青空に、薔薇 ...for Jeanne Hébuterne;流波 rūpa -170 //雨を。つぶを/水滴を/つぶす。ゆびさきに/爪。そこ。ふいに//08





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





自分の、かなり型の古いマックブックをリュックにおしこむと、久遠はそれ以上声もかけずに出て行った。そのまま、清雪はドアが閉まる音を聞いた。と、左手を肩のうえまであげながらそこ、顔を覆う藤を返り見た。藤にかけるべき言葉をさがした。慎重に、そして思いつかなかった。こころは、傷みさえも感じなかった。嗚咽の凄惨な藤に、ただどうしようもない手遅れを感じた。…ね、と。引き攣る声を、藤の喉に聞いた。「ね。ごめん。…」

「なんで?」

「ね、なんで?」顔をあげた。藤は、「わたし、ちがうよ。…ね?信じらんない。ね、わたし、こんな子じゃない」と、そしてもはや手に覆われない藤の顔は、激しく歪みながら吹き出すのを必死に堪えていた。容赦ない笑いがただ残酷に、そしてふるえる睫毛を見た。やがて、藤が薬局を回って、清雪の左手の処理をした。謂く、

   血を。つぶを

   水滴を

   つぶす。ゆびさきに

   爪。そこ。ふいに


   血を。つぶを

   水滴を

   つぶす。ゆびさきに

   爪。そこに


   ゆびさきに

      いいよ。ぼくが

    かわいい、じゃん

     せつないほどに

   ふるえかけていた

      きみを、いつでも

    意外じゃん。いい、じゃん

     ほら、呼吸さえ、不可能なく

   かたむきはじめた

      笑わせてあげよう

    ややいけてん、じゃん

     いいよ。ぼくが

   ゆびさきが


   翳る。いま

   あわく、やわらか

   はかなく、刹那

   祈った。ぼくは


   きみを。きみだけに

   幸福を。そこに

   はかなさのない

   その、哄笑を

道玄坂。夜が明けた。窓の右手には朝焼けさえない。雨が、その日も降った。冷えた。左手が、ようやくなじんだ傷みにすなおに

傷んだ。鳴ったLineを、清雪は取った。…楓。もう「葬式?」用件は知れた。その、早口にまくしたてる嗚咽まじりの声に、「気が向いたら、」清雪は、「…ね?」ささやく。楓をせめて「と、」傷つけないように。「秋子さんにも、伝えといて」継いでなにか言いかけた声を無視し、清雪は通話を切った。藤は猶も、眠る肩を見せる。謂く、

   雨を。つぶを

   水滴を

   つぶす。ゆびさきに

   爪。そこ。ふいに


   雨を。つぶを

   水滴を

   つぶす。ゆびさきに

   爪。そこに


   ゆびさきに

   ふるえかけていた

   かたむきはじめた

   ゆびさきに

悩ませないで。きみは、…たしかに、猶も、まさにうつくしい。と、…ね?ぼくは、たしかに、きみが、たしかに、

   雨を。つぶを

    きみは、慥かに

   水滴を

    猶も、まさにうつくしい、と

   つぶす。ゆびさきに

    きみが、慥かに

   爪。そこ。ふいに

悩ませないで。きみを、…たしかに、猶も、まさにうつくしい。と、…ね?ぼくは、たしかに、きみに、たしかに、

   雨を。つぶを

    きみを、慥かに

   水滴を

    猶も、まさにうつくしい、と

   つぶす。ゆびさきに

    きみに、慥かに

   爪。そこに

悩ませないで。きみは、…たしかに、猶も、まさにうつくしい。と、…ね?ぼくは、たしかに、きみに、たしかに、

   ゆびさきに

    きみは、慥かに

   ふるえかけていた

    猶も、まさにうつくしい、と

   かたむきはじめた

    きみに、慥かに

   ゆびさきに


   雨を。つぶを

   水滴を

   雨を。つぶを

   水滴を

やめてくれ。せめて、おれの毛髪には着火をいまは、見送ってくれ。…わかる?

   雨を。つぶを

      なんで?きみは

    赤裸々であった

     いとしいと

   水滴を

      あまりにも、さ

    傍若無人であった

     片時さえも

   雨を。つぶを

      かわいかったすぎて、ね?

    苛烈でもあった

     思わないでください

   水滴を


   ゆびさきに

      ふるえ、る。ように

    過去形にしないで!

     む?…いま、ぼくは

   ふるえかけていた

      つぶれ、かけ、ん?

    忘れないでいて!

     無限の未来にきみを思った

   かたむきはじめた

      ふくら、む。ように

    思い出さないで!

