青空に、薔薇 ...for Jeanne Hébuterne;流波 rūpa -164 //雨を。つぶを/水滴を/つぶす。ゆびさきに/爪。そこ。ふいに//02





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





壬生を、午後三時をすぎて訪ねた。当然、藤も同行した。水曜日だった。清雪は、平日のその時間、山崎秋子以外に在宅していると思わなかった。正確には、誰の在宅というその推測の須臾も。藤は麻布の町全体に、そもそも委縮した。やがて壬生の門に眼を伏せた。腰を抱いてやった。はじめてのことだった。ふたりの初体験を藤は気づかない。インターホンをならす。と、家政婦が出た。その声の張り。壬生たちの在宅を、すでに清雪にだけは気づかせていた。清雪は笑った。意味を、藤は問わなかった。リビングに通された。みごとに本邸住まいのものたちがすべて顔をそろわせ、しかも、雪の下の別邸からもふたり。見回した。風雅。その妻。正則。その妻。さらに、鎌倉から、秀則の次男雅秀が、息子を連れていた。壬生雅秀はひとり、ソファにくつろいだ。息子の方は、右かたわらにかしこまる。立ち姿。親に似ず瘦せる。とまれ風雅はいつでもひとを委縮させる。故に、息子は華奢に見えたかもしれない。それ以外は、それぞれリビングのそこかしこに散らばっていた。座りはしない。雅秀を、まるで忌避するにも見せ。その不自然なさまざまに、清雪はあるいは、そろってさっき大親父を見舞った直後だったのかもしれないと思った。敦子はいない。風雅はサッシュの向こうを見やったまま、ただ、家政婦の声掛けに一瞥をくれただけだった。故意にのけぞって、そのまま雅秀が云った。「ひさしぶりだな」と、笑う。その豪胆の丁寧さに、清雪はまなざしを須臾にだけくれた。息子はすでに目をそらしていた。無意味に清雪はひとり笑いそうになった。…だれ?と、ななめみぎにささやいたのは瑞穂だった。その、目をことさらに細めた目の慎重に、清雪はじぶんが連れた女の存在を思い出した。答えかけたくちびるに声を、しかし正則は赦さない。踏みつぶした気もなく「女か?…お前の、」そして「もてるんだろ?」目を逸らしながら心ぼそく笑んだ。その笑みが、侮辱をだけつくっていることに正則は気づいていない、と「やめとけ。女は、」清雪は「…また、」思う。「入水する奴がでるぜ」瑞穂がその、雅秀を見た。表情はなかった。あえてか自然か、清雪は知らない。冴えた目じりも口元も皴ごと、すぐさま瑞穂は笑みに雪崩れた。清雪はまばたいた。「大丈夫よ」ささやきの、その瑞穂のいたたまれないほどの声のやさしさを、清雪は聞いた。「敦子、」と、「知ってんのか?」やがて息を吸い込むとともに言った正則に、清雪ははいともいいえとも答えない。ほほ笑む。見つめる。その

眼を、正則は不穏として見つめるしかなかった。…追い詰めるなよ。と。「もう、勘弁してほしい」正則。その声は、むしろ力強く張って、歎きも不安も居心地のかすかな惡ささえをも、きざさない。謂く、

   おびえない、ん、だ

   すこしも、きみは

   ぼくのななめ

   すこし背後で


   おののかない、ん、だ

   すこしも、きみは

   ぼくの翳りで

   影を踏んでいて

謂く、

   ぼくのななめ

      気づかいを、おうっ

    家族たちは、むしろ

     やったの?やった?

   すこし背後で

      おちびさん。新顔。少女に

    さらさなかった。それら固有の

     もう?どこかが?

