小説 op.2《サイゴンの雪》⑦…熱帯の町に、雪が降るとき。恋愛小説
Fallin' Snow
ở Sài Gòn
サイゴンの雪
私は Lệ Hằng の脇を通り過ぎ、笹村の部屋に、足をしのばせながら、ドアに鍵はかかっていない。
ドアを開け、ベッドルームの、その上には笹村の、ややあって、振り向くと、彼女は壁にも垂れて座っていたが、そのとき、私は彼女の気配の存在のあったことに気付く。最初から。ずっと。死にました、と言った。Lan は、笹村さんは死にました、と、私は彼女を見つめるが、その、表情を喪失したまま未だに戻させない彼女の、その目は私を見つめ返すことさえなく、私は知っている、彼女は店に戻るだろう。事実、そうだった、彼女は、そして、「もう、お金がもらえません」彼女が言った、その彼女はまた、今までのように、他の客に抱かれもし、「日本にも行けません」彼女は言い、彼女は笹村を愛していた。純粋に。何のためでもなく。彼がそこにいて、「私はお金がほしいのに」彼女に焦がれてさえいれば、「欲しくて仕方ないのに」それでよかったには違いない。彼女は結婚し、台湾で暮らす。やがて、必ずしも豊かではない台湾人と。私は知っている、彼女は涙さえ流し得ず、私にかける言葉を見つける隙さえ与えることなく、私は部屋を出るが、Lệ Hằng はすでに立ち去った後だった。悪魔のような君は。部屋の中で、一人であのソファーに座り続けたままま、少女はしずかに泣いていて、どうしたの?私の音声に、彼女は振り向き見るが、彼は既に、立ち去った。「どうしたの?」私は言い、どうしてこんなにも 涙で赤らんだ目で、涙は 彼女は、穢らしいのだろう? 見つめられるままに 例え、それが đò sĩ ta nò… 微かに 愛するものの 震えを持った唇が それだったとしても その音声を発し、私は聞く、Thành は、あのとき、不意に父親の行為を模倣してしまったに過ぎない。彼女の身体に対して、その、美しい褐色の、このかぼそい身体は朝の光にゆっくりと照らし出されて、私は、彼女の、đõ ì tà nó… その、 Thành は独りで彼の男性の目覚めるままに、...病んだ惨めな生き物たち。発情した性欲にまかせて抱いたのだった、彼女を、胸焼けするような性欲の波に飲まれ、彼は知っていた、đo sí tà nõ… 私は聞く、彼女の音声は、そして Thành は目の前で毎晩のように繰り返された、泥酔したわけではないが、軽く酒の匂いさえさせることもある父の長い行為への嫌悪感に対する代替として。その存在を自分の匂いで消去しようとする犬のように。彼は đò sĩ ta nhỏ…知っていた、 私は、父と同じ行為をすることによって、彼女の音声を聞きながら、Thành は自分には与えられなかったこの美しい女性的な身体に対する、ではなくて、それを当然のものとして所有している彼女自身への嫉妬と、このような形の身体への果たされえない自己所有欲の代替として、彼女を抱いたのだった、彼は知っていた、自分に永遠に与えられることのないこの形態こそが、私は、彼の本当のものなのだと彼は意識して、聞く。その意識の中で、彼女の息遣いを、彼が少年であったことなど一度もなかった。あらゆる少女たちが憧憬と幼い発情のままに見つめ、見つめ返せばいよいよ開かれる瞳孔か、わざと逸らされるその視線で、どうにかして彼を絡娶ろうとする 知ってる? 無言のままの …ねぇ、息遣いが、あなたは、彼は 美しい。あらゆる少女たちに愛されていることを知っていた。彼は美しい。美しいものが情欲にまみれた発情した視線で汚されない瞬間はなく、そして、それらの視線はついに何ものにも触れえずに、彼を汚し得はしなかった。何ものによっても傷付けられえない彼は、私は知っている、彼女たちは、そして、私が朝、目を覚ましたとき Thành は私を、彼は窓際に立ったまま私を見つめていて、姉が Lệ Hằng の取り巻きの誰かの家の命日のパーティの手伝いに行って仕舞ったのを私は知っていた。彼女は忙しい。あなたの友人は、今、忙しい。今日は、そして、彼はややあって、不意に私の傍らに腰掛けると、一切手を触れないままに、私の頬に口付ければ、最早留めようもなく、彼は私の唇を、むさぼるように、私は同じように、彼の、そして、私は彼を愛してさえいるのを知っていた。彼は知っていた、自分の身体と性別が必ずしも一致してはいないことは知っていて、彼の身体は彼が本来愛するべき身体をとめどなく形成していっていた。すでに。今、彼は掠娶らなければならない。本来自分が愛するべき身体を?少なくとも、彼の愛する姉から、その恋人を。本来、彼は、彼の恋人であらねばならないから。彼が彼を愛している限りにおいて。