青空に、薔薇 ...for Jeanne Hébuterne;流波 rūpa -177 //爪に蛇/夢に黴/花が散り/雨。そこに//07





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





ずぶぬれを、タクシーが嫌がるのは自明だった。清雪は明治通りを表参道に歩いた。泣きやまない藤の腰を、清雪は抱いた。自然、無理をした藤のかかげた傘に、清雪はかくされた。知っていた。すれちがう誰もの目に、いたましい犠牲者ふたりか、あるいはひとりとその、壊れかけのか弱さを必死にささえるけなげを見ていたに違いなかった。だれも、取り立てて声をはかけなかった。藤は、かわらず前を向いて、そのまましゃくりあげ続けた。ひくすぎる藤の無防備は、横なぐりの雨にときに濡れ、だから涙はその顎にまざる。そしてしたたる。雨。…あなたを、と。振り向きざまに「誅殺しようとおもって」そう言ったのだった。脇の木立ちに折れる前に、男に。動揺は目立たなかった。藤にも、男にも。これから起こるべきがなにか、もう動画かなにかに見て知っているかにも。ややあって、「…なぜ?」ささやく。男。清雪はふと眼を「藤を、」そらす。「あなたからとりもどすために」

「藤…って、」と、「だから、カホ?」男は眼を細めた。藤の傘に護れたそこに。抵抗しなかった。男は、無謀なほどに。おもしろいくらいに、清雪にやられた。清雪自身、本気とは言えなかった。まるで虚構の、振付にあそぶ気さえした。ひざまづいた男の髪を掴んだ。と、「あーん、して」笑みかけた清雪に男は従う。「ぼくを訴えたら、ぼくらの組織があなたの、あの、大切なものを、破壊する」と、男が怯えればそれでよく、怯えもせずに、あるいはふりきれた怯えに刑事に訴えたとしても、清雪はどちらでも良かった。男に舌を突き出させた。雨を跳ねた。その舌を、裂いた。横に。表面を。深くは裂けない。アイスピックは、そんなためのものではない。いくら男の肉を刺しても、突いても、抉っても、清雪に高揚はふしぎとなかった。表参道に、もうすぐ足がたどりつきそうになって、信号。赤。左手には、青。ふと、返り見た藤が泣き顔のままに、清雪を見ていた。きみを、と。守ろう。おれは。きみだけを。根拠もなく、なにもなく。きみを。…そう、清雪は思った。謂く、

