ユキマヒチル、微光 ...for Arkhip Ivanovich Kuindzhi;流波 rūpa -215 //紫陽花。…の、だから/そのむら。ら、さきの/花はふみにじられるべきだと、そう//09
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
22日。土曜日。前日に卒業したばかりでありながら、曜日がすでに高明に意味を失っていた。午前十一時を過ぎた頃には水葉は高明を解放してやった。高明はそのまま由比ガ浜に出た。その、横断歩道を渡る姿を、柴田香月は遠くに見たときにふと、言葉をうしなった。かたわら、
なぜ?
ふりそそぐように
山岸沙英は
まなりにもしずかな
わたしが、猶も
香月の落ちた沈黙の存在にさえも
慟哭のなかで
ふりそそぐように
気づかなかった。大崎公園から披露山公園まで、国道134号線を自転車でまわろうと言ったのは沙英だった。沙英は横浜の不動産屋に就職していた。鎌倉住まいの香月のマンションにときに泊まった。親友。そう香月が云った。親友。そう沙英は知った。金曜日の夜に来た。朝起きるが遅れた。話し込んでいるばかりで、ただたわむれじみた弁当の用意は午前いっぱいをふたりに使わせた。沙英は快活だった。ひとひとりの住居として、沙英は
えっ。えっ。えっ
鳥。失踪する雲の
横浜よりこちらを
えっ。えっ。えっ
きみは。…であれ
好んだ。香月は
えっ。えっ。えっ
翳りに消えた、
逆だった。とまれふいの高明に、香月は
ふりそそぐかに
一瞬で
ふりそそぐかに
まなざしを昏くした。事実昏かった。空の、白濁のくもりをいま、まさにようやく見て取った気がした。意識は、白濁の事実をいまだ意識しないままに。昨日の今日。高明を偶然に見かけてしまうという必然はあるいは香月に宿命に思えた。ふたりの、しょせん結びつきあわずにいられない事実の顕示、と。おなじくに、香月には思えた。処罰とも。最初から諦められるべき存在に対する執着。その醜さ。の、さらす傷口。容赦ないなまなましさにいま、更にやすりのざらつきを当てられたかに、
わたしは
雨。やさしく
だれに?
愛。しかも
雨が、いま
自分に?
容赦なく
ふっていたなら
高明に?
愛。なおも
雨。やさしく
自分で?
いたましいほど
ほほ笑んだでしょう
そのお母さまに?
愛。しかも
わたしは。やさしく
みずからに、
見なかった
雨。きみが、そこ
やすりを
わたしをは
雨。ふり向き見たなら
かけるかに。漕ぐ自転車。加速。漕ぐ自転車。速度。どんどん知って行く。速度を。肉体。じぶんの。漕ぐそれ。ふともも。そして鳩尾。知る。温度を。予感。加速。もうすぐ、速度。肌が、汗をにじませはじめる、と。加速。予感。その、もっと早く、と。沙英が、速度。返り見た。速度。小学生の頃から加速を。沙英の方がもっと、速度。活発だった。加速を。足も
きみの視野に
聞こうよ、ね?
早かった。一度運動会で足首を
わたしがいない
潮騒を。せめて
くじいた。香月が。だれ?医務室に連れて行ったのは、誰?ない。記憶が。なぜ、自分ではなかったのか。なにも記憶が、と、なぜ?思う。引きずられた足首。高明の泣かないよ。そばにいるのは、なぜ?彼は、
きみの視野に
踏もうよ、ね?
つよいから。わたしは
わたしはいない
紫陽花を。せめて
なぜ?ひとりなのか?香月は、しかしいまあるいは道はひらかれたたのだ。考えようによれば、卒業したいま、香月と高明をへだてるべきものは、隔離。倫理的障壁。年齢差婚への隔離。無理解程度にしかもう、障壁。事実上残ってはいないはずだった。別れという側面に、
咬んでいた。未来が
慟哭を
吸い込むがいい
可能性という側面がしかも、
わたしの
見ひらいた眼にも
大気。その
と、柴田香月。同時に。その
頸を咬んでいた
慟哭を
歓喜。新鮮な
頸椎をたたきつぶし、頸から下麻痺に追い込んだ等、さまざまな損傷と障害を彼女に与えた大型貨物との衝突事故はこの日夕方の五時過ぎだった。トンネルに入る手前、左手斜面をコンクリートが覆うあたり。そこで香月は撥ね飛ばされた。ふいのトラックの接近。と、ふいの眼は。全速力。漕いだ。すれちがう。回避。ななめ横。気配。ややうしろ。気配。背後。音。完璧な
きは、なに?