彼にはついに、自分が何を望んでいるのか識別できない。私も。私たちは、彼が私を愛していることだけを知っている。すべての認識は、結局のところ、愚劣なこじつけか逃避にすぎなかった。私の指先が彼の少年くささの抜けようもない身体を撫ぜるのを、彼の身体は気付く。目を閉じることさえなく、彼はその身体にしがみつくように、そして、彼は多くのものを奪った。あの高山の町から、そのふもとに広がる平地の先の南部の町にたどり着くまでに、彼は多くの細かい金銭を奪い、何度も掠め盗り、彼らは彼らを拘束する住み慣れた家族の家から逃走した。あの日、祖母の命日のパーティの準備のために明日朝早く起きることを命じて、姉がそれを拒否したときに、母親が姉をひっぱたいた仕返しに、姉が母を殴りつけたときに、彼はここにいることはできなくなったと知った。危うく成り立った全ての調和を彼女は壊して仕舞った。あの後で姉は泣きじゃくって、彼は追い出されるように家から逃走した、姉を連れて。次の日の朝、夜の暗さが急激に崩壊していく夜明けの五時半に。姉は何をも理解してはいなかった、彼女はその逃走を拒否しようとしたのだから。彼は彼女を奪い去るように、あの朝、高山の霧に包まれた白ずんだ、濃く白濁した淡い朝の色彩の中で、細やかな驟雨の中に、姉は Lệ Hằng に言ったものだった、あんな人たちとは一緒には生きていけないから逃げ出したのだと、サイゴンのはずれの雑貨屋で、弟が拘束されかかったのを彼に見留められたときに。何度かの成功のあとでついに失敗した盗難。少女は知っていた、Lệ Hằng、この美しい男は自分たちを保護するには違いない。羽交い絞めにされて、店の男に殴打される弟に投げかけられた、この美しい男の眼差し。そして、彼らは、あきらかにさまざまな彼ら以外のものの被害者だった。父親による、母親による、父親に、それをやらしめたさまざまなものによる、母親にそうさせたさまざまな、姉にそうさせたさまざまな、彼は被害者に違いなかった。それを Thành は知っていた。彼は彼自身に他ならないが、彼は彼自身についに触れることさえできない。とてつもない隔たりの中で。べったりと一致する。彼は目の前の日本から来た男を愛していたが、彼と言葉を交わすことさえできない。見つめあい、言葉が崩壊した中で魂に触れる。私は彼を愛していたことを、すでに、私は知っていた。彼と同じように。いかなる相等性も与えられないまま、彼は、同じカテゴリーのの身体が、私は、にもかかわらずどうしようもなくぎこちない交配を重ねた先に、彼自身が体内へ射精されたのを知覚し、私が、引き抜かれた肛門からそれが垂れ流れるのを感じたときに、Thành は、彼が初めての男だったことに気付いた。私が。姉の身体は、絡みつくように彼の身体を抱きしめたものだった、彼女が父にそうしていたのと同じように。まるでひとつに溶け合って仕舞おうとするかのような。修正不能なまでにもつれきって仕舞おうとするかのような。むさぼるように、父の唇に舌を合わせて、あの息遣いを、Thành は思い出すこともなく彼を今、見つめ乍ら、自分は幸せにはなれないだろうと思った、決して、充足した幸福感の中で、姉の、母親に対する触れたら指を切り裂いてしまいそうな憎悪と、敵意のその眼差しと、すれ違えば砕け散ってしまいそうな、彼女は父を憎んでいた。そして、より多く母を。あの女こそが、あの男にそれらをさせた張本人に過ぎなかった。少なくとも、彼女の認識においては。どうしようもなく。私が私であったことなど一度もなかった、生まれさせられる前から既に。私は私を経験した。笹村が私を待っているはずだった。私が私であったことなど、一度も、彼が彼であったことなど、なかった、一度も、彼女が彼女であったことなど、なかった、一度も、生まれさせられたときから、なかった、一度も、すでに、営業戦略会議だ、と笹村は言ったが、現地のスタッフを、彼らには聞き取れない早口な日本語でどやしつけるだけの余戯にすぎないことは誰もがすでに気付いている。まだ、朝は浅い。私は身を起こして、Thành は私から目を逸らして、一瞬、彼自身の存在そのものを恥じているような媚を見せたが、何日か前、初めて彼の姉を抱いた日の朝に、Cảnh の家のはす向かいでコーヒーを飲んでいた私に後ろから近寄って、彼は私に手を触れ、こぼれるように微笑んだが、姉はどこかの家の家事の手伝いに追われて、こんなところに来る暇はない。当然のように消失して仕舞った、夜の獣じみた少年の、欲望にまみれたたたずまいの影を探そうにも、最早どこにも存在しないことだけを、私は目の前に確認しながら、Cảnh とその友人が話しかける言葉には一切答えようともしない不埒さのままで、座り込んだ彼はスマホをいじって遊び続ける。