   爪に蛇

   夢に黴

   花が散り

   雨。そこに

いつ?だった、かな?ぼくは

   爪に蛇

    聞かないでほしい

   夢に黴

    声など。わたしの

   花が散り

    最後の

   雨。そこに

アバヲククエサレテケレ。オレニ。シムロ、

   爪に蛇

   夢に黴

   花が散り

   雨。そこに


   そのつぶに

   塵。無謀なまでに

   厖大な埃り

   水滴に

いつ?だった、かな?ぼくは、見たい、と。そう思った。つまり

   爪に蛇

    聞かないでほしい

   夢に黴

    声など。わたしの

   花が散り

    最後の

   雨。そこに


   そのつぶに

    かぞうべくもなく

   塵。無謀なまでに

    いたましいほどに

   厖大な埃り

    残酷なまでに

   水滴に

バララクワエサレテクテ。レラニ。シシロ、

   爪に蛇

   夢に黴

   花が散り

   雨。そこに


   そのつぶに

   塵。無謀なまでに

   厖大な埃り

   水滴に


   うかびつづけた

   湧きあがるように

   瞳孔がちぢみ

   眼はそらされた

いつ?だった、かな?ぼくは、見たい、と。そう思った。つまり雨に、雨つぶに、それらに、それら固有の色彩を。しかも

   爪に蛇

    聞かないでほしい

   夢に黴

    声など。わたしの

   花が散り

    最後の

   雨。そこに


   そのつぶに

    かぞうべくもなく

   塵。無謀なまでに

    いたましいほどに

   厖大な埃り

    残酷なまでに

   水滴に


   うかびつづけた

    赦せない。ぼくは

   湧きあがるように

    きみをも。きみは

   瞳孔がちぢみ

    弑そう。ぼくを

   眼はそらされた

ムラロケワエサセテレレ。クレニ。ロシロ、

   その水滴に

   厖大な埃り

   瞳孔がちぢみ

   そらされ、ふいに

雨は、ただ。やさしく、ただ。靄のようにも、ただ。霞のようにも、ただ、…と、ふと

   その水滴に

      かぞうべくもなく

    聞かないでほしい

     赦せない。ぼくは

   厖大な埃り

      いたましいほどに

    声など。わたしの

     きみをも。きみは

   瞳孔がちぢみ

      残酷なまでに

    最後の

     弑そう。ぼくを

   そらされ、ふいに

バラヲクワワサセテテレ。オレレ。ムシシ、

   ゆび先をだけ

   あさくうめただけ

   やわらかな砂に

   その翳り


   それをもきみへの

   埋葬としておき

   わたしはきみを

   忘れてあげよう

夢を見た。その海は水平に、ひたすら。ひたすらに、水平に、もう限りもなくどこまでも、…と。

   ゆび先をだけ

      はっ。はっ。はっ

    映えた。かたわらに

     無際限にも。もう

   あさくうめただけ

      ほら、ら。ら

    翳り。ななめに。ふと、砂は

     無限というべき

   わたしはきみを

      はっ。はっ。はっ

    まだ、くずれかけずに

     はるか。はるかにも

   忘れてあげよう

爪と爪とを片手にだけ、ぎゅって、ぎゅぎゅって、ぎゅぎゅぎゅって、しかも密集させておき、ぼくは片方の手をかざすのだ。海。そのみなも。すさまじい綺羅。乱反射。

   汚穢に雪

   影にひびき

   ななめのひろがり

   雨。そこに

いつ?だった、かな?ぼくは

   汚穢に雪

    見えないでほしい

   影にひびき

    なにも。わたしの

   ななめのひろがり

    最後の

   雨。そこに

バラヲラレエサセテクレ。レオニ。ムシロ、

   汚穢に雪

   影にひびき

   ななめのひろがり

   雨。そこに


   そのつぶに

   罅。無慚なまでに

   巨大な埃り

   水滴に

いつ?だった、かな?ぼくは、そして唐突に、…なぜ?口蓋をひら

   汚穢に雪

    見えないでほしい

   影にひびき

    なにも。わたしの

   ななめのひろがり

    最後の

   雨。そこに


   そのつぶに

    眼をおおうべく

   罅。無慚なまでに

    滑稽なほどに

   巨大な埃り

    たえがたいまでに

   水滴に

ラララクワエサセテクラ。バレニ。ムムロ、

   汚穢に雪

   影にひびき

   ななめのひろがり

   雨。そこに


   そのつぶに

   罅。無慚なまでに

   巨大な埃り

   水滴に


   くだけつづけた

   沸きたつように

   瞳孔がちぢみ

   眼はそらされた

いつ?だった、かな?ぼくは、そして唐突に、…なぜ?口蓋をひらくのだった。希求。雨に、そこに、その雨に喉のはげしい希求を、渇きを、

   汚穢に雪

    見えないでほしい

   影にひびき

    なにも。わたしの

   ななめのひろがり

    最後の

   雨。そこに


   そのつぶに

    眼をおおうべく

   罅。無慚なまでに

    滑稽なほどに

   巨大な埃り

    たえがたいまでに

   水滴に


   くだけつづけた

    赦せない。きみは

   沸きたつように

    ぼくをも。ぼくは

   瞳孔がちぢみ

    弑そう。きみを

   眼はそらされた

バハヲクワエサレセクレ。ケレニ。ロシロ、

   その水滴に

   巨大な埃り

   瞳孔がちぢみ

   そらされ、ふいに

雨は、ただ。やさしく、ただ。靄のようにもう、いいんだ。なにも言わなくて。きみは、

   その水滴に

      眼をおおうべく

    見えないでほしい

     赦せない。きみは

   巨大な埃り

      滑稽なほどに

    なにも。わたしの

     ぼくをも。ぼくは

   瞳孔がちぢみ

      たえがたいまでに

    最後の

     弑そう。きみを

   そらされ、ふいに

バラヲクワエサセテクレ。オレニ。ムシロ、

   まゆじりをだけ

   かるくゆらすだけ

   さわがしい息

   その湿り


   それをもきみへの

   手向けとしておき

   わたしはきみを

   失ってあげよう

夢を見た。その海は水平に、波は、どこ?ひたすらに、水平に、もう波は?波。波立ちもなくどこまでも、…どこ?と。

   まゆじりをだけ

      はっ。はっ。はっ

    さわぐ。耳。そのとおくに

     幾度の失神。もう

   かるくゆらすだけ

      ほら、ら。ら

    息づかい。あざやかすぎた

     返り見られない

   わたしはきみを

      はっ。はっ。はっ

    いま、記憶のように

     はるか。はるかにも

   失ってあげよう

爪と爪とを片手にだけ、ぎたいさせるだろう。ぼくはぼくにゅって、ぎゅぎゅって、ぎゅぎたいされていたのだろう。ぼくはそこにゅぎゅって、しかも密集させておきれいさっぱり、すべてうしなってかなしんでいるひとに、ぼくは片方の手をかざすみやかに、だからかすめとるように、ただ如何なる可能性も、すべてのだ。海。それらはただいたましいだけのみなも。すさまじい綺羅。乱反射。

   波紋。はっ

   のみこんでおくよ

   きみの亡骸を

   ぼくの亡骸も


   波紋。はっ

   四維に傷みを

   散らす微動を

   失語の舌も


   ひろがってゆく

      涙をこらえる。その

    いまにおよんで

     あざけさえした

   波紋をひろげ

      擬態。きみの擬態を

    ぼくらはそっと

     底の割れた、空間。ほら

   ひろがる波紋で

      哄笑していた

    くちびるを咬もうよ

     ぼくの涙をも

   ひろがせてゆく


   失語の舌も

   散らす微動を

   四維に傷みを

   波紋。はっ


   ぼくの亡骸も

   きみの亡骸を

   のみこんでおくよ

   波紋。はっ










Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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