ユキマヒチル、微光 ...for Arkhip Ivanovich Kuindzhi;流波 rūpa -192 //花かんざしに、花/花かんざしの、花。それを/咬もうとし、口蓋//02
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
1986年。12歳。その壬生高子は管理しつづけなければならなかった。年の離れた妹、敦子。7歳。彼女が匂い付きの消しゴムを食べて仕舞わないように。慎重に。敦子はたぶん、充分知っている。食べられないことなど。それでいて、なぜ?姉への甘えか、からかいか、媚びか。高子にはさだめようのない敦子固有の必然のもと、くりかえされる無知のふり。ふりが所詮ふりにすぎないと気づきつつ、敦子。器用に盗み、咥え、咬みごたえのあるピンクを香りごと前歯でもてあそび、そして唇を剥く。その眼。笑う。敦子は。叱らない。あえて、高子は。あたまをひっぱたくふりだけを、声。嬌声じみたそれ。声。諫める。そうすればすぐさま口から落とし、「いちご味?」敦子。無造作に、そこに、そう云った。うわ眼。その、まじめに、しかも切実な「…これ、」少女の。「なに?」
「いちごの味した?」
「すっごく、おいしくなさそう」高子は笑う。凝視。敦子。1秒だけ。いきなり、すぐに敦子が笑った。高子に、焦燥に似たあやうい感情がきざした。あざけられ、その一方的な屈辱に耐えかねた、と、そんな。抱きしめられた敦子。ふいのやさしい羽交い絞めに、姉の腰に素直にすがった。たわむれ。曲げられたゆびさきが、じゃれあい。高子。その腰を掻いた。笑い声がかさなって散るのを高子は耳に聞いていた。気配。した。気配が。し、していた。あるいは。振り返った。ひとり、高子は。ふと、窓。思った。当然、と。なぜならそこは、麻布台。新築の洋館。割り当てられた自分。の、部屋の中。まして蝶など。といって、高子の部屋はたびたび、夜な夜な侵入未遂の被害にあった。敦子に。ひとりで眠るのにまだ抵抗がある。敦子には。だから、不安になるたび「開けて」叫ぶように。あるいはノック。ささやき。姉のドア。あくまでささやき。ひそめられた、怯えに素直な叫び声。微弱な。叩く。深夜。内側からの施錠。ドアを、高子はかたくなにいくつもの夜。開けない。いくつもの、赦さなかった。やがて「ねぇね?」踏み散らされる「ね、ねぇね?」床。敦子が「ねぇね。ね、」しかし大人にならなければならないから。拒否。なぜ?…蝶。侵入。ふいの。まばたいた。高子は、抱きしめられた敦子。羽交い絞めの、触感それらそのあからさまな騒がしさ。鎖骨に。胸に。腹に。太ももに。腰に、背筋にその、腕の、胸の、腹の、足のじだんだ。触感。轟音。ふと触感。暴力じみて感じながらも静寂、と?触感。あるいはそう呼ぶべき、息吹き。…なに?冴えた…なに?まなざし。その中、ひびきのない、だから高子のしずかな風景の中に、蝶。朝の窓。そこに。ひらひらと、…なぜ?ひらかれていたから。窓は。もう、春。3月。その23日。午前。唐突に、朝。肌寒い。激しい雨。降ったのだった。さっきまで。降ってはやんだ。やんでは降った。雨。2月にも雪が大量に積もったばかりだった。また雪にならないとも限らない。不思議ではない。あまりに寒い。冷たい。なのに、蝶が?と、…なぜ?そう思っていた。高子は。つめたすぎる雨の冷酷なひびきのなかをかいくぐって?部屋の中。ふたたび降りしきる、雨。音。それだけ。敦子。響き渡ってさわぐ。敦子が、いるという暴れる。のに。その戯れる、敦子。あば、日曜日。子供たちのためにと瑞穂は気を利かせ、その曜日の朝食はいつも遅めだった。とまれ気遣いは、すくなくとも敦子と高子には必要なかった。ただ、いつも明け方に眠るらしい正則にのみ、起床時間に制約されない自由な眠りはあるいは必要だったかも知れない。瑞穂は長男の怠慢をさえ嬉しがる。成長のひとつとさえ、あえて見ていた。九時をもうすぐ、高子。回る。もうすぐ瑞穂が、だから家政婦を呼びに来させるに決まっていた。山崎朋子。彼女を部屋に入れたくはなかった。敦子をつれて階下に降りた。