風。耳もとでは
直接的な
いま。わたしが
しかもとおくで
すでに無害な
見出すべきは、
鳴り響き、風
背後。衝突音。風。気配。消失。風。轟音。加速。トンネルに入ったまなざしの暗転。ふとももに、汗。叫び声。筋肉。怒号。傷み。ひとびとの声。背筋こそ、汗。悲鳴。聞こえた気が。まさか。全速力。なぜ?あぶないから。ここでとまっては。ひとり。
これ、なんですか?
轢かれる。
恐怖ですか?これ
後続車両に。ある?だれ?いる?だれ?だれも。うしろに。なぜ?静寂。なぜ、轟音はすべて前方からしか聞こえては来ないのか?なぜ?風力?と、トンネルを出きってようやく沙英は道の脇に止まった。知っていた。返り見た背後、
きみが、一瞬
過失。もう
香月はいなかった。沙英が
ゆれた気がした
すでに、すべてが
香月を見捨てるわけがなかった。そう自分で
わたしのあやうい
過失。そうとしか
知っていた。香月の
前方で、きみが
いまも、すべてが
現状に怯えながら、沙英はようやく踵を返した。路上に存在しているという事実そのものが、自分の息づく肉体にただ、怖かった。謂く、
過失。それは
わたしたちの
過失。それは
あなただけの
全身にそそいだ
わたしを、そこ
ひとりにしていた
きみの全身が
どうすればどうすればどうすればどうすればど、ど、ど、ど、と。
きみの過失が
しない。流れなど。流れ、
なにが?もう
わたしのせいだった?
きみを叫ばせさえ
まだ、涙も
返り見た、な。
たぶん。わたしがきみを
失敗。きみだけの、…が
汗。たとえばつめたい汗も、その
まなざしの遠くで
殺してしまっていたんだね?
きみだけを、そこで
未来だよ。見て、
破綻。崩壊
どこ?きみは
悲惨。壊滅
さがすよ。きみを
完璧な破壊
どこ?きみは
無慚。消滅
沢田楠、…ナン、と。その名一文字を読む。彼とは一の鳥居の下で別れた。楠はふたり乗りの自転車から降ろして、それとなく
どこ?きみは
風が耳もとで
高明に手を
なにを、いま
さわいでいたんだ
振った。小坪の3丁目に家があった。6時をもうすぐ回った。歩いて高明は雪の下、壬生の別邸に帰った。帰ると、秋子がCDラジカセで音楽をかけていた。知っていた。争う事もしないで、バケツの中誇らしげに、しゃんと胸を張っている、と。若いね。秋子に声をかけて「そう?」自室に「そうでもない。だって」入った。高明は「流行ってるじゃない?」ビョークが好きだった。年齢的に、同級生はまだだれも聞いていなかった。もはや完全なクラシックだった。リカルド・ロペスの伝説が、高明にはシンガーを派手に飾った花に思えた。目を閉じた。高明は楽器が弾けなかった。やがて自分が書くべき曲に歌詞をつけて弄んだ。深夜に、ふと目が覚めた。喉に唐突な渇きを知った。稀れだった。そもそも、一度寝たあとで
夜眠るのは
屈辱だ
つけちゃうぞ
朝、秋子に起こされるまでの間、
むしろ例外的な
走れ。走りだ
火。寝込み
起きて仕舞うこと自体が
ホモサピエンス。または
恥辱だ
不審火。その
稀れだった。朝が
鳥たち。それらは
走れ。走りだ
翼にも、さ
基本、苦手だった。水を飲みにキッチンへ行った。部屋を出たときにはリビングに誰かがいることに気付いていた。話し声が聞こえた。足音を、そして息を潜めた。やわらかな、ひくい興奮があった。不穏だった。引き戸ちかくに
ささやきあおうよ
睫毛は、きみの
澄ました耳にも、話し声は
それ以外
いま、きみ。その不安の
秋子ひとりぶんしか
なにも出来は
怯えたり?きみは
聞こえなかったから。電話ともあきらかに違った。戸を開けると秋子がふと、ソファ。顔を上げた。表情もなく、だからいきなりひらいた扉のふいうちに唖然としたひとの知性の喪失を、
あ。あっ。あ
なんですか?外は
暴風の中に
眼鏡越しに。思わず、
あ。あっ。あ
大雨ですか?
