青空に、薔薇 ...for Jeanne Hébuterne;流波 rūpa -159 //その、唐突な/まなざし。そっと/猶も、ふいうち/まばたきあえば//11
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
結局のところ、ハオ・ランに寵愛された迦虞夜手づからの、やがて床にならべられた料理に清雪は手もつけなかった。汪黃鸎は寝台に茫然を持続させた。清雪は、料理の難解な匂いが気に喰わなかったのでもなかった。とりたてて言うべき理由もなく、喰えといわれる暇もなく、手づかみにむさぼりはじめた紫陽花丸を横眼に、と、軽蔑ではない。白鳥の美青年たちをも含め、なんら軽蔑など。そもそもハオ・ランを連れて来れば、その日の自分に求められることなどなにも残っていないはずだった。すがるように咎め、咎めてはふいにそんな自分を笑ってしまう無邪気な迦虞夜を、なだめながら清雪は、歩いて道玄坂に戻った。その道すがら、清雪は笑いそうになった。うすい壁板など、笛の咆哮に無効だったはずだった。どのあたりまで聞こえたものか、清雪は、ふと。根拠のない軽蔑が、視野を満たした。部屋で、藤はつとめて明るくふるまった。眼窩の黝ずみ、そしてくちびる。破損した、そこの繊細な皮膚。ひだり顎のラインに、それがなぜとも思い附けない不快な赤らみあることに、清雪ははじめて気付いた。藤を見つめた。眼の前に、いまはもう、藤は清雪を見つめ返した。忘れられていた。さっきまで盛んに話しかけていた事実をさえ。思い詰めたまなざしの真摯は、必死の明るさの故に軽薄をかぶせた。側頭に、極端なかすかなさで、ふれた。清雪は、自分のゆびに怯えがあることを、知った。気付かれなかった傷が、髪にかくされたそこに広がっているかも知れなかった。指は、ただ髪にふれられた感触を、あさい表皮にかろうじて残していたにすぎない。だから、まるでくすぐっていたかに。その藤に、切っ掛けはなかった。いきなり爪先立って、くちびるを清雪のそれに押し付けようとした。清雪は逃げなかった。目線をそらしさえ、ふるわせさえもしなかった。ふれあわなかった。しかも、くちびるは。停滞。傷み?疵の傷みを厭うたとも、清雪には想えなかった。すれすれに、まなざしはただ、滑稽なくらいに真摯だった。息が、お互いにふれた。清雪は、気づいた。ふるえ。藤の虹彩。痙攣が、間歇的に。きざし、と。そう謂うべきごく、微細の。「…いいよ」ささやく。清雪が。ややって、藤はふたたびかかとをふむと、胸元に、迷いなくきびすをかえした。跳ね上がる。黒。踊った髪が、散乱。清雪の頬と頸すじを打った。Lineに、メッセージがたてつづけにいくつか入ったことは知っていた。しばらく、動きのない藤の後頭部、その髪の漆黒にながれた綺羅の白濁を見ていた。謂く、
奪う。か、の
ように、き、き
きみを、か、の
ように、奪うかに
謂く、
奪うかのように
息遣いを、なぜ
かたむき
ほんの、ただ
きみを、まなざしに
あせらせていたの?
きみが、見せた
わずかに、だけ
ぼくは、もう、そこに
きみは、ひとりで
頸。そこに
一秒以下の
きみの至近に
盜む。か、の
ように、き、き
きみは、か、の
ように、盜むかに
謂く、
盜むかのように
鼻孔を、なぜ
まばたき
ほんの、ただ
きみは、まなざしに
ふと、閉じかけたの?
きみが、忘れていた
わずかに、だけ
ぼくは、ただ、そこに
きみは、唐突に
うるおい。網膜に
気づけないほどの
きみの至近に
奪われた。か、の
ように、き、き
盜まれた。か、の
ように、き、き
謂く、
奪われたかに
やめて、なぜ
引き攣り
ほんの、ただ
ぼくは、ぼくを
すべてを放棄してしまったかにも
きみの、瞼が
一瞬に、だけ
盜まれたかに
きみは、ひとりで
眉さえ、ん
しかもひきのばされた須臾
きみは、きみを
だから。…ね?見てた
きみを、その
瞳孔。伸縮が
さらす逡巡も
さらす決意も
言わなくていいよ
辱めたのだろうか?
秘密は、だめ。…でしょ?きみは
昏い諦めも
言えないのなら
ぼくは、眼の前に
裏切られたら
赦しも、なにも
舌が乾いたまま、…でしょ?まだ
辱められたのだろうか?
裏切らないでよ
よろこびさえをも
悲嘆をさえも
瞳孔。赤裸々
きみは、その
だから。…ね?見てた
なやましいのは
たぶん、あるいは
きっと、ぼくさえが
手のひらに、なにも
もっていないこと
舌の奥に
苦しいんだ。なぜか
厭うように、いま
与えるべき、きみに
あまさと苦みが
突然。ぼくたちは
逸らしそうになった
ささげてやるべき、なに?