虎と言うよりは猿に近い顔立ちのベトナム現産の猫の雑種が、床の上に走り、立ち止まって、向こうに耳を澄ます。振り向き見るが、猫がこちらを見ていないことはすぐに知れる。私の背後の遠い向こう事象を、耳の中に、猫は見つめ、猫は知覚する。笹村は言った。ホテルの彼の部屋の中で、彼はサイゴンと言う名前のビールの缶を開け、私に勧めた後で、「どう?ベトナムは。慣れた?」まだ、ここに来て一週間と少ししか経っていなかった。ええ、いくらかは。私は答え、笹村は Lan の頭をあやすように撫ぜるが、ソファーの彼の傍らに座った Lan は笹村の所有権を主張するようにしなだれかかり、私を媚びた眼差しの中に捉え続けた。
「日本に、帰りたい?」笹村の質問に答えあぐねて、笹村さんはどうですか?「そうだよね」私の質問には答えず相槌を打ち、「やっぱり、帰りたいよね。日本が一番いいもんね。寂しいでしょう?」テーブルの上には韓国のスナック菓子が広げられていて、「ランちゃんはベトナムがいいって言うの。日本には行きたくないって」彼の口は、ベトナムの食べ物は一切受け付けない。同じように、Lan は加熱食材のスシさえも受け付けない。「不思議だよね」不意に、私は、笹村さんは、何か、宗教があるんですか?Lan はややあって、思い出したように私を見たが、一瞬、笑い声を立てそうになるのを押し殺して、例えば、キリスト教とか…、私が言うのを聞く。Lan は、一切自分にかかわりのない会話を聞くように聞いた。それが、偽った表情なのか、素直な表情なのかは私にはわからなかった。「ないよ。ないけど、」とたんに、彼がカラオケ屋でするような下卑た表情を作って、「どう思う?まじめな話だよ。不思議じゃない?例えば、キリスト教徒だったとするじゃない、あなたが。で、人間に殺されちゃった神様の子どもの世界の中で生きてるんだよ。どういうことなの?神様は自分の子どもを殺しちゃったんだよ。何のために?人間を救うために?でも、この世界は人間の世界じゃないんだよ。神様の、神様のための世界なんだよ。一神教って、そういうことでしょ。神様が人間なんかのために自分の子どもを殺しちゃうのは、何かの間違いなんだよ。とんでもないことだよ。神様がそのために自分を殺さなきゃいけないほど人間って言うのが重要なのなら、その神様は神様なんかじゃないんだよ。そのとき、絶対的な価値は人間のほうにあるんだから。むしろ、その瞬間に、神様自身が神格を放棄して、人間のほうに与えちゃったってことだよ。その瞬間に神様は神様をやめちゃったってことなんだよ。例えば、すっごく大好きな女の子を抱きしめたとするじゃない。たまたま、頚動脈を押さえちゃって、その子、死んじゃったとするよね。君の腕の中で。なんか、そんな感じ。なんか、そんな感じの過ちだとしか思えない。むごい」あなたは、私は言った「何か、そういう過ちをしたことがあるんですか?」笹村は嘲笑うような表情のまま、「キリスト教に興味はない。キリスト教を信じることに興味がある。キリスト教を信じないわけじゃない。キリスト教が信じられていること自体が信じられない。」彼は、そのまま、一瞬黙り込んだが、そうじゃなくて、「何か、」私は、そういう「あなたは過ちをおかしたことがあるんですか?そういう」過ちを?ついに、問いただすように、私は言った。「罪を犯したことがありますか?」笹村はビールを煽るわけでもなく、酔いつぶれたように息を吐く。匂いさえ感じられる気がするほどに。「ないよ。」笹村は当然のように言った。なぜ叱られているのか理解できなで不貞腐れた子どものように、「中国にいたとき、カノジョがいたの。チャンさんっていう子。チャンちゃんって呼んでたの。かわいいでしょ。チャンちゃん、ね。大してかわいくないけど、やっぱり、かわいい子でさ。彼女、私と付き合う条件があるって言うの。何だと思う?煙草、吸わないこと。僕、ヘビースモーカーじゃん。私より先に死んでほしくないから、絶対、煙草すっちゃ駄目って。僕、彼女、好きだから、言ったの。いいよって。約束ねって。でもさあ、ねぇ。ずっと、もう、秘密ね。ずっと。チャンちゃんの前じゃ吸わない。悲しむから。ヒミツ。絶対。彼女の誕生日の前日。ホテルの部屋にいたの。そこ、バルコニー広くて。チャンちゃん、バルコニーにいたの。僕たち、そこから外、見るの、好きだったから。彼女が、そこから外、見るのが好きだったんじゃないの。僕が、好きなの。だから、チャンちゃん、僕の真似、してるの。どう?わかる?彼女、かわいかったから、後ろから抱きしめようと思ったの。ギュって。一瞬、僕、ポケットから煙草出したの。いつもの癖で。火、つけたの、ライターで。音、するじゃん。ジュって。」