ユキマヒチル、微光 ...for Arkhip Ivanovich Kuindzhi;流波 rūpa -208 //紫陽花。…の、だから/そのむら。ら、さきの/花はふみにじられるべきだと、そう//02
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
十二時。朝出て行ってから帰ってこない高明を、もうとっくに済んでしまった昼食の準備をキッチンに寝かしながらも高子は、
やさしげな
孤独たち
案じるとなく
はなやいだ
孤立たち
案じていた。一時を回った。ひとりで食事する気になれなかった。二時をまわりかけた。携帯電話をはまだ持たせていなかった。かたくなに拒否した。秋子が。不自由を感じた。高子は。鳴った。玄関のベルが。
罅を
身構えた。
ひび割れを
高子は。ひさしぶりに聞くその音に。知った。いまさらに、秋子の存在。そのおおきさを。思わず鏡を見た。なぜ?時間がかかって、玄関のすぐまえに漸く声を立てた。そして、「…いるか?」
いません
その「だれか、」
死にました
声。雅秀。高子はふと「いるんだろ?」足を止めた。「開けて。ここ。泥棒じゃないよ。親戚よ。高子、呼んで来て」投げやりな声。それら、思いつくままに曖昧な間隔に叫ばれた声に、憤る以前に高子は惑った。秋子ならすでに罵声をくれたに違いない。いないと云ってしまおうかと思った。矛盾し、破綻していた。方策をさぐった。不可能に想えた。ふと、雅秀の声がなにかいいかけ、
…え?
わたしは日影に
感じた。いきなり
…は?
咲く花でした
口ごもったかに。胸騒ぎがした。なにかまた仕掛けられているのでないか、と。「だれ?」云った。「お前、」雅秀が。「だれ?」返答はなかった。高子。眼の前に閉められたままの引き戸。もはや自嘲。うすく。ガラス戸には笹の翳りが投げ込まれていた。また、雅秀の?大柄な翳りも。もうひとつの翳りがふいにきざし、そして縦に一気に肥大化した。猶もあわくかぶさった笹の翳り。格子に、すりガラスを通して影。横にずれた、と。翳り。錯覚。わわななき。破綻。無造作にひらかれ、戸口。そこには
滅びであった
見て
ふるえた、ね?
高明がいた。たしかに、
淡い翳りたち、…の
見て
空気が。だから
高明は
破滅であった
見て
ひびいた、ね?
鍵のありかを知っていた。そのときにふと秋子が出がけに施錠していたことに、高子はようやく思い当たった。…なんだよ。高明。「いたんじゃん。そこに」見て、
罅?
高子を興味もなくすぐに見捨てた。雅秀の巨体はかたわら、すでに戸を開き切っていた。屈託のない、あまりに善良を演出しすぎた笑顔に、その顔はただ不穏をだけ匂わせた。その
知らないでしょ?ほら
翳りあう
ぶざまにあくまで
妙にうわついた
ひかりら。ざわつき
気づかない。高子はひとり
胸のたかなり。ほ
翳りあう
吹き出してしまいそうになる。「だれ?」
ぷっと
さわがしいの
ふふ
返り見もせず、
ぷふっと
妙に、こころが
ぶふ
すれちがいざま高明が云った。…おじさま。高子。壬生の、と。そう云いかけたときには「宮島…」高明は「呉の、…」すでに姿を消していた。リビングの方に。快活に、壬生雅秀はのけぞりかえって新年の挨拶をする。故意の破顔。口早に。すでに、雅秀の背後、ななめひだりには長身の、高明の行く末を思わせたうつくしい二十代前半の男が見えていた。スキン・ヘッド。頭のかたちがまろやかで、いい。雅秀はリビングにあがりこむなり、
ね?どうして
冷気。さわやかな
つばき、と。そう呼んだその、
あなたはぼくに
冴えた大気に
ただただ端麗な男をソファに
ほほ笑んでいるの?