にじむように、いま
苦しんでだんだ
眼。そこに、ためらい
きみに。きみさえに
手のひらに、なにも
きっと、きみさえが
たぶん、あるいは
なやましさを、手は
奪う。か、の
ように、き、き
盜む。か、の
ように、き、き
謂く、
奪ったかに
求めるものさえ
やめて、いて
ないんだ
ぼくは、きみを
なにも、ね?
誠実な、ふりは
ね?なにも
盜んだかに
ないんだ
自重して、いて
枯渇しきって
きみは、ぼくを
赤裸々に、ただ
日射しはやさしい
やさしすぎ、ただ
目が傷いくらい
秘密なのだろう
きみは、なにも
言わなかったから
隠されたのだろう
その傷。意味を
言えよ。あなたを
被虐者のように
好きじゃ、ない、と
その傷。理由を
愛せない、と
媚びを、きみの
好きでいられない、と
だれが、きみを
愛して、ない、と
保護者のように
言えよ。ぼくを
いたぶるのだろう?
秘密なのだろう
きみが、すこしも
ささやかないから
噓なのだろう
すべては、噓と
すべては、なにも
起こらなかったと
思い込むべき?
ただ、きみの
知ってる。ぼくを
加害者のように
好きになり、かけ、も
沈黙がきみを
愛せなかった、と
冷淡を、きみの
好きじゃなかった、と
噓つきに、猶も
愛しかけ、さえ
他人のように
言えよ。きみは
ぼくはきみをは糾弾しない
ただ、ぼくの
赦しがきみを
噓つきに、猶も
きみはぼくをは責めたてなかった
赤裸々に、ただ
日射しはやさしい
やさしすぎ、ただ
目が傷いくらい
メッセージは、ネオルネッサンスのグループチャットのそれだった。団体構成員。ふたりだけ。藤川久遠。そして戸田翔、翔と書いてカケルと読む。清雪はショウと呼ぶ。かれらが、会合のスケジュールを調整し合っていた。もちろん清雪にも宛てていた。久遠は、Twitterの、もともと清雪のアカウントだった団体アカウントの、その更新をさぼりがちだった。なにか、いうべきだった。あるいは、制裁でも?清雪は、ふたりを無視した。安藤藤が、いまだ不安定な状態であることは隠しようがなかった。あるいは藤は、起きて部屋、清雪の不在のなかに、正体のない不安と絶望を咬んでいたのかもしれなかった。なにか、食べる?ことさらにやさしく言ってみせた言葉にも、突然振り返った藤は、その暴力的な髪のふりみだしの翳り、複雑な、あかるすぎる笑顔を見せた。いたましく見えた。なすすべもなく想えた。清雪は鮮明に途方に暮れた。思い付きで、清雪はパソコンをつけた。デスクトップ型のそれが起動する間、ふと、冷蔵庫に水を飲んだ。眼の正面に、横向きの藤を見守りながら。藤は横目に、清雪を捉えてはなさない。抱き着けばいい。清雪は思った。いま、あなたはぼくにすがりつき、そして羽交い絞めにでもしてしまえばいい、と。謂く、
せめて、ね?
憎んで。せめて
だから、ね?
恋せないなら
謂く、
せめて。ね?
そろそろ、きみは
もてあましてんの、…ね?
時間。お花には
ね、なぜ?
思い出し、そして
知ってる。まるで
お花の水を
ね、ね、そこで
バルコニーに出て
他人事じみて
その乾ききった土のためだけに
せめて、その眼で
ちがうから。なにか
求めあうわけじゃ
だから、かな?
すでに、ぼくたちは
謂く、
ちがうんだ。ちがっ
うぶ毛に、いま
わたしたちは、ついに
浸透する、に似
ちがっ、だから
増殖しかけた
わたしたち。それ自身の固有の言葉を
に、似て、似、に
沸く。舌の奧に、ちがっ
細菌たちが
ささやこうともしなかった
ひかり。網膜に
血が。ぼくたちは
不足。ただ
絶対的な
あからさまな
不足。しかも
ちがうから。なにか
求めあうわけじゃ
だから、かな?
すでに、ぼくたちは
謂く、
ちがうんだ。ちがっ
手首に、あやうい
ここはどこですか?
拡散する、に似
ちがっ、だから
微細な傷みが
あるいはあなたがいつか仮定してしまった
に、似て、似、に
沸く。舌の奧に、ちがっ
なぜ?
ぼくの四肢のなかですか?
ひかり。網膜に
血が。ぼくたちは
充溢。ただ
圧倒的な
窒息しそうな
充溢。しかも
ちがうから。なにか
求めあうわけじゃ
だから、かな?
すでに、ぼくたちは
謂く、
ちがうんだ。ちがっ
爪が、ぼくの
われわれは最終的には
氾濫する、に似
ちがっ、だから
気づかない隙に
完全な重力的自立を得るのだろうか?