はたしてリビングに、朋子がすでに皿をならべ始めていた。もっとも、質素簡単な朝食に過ぎない。チーズ。ホワイト・ソース。その甘く陰湿な匂い。グラタン?あくまでもささやかな。運動をしない正則は、いつも朝食をたいらげるのに苦労する。瑞穂に朝食は、頑固な固形であることを赦されない。高子は敦子をうながして家政婦に、おはようを言わせた。そのせいで自分の口には挨拶を忘れた。毎朝の通例。朋子はふたりを見止めた眼にいちど笑み、敦子。少女を見つめた両目はそのいたずらでいたいけない不遜を愛してやまなかった。すくなくとも、その感情を表現することに、朋子はいつでも自分に対してさえ成功した。椅子にあがる妹。背をすどおりし、台所。高子は顔を出してみる。瑞穂。母なるひと。料理はすべて、瑞穂がする。誰が何と言おうと、わが身になにが起ころうと、かたくなに。熱にふらつきながらロースト・ビーフを焼いた日もあった。祖母。だから風雅の母親について、高子は基本、遺影以外の顔も知らない。そんな強いるべき誰もいない自由のなか、瑞穂は強制労働の苛酷に毎朝疲弊する。時にはふと愚痴をこぼして見せながら。気づかえば断わられるに決まっている朋子はもう、それに他人の同情をさらして笑んで、…傷いの、と。ためらわない。瑞穂。「ここ、」あら?も、「ね?」おはようも「…ここ」なにもないいきなりの振り向きざま「傷むの。ここ」顰め面。しかもそのあまりにもの自然さに高子は、瑞穂が朋子と間違えているにちがいなく思った。「どうしたの?」と、指が「…ママ」ここがどこか「だいじょうぶ?」一向に教えようとしないまま、瑞穂。焦燥に似たあやうい感情がきざした。あざけられ、その一方的な屈辱に耐えかねた、と、そんな。抱きしめられた敦子。ふいのやさしい羽交い絞めに、
やさしさを、いま
笑え。…さあ、
肩越しに
姉の腰に
かきあつめて、いま
わたしを。…さあ、
そっと
素直に
きみに。ほら
あざけるが、…さあ、
頸すじに
すがり、戯れる。曲げられたゆびさきが、じゃれあう。高子。その腰を掻いた。笑い声がかさなって散るのを高子は耳に聞いていた。気配。
だれ?
した。気配が。
ほほ笑みかけたのは
し、気配。
だ
していた。あるいは。振り返った。ひとり、そこに、高子。ふと、
蝶たち。ちっ
あなたの、…お願い
窓。思った。当然、と。なぜならそこは、
息。ひそめ、ちっ
腕で。あたたかな
麻布台。新築の
共食いさえ、ちっ
させて。失神、させ
洋館。割り当てられた
したりす、ちっ
破廉恥なくらいに
自分。の、部屋の中。まして蝶など。といって、高子の部屋はたびたび、夜な夜な侵入未遂の被害にあった。敦子に。ひとりで眠るのにまだ抵抗がある。だから、不安になるたび「開けて」叫ぶ。か、に。あるいは
叩け!叩き
叫ぶかに
ノック。ささやき。姉の
ぶち壊せ!
叫ぶかに
ドア。あくまで
叩け!ひたすら
叫ぶかに
ひそめられた、怯えに素直な
うち破れ!
叫ぶか
叫び声。微弱な。叩く。深夜。内側からの施錠。ドアを、高子はかたくなにいくつもの夜。開けない。いくつもの夜。赦さなかった。いくつもの、やがて「ねぇね?」
笑い声を、そこに
踏み散らされる「ね、ねぇね?」
きみは。しずかに
床。敦子が、しかし「ねぇね。ね、」大人にならなければならないから。拒否。なぜ?…蝶。侵入。ふいの。まばたいた。高子は、抱きしめられた敦子。羽交い絞めの、そのあからさまな騒がしさ。触感。鎖骨に。ふれる。胸に。ふれあう。腹に。触感。太ももに。ふれる。腰に、ふれあう。背筋にその、
ふれて
絶叫であろう
腕の、
ふれていて
わたしは
胸の、
ふれて
わたしという存在は
腹の、
ふれていて
もはやそこに絶
足のじだんだ。触感。轟音。ふと暴力じみて感じながらも静寂、と?あるいはそう呼ぶべき、…なに?冴えた…なに?まなざし。その中、ひびきのない、だから高子のしずかな風景の中に、
ひとりじゃないよ。ずっと
あまりにも多くの
見ていた
蝶。朝の窓。そこに。
こころのなかに
悲惨と、あまりにも
風景。その
ひらひらと、…なぜ?