侵入されても
座らせた。自分は絨毯のうえに胡坐をかく。まるで、客を招待した主人じみて見える。高明は食卓で、勝手に攫い取った昼食をあたためなおしもせずに口に運んだ。高子は自分の手落ちを見た。そのななめのうしろ姿に。高明は文句もない。ときにリビングの男たちふたりを見やった。雅秀はひとり、
は、は、は、
われわれはやがて
ら。注意して
声をたてて
ば、ば、ば、
つつましく、ただ
過剰に、わたしは
笑った。「大きくなったね」その
べ、べ、べ、
ほほ笑みあえるさ
譫妄状態なの、だか
声が、高明を指しているに違いないことは、いちいち振り返り見ずとも高子に分かり切っている。「いま、いくつ?」高子が、
ひ、ひ、ひ、
われわれはやがて
ら。注意して
ようやく雅秀を
び、び、び、
いじらしく、ただ
過剰に、だれもが
返り見ようとしたときには、
べ、べ、べ、
訣別できるさ
譫妄状態なの、だか
もう「十二。…今年、三」むしろ、連れの長身の男が云った。高子はあわてて返り見た。驚きより先に、ただ不安だった。…なんで?問いかける須臾もなく、男は「90年生まれって、言ってたよね。彼。まーくんは、」と。それが雅秀を指すことを、流したまなざしに意図もなく打ち明け、「…でしょ?」笑んだ。雅秀に。しかも極端に上質に。「教えないでほしい。
怒りを。わたしは
知った。と、
勝手に…」ふいに、
ここに、いま。なぜ?
懐疑を。すぐさま
われに返って高子がささやく。聞き取れない、独り語散るに似た声を男は見上げ、そして、ややあって特別に、高子のためだけに笑んでやった。雅秀。ことさらなやさしさで「座ったら?」高子に。「だれ?」
勝利者たちは
「彼?」
勇敢なのです
「だれ?」
「大親父の右腕」云った。雅秀。まさか、と。高子は。「聞いてるだろ?高ちゃんも」微笑。雅秀は。「…あいつ。知らない?山田二葉。人殺し二葉って、まあ、派手にいわれてね。いま、コンビニで漫画になってるよ。大親父の、左腕たるあれよ。大田ブッダと一緒にやんちゃしてやんちゃしてしまくって、…の、」
「部屋、行って。」咎めた。高明に。高子は、みじかく、
母だから
決然と。いま
叫ぶように。高明は
母だろうから
そこに。わたしが
ふと、見慣れない母親らしい母に動揺を瞼にさらした。そして、食べ終わっているはずもない正月の、あさりのスパゲッティを箸でつかんだ。ただ高子だけを雅秀は見つめ、思い出したようなあかるい一笑を、「でも、」まばたき。「人は殺してないよ。まだ」そして、「…おれは、ね」いきなり高明にむかって顎をつきだすと、「茶、まだじゃがの。お前、」のけぞらせた背すじ。「頭あるんか?」これみよがしな笑顔に云った。「あれが、そう?」唐突に、雅秀。やさしく高子に声をかけた。うなづこうとした。高子は。うなづき得なかった。高子が。いま、自分が雅秀をいわゆる刺すような目に見つめていることは
ええ。わたし、いつか
嘘だよ。だって
知っている。
牙を。牙。牙を
こころは、猶も
気づいていた。その
ええ。わたし、いつか
やさしいままだっ
真摯がときに、長身の男の失笑をさえもかっていることにも。怒りも苛立ちも嫌悪も、雅秀に対してはまだ、なかった。知らされていなかった。十五歳の夏に、フィリピンに連れていかれたそもそもが、現地製造の覚醒剤を運ばせるためということは。嫌に大量にお土産がすでに用意されていた。ボランティアは、いつまでたっても始まらなかった。いたたまれなかった。彼等がなにをしている人たちなのか問い返しにくい不穏が、海辺近くの山林に開かれた広いあばら家に充満していた。マニラに行ってくる、と。ふつかめの午前。その深い時間に雅秀は一人出て行った。名前を一度も覚えきれなかった日本人の男が、ふたり残った。町には出るなと、初日、雅秀にすでに
見ようよ。海
脅されていた。
永遠に、海を
ここらの人間、「…な?」
