ユキマヒチル、微光 ...for Arkhip Ivanovich Kuindzhi;流波 rūpa -193 //花かんざしに、花/花かんざしの、花。それを/咬もうとし、口蓋//03





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





壬生高子はノックもせずに息をととのえた。「姫は?」と。正則。…あれ?ふいに、「え?」瑞穂。その返り見ざまに正則がささやくやいなや「…え?」つぶやいた瑞穂に、「あれ?」正則は「なみだ姫は、」まだ、「今日、」不審を感じない。「寝坊?…とか?めずらしく、」正則だけは食事用のテーブルから離れ、ソファ。大理石のテーブルで食べる。だからいつもの定位置に座り込むのだが、正則。「なに?」

「お姫、どこ?」

   涙は

      はばたいたのだ!

「高子?」

   溶けた

      はば

「一緒でしょ?」

「だれが?」と。あくまで腑に落ちない正則は不安を、素直に顔の全面にさらした。ひらきかけの「おれ?…まさか、」くちびる。眼を「一緒なわけ、」俊敏に「…な、」瑞穂。彼女はそらした。見た。敦子。すでに山崎朋子が給仕した朝のドリアにスプーンをつっこみ、ひとり知った顔を「ねぇねは、」する。「まさちゃんを、お迎えに行きました、よ」そう「おつかれで、」敦子は「ときどきずぼらですから」母親の口真似に言った。ふとももを掻いた。「おれを?」

「来たでしょ」瑞穂。

   涙は

      はばたいたのだ!

         波紋

「いつ?」

   溶けた

      はば

         しずく

「いま」…いま?と、「いまよ。いま」正則は「たった、いま」瑞穂と敦子の交互の声を聞いた。敦子。その背後に立った朋子にただ、笑んでやりながら。ロシア大使館、または東京アメリカン・クラブの裏手。壬生の麻布台の洋館は基本、でたらめを旨とした。見ようによればコルビュジェ風。よくよく見ればフランク・ロイド・ライト風。ピロティらしきものがあって、しかし外円柱との相の子程度でしかない。複雑な建造物の一階に、巨大なリビング、客間等を作った。内装はそれぞれに、アカンサス模様を散らすリビング。アールデコの客間。アール・ヌーヴォーの喫茶室。いかにも手あたり次第の様相を見せ、家政婦たちさえ主人の趣味をときに嘲笑するしかなかった。らせん階段をあがって、二階。敦子の部屋。高子の部屋。そして不用意なヴォイド空間。天窓。正則の部屋。探しにあがった正則はどこにも高子の気配を感じなかった。建物周囲の植栽と樹木をいいことに、隠されていなければ外観をあるいはいちじるしくそこねたはずの三階。浴室、トイレ、脱衣室。および、植栽だらけの屋上テラス。そこに屋根らしい屋根は三分の一もない。ガラス張りの仕切り。そのむこう、雨にうたれる高子を正則は見た。植栽のさき、雨。手摺りちかくに高子は猶も、雨。見ていた。むこうを。だから横殴りの飛沫。飛び散る。濡れた。濡れるしかなかった。当然だった。濡れた全身に、しかも雨など降ってさえいない気配をひとり、なぜか正則のまなざしに感じさせて、ふと。かけようとした。声を。正則。あやうく、呼び声は衝動的に、足をすべらせて落ちてしまう高子を見せるに違いなく、…まさか。そう思った。いま、小柄な高子。彼女のあやうい胸をあやうくおしつぶすほどに、手摺りは肉に食い込んでいたはずなのに。そんな、思った。馬鹿な。時間がかかればだれもが不審がるに決まっていた。その日は北海道に出かけていた風雅。父の眼には止まるべくもない。しかし瑞穂は鈍のふりをしてあくまでも敏だった。そっとガラス戸をひらいた。一気に入り込む雨のひびき。正則。轟音。須臾、そこに失語して、まさか。いまさらその轟音が高子に聞こえたはずもなかった。すでにその氾濫のなかにいたのだから。振り向いた。ふいに高子が。そして笑んだ。高子は。最初から笑んでいた。ずっと。正則の眼に、どちらがほんとうともほのめかしさえくれないまま、だからひとり。正則。知った。と惑い。そして懊悩を。なぜか、そこにまなざしだけが。受け入れていたのだった。高子は、そこに。赦し、と。そう呼ぶべき切実なやさしさ。そこ。微笑。それ。高子。踏み出した。正則は。その一歩のはじまりかけにさえ、高子はすぐにあとじさりした。一歩。そして、また、同じく。また、一歩。移動。横滑り。テラス。気づけばいつか、自分がもと高子の踏んだ芝生を踏みしめていたことに気づく。濡れたスリッパ。朋子はやがて、小声で発狂するにちがいない。入れ違いに、正則にひらかれたままになっていたガラス戸に高子はその背をぶつけた。…だめ、と。そしてあくまでささやき声で、高子は喉に叫んだ。正則を「お兄ちゃん、」見つめつづけたまま。「…濡れちゃう」高子。ややあって、思わず正則は吹き出した。笑った。いろいろな意味で、そのささやきは高子の過失と錯誤を素直にそこにさらしているだけだった。気づかない。笑い声にも、高子は。ただ真摯なまなざしに兄を見つめ、眼。糾弾。赤裸々な。全身で、高子は正則だけを「風邪、…」咎めたてていた。「ひいちゃう」

