青空に、薔薇 ...for Jeanne Hébuterne;流波 rūpa -175 //爪に蛇/夢に黴/花が散り/雨。そこに//05
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
雨の中、翔がバイトに、シャトー東洋を出て行って猶も、清雪はそこにいた。リビングはひろすぎた。もと、安藤の寝室だった部屋にうつって、そして壁に靠れた。そこに残置物はなかった。いま、用途を思いつく誰もいなかった。だからあくまでも空っぽで、足の裏をすべらせるように、そして、清雪はすわり込んだ。考えるべきは、もはやなかった。そう清雪には思われた。決行の期日は明けた2月の29日だった。決めたときには、誕生日の直前という偶然に、よろこんだ。それも、すでに褪せた。もともともは、来年が閏年という思いつき、そして先方のスケジュールに添うたにすぎない。清雪は、ただ藤からの連絡を待っていた。四時を過ぎかけた。Lineの、壁にひびくスピーカーに、藤は云った。その「壬生くん?」慎重なささやきさえ「いま、」清雪は奇異に思わなかった。「どこ?」
「南青山」
「いつもの、…」清雪は、答えない。「行く?ぼくも。そこ、行ったほうがいい?藤も。パパは、いま、オッケーだから」
「ここ、は、」と、清雪は「駄目。かな?」須臾、考え「八幡…じゃ、なくて。北参道。明治神宮の。わかる?昏いほう。あそこが、いい。そこで。ね?待ち合わせよう。藤と、パパと」
「どこ?」
「北参道の入口。…首都高の、…あそこ」
「雨だよ?」
「ぬれるの、嫌?」清雪は言って、二十分後を指定した。謂く、
元気、だね?
拡散?あるいは
ひびき、すぐに
いいんだ。きみが
そう思う。ふと
飛散?あるいは
きえてゆく
快活であれば
不用意なほど
波は伸びきった
なじんでゆく
ぼくは、それで
元気、だね?
雨。め、雨
しかも、なんか
ない。感傷も
ブルー。ね?
なく、なにも
なんで、おれ
ぼくに、…だめ
こんなちっぽけな
空間じゃなく、さ
もっと、大きな
空間がいい。…かな?
元気、だね?
なに?なら、ぼくが
笑っちゃう。いま
いいんだ。きみが
そう思う。ふと
いま、見てる、その
覚えてないんだ
活き活きとしてたら
不用意なほど
なに?なら、ぼくに
きみの、顔
ぼくは、それで
元気、だね?
雨。め、雨
しかも、まだ
ない。感情も
醒めてもなく、て
なく、なにも
なに?こんな、おれ
ぼくに、…だめ
こんなしずかな
空間じゃなく、さ
もっと、ざわめいた
空間がいい。…かな?
元気、だね?
語り合う。ぼくらは
喪失感。なんら
いいんだ。ぼくは
そう思う。ふと
たしかに、いままで
対象を明確にしない
平穏であうように
不用意なほど
言葉はかさなりあっていたのだ
しかも鮮明な
打消しあうように
元気、だね?
雨。め、雨
しかも、耳だけは
ない。関心も
聞き耳を。ね?
なく、なにも
なんで、おれ
ぼくに、…だめ
こんな孤立した
空間じゃなく、さ
もっと、無防備な
空間がいい。…かな?
息を、しようよ
唐突に、ぼくは
どんな風景を
ぼくは。いいかな?
息を。息
きみを、抱きしめたいと
見るの?そこで
抱きしめられたいと、きみに
息を。息
ぼくは、唐突に
ぼくたちは
いいかな?ぼくは
息を、しようよ
冬のコートが、アイスピックをかくした。ベルトに柄は滑りどめを果たす。タクシーにそれとなく乗って、清雪は傘もないまま表参道をのぼった。足が不自由なひとの感覚を、ふと、左ふとももに思った。1996年うまれの清雪には、同潤会アパートの、建っている記憶はないものの、壊されていく記憶だけは不思議に、ある。当時、敦子は表参道周辺を暇があればうろついた。清雪はコープオリンピアの横の赤い建物がなぜか好きだった。かたちがなのか、雰囲気がなのか、自身にもわからない。建築など、そして敦子は知ったことではなかった。樹木が夏には、大量に路面に翳りを散らした。いつか、だから2003年のどこかに違いないのだが、そこだけ唐突に昏い印象を残すだけだった左手が、ふいに清潔に覆われているのを見た。張り巡らされたトタンの向こう、解体のノイズが響いた。敦子がふと、携帯電話を取り出した須臾に、逃げ出すともなく清雪は、その囲いのむこうに侵入した。だれかが咎めたに違いない。その声の記憶はない。制止、拒否、そんな事象の記憶も。壮大な、破壊の風景を見るように思った。解体。誇らしかった。そして、突然もろさを知った。また、孤立を知った。それらさまざま印象を、どう組み合わせるべきか、清雪は知らなかった。常識的に推せば、作業員に連れ出されたのだろう。清雪は街路樹の翳り、眼の前にいきり立った敦子を見ていた。泣きそうだった。敦子はただ、清雪の不在にこころを、破綻の寸前のあやういそこに、追い詰めていた。あやうかった。その敦子は、まだ二十四、五だったことになる。清雪は、洗練された安藤忠雄を味気なく見た。恥ずかしげもなく商業的な、しかもどこかあきらかにしずんだ遠い活気。とまれ、そこで、多かれ少なかれだれが必死になんとかしようと、生きていた。謂く、
ほしい、と
いま、ひたいを
雨が。その
うざったらしさが
なぜ?なぜですか?
ぼくが、いま
こんな場所で
こんな風景が
謂く、
なぜですか?
やりなおしたい?
雨が、ほら
まさか。なにも
ぼくが、いま
ぼくは、…ぼくが?
靄がかって
後悔など
こんな場所で
なにを?やりなお
ほら、雨が
なにも。すでに
こんな風景を見、しかも猶も
ほしい、と
いま、鼻すじを
雨が。その
くすぐったさが
なぜ?なぜですか?
ぼくが、いま
こんな場所で
こんな風景が
謂く、
なぜですか?
いつ、その
雨が、ほら
取り返しがつかないなどと
ぼくが、いま
必然のなかに
靄がかって
思いはしなかった
こんな場所で
落ちたのだろう?
ほら、雨が
すこしも
こんな風景を見、しかも猶も
ほしい、と
いま、うわくちびるを
雨が。その
きたならしさが
なぜ?なぜですか?
ぼくが、いま
こんな場所で
こんな風景が
謂く、
なぜですか?
満たされる、とか?
雨が、ほら
あやうい
ぼくが、いま
そんな曖昧な感傷なんか
靄がかって
ピック。その
こんな場所で
知らない。おれは
ほら、雨が
硬直が
こんな風景を見、しかも猶も
ほしい、と
いま、顎を
雨が。その
嫌味ったらしさが
なぜ?なぜですか?
ぼくが、いま
こんな場所で
こんな風景が
謂く、
なぜですか?
辿り着いた
雨が、ほら
予想外、だろうね?
ぼくが、いま
ぼくは。そして
靄がかって
おれ自身にさえ
こんな場所で
望んだのだ
ほら、雨が
可能性はただ潰されるためだけに、と
こんな風景を見、しかも猶も
ふり、を
…だけ
あくまで
ふり、雨。ふ、雨
こころ。傷み
ふり。だけ
あるいは
が、雨が、ふ
きざしかけ
を。ふり、を
あえて
ふり、雨。ふ、雨
気づかなかった。そんな
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