海。永遠の
なんかあったら、「狂暴で?」すぐに「野蛮で?」バンッよ。「ここにおるんが、ええで」逃げ出すなら、と。いま。そう知っていた。逃げ出したところで宛ても方策もないことも。明晰な認識。および愚鈍な希求。男たち。彼等の下卑た声と体臭から逃げ出したかった。人種の問題ではない。性別の問題でもない。ただ、だから存在の、とでも?その汗。体液。健康。肉体。匂いがもう、自分に移ってしまったかに感じた。高子はまだ日の高い15時すぎ、…たぶん。庭の樹木の翳りをぬけた。まだ道は舗装されていなかった。土の道。とりあえずは左手に歩いた。ひとがいた。あきらかに、だれもが怒りを。軽蔑を。なぜ?その目に。日本人だから?と。思った。高子は。つじつまわせ。しかも執拗にあきらかに、だれもが怒りを。軽蔑を。それら迂回する眼と目に、凝視。あの家から出て来た自分に。戦争の激戦地だったから?高子は、
見ようよ。海
さらすがいいのだ
虐殺事件、
永遠に、海を
数限りない、死
とか?しかも
海。永遠の
そこに、滅びを
大量の。やがて一気に人の気配がなくなる。あやしんだ。両手には簡素で小さな家があった。気づいた。墓地、と。墓地、ここは。はっとして、高子は、踵を返した。いまさら見れば、墓地と居住地の境界は目にも明らかだった。たたずまい。圧倒的差異。境界ちかくのこちら、おごそかな家屋じみた陵墓の影に狂った女が座り込んでいた。やせていた。目だけが精悍だった。なぜ、と。彼女に気づかなかったのだろう、と。高子。あやうく立ち止まりかけ、
見ようよ。海
失くしちゃったから
さらすがい、い、
眼。怒り以外の目に
永遠に、海を
わたしは。みんな
数限りない、い、
はじめて
海。永遠の
やさしさを。いつか
そこに、滅び、い、
ふれた。疑い。疑う。疑いだった。眼に映るすべてが彼女に、疑わしいらしかった。ひたすら虹彩は醒めた気配を見せた。瞳孔だけひらききっていた。ぜんたいとしてただ、不遜だった。高子。ふと、唐突な鬱を皮下に、ひと。境界のこちら数歩あたりに人々がいた。女だった。男もいた。その翳りにも、だれかが顔を出し、肩越し。ひっこめた。ひと。さまざまなひと。人々。それらの、自分を見る目を通り過ぎて行った。いつか、雅秀の隠れ拠点をも通り過ぎた。気づいた。ふたつくらいの目がある、と。何十歩もさきに。更に、ふたつ以上の。押し殺した忿怒。もっと、ふたつ以上以上の。赤裸々な軽蔑。嘲弄。卑下した?自虐的な。とおい、他人事の。または他人の汚物を見る、そんな?もっと。もっともっと、だからもう、
海よ。失語せよ
永遠とは
無数にも。
みずから。その綺羅めきに
いかなる定義に?
煽情のある
失神せよ。海よ
永遠とは
眼。歎きの。または稀薄で、見捨てたような赦しのある笑み。無表情。惑った。それがなにを意味するのか、高子にはなにもわからなかった。ようやくとおりすぎ、数十歩。振り返った。かならずしも気配があったわけではなかった。だから、なぜ?男たち。そして本気の激怒をさらした女たち。十人以下?十人以上?数えられない。なぜ?それが、高子には自分を取り巻いた完全武装の一個小隊に見えた。殺される、と。思った。走った。走りはじめて、その疾走が逃走だったことを高子は知った。どこをどうと走った記憶はすべて消えた。角をいくつもまがった気はしなかった。いきなり左手に
綺羅めきだよ
純潔
さわがしいのだ
ひらけた海に、
綺羅めきだったよ
清純
目覚ましいのだ
家屋の翳りを
綺羅めきだよ
清涼
さわやかなのだ
潜った。俊敏に。海?と。これが、疑った。海?存在しない。砂浜らしい砂浜など。荒れていた。荒れた小石の群れが拒絶を訴えているように見えた。…海?と。これが、懐疑。海?ふと、
ごつごつと
海だろうか?
立ち止まりかけた瞬間に、
こつこつと
苛むものたち
男。その
ごりごりと
海だろうか?
