ユキマヒチル、微光 ...for Arkhip Ivanovich Kuindzhi;流波 rūpa -211 //紫陽花。…の、だから/そのむら。ら、さきの/花はふみにじられるべきだと、そう//05





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





長寿寺の西の駐車場で、高明。待った。椛田郁夫を。雪。降り続いた。雪。ポケットから三月の、高明。雪。手が出せないでいた。遅れた郁夫の尻を、

   雪が降る前は

      ちらら、ら

         散らない

高明は

   骨がさむい

      きらら、ら

         綺羅めきは

蹴り上げた。菊間美彩季は先を右におれて、植栽の反対、左手の木陰に吉田悠貴愛を拘束している筈だった。ふつかの日、郁夫と美彩季がふたりきり連れだった鶴岡八幡で初詣の悠貴愛を見かけたのだった。快活で知られる母親が、その肩を

   雪が降ったら

      散らない

押していた。悠貴愛は

   にじむ。さむさは

      白濁の

ふいの邂逅に、

   皮膚の表面で

      空。その下方で

いつもに変わらない臆病と、びっくりと、自嘲をまぜてなまなましくした、そんな笑みに崩すばかりだった。思いついたのは郁夫。母の眼の前で、それとなくアポを取り付けること。すこし離れた源氏池まで

   嗜虐。わたしは

      わら、ら、ら、

         笑ってよ

悠貴愛を連れた郁夫を、美彩季はふと

   いつでもあなたに

      わら、ら、

         ぼくの足もとで

あやしむ。嫉妬しかけた

   自虐めかして

      わら、ら、ら、

         せせら笑っ

自分を笑った。女っていうか、と、人間の笑った。カースト、笑った。違うじゃん。笑っだから笑みを見せない筋肉の下で。悠貴愛の母はいつにまして饒舌だった。放さない。美彩季を。優等生で知られた。美彩季は。恩人だった。悠貴愛の世話をよく見てくれる、例外的な。親しみ。それが吉田貞美の顔に、あふれて親しみ。それだけが吉田貞美のふるえ。二の腕の微細なふるえに美彩季は加齢を見た。まばたいた。すぐに郁夫は帰ってきた。悠貴愛。その見開いた目に、

   …え?

混入。いつもの表情。それに不可解な懐疑か、歓喜かが。悠貴愛。混入。かすか。悠貴愛。気づかないほどの、と。貞美は見過ごさなかった。郁夫の携帯電話に、メール。ふいうち。メール。高明。…だれ?郁夫。ん?と。美彩季。ふたりは引き返した。樹木の翳りから、とおりすぎるふたりをあわてて美彩季は呼び戻したのだった。舌打ちされる前に、

   行かないで

      かかとが、ね?

郁夫は高明の眼の前で

   ひとりにしないで

      あやうく、ね?

舌打ちをした。眼はあくまでも

   ここですよ

      草の花を

高明を通りすぎて。美彩季の潜伏は

   行かないで

      踏みかけたから

完璧だった。いま、戻りの右手の樹木の茂み、やや小高い翳り、そっと手を振って、美彩季は笑った。傾斜を駆けあがった。郁夫からさきに。「犯罪じゃね?これ」思わず高明は「マジで、さ」声をたてて「ばれたらやばいんだけど」笑いそうになった。美彩季。郁夫のやや背後から、見つめる眼差しにふと

   逃げろ!

      絶叫のように

笑いを押さえ、

   どこに?

      生きていたいね

美彩季。その

   逃げろ!

      一瞬にさえも

たったひとりの功績を無に帰する気はだれにもない。樹木に後ろ手にしがみついて、全裸の悠貴愛が目を剝いた。股におびただしい翳り。

   ざわわ

冷えた

   わわ、わ

臭気。失禁。高明に笑んだ。そして雪のなかに痙攣していた。皮膚のみならず、筋肉のみならず、もはや骨格ごと。それをいまだふるえと?あるいは、激震、とか?…こいつ、

   どいつ?

美彩季。「自分からぬいだんだよ」

   あいつ?

「それ、絶対、」郁夫。「噓」

「じゃないから。だって、さ。お正月から、さ。黴菌、さ。さわる?」笑って「病気になっちゃう」…いいんじゃない?と。高明は「ここまでやる気じゃなかったけど、」美彩季の「いいんじゃん」顔のあざやかな「やっちゃったんなら、もう」媚びを見返した。美彩季は高明の眼の前で、ことさらな残酷を発揮した。汚いからと

   あわいひかりに

      凍えるよ

尻を蹴り上げ、

   きみが笑った

      雪、きれいだよ

前のめりに転ばす。両手。悠貴愛のそれ。脱ぎ捨てられたインナーで後ろ手に、郁夫が縛った。高明が声をひそめて笑った。その他の衣服は樹木の翳りに放置した。のけぞって、顔をあげかけた悠貴愛の顔面を、高明が蹴った。傾斜。転がる。悠貴愛。声はない。もう、自分で昇れるはずもない。きたなっ、と。小声で叫んで美彩季は靴を土と草にこすって見せた。「わたし、穢くない?」

「安心しなよ」高明。「さっき、ケツ、お前の彼氏がふいてたじゃん」その瞬間、郁夫が目を剝いて毅然と、高明を見た。云った。「違うから」すでに、

   なにが?