「お前も、」

「やだ」

「…の、ほうこそ」

「シャワー…」高子。そのくちびを濡らした雨の微量を、濡らされたがままに飲み込んで、「浴びないと。…シャワー、」高子。踵を返すとひとりシャワー・ルームに姿を消した。その凝ったシャワールーム。扉はない。ささやかな、迷路じみて折れかさなる仕切り壁が、あくまで技巧的にその用を足した。不便はない。よくひびく身じろぎの音。衣擦れ。または盛大に反響する水流の轟音。容赦なくだれかの存在を気づかせ、よっぽどの下心が相手になければ、そこに素肌をあばかれる危険はなかった。高子はずぼらで、あるいは恥知らずで、ようするに子どもだった。床。濡れた衣服。点々と捨てられ、放置され、まるで嘲弄するかに。愚弄するかに。しかもただ無造作に。正則。かすかな、しかも冴えたままの茫然に、彼は拾い集めてやるしかなかった。タオルだけは奥にいつでも用意されてあるはずだった。あるいは、と。持って来てやるべきだろうか?妹の服。その替えを。迷うともなく、正則はもう数歩で壁を越えきるそこ、高子の下着を踏みそうになった。身に着けられていれば邪魔でしかなく、脱ぎ捨てられてしまえばみすぼらしくしかない、それ。そのごくわずかな生地さえたしかに濡れていた。耐えられず、脱ぎ捨てたがままに浴室に飛び込んだその、高子の気持ちが感じられた気がした。感覚。他人の。至近に、赤裸々に。足元。自分の、その、たらしていく水滴。いま、それらが更にだに生地をぬらしつづけ、淡いピンク。それはもはや穢らしいほどに濃く、そのむこう、雨に

   ありがと

      なりひびく、そんな

うたれる高子を

   そばにいてくれて

      雨のひびきにも

正則は

   おもわず、感謝

      花々は

見た。植栽のさき、

   ありがと

      色褪せな

雨。手摺りちかくに高子は猶も、雨。見ていた。むこうを。だから横殴りの

  ちっ

飛沫。飛び

  ちちちっ

散る。濡れ、

  ちっ

飛沫。飛び

  ちちちっ

散る。濡れるしかなかった。当然だった。濡れた全身に、しかも雨など降ってさえいない気配をひとり、なぜか正則のまなざしに感じさせ、ふと。かけようとした。声を。正則。あやうく、呼び声は

見ろ!

   愛は、あるいは

衝動的に、

歓喜だ!

   破滅でしかない

足をすべらせて落ちてしまう高子を見せるに違いなく、

   なりひびく、そんな

      匂う。赤裸々に

         咬め

…まさか。そう

   雨のなかでも

      臭気。すべては

         窃盗者たち

思った。いま、小柄な

   花々は

      雨の臭気に

         蝶と蛾と蜂

高子。彼女の

   色褪せな

      匂う。赤裸々に

         咬め

あやうい胸をあやうくおしつぶすほどに、手摺りは肉に食い込んでいたはずなのに。そんな、思った。馬鹿な。時間がかかればだれもが不審がるに決まっていた。北海道に出かけていた風雅。父の眼には止まるべくもない。しかし瑞穂は鈍のふりをして、あくまでも敏だった。そっとガラス戸をひらいた。一気に

   破滅だよ

入り込む、雨の

   地獄だよ

ひびき。正則。轟音。須臾、そこに失語して、まさか。いまさらその轟音が高子に聞こえたはずもなかった。すでにその

   するがいい。…屠殺

      好き。やさしい

氾濫のなかに

   雨にうたれた

      好き。雨が

いたのだから。

   もげ。羽根を。もげ

      好き。やさしい

振り向いた。ふいに

   するがいい。…屠殺

      好き。あなたが

高子が。そして

   破滅だよ

笑んだ。

   地獄だよ

高子は。最初から笑んでいた。ずっと。正則の眼に、どちらがほんとうともほのめかしさえくれないまま、だからひとり。正則。知った。と惑い。そして懊悩を。なぜか、そこにまなざしだけが。受け入れていたのだった。高子は、そこに。赦し、と。そう呼ぶべき切実なやさしさ。そこ。微笑。それ。高子。踏み出した。正則は。その