ジュッと、その、ジュッと彼の口が発音した瞬間に、笹村はすべてを思い出したように小さくのけぞって、瞬いた。「彼女、振り向いたの。僕、煙草吸って、僕、フーって。わかる?チャンちゃん、びっくりしすぎて、無表情。どうしたと思う?チャンちゃん、飛び降りちゃった。あっという間に。手すり飛び越えて、飛び降りたの。飛び降りた後で、悲鳴、たった。そりゃあさ、たったよ。あー!。あー!。下のほうで。見えなくなってから。音、したの。すぐ。どん、って。」笹村は言い、サイゴンと言う名の現地の煙草に火をつけ、ややあって、私を見た。しずかに、私の心の中まで見透かしたような、穏やかな目で。「で、どうなったんですか?」私の質問に、「もちろん、死にましたよ。十階でしたからね。彼女も、この子と同じような職種の子だったから。特に警察も来なかったよ。どこの部屋の女かもわからないんだから。」彼の煙草の煙は空中に白く舞い、「どうしました?あなたは。」彼は不意に、「泣きましたよ。悲しくて。今でも」笹村は言葉を切った。沈黙した。ややあって、不意に、笹村は泣き崩れた。どうしようもなく嗚咽を漏らして、指に挟まれたままの彼の煙草の煙が空間の中に、照明に照らされて白く細かくきらめくのを見るが、それはゆっくりと拡散しながら消滅し、Lanは何も言わずに笹村の背中を撫ぜ、介抱する。今、彼が死んで仕舞うかのようなしずかな切迫感で。目を逸らしながら私は、やがて、泣き止んだ笹村が言った。鼻をすすって、「わかりますか?」私は、「わかりますよ…」たぶん、サイゴンに雪がふったら、わかると思います。
「…いいね。」笹村の顔が「そのセリフ。いいね。」笑みに崩れ、彼は声を立てて笑い乍ら、「今度、俺も使うよ。従業員に。サイゴンに雪が降ったら給料上げてやるって。」物音で目を覚ますと、ドアの向こうで物音が立っていて、それは少女が私のかばんを広げて、私のわずかしかない衣類を整理していたのだが、寝起きの私はまどろんだままホテルの、ベッドルームの、カーテン越しの朝の陽光に目をやり、「俺にはね、」笹村は言った、「キリスト教が、じゃないの。それを、信仰するっていうこと。それが、わかんないの。」私はもう一度寝ようとして目を閉じるが、「イスラム教なんか、わかりやすいよ。ふつうの。普通の宗教。宗教としては、わかりやすい。じゃない?神様えらい、それだけ。」私は笹村の、酔いつぶれたような顔を見て、それは振りをしているだけだ。起きあがるには早すぎるが、もう一度寝るには時間が深すぎるには違いなく、時間はもうほとんど残されてはいない。「信じるって何?けど、俺たちも、無茶なことを普通に信じてるよね、例えば、」諦めて向こうの狭いリビングに行くと、「潔癖症患者が手を触れることができない日常的なものに日常的に適当に触れてるでしょ。バクテリアや細菌が跋扈してる、さ。でも、」少女は私のかばんをひっくり返して、私の衣類をたたみ、厭きもせず「そっちの、病気な奴らのほうが論理的なわけでしょ。合理的。すっごく、」小物類はテーブルの上に綺麗に整理されていたが、その、それらがどのような意図で分類されたのか私には一切理解不能な整理法の、「それって、俺たちのほうが信じてるってことでしょ。それじゃなきゃ、頭おかしいんだよ。じゃない?」それとこれとは、話が別なんじゃないですか?話を割る私を、笹村は不意につまらなそうな顔をして、Lanは私から目を逸らした。それが私の途方もない過失であるかのように、笹村は前のめりになって、私に言った。耳もとに近付けられた口で、「違う。全然別のもの。違うんだよ。」私は、しゃくりあげながら泣いている少女の前にひざまづいて、「どうしても、俺には理解できないわけ。キリスト教、信じてるってことが。キリスト教、信じるってことだけは。おれ自身、とんでもない迷信、信じてる病気じゃない奴らのほうなのに。俺、理解できないの。」少女が、なぜ泣いているのかは知っていた。あなたは、キリスト教徒なんですね、という私に、ソファーの身をうずめるようにもたれて、Thành のせいのはずがない。「やっと気付いた?今頃?」笹村が私以外のすべてのものを見下すような笑い声を立てるのを、「誰にも信じろと言われたわけでもないのに、ね?」その、私に対してだけ向けられた、「頭、おかしいでしょ?…僕。」敵意を含んだ親密な眼差しを、Thành は朝早くに出て行ったの違いない。まだ暗いうちに。あるいは、朝と呼ばれ得る時間の前に。彼は彼女を泣かせることなどできない。今まで、一度たりとも、彼は彼女を泣かし得たことなどないのだった。私は彼女に言葉をかけようとし、触れれば、泣き崩れてしまうかも知れない予感が、私の、彼女にさし伸ばした指先を、私と彼女の間を隔てた空間の中に静止させるが、私が泣き崩れてしまうのか、彼女が泣き崩れてしまうのか、私にはわからない。