ひとりじゃないよ。ずっ
多くの過失
風景のなかに
ひらかれていたから。窓は。もう、春。3月。その23日。午前。唐突に、朝。肌寒い。激しい雨。降ったのだった。さっきまで。降ってはやんだ。やんでは降った。雨。2月にも雪が大量に積もったばかりだった。また雪にならないとも限らない。不思議ではない。あまりに寒い。冷たい。なのに、蝶が?と、…なぜ?そう思っていた。高子は。つめたすぎる雨の
暴力さ。もはや
蝶よ!
冷酷なひびきのなかを
虐待さ。もはや
蝶よ!
かいくぐって?部屋の中。ふたたび降りしきる、雨。音。それだけ。敦子。響き渡ってさわぐ。敦子が、いるという暴れる。のに。その戯れる、敦子。日曜日。子供たちのためにと瑞穂は気を利かせ、その曜日の朝食はいつも遅めだった。とまれそんな気づかいは、すくなくとも敦子と高子には必要なかった。ただ、いつも明け方に眠るらしい正則にのみ、起床時間に制約されない自由な眠りはあるいは必要だったかも知れない。瑞穂は
赦して。わたしたちは
死とは常に
朝に。あかるい
長男の怠慢をさえ
加害者にすぎない。たとえ
失敗でしかなかった。しかし
微笑を。その
嬉しがる。成長の
四肢を、きみに
死とは常に
朝に。あかるい
ひとつとさえ、あえて
引き裂かれながらでも
失敗でさえな
ささやきを。その
見ていた。九時をもうすぐ、高子。回る。もうすぐ瑞穂が、だから家政婦を呼びに来させるに決まっていた。山崎朋子。彼女を部屋に入れたくはなかった。降りた。敦子をつれ、階下に。はたしてリビング。そこに、朋子がすでに皿をならべ始めていた。もっとも朝食はあくまで質素簡単に過ぎない。チーズ。ホワイト・ソース。その甘く陰湿な匂い。グラタン?あくまでも
やさしく、ね?
ささやかな。
してね。やさしく
運動をしない正則は、いつも
やさしく、ね?
朝食をたいらげるのに苦労する。瑞穂に朝食は、頑固な固形であることを赦されない。高子は敦子をうながして家政婦に、おはようを言わせた。そのせいで忘れた。自分の口には、おなじ挨拶を。毎朝の通例。朋子はふたりを見止めた眼にいちど
なに?いま
ささやかな、ささ
笑み、敦子。少女を
ささやきかけてしまいそうになった、その
孤立を。ささやかな
見つめた両目は、その
なに?いま
ささやかな、ささ
いたずらでいたいけない不遜を愛してやまなかった。すくなくとも、その感情を表現することに朋子はいつでも自分に対してさえ成功する。椅子にあがる妹。背をすどおりし、台所。高子は顔を出してみる。瑞穂。母なるひと。料理はすべて、誰が何と言おうと、わが身になにが起ころうと、かたくなに瑞穂がする。熱にふらつきながらロースト・ビーフを焼いた日もあった。祖母。だから風雅の母親について、高子は遺影以外、顔も知らない。そんな
おおえ。その
え?と須臾の
羽虫。ひかりに
強いるべき
口を。おおい、
動揺?…ふと
飛び込むそれらは
誰もいない
ふさげ。その
え?と猶も
羽虫。ひかりに
自由のなか、瑞穂は
ふさげ。口を
失語?…むしろ
狂気であろうか?