   近くへ

      感じないから

一歩のはじまりかけにさえ、高子は

   赤裸々な

      悲しみ。傷みも

すぐに

   近くへ

      消えたんだ。もう

あとじさりした。一歩。そして、また、同じく。また、一歩。移動。横滑り。テラス。気づけばいつか、自分がもと高子の踏んだ芝生を踏みしめていたことに気づく。濡れたスリッパ。朋子はやがて、

   叫んでよ

      愛。耳たぶに

         落ちる

小声で

   叫んでよ

      愛。耳だれに

         落ちる

発狂するにちがいない。入れ違いに、正則にひらかれたままになっていたガラス戸に高子はその背をぶつけた。…だめ、と。そしてあくまでささやき声で、高子は喉に

   窒息しそうだ

叫んだ。正則を

   失神しそうだ

猶も「お兄ちゃん、」見つめつづけたまま。「濡れちゃう」高子。ややあって、思わず正則は吹き出した。笑った。いろいろな意味で、そのささやきは高子の過失と錯誤を、そこに素直にさらしているに過ぎなかった。気づかない。笑い声にも、高子は。ただ真摯なまなざしに

   が。え?好きだから。きみが

      感じあえ

兄を見つめ、

   ぶっ殺す。…なぜ?

      思うがまま

眼。糾弾。赤裸々な。

   が。え?好きだから。きみが

      自由気ままに

全身で、

   その眼の前で。…え?

      ふれあえ

高子は正則だけを

   ぼんっ。吹っ飛ぶよ。ぼ

      思うがまま

咎めたてていた。「風邪、ひいちゃう」

「お前も、」

   うつくしい。きみは

      したたる

         崩壊でしょうか?それらは

「やだ」

「…の、ほうこそ」

   うつくしい。まさに

      したたりつづ

         しずくたち

「シャワー…」高子。そのくちびを濡らした雨の微量を、濡らされたがまま飲み込み、「浴びないと。…シャワー、」高子。踵を返すとひとりシャワー・ルームに姿を消した。その凝ったシャワールーム。扉はない。ささやかな、迷路じみて折れかさなる仕切り壁が、あくまで技巧的にその用を足した。不便はない。よくひびく身じろぎの音。衣擦れ。または盛大に反響する水流の轟音。容赦なくだれかの存在を気づかせ、よっぽどの下心をでも相手がいだかなければ、そこに素肌をさらされる危険はなかった。高子はいいかげんで、あるいは恥知らずで、ようするにまるで子どもだった。床。濡れた

   流れよ。いま

      背中にも

衣服。点々と

   くすぐったいよ。いま

      びしゃび。しゃ、び

捨てられ、まるで

   流れよ。いま

      あやういところに

嘲弄するかに。愚弄するかに。しかもただ

   若干いたいよ。いま

      びしゃび。び、しゃ

無造作に。正則。かすかな、しかも冴えたままの茫然に、拾い集めてやるしかなかった。タオルだけは、奥にいつでも用意されてあるはずだった。あるいは、と。持って来てやるべきだろうか?妹の服。その替えを。迷うともなく、正則はもう数歩で壁を越えきるそこ、高子の下着を踏みそうになった。身に着けられていれば邪魔でしかなく、脱ぎ捨てられてしまえばみすぼらしくしかない、それ。そのごくわずかな生地さえたしかに

   散る。だから

      聞け。いま

         あった

濡れていた。耐えられえず、

   飛沫たちさえ

      ひびく。いまも

         渇きが

脱ぎ捨てたがままに浴室に

   散る。きみの

      雨が、外で

         あった

飛び込んだその、高子の

   すがたを、いくつも

      すべてを叩き

         絶望が

感覚。気持ちが

   映したの?そこで

      打ち鳴ら、聞け

         あっ

感じられた気がした。至近に、赤裸々に。足元。自分の。その、たらした水滴。いま、それらが更にだに生地をぬらしつづけた。淡いピンクは、もはや穢らしいほどに濃い。謂く、

   葉。は。ははっ

   散る。飛びち

   散り、り。ち

   葉。は。ははっ

ゆがむ。死者たちは、だからそこに口蓋をひらき、ひらきはじめていながらにして

   葉。は。ははっ

      笑った…の?