私は知っていた、彼女は昨日から時に目を覚ましながら泣き続けていたに違いなかった。間歇的に。静止した指先の、静止したその理由を私がまだ知らないことに気付く。時に泣き止んだときに眠りに落ちながら。彼女は。朝の光は指先を、その向こうの至近距離に、彼女の褐色の首筋から上をやわらかく照らし出すが、ショートパンツとTシャツの下で、身体は彼女が手を動かすたびに、鮮やかな褐色の皮膚の下の筋肉と骨格の動きを、鮮明に私の視界に与えて、やわらかい影と光の交歓が、その皮膚の上を這う。彼女が私のシャツを引っ掛けて破いてしまった瞬間に、私は声を立てながら彼女を殴打したのだった。なぜ?、短い怒号がたって、どうして、何の怒りさえも感じていないのに? わたしを その首筋が 抱きしめたの?しゃくりあげるたびに痙攣的にひきつって、そしてふたたび、影と光を何度も一瞬だけ乱し、記憶に 窓の外で、強姦される。庭の誰かの甲高い話し声と、いつもふたたび、その向こうの大通りの 何度目かに。バイクの連なる低い騒音が、どうして? 私が母親を殺して仕舞ったとき、その後で、私は帰ってきた父に、私は父を手招きした。私は十四歳だった。十二時をまわる寸前に、父が玄関のドアを開けて、返って来たのは音で知れた。私は私の部屋の中にいた。夜は遅かったが、私は寝られず、私は眠れなかった。いつも、こんな早い時間に寝たことなどなかったことに、私は気付いた。ドアを開け、台所に下りて、私は水を飲んでいる父を手招きした。何と言うべきかわからないまま、言葉さえかけずに。私は何も言うべきを言葉を見つけられないまま、やがて父は導かれた私のその部屋の中で彼の妻の死んでしまって数時間経った身体を見つけるが、そのとき、彼は一瞬の沈黙の後、不意に、息を吐いて、ひざまづくように崩れ落ち、しゃくりあげるようにして泣き始めるのが私には、どうしたんだ、と帰って来た父は言った。私は彼から目を逸らし、何も答えないままに部屋に帰って行く。彼が私に従って来るのは知っている、背後の気配で、それを、私が閉められてはいないドアを押すと、当たり前にドアは開いて、私は息を飲む。母親の死体を眼にしたときに。私は知っていた。彼女の身体は、その行為のさなかの、身包み剥ぎ取った裸体のままベッドの上に横たわっていて、閉められた首の赤らみさえ既に消えうせている。何時間か前の、あの身体の極端な緊張は最早ない。私が殺して仕舞った彼女のそれを見つけたときに、私は息を飲み、立ち尽くすが、彼は私を押しのけるように、部屋に侵入した彼は、一瞬沈黙し、ややあって、くず折れるようにひざまづいていた。私は彼がしゃくりあげながら泣き始めるのを見る、その背中の側を、やがて泣きやんだ彼は、振り向きもせずに、お前が?と言うのだったが、涙を拭いながら、彼は泣きやまない。ずっと、このまま朝になるまで泣き続けさえしそうな気がする。朝までには長い。気が遠くなりそうなほどに長い。彼は、今、彼がすべてをなくしてしまったことを知った。すべて。誰の?なんの?どんな?すべてを。彼女の身体に、何の嫌悪感もなかった。おそらくは。私は。当然のように、彼女はそうしたのだから。私を手放すことさえできず、赤ん坊を腕に抱き続けるそのままに、彼女は私を抱いて眠り続け、抱きしめ続けていたのだから。小さな頃からずっと。私はそれに対して何を言うこともできない。むしろ彼女が私を手放したら、私は泣き叫んだかも知れない。傷付いて。ぼろぼろに。私は彼女を愛していた。彼女は私に殺された。私は、私が特殊であることは知っていた。あらゆるすべてが、あまりにも特殊で、最早何ものにも還元できないことをは、すでに君は知っていた。あの褐色の少女は。君は君でしかあり得ず、絶望的なまでに、君は君であったことさえない、無慈悲なほどに、私は特殊でさえあり得ない。それは君が生まれた瞬間に超えられて仕舞っていた。特異であることが個体性そのものの存在条件にすぎないとき、当然の特異性に特異性など存在しはしない。あなたにはわかるか?泣きやんだ父に、わかりますか?私は言おうとした、わかる?なぜ、俺がこんなことをしたのか、あなたには、お前か?彼はすでに知っているはずの質問を私に投げかけたが、「お前が?」俺にはわからない。俺には、そして私はそれには何も答えないまま、いつかこうなるとは思っていたと父は思っているはずだった。いつか、何かが破綻すると。誰のせいで?「いつか」私のせいで?「こんな風になるって」あなたのせいで?「思ってたよ。母さんとも」私たちは知っていた。「時々話していた。」私の上でそれをする彼女を抱きしめた私の腕の、「このままじゃいけないって」その指先が、彼女の首筋に触れたときに、私は彼女を愛していたわけでもなければ、「ごめんな」そこに何の欲望があったわけでもない。