体臭に押しつぶされた。重量。肌ざわり。傷みのぶ厚さ。そこからさきにはまとまった記憶などなにもなかった。空が見えた。そう謂えば、慥かに向こう岸も見えた。なら、ここは河べりなのか。それとも島を見ていたのか。内海?男たち。無数。いたぶられながら、高子。聞いた。右手の家屋で誰かが呼び掛けたのを。女?答えた。男たちのだれかが。高子も。無言で。それで、煽るような男声がひびいた。なぜ、と。だれも。思う。助けてくれないの?驚く。助けようとさえも、と。高子。その
死ぬのだ。…いつか
極端な残酷に、
滅びるの、…いつも
驚く。またはすでに知っている。処罰、と。犯罪者だから。すくなくともその末端だから。処罰せずにはおけないから。あなたたちこそ犠牲者だから、と。慌てて探しまわった隠れ拠点の男たちのひとりに見つけられたとき、もう空は昏くなっていた。いくら知ったか知れなかった。知りすぎた。なにを知ったか知り得ないほどに。肩にかつがれ、拠点に連れ戻された。そこの男たちはみんな苛立っていた。それら、忘れようとすれば想起され、想起を求めれば逆になにも思い出せなくなる風景の群れたち。それらを知っている以上、そして背後に高明が存在している以上、雅秀への態度はいつまでも決定しかねた。秋子は素直に雅秀を嫌った。もっとも、いまは
あら?
ご愁傷様
ひかりふりそそぎ
時に麻布台を訪ねたときの
おひさしゅう
ご臨終様
腋臭にも。きみの
偶然にしか顔を見ない。数年に一度、3日の日に帰ってきた雑談のいつか、飽きもしない雅秀の悪口を云った。かりに高子が雅秀に、嫌悪以外には感じなくとも一方で、雅秀があの夏、フィリピンに連れて行かなければ高明がこの世に生まれなかったのも事実だった。「サン・ラファエルの子。あの、」と、雅秀は「黒いのが」男に。「云ったな。お前に。新幹線で。こっちが母親。…ほんとにな、」そして「かわいそうじゃったど。そりゃ、あの事件の直後は」
「どうしたの?」殊更に悲痛めかした雅秀の嘆息を、高子は「なに?おじさま」極度に沸き立つふいの快活。断ち切った。「また、地上げとかですか。むかしの、」
「お前、」雅秀は「どう?」興味を示さない。男に、むしろ「お前も、行くか?フィリピン。工場視察よ。お前、土地買う?貰う?フィリピン。頸に日本人、入籍可能て紙ぶら提げて歩いてみ。ぞろぞろフィリピン、来るぞ」そして男は
狂暴な花は
え、…と、ね?
鼻に笑った。高明は、
うつくしく、だれより
ゆび先で
スパゲッティを咥えこみながら、
咲いているべきだか、しかも
眉を掻く
鼻に笑った男の倦怠をふと鼻に笑ってうつむいてしまった。思わずそっくりに似せてしまって。謂く、
だれよりあなたが
あなただけが
事実だったから。それは、
やさしかったことは
花。花たちは
泥に塗れた
花たちは、だれ?
さらに泥にめりこませるのは
炸裂したようだよ。死者たちは、それら、かさなりあいながら
だれよりもあなたが
体液。の
ぼくのせい?ぼくの、
深呼吸して
あなただけが
匂いさえもが
あたまが。ぼくの
もういちど、しっかり
事実だったから
食感。ドリアンの
莫迦だからですか?
まばたいてみよう、と
やさしかったことは
花。花た、だれ?
空が。とっても
泥にめりこませるのは。さらに
きれいな国、と。ここは
泥にうめこみかけたのは。さらに
そう思うとした
花。花た、だれ?
やさしかったことは
憎んではいけない
ぼくのせい?
恥ずかしいですか?
それは、事実だから
断ち切るべきだ
あたまが。ぼくの
汚物ですか?わたしは
あなただけが
憎しみの連鎖は
莫迦だからですか?
いい?死んだほ、が、もう
だれよりもあなたが
花。花たちは
泥にまみっ。みっ
花。花たちは
泥にまみっ。みっ
え?
花。花たちは
んはっ
泥に塗っ。みっ
んあっ
花。花たちは
んはっ
泥に塗っ。みっ
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