疲労する。強制労働の苛酷に。時にはふと愚痴をこぼして見せながら。気づかえば断わられるに決まっている朋子はもう、それに他人の同情をさらして笑んで、
素直に
あ、
…傷いの、
自然に
あ、
と。ためらわない。瑞穂。「ここ、」あら?も、「ね?」おはようも「…ここ」なにもないいきなりの振り向きざま「傷むの。ここ」顰め面。しかもその
見ひらいて、眼が
よりよい生活
忘れかけた
あまりにもの自然さに
のけぞって、背が
よりよい覚醒
ほほ笑みの
思った。高子は、瑞穂が
ひんまがり、指が
よりよい忘我
見よ。孤立を
朋子と間違えているにちがいなく、「…どうしたの?」
苦痛さえ、幸福と
睫毛に火を
指が、その「…ママ」ここが
感じられるね?いま
つけちゃおうぜ
どこか「だいじょうぶ?」指が。一向に教えようとしないまま、瑞穂。
微光。見て
ほら。たわむれるかに
髪。毛さきにだに
微光。見て
微光。見
いつ?わたしは
たわむれるかに
落ちるのだろう?狂気。…た、だろう?狂
毛さきにだに
いつ?わたしも
微光。見
微光。見て
な。赦すべきでは、な
いつ?わたしは
なぜだろうね?
ほら。たわむれるか、に
が。ほほ笑みだけが
さらすのだろう?破綻。…た、だろう?破
かかと。わたしの、は
髪。毛さきにだに
な。赦すべきでは、な
いつ?わたしも
かろやかなのだよ。とても
微光。見
彼女はまな板を両手で洗っていたから。「傷むの。…山崎さんには言ったけど。もう」
「なに?」
「昨日。なんか、」
「ね、」
「夜から、」
「頭?」
「のど」そして、ふたたび頸をもたげて高子を見止めると、瑞穂ははじめて「…風邪、」笑みを「かな?」つくった。「寝てなくていい?ママ」
「ちょっと。ちょっとだけ。すこし傷いだけ。だいじょうぶはだいじょうぶなんだけど、…でも、つらいじゃない?…傷いの」
「お皿、じゃ、洗うね、」流れで「わたしが」なんの気もなくそう言えば、瑞穂。一瞬、はっとすべての挙動を静止した。息を呑んだ。はっ、と、しかもまばたく。ぴっ、と、そしてほっと、瑞穂は息を吐き切り、ようやくそこに吹き出して笑った。ささ「あり」ささやいた。「ありがと。もう、高子ちゃんだけ。わたしにそんなこと云ってくれるの」気づかない、あなたは。と。高子。喉の奧に、気づこうとしな、ささやく。しない、と。あなたは、いちども。むしろ仕事を取り上げられた朋子が、気づかない。あなたの労働の影で気づ、かつて。気づかない。あなたは、どれだけ気づ、あなたに苛立っていたのかを。気づか、あなたは。どれだけじれていたのかを。気づ、あなたは。どれだけ気づか、いたたまれなく、気づかない。あなたは。歯。その歯。奥歯をさえ、気づきも。咬みあわせ、気づきさえ、あなたは。そこ。あなたの気づきも。影。翳りに、気づきさえ、影。影を踏み。影。影に、気づ、朋子。恵まれた、暇な、幸せな家政婦。…うれしい。と、「ママ、そういう高子、」素直な「好き」そのよろこびに、ふと顎をかたむけ、瑞穂。ただ、彼女ははにかむ娘を気配、と。見ていた。…気配、と。高子。母親にほほ笑みか返すべき当然を忘れ、後ろをそっと、高子。気配。振り向き、高子。その娘に…ん?と、そっと「…どうしたの?」声。聞いた。高子は、耳のななめ背後、たしかに。母。声。不在。蝶。まだ、部屋に?まだ、雨。冴えた、寒すぎてもう、冷たいくらいの大気のなか、開け放たれた窓、逃げこんで?…蝶。いまや、そして部屋は高子の不在にすでにあざやかな鱗粉の綺羅めきだらけで?あるいは香ばしい異物臭だらけで?「気をつけてね」高子。振り返いた須臾の、声。その、声。その、笑顔。髪。散る、朝の髪。光沢。豊か。それら、瑞穂はただ納得してしまおうと決めた。確信があった。高子は自分より、あるいは、くらぶべくもなくうつくしくなるに違いなかった。もう、と、女だよ。「高子ちゃんは」風雅が連れてくる「…だって、さ。もう、」男たち。ときに「この子、色気さえ」これみよがしに「あるもん。こう、」驚嘆した。「末恐ろしいよね…」未完成で、だからちぐはぐなところがない。完成品。これ以上って、失笑。ある?笑う。風雅。彼。そう言われるたび「けぇつぁ、な」笑う。声。「わしん子じゃけぇ」と、そこにいれば瑞穂に流し目をくれて、まるで「…な、」すべて、「早熟なんよ」下品な冗談だったかに、失笑。哄笑、じみた、声。あかるい、叩きつけるかの派手な笑い声。それ。瑞穂は風雅から眼を逸らし「…て。お願い」その、聞き洩らされた声に、高子はわれに返って頸を傾けてみせた。「ママ。ごめん」
