は
広げ、
抱きしめた
淡い桃色の波を波立てるのだった。
その
老いさらばえたマリアの顔からは、もはや
音楽のその
表情さえうかがえなかった。
表情にさえ触れられず、
実在そのものを
彼女の感情をさえ予想できないにも拘らず、Thanh はただ、
抱いた
彼女に感謝をささげた。
僕は
泣き伏してしまいたかった。
…いま
そのことに気付いたとき、もう、自分が、夢を見始める前からずっと、静かに涙を流し続けていたことに気付いた。
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