おなじ言葉は

   なにが?

      あやうい

美彩季のくちびるに

   なにが?

      あやうく、

         いつも。我々は      

四度ばかりも放たれていた。美彩季と郁夫は、だれもの口にそういう話になっていたし、実際、そういう話だった。たとえふたりがなにをするというでもなくも、そのままに。高明は過剰に高揚する美彩季の目を見た。美彩季の気持ちは知っていた。見つめる目を嫌でも見た。その執着。気持ち悪かった。高明は。笑んだ。アスファルトに降りて、悠貴愛に云った。帰って、と、いいよ。歓喜。と、惑い。悠貴愛。逡巡。その、困惑。悠貴愛。悲痛。その顔全面に。一応は、悠貴愛は外を裸で歩いてはいけないことをは認知しているのだった。もういちど耳にくちびるを近づけ、

   やめて

      感染症だから。わたし

行けよ。やがて

   穢くなります

      わたしだけが

脅してやろうとしたときに思わず

   近づかないで

      汚物だったから

吹き出してしまった。高明は。いきなり悠貴愛は全力疾走を見せていた。二十メートル程度。路面が冷たすぎるか数回転びそうになり、そして角を左に折れた。向こうから声が誰かに立つのを三人は待った。すでに忍び笑いが耐えがたかった。苦し気に笑いながら美彩季が唐突に口走った。「違うから、ね?ほんと。勘ちがいだから、ね」幸福だ、と。いま、

   しつこっ。し、

      だって。だって

         踏んづけないでよ!

お前は。そう

   しつこっ。し、

      おんなの子なんだよ?

         雪。踏ん

思った。高明は、そして、せいいっぱい、しあわせ、と。…そうなの?ふと「それ、まじなの?」むしろ郁夫を見て、いきなり美彩季のひたいに口づけた。おくれて、腰を片手がだいた。一瞬だった。だから、ついに手とくちびるは、咬みあわないままだった。美彩季はそこに、ただ表情をなくした。おどろくほどに気味悪く見えた。そこに、

   傷つかないで

      踏め。かかとで

高明には。そして

   雪が、とけるから

      踏め。つま先で

悲惨なまでに滑稽だった。返り見た。郁夫を。高明はやさしく笑いかけた。云った。「問題、なくない?」郁夫はうかべるべき表情を探した。「あけまして、おめでと」そのささやきを、郁夫は他人事のように聞いた。やや、遠く。しかしはっきりと、女声にあがった怒鳴り声のような早口が、ひくく聞こえた。美彩季は自分に顔が突いていることにいまだ

   わたしは

      ここです

気づけない。高明は

   わたしです

      ここは、あくまでも

邪気もない。謂く、

   愛されている、と?

   あなたはひとり

   恍惚を、しかも

   踏み、雪を


   踏みにじり

   知ってる?そこに

   踵のうしろに

   雪。ぬかるみを

ふれました。愛。愛が、あ。ふ

   愛されている、と?

      耳に、ほら

    しないで。莫迦に

     前髪。を、だけを、ひっつかんで

   あなたはひとり

      あからみが

    しないで。不安に

     地面に顔面を

   恍惚を、しかも

      病気なの?

    しないで。かなしく

     なすりつけたい

   雪を踏み


   踏みにじり

    爪を咬む。だれ?

   知ってる?そこに

    歯茎が。わたしの

   踵。そのうしろに

    おびえていたから

   雪。ぬかるみを


   祈ってあげよう

   あなたに、あなたの

   しあわせを。固有の

   あなたに、わたしは


   愛されている、と?

   さらす。ふいに

   不遜を、しかも

   踏み、雪を


   踏み散らし

   知ってる?そこに

   踵のまわりに

   雪。ぬかるみを

ふれていました。愛。愛が、あ。ふ

   愛されている、と?

      額に、いま

    しないで。まばたきを

     ぶちのめしてあげたい

   さらす。ふいに

      痙攣が。わずかな

    しないで。しな、微笑をは

     前歯。を、だけを、へし折り

   不遜を、しかも

      病菌なの?

    しないで。しな、息さえ

     だいなしを、きみに

   雪を踏み


   踏み散らし

    爪を咬む。だれ?

   知ってる?そこに

    あなたの歯茎が

   踵のまわりに

    いやらしいから

   雪。ぬかるみを

結局のところ、壬生敦子と清雪はふたり、四日の午前に帰って行った。清雪は遊び相手になってやる高明に、すなおになついて離れなか、

   い。び、…て。て

   見なかったと同じ

   明晰な強度に

   微光。び、…て


   さようなら。ただ

   かならずしも、なにも

   惜しみはしないが

   さようなら。ただ

かなしいかい?死者ら。膨張を、ふとかなしいかい?

   さよな。な、ただ

      なぜ、わたしは

    いいよ。消え去っても

     ゆびさきで

   かならずしも、なにも

      なぜ?泣いてしまえるの?

    いま、すぐに、い

     かたちを。くちびるの

   惜しみはしないが

      すがるか、かに

    いいよ。忘れられて

     なぞったのだった。ふと、じぶんのくすり指で

   さよな。な、ただ









Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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