「何もできなかったな、」憎しみさえも。「お父さん、何も」覆いかぶさった身体は、どうして? 下に敷いた身体を抱きしめるようになっている。秘密にされたものはそれが秘密にされている限りすべてを秘密にして仕舞う。それに腕を廻しさえすれば、それは、それを抱きしめたことを意味する。誰ににも隠された暴力は暴力の事実を隠し通し、逃げ場はみずから消滅させられる。汗ばんだその身体の首筋に触れたとき、私はその首の形態を、なだらかな曲線をなぞるように、絞め付けられた指先の、その手のひらの下で彼女が窒息を起こしているのは知っていた。大人にならなければならない。手のひらの、指先の力が緩められない限り、それが何を意味し、どうなるのかも知っていた。大人になって、と。もう少し、と私は思い、もう少し絞め続けていても彼女は死なないですむのか、もう少しで彼女を死なしめ得るのか。それは、いずれにせよ、もう少しだった。大人になって、あなたを奪ってやらなければならない。
あなたの悲しみを癒し、
あなたにすべてをささげるために。
あなたが、あるいは望んだとおりに。行為のさなかに、人間の身体の上で窒息していく身体が、ああまでも、屠殺された醜悪さで、崩壊していくことを初めて知った。あなたに、すべてをあげよう。人体の破綻に、今、愛することが、まみれている気がしたし、無条件に捧げ尽くす以外に 事実、その表現形式を持ち得ないから。そうだった。彼女が既に死んだのに気付いたとき、それは彼女が死んだ瞬間だった。やり過ごして仕舞いそうな一瞬に、彼女の身体は死んで仕舞っていて、さようなら。それは目の醒めるような瞬間だったが、わたしは、すでに、わたしに、なる。過ぎ去って仕舞っていた。彼が、刑事処理をしないことは気付いていた。彼が、そして、事後処理をする彼にすべてを任せたまま、立ち尽くす。居場所はなく、私に存在価値などない。彼女の死体は彼らの部屋のベッドに移されていた。彼女は、私が仕事から帰ったときには、ベッドの上で、独りで死んでいたんです。彼は、自分自身の体液で汚れた彼女の身体を洗浄してやらなければならなかった。彼の母と、彼の離婚して帰ってきた妹と、その二人の子どもたちが寝ている間に。虚脱した身体を肩に無理やり担いだ彼は、やがて部屋を出て行くが、誰もが知っている。そのとき、告白されない秘密は 私はベッドの上の 気付かれなかったに等しい。あと始末をわたしは、しなければならない。口を閉ざした限り、名前は? 何も気付かなかった。私は言った、What’s your name ?... 私は、失礼ですが、お名前は?彼女の、em ten gi ?... そして えむてんじー 彼女は耳を澄まし、その耳から入ってくる音声に、わたしは耐えられないように、時にそのやわらかな、褐色の肌に指先をのばし、教えて。触れようとするのだが、anh nói gì ?… きみのすべてを。彼女は私の上に、捧げて。四つんばいでまたがったまま、きみのすべてを。私を見つめながら、隠し通した記憶のすべてをさえ、微笑みの中で、含めて。その髪の毛が首筋から胸に垂れ落ちて、私はくすぐられるにまかせる。微笑みの中で、Eng tên gĩ ?… あのとき、彼女たちの粗末な部屋の中で彼女を待ちながら、私が眠ってしまったのを、anh sao nói gì vậy ?私を探し回っていたに違いない彼女は、何してるの?息を荒く切らせながら私をゆすって起こし、微笑さえして、ねぇ、今、こんなところで em tenh gì ?... 既に、夜の浅い時間の暗さの中に、通風孔からの外部の光だけが薄く壁に当たって、そこ以外には、確かに光の入ってくる余地もない。anh nói gì ?... ベッドの上に身を横たえまま、その肌に伸ばされる私の指は、em tên gí ?... 欲望に飢えるわけでもなく、求めるということは、sao anh nói gì vậy ? 何なのか?何? ねぇ、何?何かを求めているわけでもないのに?どうしたの?何をも、em ten gí …anh nói gì ? 求め得もしないのに?彼女は覗き込むようにして、私の顔にみずから唇を近づけさえしながらeng tẽn gì ?...私はその指先が彼女の頬に触れる直前の一瞬に、 anh sao nói gì vây ? いつ、終わるのだろう、と私は不意に思いさえする。どうしたの? これらのことが、あらゆるすべてが、いつ、それを、ねぇ、すべての、em tên gì ?... こんなこと、
― em tên gì ?...名前、教えて。あなたを愛しています。望みさえしていないのに。
― Ly, …li ly.