「なに?」
「聞いてなかった」…あら、と、「…ま」瑞穂。「だいじょうぶ?どうかした?」
「なに?」
「うしろに誰か、なにかいたみたいに、さ。高子ったら。さっき、」
「ごめん、なに?なんだった?なにか、お願いごと?」まさ、「…わたしに、」まさちゃん。…と。瑞穂。口。ささやきかけるとすぐさま、正則。高子は自分の、不在。正則。胸に独り語散ていた。「おにいちゃん、」不在。「まだなの?」声に出さず。その、無言という事実にも気づかず、…呼んできて。「ね?」まさちゃん、ほら、「ね?」まだ、あの子、…ね?「部屋じゃない?」
「だれも、呼んだけてないんだ?まだ」
「高子のほうが、…ほら。山崎さんより、」…いいんじゃない?と、あなたのほうが。「人見知りだもん。まさくん。寝起きって恥ずかしいんじゃない?男の子は。だから呼んでき」…やだ。言った。高子は。おもわず、口から出た拒否の言葉の、鮮明すぎる拒否にと惑いはじめる母よりさきに、舌打ちを。高子。自分で心に、舌打ちを。…なんで?と、「いいよ」問いかけるまなざしをまだ「わたし、」瑞穂が「行ってくる」つくりきらないうちに「あいつ、」高子。彼女はいきなり「だらしないんだっ」踵を返した。尻を振った。故意に。駆けた。階段を。故意に。足音をたて、鳴りひびかせ、そしてふと、二階。高子。自分の部屋の対角線上の端。正則の部屋。まだ眠り、眠りをむさぼる?部屋。ドア。眼の前。立ち止まり、気づかない、あなたは。と。高子。喉の奧に、
いったい、もう
信じて。すべて、ね?
気づこうとしな、
どれだけの、もう
わたしの、信じて
ささやく。あなたは、
眠られない夜を
すべては、ね?嘘
と、いちども。むしろ仕事を
いったい、もう
噓だから。きみは
取り上げられた朋子が、あなたの労働の影でかつてどれだけ苛立っていたのかを。どれだけじれていたのかを。どれだけいたたまれなく、所在なくさえ思っていたのかを。歯。その歯。奥歯をさえ、気づかない。咬みあわせ、あなたは。そこ。気づかないままあなたの
そうじゃない
訓育を。ひたすら
影。翳りに、
夢じゃない?
苛酷を愛し
影。影を
夢みたい?
苛酷を友とし
踏み。影。
そうじゃない?
決して叫ばないでいら
影に、
そうじゃない
訓育を。ひたすら
朋子。恵まれた、暇な、幸せな家政婦。…うれしい。と、「ママ、そういう高子、」素直な「好き」よろこびに、ふと顎をかたむけて、瑞穂。ただ、彼女ははにかむ娘を気配、と。
匂うかに
見ていた。気配、
かおるかに
と。高子。母親に
ほのめかすかに
ほほ笑みか返すべき当然を忘れ、後ろをそっと、高子。振り向き、高子。その娘に…ん?と、そっと「…どうしたの?」声。聞いた。高子は、耳のななめ背後、たしかに。母。声。不在。蝶。まだ、部屋に?まだ、雨。冴えた、寒すぎてもう、冷たいくらいの大気のなか、開け放たれた窓、逃げこんで?…蝶。いまや、そして
ふれて
かがやかしいだろう
やさしく
部屋は高子の
そっと。わたしの
めざましいだろう
無防備に
不在にすでにあざやかな
まぶたに
うとましいほどに
わたしは
鱗粉の
ふれて
あざやかだっ
ほほ笑む
綺羅めきだらけで?あるいは香ばしい異物臭だらけで?「気をつけてね」高子。振り返いた須臾の、
見て
声。その、
聞いて
声。その、
感じて
笑顔。髪。散る、朝の髪。光沢。豊か。それら、瑞穂はただ納得してしまおうと決めた。確信があった。高子は自分より、あるいは、くらぶべくもなくうつくしくなるに違いなかった。もう女だよ、と、「高子ちゃんは」風雅が連れてくる「だって、さ。もう」男たち。ときに「この子、色気さえあるもんな」これみよがしに「末恐ろしいよね」驚嘆した。未完成で
ふれるがいい
たとえばあなたは
ちぐはぐなところが
そっと。わたしの
しかもすさまじい苦悩の中で
ない。完成品。これ以上って、
まぶたに
涙をこらえながら
ある?笑う。
ふれているがい
微笑んでいられる?