     る?…やがて、ふと

   ゆびさきが


   翳る。いま

   あわく、やわらか

   はかなく、刹那

   祈った。ぼくは

空が見せた唐突な失神を、鳥さえもふと、笑うのだから

   翳る。いま

      息を、ん

    お前を一瞬でも悲しませる、って

     唐突な、気づき

   あわく、やわらか

      ひそめて、も

    それが世界なら

     ぼくは、きみをさえ

   はかなく、刹那

      しかも

    迷わず、ぼくは

     愛せなかった

   祈った。ぼくは


   きみを。きみだけに

   幸福を。そこに

   はかなさのない

   その、哄笑を

喰いつけよ。もう、迷わず。だって、さ。お前さ、ひとりで勝手に滂沱の涙じゃん。赦せない、よね?…ん。じゃね?

   雨を。つぶを

   ゆれた。水滴を

   つぶす。ゆびさきに

   爪。ふいに


   ゆびさきに

   ふるえかけていた

   かたむきはじめた

   ゆびさきに

すてばちにならないで。ぼくなら、ここに、いまも、いる、から

   雨を。つぶを

    知ってる?たぶん

   ゆれた。水滴を

    あすは、雨だよ

   つぶす。ゆびさきに

    青い雨は降る

   爪。ふいに

自己放棄したりする感じにならないで。ぼくなら、ここに、いまも、いる、から

   ゆびさきに

    知ってる?たぶん

   ふるえかけていた

    あすも雨だよ

   かたむきはじめた

    無音のまま降る

   ゆびさきが


   雨を。つぶを

   水滴を

   雨を。つぶを

   水滴を

くしゃみすんなよ。うぜぇから。ら、身動きすんなよ。うぜぇから。ら、呼吸もすんなよ。うぜぇから。ら、まばたきすんなよ。うぜぇから。ら

   雨を。つぶを

      かゆいんだ。ね

    めざましいほどに

     抱きしめようと、せめてぼくが憐れんだならば

   水滴を

      すこしだけ

    きみの存在を、もう、そこに

     拒絶するな。その

   雨を。つぶを

      ひだり。網膜にあやうい部分

    あざやかに、ぼくは

     きみは。そこ

   水滴を


   ゆびさきに

      ささやき声は

    いたぶるように

     つらかったんだろ?

   ふるえかけていた

      声たちが!

    見つめあおう、ぜ

     我慢、すんなよ

   かたむきはじめた

      猶もつらなっただろう

    いじめぬくに似

     おれは、おれだから

   ゆびさきが


   翳り。ふいに

   あわく、やわらかに

   刹那。はかなくも

   祈った。きみを

見捨てた。ぼくは。だからお願いです。けっしてぼくを、見捨てないでいて

   翳り。ふいに

      ぼくたち、いっぱい

    発狂しそうに

     よりそってようよ

   あわく、やわらかに

      過失を、ぼくらに

    もう、さ。いま、さ

     ぼくの耳孔に

   刹那。はかなくも

      かさねておこうよ

    絶叫しそうに

     涙がそそいだ

   祈った。きみを


   きみに。きみだけを

   幸福を。そこに

   はかなさのない

   哄笑を。猶も

喰いつけよ。もう、迷わず。だって、さ。お前さ、ひとりで勝手に滂沱の涎れじゃん。赦せない、よね?…ん。じゃね?

   雨を。つぶを

   水滴を

   つぶす。ゆびさきは

   見られた。そこに


   まなざしに

   とがめなかった

   いとわなかった

   まなざしに

罵倒してやるよ。あんたに見えないあんたのあやういななめ背後、…ちゅっ。

   雨を。つぶを

    ふてぶてしくも

   水滴を

    ぼくをも、きみは

   つぶす。ゆびさきは

    猶も、きみさえも

   見られた。そこに

誹謗してやるよ。あんたに見えないあんたのあやういななめ背後、…ちゅっ。

   まなざしに

    ふてぶてしくも

   とがめなかった

    ぼくらも、きみらは

   いとわなかった

    猶も、きみさえも

   まなざしに


   雨を。つぶを

   水滴を

   雨を。つぶを

   水滴を

なんて、すてきなんだろう。きみ。ちゅっ。

   雨を。つぶを

      疾走する

    ぶて。ぼくを

     垂直に、あるいは

   水滴を

      水滴に、いま

    ぼくをも、きみは

     ひたいに、おれに

   雨を。つぶを

      世界はいっせいの横滑り、を

    ぶて。きみも

     唾を吐いてくれ

   水滴を


   まなざしに

      愛してる、から

    きみが、ぼくに

     狂暴ですね

   とがめなかった

      まじ?…ってか

    きみの傷みを

     強行です。しかも

   いとわなかった

      際限もなく

    なすりつけていた

     凶行でした

   まなざしが


   翳る。いま

   あわく、やわらか

   はかなく、刹那

   祈った。ただ

やばいんだ。突然、いま、ひだりの脛が。…ちゅっ。

   翳る。いま

      ひざまづいて

    通告しておく

     を。うなじを、うっ

   あわく、やわらか

      しかも、おもいっきり

    おれは、家畜じゃ

     きみの。な

   はかなく、刹那

      のけぞりかえって

    家畜でも、な

     舐め、きみも?