直立しか
笑った。高明は。二時過ぎ。だから、ごくごく微弱音で、…なに、と、「なにしてるの?」
「わたし?」…だれ?ほかに、と、「だれ?」声にはださない。あまりにも誰れ?秋子に誰れ?失礼と、誰れ?高明には思われたから。「わたし、…は」その、「さ、」秋子に「…っと、」ようやく羞恥がきざしはじめた。「なに?」
「本、読んでた」見れば、「眠れないから」たしかに膝に、ハード・カバーの本がひらかれているまま、「なに?」
「秘密」…話し声が、と、「聞こえてたから」そう高明が聞きただす前に秋子は、「朗読。読むの。音読。なんか、…ね」
声で。ぼくらは
叫んだがいい
「なんで?」
おっきな声で
しあわせになりたって、ほら
「好きなの。なんか、」
声で。ぼくらは
硫黄の雨だよ
「なんで?めんどくさくない?」…莫迦。秋子はそこに、声もなく笑う。「忘れたんだ。そうか。でも、そうだよね。」と、「じゃ、教えてあげよう。むかし、まだ高明が秋子ママ、ママ、ママ、ママ、呼んでくれてたころ、いっぱいママ、と、…高子さん。交替でいっぱい、読んであげた。…せがむから」
ママ、ね?
空が苛烈な
きみに。いっぱいの、…きみに
「本?」
ママ、ね?
殲滅であった
やさしさ、あげた
「お正月、帰ったじゃない?麻布台に。で、」その、帰るという動詞の選択が高明を「その、」ふと、「暇つぶし。それで」沈ませた。むしろ「買ったの。なんか、」ただ、秋子のためだけに。「なつかしくて」
ママ、ね?
大気は苛酷な
やさしさ、もらった
「なに?本」
ママ、ね?
沸騰であ
きみに。いっぱいの、…きみに
「忘れた?」紙の、書店のくれたブック・カバーをめくって、小川未明童話集。その書籍名を高明に見せた。それ以上まなざしが、いま高明にとって不快になりかけた懐古に染まり切ってしまう前に、…だめだよ。もう「寝た方が、いいよ」高明は云って、大人びて、秋子を諫めた。それがいよいよ秋子をひとり懐旧の感傷に苦しめ続けた。高明はキッチンで水を
ちがうんだ
誰れだ?四足
一気に大量に飲んで、そして
もう、きみは
つぎは二足
唇をぬぐう。右腕で。リビングを
ちがうんだ
やがて三足
通らないドアのほうからキッチンを出た。ふと思った。高子は?と。いつも自分の眠る時間を、その生みの母が如何にすごすのか、気になったから。正確に云えば、不確かな事実が存在すること自体が自分を愚弄しているかにそこに、
謎を?
ちがうんだ
高明にだけ
あなたは
ちがう
思われたのだった。無造作に、その
ぼくに
ちがうんだ
半開きのドアを指先に押した。眠り。高子はうつぶせで、四肢。頸を眠り。向こうにのけぞらせ、その、眠り。寝乱れ。鼻に、四肢。苦しげに息を眠り。していた。まるで子供だと思った。高明は。三十近くの女。その、大人のさらすべき寝相とはとても
ちがうんだ
ちがっ
眠るがいい
思えなかった。嘲笑は、喉の
そうじゃないんだ
ちがっ
世界。…世界よ
ふかい底にだけたった。謂く、
ちがう、と
寝たふりを。そこ
かたくなに、と
寝たふりを、と
花を抱け。清楚な。…夢に。に、
知った。わたしは
ふるえは、ほら
莫迦にしないで
いいんです。あなたは
ばれていたんだ
睫毛にも、その。ほら
わかるよ。きみの
莫迦づらさらして、息を
隠せなど。もう
ほ。ささやかに、ほ
こころが、ふるえた
ひそめていてください。カス
わたしには。知っ
ちがう、と
寝たふりを。そこ
かたくなに、と
寝たふりを、と
花を抱け。恥辱の。…夢に。に、
あなたは。そこに
ふるえは、ほら。ふ、
しないで。莫迦にしな
いいでんす。わたしは
唐突すぎたんだ
ほら。瞼に、も。ほら
わかるよ。きみの
せめて、あなたを
所詮、やっつけの
ほら。虹彩の、ほら
こころ。ふるえた
罵倒しちゃいます。耳を咬みなが
寝たふりは。その
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