風雅。彼。そう言われるたび「けぇつぁ、な」笑う。声。「わしん子じゃけぇ」と。そこにいれば瑞穂に流し目をくれ、まるで「な、…早熟なんよ」すべて下品な冗談だったかに。哄笑。じみた、あかるい叩きつける笑い声。風雅から眼を、瑞穂。逸らし「…て。お願い」その、聞き洩らされた声に、高子はわれに返って頸を傾けてみせた。「ママ。ごめん」
滅びた
かなしいくらいに
ね?馬鹿なの?ね、
「なに?」
その須臾
笑みを。わたしには
ね?死んだら?ね、
「聞いてなかった」…あら、と、「…ま」
わたしは
かなしいくらいの
ね?クソなの?ね、
瑞穂。「だいじょうぶ?どうかした?」
破滅した
笑み。わたしに
ね?草喰った?ね、
「なに?」
その須臾
かなしいくらいに
ね?マジなの?ね、
「うしろに誰か、なにかいたみたいに、さ。高子ったら。さっき、」
わたしは
笑み。素直に
ね?消え
「ご、」まばたき。「ごめん、」そして、「なに?なにか、お願いごと?」まさ、「いま、わたしに、」まさちゃん。…と。瑞穂。口。ささやきかけるとすぐさま、
沈黙を
正則。高子は自分の、
愛した。きみは
不在。正則。胸に独り語散ていた。「おにいちゃん、」不在。「まだなの?」声に出さず。その、無言という事実にも気づかずに、…呼んできて。「ね?」まさちゃん、ほら、まだ、あの子、「部屋じゃない?」
沈黙を
「だれも、呼んだけてないんだ?まだ」
選んだ。きみは
「高子のほうが、…ほら。山崎さんより、あなたのほうがいいんじゃない?人見知りだもん。まさくん。寝起きって恥ずかしいんじゃない?男の子は。だから呼んでき」…やだ。
なぜ?ゆびさきに
開口を。ふいに
言った。
なに?貧血
肛門が、その
高子は。
なぜ?爪が
開口を。ふいに
おもわず、
なに?失血
鼻孔さえ、その
口から出た拒否の言葉の、鮮明すぎる拒否にと惑いはじめる母よりさきに、高子が自分で心に舌打ちしていた。…なんで?と、「いいよ」問いかけるまなざしをまだ瑞穂が「わたし、行ってくる」つくらないうちに「あいつ、」高子はいきなり「だらしないんだもん」踵を「ほんと、ダメなやつ」返した。尻を振った。故意に。駆けた。階段を。故意に。足音をたて、鳴りひびかせ、そして
我々は。いつも
そそぐ。朝日さえ
爪に
ふと、二階。高子。自分の
孤独であるふりをし、
さらさら。さらさ
生えればいんだっ
部屋の対角線上の
孤独でさえも
そそぐ。朝日さえ
眼球が
端。正則の部屋。まだ眠り、眠りをむさぼる?部屋。ドア。眼の前。立ち止まり、
微光。見て
ほら。ざわめきあうかに
頬。うぶ毛にだに
微光。見て
微光。見
いつ?わたしは
ざわめきあうかに
愛せるだろう?きみを。…た、だろう?き
うぶ毛にだに
いつ?わたしも
微光。見
微光。見て
かくしてお願い。かく、顔
いつ?わたしは
ね、なぜだろうね?…ね、
ほら。ざわめきあうかに
目も、耳も、唇も、顎も
見出すのだろう?破滅。…た、だろう?破
手くび。わたしの、は
頬。うぶ毛にだに
そぎおとしてください。顔
いつ?わたしも
かたむきつづけていたのだ。いまも
微光。見
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