青空に、薔薇 ...for Jeanne Hébuterne;流波 rūpa -160 //その、唐突な/まなざし。そっと/猶も、ふいうち/まばたきあえば//12





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





三つならべたモニターの、その真ん中がメインのそれだった。数週間打ち込んでいた自製のソフトを起動した。モニターに、かぞうべくもない極小の色粒がでたらめな顫動を見せた。それを、藤に見せた。「…わかる?」

「なに?」

「これは、…」

「清雪が、つくったの?」と、唐突に、そこにはじめて呼び捨てにされた自分の名を、藤のくちびるに聞いた。見た。藤のまなざしは至近、仕掛けてみせた卑劣と、思い詰めた明晰と、むしろ清雪を赦す不用意な寛容と、愚鈍なまでの不用意の赤裸々、それらさまざまあわいにゆれた。清雪はただ、ほほ笑んでやった。「…そ」と、「おれが、つくった、」

「なんなの?なんの意味があるの」

「これ?」

「なに?」

「知らない」鼻が頬にふれそうなななめに、清雪は吹き出して笑った。笑うしかなかった。自分でも、なんと呼ぶべきか分からなかった。「A.I.、…みたいな。自己生成っていうのかな。とにかく、ひとつひとつが意識を、…すくなくとも意志と固有の経験に固有に学んだ美学にもとづいて、美。…うつくしさ。美。それをつくりげようとしてる。全体として統一された意識はない。美学は、それぞれ固有だから。それぞれに意志としては、おなじくひとつの美をつくろうとはしてる。だから、自然これらは」

「戦争してる?」

「戦争、は、あくまでホモサピエンスの国家生成期のふるまいなので、…わかる?別の言葉が必要。ともかく、かろうじて極端に抽象的な意味で、これらひとつひとつは全面的な闘争状態にある。…存在する意味は、ただ、唯一つの美の構築、それだけだから。そうやって自分を認識してるから」

「ね?」と、ささやく藤に、その髪が「これ、」匂った。「なんの意味があるの?」

「意味?」

「壬生くんにとって。それから、藤にとって」と。ややって、数秒自分をみつめたあとに清雪が「知らない」つぶやいたときに、思い出したように藤は声を立てて笑った。「なにそれ?意味わかんなくない?」

「知らないよ。おれは、だって、プログラムを、」

「ね?」

「なに?」

「清雪、莫迦でしょ?」邪気もない藤に、清雪は笑った。謂く、

   きみは、そっと

   秘密めかした

   そこに、きみが

   事実を、きみの


   鼻さきに、ふと

   ふれてしまった

   香り。ぼくの

   匂い。髪の

謂く、

   きみは、そっと

      理解しないで

    倒錯。すでに

     謎めいて、いて

   秘密めかした

      ぼくは、きみを

    ぼくたちは、たぶん

     きみは、ぼくに

   香り。ぼくの

      謎と、していて

    足のしたに空を見ていた

     理解されないで

   匂い。髪の


   鼻の奧。もう

   嗅ぎ取られていた

   香り。他人の

   匂い。肌の


   至近に、ぼくらは

   隠し得もせず

   その意図もなく

   隠し事をする

謂く、

   隠し得もせず

      明るい。そして

    きみのため、だけ、に

     吹きかけてみた

   その意図もなく

      いま、ぼくたちは

    紫外線が、いま

     息を、みじかく

   気づきさえなく

      燃えてしまうだろう

    ふりそそぐから

     きみの耳に

   秘められもせず

謂く、

   秘密にしておく

   気づきさえなく

   秘められもせず

   至近に、ぼくらは


   きみは、そっと

   まばたきをした

   そこに、きみが

   事実を、きみの


   赤裸々を、ふと

   漏らして仕舞った

   認識も。ぼくの

   気づかいも。髪の

謂く、

   きみは、そっと

      理解できないで

    錯乱。すでに

     歓喜して、いて

   まばたきをした

      ぼくは、きみを

    たぶん、ぼくたちは

     きみは、ぼくを

   赤裸々を、ふと

      途方に暮れ、させ

    頭のうえに海を見ていた

     理解し得ないで

   漏らして仕舞った


   匂いにも。もう

   隠されなかった

   事実。他人の

   真実。こころの


   ふれあいもせず

   ぼくたちは、ただ

   あかしあっていた

   さらけだしていた

謂く、

   ぼくたちは、ただ

      あたたかな、だから

    きみのため、だけ、に

     盗み見てみた

   あかしあっていた

      いま、ぼくたちは

    波動たちが、いま

     まなざしは、須臾に

   あかされなかった

      凍りつくだろう

    震動したから

     ななめにすべって

   すべて、ぼくたちは

謂く、

   ささやかれなかった

   あかされなかった

   すべて、ぼくたちは

   隠されもせず

藤はおもしがるともなくモニターを見つめる。言葉をかける。言葉を清雪は、そして藤自身も、記憶さえしない。須臾にも。時間が流れる。停滞し、停滞しきったままに。まるで、雲がかたちをかえずにその場所をずらしてしまっていたかにも似て。満足した。清雪は。あるいは、なにも欠損が満たされず、なにが欠損とも知られないまま、満ち足りた気配だけが大気につみあがる。染まりかける。…ね。と。唐突に、ささやいた清雪を、藤は見た。…ん?

「おれ、実家、帰ってくる」

「いいよ」

「来なよ。いっしょに」

「藤も?」そこに藤は、一瞬だけ瞳孔を色もなく凍えさせ、そして、とろけるように緩ませた。笑んだ。「いいよ」謂く、

   冒険を。あるいは

   ぼくらは、すでに

   ぼくたちだけに

   実験だったらから


   とどまっていては

   いけない。なぜなら

   やすらいでいては

   いけない。なぜなら

謂く、

   いけない。なぜなら

      せめて、ふたりだけ

    目的じゃない。あくまでも

     地球は自転をやめていたんだ

   冒険を。あるいは

      無謀でいようか

    破壊は。だって

     あ。…ね

   ぼくたちだけに

      最後に、たとえば忘れ形見として

    壊れ得るものはなにもないから

     気づいた。いま

   いけない。なぜなら


   雲の切れ目に

   光が落ちたね

   ぼくの背後で

   窓のむこうに


   実験を。あるいは

   すべては、すでに

   ぼくたちだけに

   冒険だったらから


   まもっていては

   いけない。なぜなら

   いこわせていては

   いけない。なぜなら

謂く、

   いけない。なぜなら

      なぜだろう?

    望んではいない。あくまでも

     地球は公転を放棄したんだ

   実験を。あるいは

      唐突に、すなおに

    加虐は。だって

     あ。…ね

   ぼくたちだけに

      かなしみと名づけ得る感情にふれた、と

    いたぶり得るものはなにもないから

     忘れてた。いま

   いけない。なぜなら


   空のななめに

   光が射したね

   まなざしのそとで

   きみにあきらかに


   どう解釈を?

   きみに一瞬

   目覚めた不遜

   嘲笑を、どう?


   どう解釈を?

   瞳孔にきざす

   きみの自虐

   嗜虐を、どう?










Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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