    あなたが、わたしを

     狂暴に。いまも

   散る。飛びち

      笑っ、きみは

    その、雨のなか

     群れ。しずく。それら

   散る。飛びち

      ひびきもなく、笑っ

    唐突に、そこで

     か。濡らすのだろう、か

   葉。は。ははっ

知ってる?雨のなかでこそ、色彩はふかく、ふかく、ふかくその色彩をさらした。…でしょ?

   葉。は。ははっ

   散る。飛びち

   散り、り。ち

   葉。は。ははっ


   飛沫が。もはや

   厖大な。鮮烈な

   しず、…ね?しずくが

   あざやか。に、ただ

とける。か、の。ように、死者たちは、だからそこにそ。そこに口蓋を、お。を、ひらき、ひらきはじめていながらにして

   飛沫が、もはや

      わ。あくまでもわたしは

    あなたも。しずかに

     泣く?泣いていた、と、しても

   厖大な

      わ。わからなかっただろう

    なにも。表情をさえ、なにも

     涙。滂沱の涙。に、

   ね?…ね、しずくが

      わ。たとえ、わ。きみが

    変えも。微動だに、変えも。あなたも

     しゃく。しゃくりあげていたとして

   ただあざやかに

知ってる?雨のなかでこそ色彩は、だからそれは謂わば意識などありえないままの失神とでも、…でしょ?

   きわだった。色彩は

   濃く、猶も

   霞み、猶も

   きわだった。色彩は

ない。なにも。色彩と呼び得るなにものも、もはやそこ。死者たちその翳りには

   きわだつ。色彩は

    そばだてて。耳を

   猶も

    澄ます。なにも

   猶も

    そばだてて。耳を

   きわだつ。色彩は

失ったんだ!なくしちゃったんだ!もう終わりなんだ!すべて、もう、ぜんぶ終わ

   葉。は。ははっ

   散る。飛びち

   散り、り。ち

   葉。は。ははっ

いたぶるように、だから、雨よ。見晴るかす

   葉。は。ははっ

      糾弾?…を、

    あなたがわたしを

     なにも。必然も、な。その

   散る。飛びち

      いきなりきみは

    濡らしてしま、しぶきに

     なにも。まなざしが、な

   散る。飛びち

      まえぶれもな。なく、な。そこ

    あなたは唐突に

     とがめだてていて。猶も

   葉。は。ははっ

知ってる?雨のなかでこそ、色彩はぶあつく、ぶあつく、ぶあっその色彩をさら、ら、ら、ぱっ。…でしょ?