彼女は あなただけを。言った。...リリー。私は もはや、永遠に。彼女が、リリーという名前だということを知った。Lily、ゆりの花。褐色の、白百合。 tên anh là gì ?彼女は私の唇のすれすれで、あなたの名前は? 彼女はそう言った。潤。私の答えを、その同じ距離の中で彼女は、そして彼女は私の答えを聞いた。Dương …そう。じゆん 彼女の唇はつぶやき、私は知っていた、…そう。彼女は私の名前を知った。褐色の白百合。Li Ly、そう、私は、…そっか、その名前を呟き、その唇が、Lily、そう動くのを彼女は見つめるが、かすかに持ち上げられた私の指先が、その、私の指先が彼女の頬から遠ざかるのを拒否するように顔を寄せ、私の指先の、私は指差した。私は彼女が彼らの部屋の隅に作っていた、小さな仏壇の小さな観音像の傍らの、百合の花を指差し、私は言った、Lily、華奢な、白い花瓶の中の、そのLilyを、リリーは首を微かに振って、指先に頬を触れさせようとしながら、không, 指先は彼女の髪がもたれかかるのにまかされて、không phải là hoa huệ 彼女の伸ばした指先は水周りの先に視線を投げさせながら、違うわよ、小さく声を立てて笑う彼女の名前がベトナム語で、その、水周りのあたりの何かを意味することだけ、私は理解した。Li Ly にとって、その名前は絶対にLilyをは意味しない。それは彼女の知りもしない言葉に過ぎず、それ以前に、li は li であって、Lily の Li- ではあり得ず、li ly は lily に等しいことなどあり得ない。なぜなら、微妙な発音の違いが、その言語では「あ」と「ん」の違いほどの違いを意味するから。ほとんどすべての、ベトナム人以外が想起するに違いない連想は、この褐色の白百合にとっては、あるいは、彼女の言語にとっては、不可能な連想以外の何ものでもない。その名前は、あるいはその名前の連想させずにはおかないその純白の花は、その持ち主に他ならない彼女に、むしろ永遠に触れられることのないままに、朽ちて行くのだろうか?雨の中でも、色あせさえしないその花の、土砂降りの雨がいつの間にか降り出していたのは知っていた。その騒音が空間を静かに満たし、私は雨の匂いさえ思い出す。心の中にだけ、あの、何ものにも例え得ないその匂いを、彼女は私を見つめ続け、微笑んだまま、Thành はまだ帰ってこない。もう帰っては来ないに違いない。傷ついた Thành は。彼は、君が殺してしまったようなものだ、と私は思う、褐色の白百合、君自身が、リリー、と私は思い、彼女に言いかけるものの、言葉を頭の中になぜるが、手をのばされたまま何ものにも触れられ得ないそれは、私が伝えるべき言葉を、語彙の記憶のひとかけらすら、それらはもとから存在さえしていなかったことに気付く。私の中の、どこにさえも。君が、もう、殺してしまったのと変わりはしない、私は知っている。褐色の百合、君の、その弟は、そして私は、目を閉じたままに、Thành はベッドの上に横たわらせた私の裸体を一瞥した後、彼は唇をむさぼりながら、彼の指先が私のそれに触れるのを感じる。彼はそれを指先になぞりながら、私はその触感を感じていた。彼はそれに顔を近づけ、唇を寄せて、接近した唇は、やがて唇がそれに触れる。かすかに。やがて、彼は私の体の上に座り込むようにして、時にその姉が自分の上でそうしたように、腰を動かす。彼は彼のそこで、彼の愛する彼のそれがくねっているのを知っている。彼が動くたびに、それは、彼の体内に鈍く動く。ベトナムに来る前に、実家に、三年ぶりで帰ったときに、久しぶりに見る母は、枯れてはいても、枯れつつありながら枯れきることはない、けなげでさえある不思議な瑞々しいさをしずかに湛えていた。それが、身体の大半を水分で満たした有機体の限界なのかも知れない。死体でさえ、崩壊し得ない潤いを湛えているものなのだから。それは父も同じことだった。半身不随で、不自由をしながら、彼の身体はあまりにも見事に、水分の活気に溢れていた。どうしようもなく。お前自身もそうには違いない、お前も、と、私は、あの、Lệ Hằng でさえも。すべての有機体が、今、父は時に思い出したように私を讃えてみせながら、私の渡越を祝福するのだが、それが祝福に値するものではないことは、父にも、母にもまだ言ってはいない。二人は、嘗ての、あの荒れた姿がすべて嘘であったかのように、平穏で、お互いのしずかな親密さの中に生息している。それは、もう、十年以上変わってはいない。