青空に、薔薇 ...for Jeanne Hébuterne;流波 rūpa -174 //爪に蛇/夢に黴/花が散り/雨。そこに//04
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
ほんの十分程度しか、代々木にはいなかった。清雪には、あるいは世を捨てるというなら、それもちょうど頃合いかもしれないと思った。麻布台にはきなくさい匂いがあった。雪の下から匂った。画策していると、そう噂した。ことさらに、楓が。そして、秋子も。実体は知れなかった。そも、世迷い事に似た。風雅が放っておくとも想えなかった。雪の下の踏み荒らされるものか踏み散らされるものか、または色鮮やかに汚されてしまうのか。知ったことではない。表面以外、誰が見る?とまれ、敦子には潮時だった。たとえば雪にはあり得ない異臭に、敦子がいまさら耐えられるとは想えなかった。降り出しそうな空に、雨を思った。徒歩。陸橋の真ん中、ふと、清雪は立ち止まった。…お前、と、「親父さん…」
「ぼくの?」
「連絡、してる?」
「もう、してない」
「もう?…」と。そしてふたたび歩きかけ始めた須臾に、…いつ?言った清雪を、藤は思わず見上げた。その、はっとした顔に、清雪は藤に偽りを知った。「いつ?…さいごに、逢ったの、いつ?」梅雨に、…そして、ふとあまりにもすなおすぎた笑みに清雪の眼をだけさわがせながら、「六月?…五月?…ほら」清雪は、そっと「ぼくが、」藤の右眼のしたにふれた。爪。そしてゆびさき。まばたいた。「…ね?でも、あれが」
「最後?」藤はあえて、うなづきもしない。清雪をまるで赦すかに見せて、見つめていた。思い当たった清雪は、そして、「呼び出せ」
「パパ?」
「今日は、」
「ぼくの?」
「どうせ、雨だから」そして、それ以上はなにも云わなかった。謂く、
禁じはしなかった
いちども、きみが
だれかに肌を
あたえることも
謂く、
禁じはしなかった
嫌いになんか
知ってる。あなたに
わずかにも
いちども、きみが
まさか
あくまでも、ない
裏切り、とか?
だれかに肌を
片時も
噓は、ないんだ
嫌惡、とか?
あたえることも
禁じはしなかった
いちども、きみが
だれかに肌を
あたえることも
禁じはしなかった
いちども、きみが
その粘膜を
あたえることも
禁じはしなかった
いちども、きみが
喉にも声を
あたえることも
謂く、
禁じはしなかった
うすら笑い、とか?
たとえばいま、ぎゅっとはげしく抱き
いいの?それで
だれかに肌を
せせら笑い、とか?
抱きしめたとしようよ。で
それが、むしろ
その粘膜を
あざけり、とか、さ
その肩越しに、おれが
いいの?それで
喉にも声を
きみがたとえ
これみよがしに
あえいでみせても
えづいてみせても
謂く、
禁じなど
気持ちよかった?
ひかりの加減で
なぜ、あなたはまだ
これみよがしに
苦しかった?
たしかに、きみは
ママでなく、そこに
あえいでみせても
吐きそうだった?
可愛かったんだ
存在できたの?
えづいてみせても
きみがたとえ
これみよがしに
あえいでみせても
えづいてみせても
いわばひとつの
演舞。華麗な
旋回。すみやかな
のけぞる顎に
いわばひとつの
真実。巧妙な
痙攣。かろやかな
飛び散る髪に
謂く、
旋回。すみやかな
ぼくたちは、いまも
壊れないで
やつれても、ない
のけぞる顎に
かならずしも、なにも
砕けそうなくらい
ぜんぜん、すこしも
痙攣。かろやかな
苦しんで、ない
壊れないで
いまも、ぼくたちは
飛び散る髪に
禁じはしなかった
いちども、きみが
記憶に裂傷を
あたえることも
禁じはしなかった
いちども、きみが
記憶に壊死を
あたえることも
謂く、
禁じはしなかった
咬んであげようか?