   葉。は。ははっ

   散る。飛びち

   散り、り。ち

   葉。は。ははっ


   白濁が。もはや

   厖大な。鮮烈な

   しず、…ね?しずくが

   遁れようもなく、ほら

四方に、雨は。そこ。降りしきり、雪が

   白濁が、もはや

      わ。それでもわたしは

    息を。あなたも

     くれた、と、して、も。…拒絶を

   厖大な

      しはしなかったろう、理解など

    なにも。あららげさえ

     怒り。忿怒をも

   しずく。が、それら。が

      たとえきみが、たとえ

    自然に。あまりにも

     も。さらしていてさえ、も。悔恨を

   もう、遁れようもな

塗りたくってしまいたい。あなたの網膜に、いま、わたしが見出した色彩のすさまじい傲慢のこれみよがしさを、…って、

   きわだったのだ。色彩は

   濃く、猶も

   霞み、猶も

   きわだっ、…色彩は

綺羅めきは、まだ。雲のふかい、あわい翳りの、そのせいで雪に、いまだ綺羅。その、網膜に傷みを感じさせずにいなかった、綺羅めきはまだ

   色彩。きわだつ

    すました。耳を

   濃く、

    なにが?…なにも

   霞み、

    すました。耳を

   色彩。きわだ

馬鹿にしないで。侮辱しないで。放っておいて。振り向き見ないで。

   轟音。おび、

   怯えていた。耳が

   轟音。しっ、

   知っていた。耳が

指が、まがる。死者たちは、そこに、その指が、まが

   轟音。耳が

      あ、…と

    降り、打ち

     雨よ雨よ雨つぶたち、よ。ただ

   怯え、容赦ない

      だから、…あ。もう

    打ちつけ、それら

     あきら…ええ、赤裸々に

   雨。それら

      あ。…傷いくらいに

    横殴り。ときに

     雨よ雨よ雨つぶたち、よ。ただ

   とめどもな、ひびき


   轟音。耳が

    おののきを、猶も

   怯えていたのだ

    おそれを、…屈辱

   知っていたのだ

    おののきを、猶も

   轟音。耳が


   轟音。耳が

      はっ、と。はっ

    きみの傘には、な

     雨が。ただ

   おののき、すさまじい

      ら、はっ。だからもう

    なれないだろうから

     これみよがしに

   雨。それら

      呼吸困難をさえ、か

    思わず、わたしは

     雨が。ただ

   とめどもな、ひび

ほうら。ほうら。ほら、聞いていました。あなたのひそやかなその息遣い。わたしのこの肌に、ふりそそぐままに

   ひびき。つつみ

   ぼくたちに

   しぶき、散り

   を、…ひびき。かくし

爪が、反り返る。死者たちは、そこに、その爪が、反りか

   ひびき。ぼくたちを

      まなざし。猶も

    ふさいだ。口を

     寒いのだった。もう

   つつみ、厖大に

      あなた。あなたをも

    つぶやきかけた、なにも

     骨。骨髄が

   に、…飛沫。散り、

      しっかりとは捉えきっ

    な。なかったというの、に

     ふるえはじめた

   ひびき。籠る。…り、

聞いていました。あなたのひそやかなぜ?きみは、その息遣い。わただ、きみは猶もしのこの肌に、ふりそんなふうに、怯えるのだろう?そぐままに

   ちぢにもみだれ

   わたしたち。不意の

   狂気をきみは

   みだれ、ちぢにも


   ちぢにもみだれ

   わたしたち。不意の

   悲痛をきみは

   みだれ、ちぢにも


   ちぢにもみだれ

   わたしたち。不意の

   忘我をきみは

   みだれ、ちぢにも


   ちぢにもみだれ

   わたしたち。不意の

   絶望をきみは

   みだれ、ちぢにも

見せてみるがいい。お前の、せめてものお前なりの絶叫くらいは。…と、

   狂気を。ふいの

      失意であった。それはむしろ

    くだけそう、に

     か。おそいかか

   悲痛を。ふいの

      わたしには。きみも

    こわれそう、に

     か。かかるんだ、った

   忘我を。ふいの

      に、も。失意であった。むしろ

    くずおれそう、に

     か。かんじょう。か。わかる?

   絶望を。きみは

愚弄しないで。軽蔑しないで。嘲笑しないでってから見てんじゃねぇタコ

   みだれ、ちぢにも

   みだれていたのだ

   さわぎ、みだれて

   ちぢにも。ちぢにも

やがてリビングで、…雪。頬を上気させた高子は…雪。よ。ね?

   乱れた。きみの

      やめて

言った。「雪だったの」と、

   髪の毛が

      お願いです

言われ終わるまえに瑞穂は

   乱れて。きみの

      いたぶらないでくださいますか?

思わず笑いかけ、

   くちびるに

      やめて

笑い崩れかけ、「なに?」

「雪。」声。「雨だって、そう」高子。「思ってた。でも、あれ、雪。あれ、やっぱ、雪だった」と、…雨?正則は不審に思った。駆け降りて来、そのいきなりの駆け足の派手な騒音の残響、息を切らした妹に、…聞いた。たしかに、屋上で、雨。その降りしきる轟音を。見れば、窓の外、荒れた雪は、吹雪きじみた風景を

   ふむ。やがて

      壊されたい?

         いいよ

さらした。なら、

   かかと。なじるかに

      あげる。破壊を

         泣き叫んでも

雨から変わった

   ふむ。やがて

      穢されたい?

         いいよ

雪なのか。とまれ、

   つまさき。つぶすかに

      あげる。恥辱を

         喚き散らしても

庭にすでに雪はつもりはじめてさえもいた。

   い。び、…て。て

   見なかったと同じ

   明晰な強度に

   微光。び、…て

   嗜虐に、似た


   だからあなたの

   ゆびさき。その

   飢餓のない

   愛撫。愛撫


   唐突に、ふれた

   だからあなたの

   鼻先。その

   至近に、愛撫

   愛撫しわたしは吹きかけてしまっただろうか?…いっ

って、見ろ、…と?

   いっ、

侮辱するかにくずれてゆく死者たちそれら無数の

   息を、

翳りの倒壊の継続を猶も、口をおおって?

   嗜虐に似ていた

      か?赦していただけませんか?

    息を。わたしは

     剥きかけたんだ

   ゆびさき。その。愛撫は

      と。いま、ふと

    無造作に、きみに

     白目を、剥きか

   ふれたのだ。唐突に

      た。嘔吐しかけてしまいまし、た

    わたしは。息を

     だいじょうぶ?きみは

   鼻先に。…息吹き








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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