   祈った。ただ


   悲しむ。いま

   知っていた。もう

   むしろ、わたしは

   厭う。ただ


   わずかな気配を、その

   おびえてた。なぜ?

   壊れる、予感。きみに

   きみだけに

愛しすぎたんだ。せつなかったんだ。愛しすぎたんだ。狂ってたんだ。愛しすぎたんだ。莫迦げてたんだ。愛しす

   悲しみ。いま

      できないんだから

    語らないでください

     どこ?ぼくらにも

   厭い。ただ

      沈黙、なんて

    あなたに、その眼に

     降る、べき、き

   壊れる。予感は

      容赦なさすぎて

    見えた風景

     雨。…ど

   きみだけを


   見つめる

   感じる。咬み

   傷む。感覚に

   咬みつかれている


   きみだけを

     らめ。…ど

    見えらふ、あっ

      容赦なさすぎて

   壊れる。予感は

     降る、べき、き

    あららに、その眼に

      見捨てる、なんて

   厭い。ただ

     どこ?ぼくらにも

    ららららいでくららい

      できなかったんだ

   悲しみ。いま

喰いつけよ。もう、迷わず。だって、さ。お前さ、ひとりで勝手に滂沱の涎れじゃん。赦せない、よね?…ん。じゃね?

   きみを。こころを

   まごころを

   つぶす。ゆびさきに

   爪。そこ。ふいに


   ゆびさきに

   痙攣を見せた

   えづきかけていた

   ゆびさきに

無理じゃね?もう、死んだほ、よくね?ほ

   きみを。こころを

    すこし、ぼくに

   まごころを

    時間をください

   つぶす。ゆびさきに

    思い出します

   爪。そこ。ふいに

無理じゃね?もう、死んだほ、よくね?ぼ

   ゆびさきに

    すこし、きみに

   痙攣を見せた

    時間をください

   えづきかけていた

    思い出しまつ

   ゆびさきに

ほ、ほ、ほ、ほ、ほ。更にぼ、ぼ、ぼ、ぼ、ぼ。あえてく、く、く、く、く。かくてひ、ひ、ひ、ひ、ひ。ならばへ、へ、へ、へ、へ。猶も

   きみを。こころを

      葉翳りに

    吐きそうだったら

     猶も、…と

   まごころを

      孵化寸前の

    ぶちまけて、ね?

     もう原型さえとどめずに

   きみを。こころを

      しかも、…と

    だれにも迷惑がかからな

     瞼は、きみに

   まごころを


   ゆびさきに

   痙攣を見せた

   えづきかけていた

   ゆびさきが


   きみを。やさしさ

   その気遣いは

   つぶす。ゆびさきが

   見られ、ほら


   まなざしに

   とがめもなかった

   いといさえ、きみは

   まなざしが

てんぱってんじゃね?ね、ね、

   きみを。やさしさ

    返り見た、ぼくに

   その気遣いは

    瞬間、はっと

   つぶす。ゆびさきが

    息を飲む。そんな

   見られ、ほら

ころされてぇ?おめぇ

   まなざしに

    返り見た、だれに

   とがめもなかった

    瞬間、ぎゃっと

   いといさえ、きみは

    きみが、声。そんな

   まなざしに

てんぱりすぎじゃね?ね、ね、

   きみを。やさしさ

      ひろびろした、高原で、たとえば

    飛沫。ひ、ひ

     血を、儚い

   その気遣いは

      ぼくと一緒に

    舞い。舞う

     きみのこめかにも

   きみを。やさしさ

      とぐろ、巻かない?

    飛沫、ひ、ひ

     散布するのか

   その気遣いは


   まなざしに

   とがめもなかった

   いといさえ、きみは

   まなざしが


   傷む。ただ

    そう、だ。ね

   わたしひとりが

    なんか、さ

   孤立。赤裸々

    ね。ってか、ね

   咬んだ。だから


   前歯を。きみは

    ね。ってか、ね

   かくした。そこは

    なんか、さ

   留保もなかった

    そう、だ。ね

   絶望。ただ


   だ、ね。そう

      そう、だ。ね

    ま。まいまっ。ま

     ね。ってか、ね

   ん、ま。ふ、ん

      なんか、さ

    ひ。ひぃっ。まっ。つ

     なんか、さ

   ん、ふ。ま、ん

      ね。ってか、ね

    ま。まいまっ。ま

     そう、だ。ね

   だ、ね。そう


   飛沫。舞い、舞う

   黄泉返る

   なにもなかった

   舞い、散り、舞うまま


   飛沫。散り、散る

   取り戻せない

   固有もなかった

   舞い、散り、舞うまま


   わたしはだから

   孤立に倦んだ

   生んだ孤立が

   わたしを咬んだ










Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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