たじろがないで
そう。そ。そのまま
記憶に、裂傷を
彼が、きみに
きみは、ぼくを
いいじゃん。いま
禁じはしなかった
やさしくナイーブな愛撫をくれてやった指を吼えながら
見つめている
そ、そ。の、まま。そ
記憶に、壊死を
きみがたとえ
苦痛まみれに
恐怖を知っても
歓喜を見ても
謂く、
禁じなど
焦燥に、似る
なにも。しないよ
似る、共感に
記憶に、恐怖を
瞋恚に、似る
あなたを抱きしめることさえも
似る、屈辱に
記憶に、歓喜を
冷静に、似る
しないよ。あえて
似る、軽蔑に
禁じなど
なに?な
んな、な
に、なに?な
ん、にな
なに?な
んな、な
に、なに?な
ん、にな
なに?な
んな、な
に、なに?な
ん、にな
なに?な
清雪は、藤と渋谷の谷底で別れた。そしてひとり、地下鉄に乗った。むしろ煩雑と、雑多を清雪は、ふと、求めた。表参道でおりた。そこから青山に下った。道玄坂には、だから不用意に迂回したにすぎなかった。かるく自嘲、まだ。降らなかった。雨は。清雪がさんざんの寄り道に明け暮れながら、ようやく骨董通りに折れたころ、空はあやうい黝ずみをきざした。匂いを清雪は、鼻に予感した。シャトー東洋にあと、ほんの数歩のところ、清雪の右手が雨粒を知った。見上げた。空。しかもまだ。エレベーターから、やがて入った室内、清雪に気付いた翔がもたげた顔を、と、雨。逆光のあわい翳りの向こうに、降りしきる色彩を見た。白。ようやく。いま。十二時を、もうすぐ越える。久遠は結局は、アイスピックの午後から一度も顔を出さなかった。あえて、清雪は連絡もしなかった。そのくせSNSはすべてつながったままだった。どちらでも良かった。かならずしも、助手も共犯者も必要なかった。もとからそんなプランではなかった。翔は、自身の思いつきに、SNSを更新した。動画サイトに、すぐさまにBanされとは言え、翔の発案でいまだ癒えない左手にふたたび切っ先をつらぬく動画を上げてから、そのアカウントにアクセス数はいちじるしい飛躍を見せた。そして、ネット上に残存するべくもなかった動画の一部スクリーンショットを撒き、それが拡散され、削除され、また散らばり、そのたびにあらたな神話を生んだ。翔の狙ったとおりだった。点検すれば、諸見解の主流として、ネオルネッサンスとは表面的な傀儡にすぎない。ならば、というその実体については、推論が推論を呼んだ。憶測がとめどなく、妄想をいよいよ燃えひろがらせた。清雪は翔を素通りして、窓際に行った。雨音がうるさかった。ふと、返り見て、翔に「…おまえって、」尋ねた。「さ。児童ポルノ、くわしい?」笑う。そこに、その唐突に翔は。「なに?そっち方面に展開?」
「…知らないなら、いいよ」そして、清雪もそっと、翔にやさしく笑ってやった。謂く、
嫌い、では、ない
雨は。だから
雨が、雨。雨は
雨だったから
謂く、
嫌い、では、ない
繊細、だ
感じられていた。なぜだろう?
おだやかなんだ
雨は。だから
もう、さ
不意打ちとして、鼻孔
暴力的なくらいに
雨が、雨。雨は
凄惨なまでに
臭気。濡れた
さ。めっちゃ
雨だったから
ひびき。ね?
繊細で、しかも
暴力的で
猶も、そこに
謂く、
ひびき。ね?
さわやか、な、くらい
ふいに、だから
いつ、豪雨に?
繊細で、しかも
すがすがしい、な、くらい
まるで、記憶という事象を
雨は、どこで
暴力的で
そうかい、な、くらい
なにも経験し得なかったかに
いつ、豪雨に?
猶も、そこに
ひびき。ね?
凄惨で、しかも
おだやかで
猶も、そこに
謂く、
ひびき。ね?
まだ、肌は
まっさらで、すべてが
縮こまってく
凄惨で、しかも
なにも、湿気など
新鮮に想え、見慣れたそこに
毛孔が。たぶん
おだやかで
肌は、すこしも
前例がない風景だった、と
微細に、いまも
猶も、そこに
そこらじゅうに
舞う。散る。厖大
その飛沫のなかに
濡れてみない?
好き、では、ない
雨は。だから
雨が、雨。雨は
雨だったから
謂く、
好き、では、ない
繊細、だ
撥ねつけあうの?
おだやかなんだ
雨は。だから
もう、さ
路面に、樹木に、人に、物質に
暴力的なくらいに
雨が、雨。雨は
凄惨なまでに
それら、水滴は
さ。めっちゃ
雨だったから
ひびき。ね?
繊細で、しかも
暴力的で
猶も、そこに
謂く、
ひびき。ね?
皮肉。しかし
ならばとめどもなく
どこに?あるいは
繊細で、しかも
雲の上には
濡れて、ふやけて
無数の羽虫は
暴力的で
雨などない、という
いっそとろけて仕舞うがいいさ
どこに?いま
猶も、そこに
ひびき。ね?
凄惨で、しかも
おだやかで
猶も、そこに
謂く、
ひびき。ね?
すいこむ。つ
安心して。ぼくは
ごく微細な最近は、たとえば
凄惨で、しかも
土。浸透。アスファルトに
濡れなかった。すくなくとも
ガードレールにしがみついたまま
おだやかで
つ。すいこむ
ぼくには確認されなかった
濡れていた、と?
猶も、そこに
そこらじゅうに
舞う。散る。厖大
その飛沫のなかに
濡れてみない?
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