母は私に微笑みかけながら、私の外国での生活を案じるが、女には気をつけろと、時に差別的な言葉すら使用する父をたしなめさえして、そこに、私が入り得る余地はない。彼らの関係は彼らだけのものだ。それを、私が求めることなどできない。私が大学を出る頃、父の会社が倒産して、文字通り何ものをも持たない人間になってから、彼らはやがて、そんな風にして生きてきたのだった。ほとんど実家をかえり見ない一人息子を、それでも、その、たまの帰省を待ち乍ら。気をつけて、母は言い、あんたも、はやく、お嫁くらいもらったらいい、そう言い、彼女の手のひらが私の頬に触れたその一瞬の接触が、未成年の私に彼女がしたことを思い出させないわけでもないが、それらはすべて過ぎ去っていた。私に殺されたあとも、彼女は私を抱き続け、父との関係の破綻は留めようもなく、東京の大学に行くまで、ずっと。どうしようもなく。為すすべもなく。Lì Ly は、その唇のすれすれの、Lily そう彼女の名前を呼ぶ私に言う、em không 息がかかるままに、 phải là 私はリリー lily, em じゃありません Lì Ly. リリーです。…り、りー、私は呟き、Liliy、そして 褐色の白百合 彼女は微笑んだまま、いつ終わるのか? すべては。終わり得はしないままに、いつ終わったのか? いつ終わるとも知れない Thành のその行為に、やがて私が彼の中に射精したとき、ややあって、そのまま射精してしまった彼のそれが私の腹部を汚していた。小さな声をさえたてて。思い出したように、Li Ly は言った、初めて知った彼女の名前を何回か、唇に発音して、微笑みかける私に、彼女は微笑みながら、Bẹ bì 彼女は べぇ、何度か び... 発音を試し、試されるまでもなく、私はすぐに、知っていた。彼女は妊娠を告げたに違いなかった。まだ、一週間と少ししかたってはいなかった。彼女を初めて見かけたときからしてさえも。彼女は、まるで、それが私たちのBabyであるかのように、微笑みながら、何度かささやき、触れなさい。呟き、私は わたしのすべてに。微笑むしかない。触れなさい。希薄な微笑の中で、あなたのすべてに。私は、結局は わたしは何も、すべてを 求めない。受け入れていたに違いない、最早。彼女のすべてを、あなたを、射精したあと、愛したから。一度、腰を痙攣的にくねらせたが、大きく息をついて、Thành は一気に血の気が引いた上半身の、希薄な軽いめまいの中に、人心地付いた彼は私を覗き込む。身をかがめて。彼の体臭が、その髪の毛の匂いとともに、遅れて、射精されたそれの匂いの存在に気付く。私の胸の皮膚の上の、彼の。Thành は、姉が帰って来たのにも気付かない。ドアに背を持たれた彼女は、何を叫ぶわけでもなく、何を取り乱すわけでもなく、Thành は私に軽く頬をたたかれて彼女を振り向き見るが、彼は、私にそうされる前にすでに気が付いていたに違いない。Lily は、こうなる他ないということをすでに気付いていたように、私は既視感に戸惑う。Thành は身を起こし、ベッドの脇に立ち上がる。弟は Ly よりも少しだけ大きい。骨格も、身長も。弟は、彼女に歩み寄って、Lyに無言のまま手を触れようとした瞬間に、Lily は彼をひっぱたいた。Đi ! 口の中だけで叫ばれた、出て行け!ささやくような叫び声に、Thành は我に帰ったように、私を一瞥し、それは、切実な、あまりにも切実な思いを伝えた。引き裂かれてしまいそうな、私は知った。彼は、今、愛していたし、そうだった、ずっと前から。私を。姉を。彼は愛していた。それらが何を意味するのか、彼はわからない。理解する対象でさえないのかも知れない。Lily は彼の盗難を許さない。彼が、彼の前で女であることは Lily に許されてはいない。彼は惨めに、わたしは、うなだれて、いつか、服を着ながら、自分自身を受け入れた。こんなに惨めな姿を、いつの間にか、かつて、受け入れる。彼が誰にも見せたことは 色彩のない なかった。彼は 雨に打たれて。ホテルの部屋を いつ、出て行く。受け入れたのだろう? 私はそれを目で追う。Ly は 雨の中の、私を抱きしめ、降りしきるその、私が 轟音の中で。不意の暴力の被害者でもあるかのように、私の体をなぜ、拭き、介抱する。侘びの言葉らしい言葉をさえ、私にかけながら、いっぱいに涙ぐみ、その涙が耐えられずに零れ落ちた瞬間に、
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