   ぼくの翳りで

      失禁されんじゃね?っ的な

    荒廃などは

     この、ぶさいくの

   影を踏んでいて


   誇るように

   背筋をのばして

   なにを?ことさらに

   笑んでいたりさえ


   赦してやるかに

   やさしげにして

   なにを?あきらかに

   居場所をなくして

謂く、

   誇るように

      爪を、ふと

    女たちは、その

     鼻孔にゆびを、さ

   背筋をのばして

      ふともも。じぶんの

    まなざしに、慎重に

     ぶち込まれた、感じ

   赦してやるかに

      そこに、押しつけた

    声をひそめていた

     親指あたり、さ

   やさしげにして


   とどめ、を、くらわす

   ばすっ。っと、と。そんな

   日射しがあかるく

   ななめに、ぼくらが


   馴れた眼つき

   笑み。笑み。笑み

   さまざま。それらに

   笑み。笑みたちに


   きみはさわかに

   笑み。笑み。笑み

   変わり映えのない

   笑み。笑みたちに


   返り見すれば

   えくぼに、翳りが

   沁みの点として

   震えただろうが


   見ないよ。ぼくは

   きみを、きみもまた

   見ないよ。ぼくらは

   暇じゃないから

謂く、

   笑み。笑み。笑み

      うざすぎてもう

    て、いうか、いま

     きみが、ふと

   笑み。笑みたちに

      余裕すぎんだけど

    お前らみんなぶち殺されろよ

     ささやいた、そんな

   見ないよ。ぼくらは

      おばさんあそこくさってね?

    て、いうか、すでに

     錯覚が、ぼくを

   暇じゃないから


   れ?あ、れ、息は?

   ぜんぜん、きみは

   ぼくのななめ

   すこし背後で


   れ?れ、過呼吸は?

   ぜんぜん、きみは

   ぼくの翳りで

   影を踏んでいて

謂く、

   ぼくのななめ

      愚鈍。厚顔。おうっ

    家族たちは、しかも

     くさそ。なんか、さ

   すこし背後で

      少女に、すでに、ひとびとは

    足元に、すでに

     やばっ。貧乏そうじゃん

   ぼくの翳りで

      失禁されんじゃね?っ的な

    無数のほころびをいぶかせている

     この、かわいくねぇの

   影を踏んでいて


   我が家のように

   すこやかで、ただ

   発作は?ときに

   のけぞりかけさえ


   癒されるかに

   たのしげで、ただ

   痙攣は?喉に

   寄生虫の目覚め

謂く、

   発作は?ときに

      踵だけで、ふと

    女たちは、その

     恥骨に、さ。熱、さ

   のけぞりかけさえ

      立ちかけ、じぶんの

    まなざしに、慎重に

     なんか、か。痒って。感じ

   痙攣は?喉に

      影を、押しつけた

    声をひそめていた

     やや付け根あたり、さ

   寄生虫の目覚めたにも見せ


   とどめ、を、くらわす

   ばすっ。っと、と。そんな

   日射しがあかるく

   ななめに、ぼくらが


   知ってる。くち

   くち、び、る。に

   そこに、に、に、ね?

   ふるえ。なぜ?


   挨拶を、と?

      ささやくことばも

    楓がやや、とおく

     蹴って。ぼくの

   せめて、つつましい

      侮辱でしかない

    正則の反対側で

     脛、とか、さ

   高慢なほどに

      ささやかれないことばも

    ふと、ぼくに笑んだ

     ひざまづかせて

   エレガントな、と?


   咀嚼。なぜ

   口蓋に、に、に、ね?

   ことば。ば、に

   迷っている。くち


   にげ出さな、な、な

   一歩も、きみが

   ぼくのななめ

   すこし背後で


   すすりあげな、な、な

   鼻を、きみが

   ぼくの翳りで

   影を踏んでいて

謂く、

   いたっ。クソ

      笑うしかなくて、おうっ

    家族たちは、猶も

     育ち、わるくね?

   すこし背後で

      少女に、冷酷な眼の凄惨を

    名乗らなかった。屈辱的な

     もう、相当じゃね?

   クソ。いてぇっ

      失禁されんじゃね?っ的な

    じぶんの名などは

     どこで拾ったの?

   影が踏まれて


   言えよ。なんか、もう

   笑いそうだって

   なぜ?意味さえなくて

   衝動。その口で


   笑えよ。なんか、もう

   泣きそうでって

   なぜ?耐えられなくて

   漏らしそうだって

謂く、

   言えよ。なんか、もう

      喉を、ふと

    女たちは、その

     頭頂部、あたり、さ

   笑いそうだって

      さわる。なぜ?汗

    まなざしに、慎重に

     ひりつく、感じ、的な、感じで

   笑えよ。なんか、もう

      ゆびで、押しつけた

    声をひそめていた

     こめかみあたり、も、さ

   泣きそうでって


   とどめ、を、くらわす

   ばすっ。っと、と。そんな

   日射しがあかるく

   ななめに、ぼくらが


   ばずっ。っと、そんな

   ごすっ。って。むしろ

   ぐほっ。っと。または

   ぼむっ。って。肌を









Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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