に、似て、似、に
沸く。舌の奧に、ちがっ
領野をひろげた
例えば地表の数センチ上方で
ひかり。網膜に
血が。ぼくたちは
いっしょだったろう
共生も。まはた
乖離も。ふたりは
そこにちがいさえ見出さないだろうから
せめて、ね?
恋して。せめて
だから、ね?
恨めないなら
謂く、
せめて。ね?
やがて、きみは
いたぶりあうように、…ね?
その目。虹彩が
ね、なぜ?
唐突に、顎を、…で
共存を。まるで
水平に、そっと
ね、ね、そこで
あくびを、ふと
加害者じみて
右にながれてしまうのだろうか?
せめて、その眼で
見つめられた、その
上手に、ぼくは
笑ったのだろう
きみは、だから
眼を逸らされた、その
孤立に、きみは
笑みかけただろう
ぼくは、だから
思わないのだ
放置しようとは
かたくなに、なぜか
きみに自由を与えようとは
謂く、
見つめられた、その
なに?なに?なに?
ささやきかけた
痙攣。わずかに
眼を逸らされた、その
顎が、ふと
きみは、そして、その
ひだり。まぶたが
思わないのだ
かたむきながら
四度目の、まば
なぜ?なぜ?なぜ?
なぜ?自由をなどは
しらずしらずに
かたくなになる
ぼくがかたくなに
変質してゆく
謂く、
しらずしらずに
笑っちゃいそう?
シカト、しててよ
きみはあくまでもがんじがらめて
かたくなになる
傷みの予感が
ぼくを。ぼくも
ひび割れの察知が
かたくなにする
きみをあくまでも拘束していて
シカト、するから
泣いちゃいそう?
しらずしらずに
謂く、
傷みをさらす
きみがかたくなに
かたくなにする
しらずしらずに
なぜ?自由をなどは
なぜ?なぜ?なぜ?
四度目の、ささ
うわむきながら
思わないのだ
みぎに。まぶたが
きみは、そして、その
顎が、ふと
眼を逸らされた、その
傾斜。わずかに
まばたきかけた
なに?なに?なに?
見つめられた、その
謂く、
ぼくに自由を与えようとは
かたくなに、なぜか
見捨てようとは
思わないのだ
きみは、だから
笑みかけた。その
孤立に、ぼくは
眼を逸らされた、その
ぼくは、だから
笑ったのだろう
上手に、きみは
見つめられ、そこに
せめて、ね?
恨んで。せめて
だから、ね?
拒否しないなら
謂く、
せめて。ね?
だから、ゆびさきは
退屈してんの、…ね?
まばたきをするのが
ね、なぜ?
ふれるものを求めて
知ってる。ぼくらは
怖い。…と
ね、ね、そこで
無意味に、髪。髪を
すでに、もう、とっくに
だって、すこし傷みが突っ走るから
せめて、その眼で
もっと、凄絶に
空が、ね?そこに
窓。その窓の
むこうにさえも
晴れてしまえば
かがやきかければ
かがやききったら
腫れもののように
謂く、
晴れてしまえば
見なかった。…よ
空は、もう
ぼくの、吐く息を
かがやきかければ
ね?ぼくは
自殺していた
きみは、まだ
かがやききったら
きみの、嘆きの声を
なぜなら、すでに
見はしなかった、…よ
腫れもののように
薔薇でも空に
空に、凄絶に
窓。その窓の
こちらに、ぼくらも
投げつけてしまえば
笑えるのだから
ざわめく地表は
さらした自分の須臾の沈黙を
謂く、
投げつけてしまえば
見なかった。…よ
空は、もう
ぼくの、窒息を
笑えるのだから
ね?ぼくは
崩壊していた
きみは、まだ
ざわめく地表は
きみの、苦痛の声を
なぜなら、すでに
見はしなかった、…よ
さらした自分の須臾の沈黙を
うたがいながらも
苦笑しながらも
おどろきながらも
あざけりながらも
せめて、ね?
拒否して。せめて
だから、ね?
憎めないなら
謂く、
せめて。ね?
ぼくたちは、いつか
呼吸をしはじめるべき、場所が…ね?
翳る。あわく
ね、なぜ?
捨てるだろう。もう
必要?あるいは、海の
雲が、あいまいに
ね、ね、そこで
ぼくたちをさえも
ふかい底にでも、沈み
直射を阻害していたにちがいなく
せめて、その眼で
窓を開けろ
厳重な、眼の
目隠しの後で
その窓を
窓を開けろ
辛辣な、手の
拘束の後で
その窓を
窓を開けろ
強靭な、口の
猿轡の後で
そのきみを
謂う、
窓を開けろ
きみは、ひとつの
もう、いい
措定していて
窓を開けろ
絶望であると、そう、そこに
いいんだ。もう
そこに、そう、歓喜であると
窓を開けろ
仮定していて
もう、いい
ひとつの、きみは
そのきみを
叫ばせてみよ
わめかせてみよ
おののかせてみよ
引き攣らせてみよ
0コメント