青空に、薔薇 ...for Jeanne Hébuterne;流波 rūpa -156 //その、唐突な/まなざし。そっと/猶も、ふいうち/まばたきあえば//08





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





玖珠本が、答えるべき声のない汪に、変わった。「…百寿」と、…って、「何歳?」ハオ・ランが返り見、玖珠本に笑む。「百歳」

「なるほど」声を立てて「…だから、だ」そこにハオ・ランは笑っていた。むしろ、背後の安藤にハオ・ランは言った。「嘉鳥さん、今回は、だけは顔出せってうるさくって。…そういうことなの?」清雪の、はじめて見た男が「あいかわらず、しぶといんだ。この」耳打ちした。媚びのある「…婆さん」笑みに。「…死なないよ」ハオ・ランがささやく。男を見もせず「彼女が憎惡する、この」…ね?「世界が滅びでもしない限りはね」微笑。清雪はふと、目に傷く思った。…来て。と。突然、清雪を振り向き見たハオ・ランは、ことさらなやさしさで、そうつぶやいた。「もう、きみが逢うのは最後かもよ」ハオ・ランの唐突な矛盾を、清雪は笑いそうになった。口もとは緩まない。ただ、ハオ・ランがひとり追憶じみて悲しんでいたのは事実だったから。「あぶねぇぞ」名前をだけ知らない男が、「この子、」茶化す。「身体チェックした?いきなりぶすってやっちゃうかもよ」

「なら、」玖珠本。「それはそれで、いいんじゃない?」頬は、笑みさえもしない。清雪は、その常時の、とりすました冷静さが嫌いだった。陰湿に想えて。「…趣味じゃない」清雪は、「ぼくは、もう」だれにというでもなく、老いた「死んでくしかない生き物を、殺すほど、」汪黃鸎にだけまなざしを「暇じゃないし、そもそも、」と。ささげてやりながら。そこに、意図的な、やさしすぎる、猶も「それほど彼女を、愛してないから」憐れみだけを欠くまなざしを。玖珠本は、みじかく鼻に笑った。謂く、

   ねぇ。だめ

   あなたに、この

   部屋。だめ

   ねぇ。ほどよいくらいの

謂く、

   ねぇ。だめ

      生きて。息を

    みんなで、さ

     な、くさくない?

   あなたに、この

      生き抜いて

    老人の頸を

     なんの、匂い、さ

   部屋。だめ

      抜け。息を

    絞めてみないか?

     な、くさくない?

   ねぇ。ほどよいくらいの


   昏さがあるから

   だれにも、そこは

   うす昏すぎて

   あなたにだけは


   ふさわしいから

   だれにも、そこは

   こ穢すぎて

   あなたにこそは


   ここちよいから

   ぼくは、なぜ?

   きみを、理由もないまま

   赦さない


   赦せない?さ、さ

   さない?赦しはしな

   な、な、せな

   さない?だめ

謂く、

   赦せない?さ、さ

      拒絶など。いちども

    歓喜を。あなたに

     愛さなかったよ

   さない?赦しはしな

      ぼくは終に、きみを

    与えたい。まるで汚物を

     きみを、ぼくさえも

   な、な、せな

      憎まなかったよ

    あたまからぶちまけてしまったくらいの鮮烈さに於き

     憐憫など。須臾にも

   さない?だめ


   やっぱ、だめ

   あなたに、この

   部屋。だめ

   もっと、苦しいくらいの

謂く、

   ねぇ、だめ

      うつくしいんだ

    みんなで、さ

     な、くらくない?

   あなたに、この

      きみは猶もうつくしいとささやかれていいんだ

    老人の腰骨を

     なんで、こんな、さ

   部屋。だめ

      事実、そうなんだ

    折檻してみないか?

     な、くらくない?

   ねぇ、苦しいくらいの


   灼熱がいいから

   だれにも、そこは

   苛烈にすぎて

   燃えあがるには


   容易だろうから

   だれにも、そこは

   強烈すぎて

   あなたをこそは


   焼き尽くすべきだから

   ぼくは、なぜ?

   きみを、壊した

   まなざしに


   沙漠に、きみを

   放置しよう。なぜ?

   理由なく、きみを

   赦さない


   赦せない?さ、さ

   さない?赦しはしな

   な、な、せな

   さない?だめ

謂く、

   赦せない?さ、さ

      嫌惡など。いちども

    老いを、かならずしも

     ほほ笑まなかったよ

   さない?赦しはしな

      ぼくは終に、きみさえも

    醜い、と。ただ

     きみをさえ、ぼくさえ

   な、な、せな

      あざけなかったよ

    あんた、きたねぇよ

     わずかにも。須臾にも

   さない?だめ


   あなたにだけに

   日が射せばいい

   苛酷ならいい

   あなたにだけに

ひたいにさしのべた右手に、おびえるようなまなざしを老婆は、あげた。ようやく、ふるえながら。虹彩に、まるで一千キロの質量を感じていたかに。清雪の、その指先はひたいにふれる寸前を、ふいに流れ、迂回し、さまよいかけ、そして皴の複雑をだけきわめたうわくちびちるに、ふと、ふれた。ややあって、清雪は汪黃鸎に笑いかけた。そして、老婆の右眼だけが、まばたこうとする。奇妙に思た。須臾、まぶたが閉じたとき、沈痛な一瞬があった。永遠につづくかに想えた。ふたたびもたげられかかる瞼は、その闘争の陰惨をそのわずかな、ふるえに赤裸々にさらす。目を背けられたらよかった。その勇気も、契機もなかった。まえぶれもなく、瞼がはねあがった瞬間、「やさしいんだ」と、…壬生くんは。背後、いつかすれすれに寄り添うたハオ・ランの声を聞いた。ひだり耳のあやうい至近に。悲惨な、ハオ・ランの惡臭が破滅的な荒廃を、鼻孔にもたらしていた。清雪はそっと、頬をハオ・ランの頭頂にあずけた。謂く、

   名前を知らない

   だから、名なし

   名もない男が

   ふ、ふ。ふいに


   ふ、ふ、と

   そこに、ふいに

   不穏に、鼻に

   ふ、っと笑うと


   花。散り、ち、ち

   散りかう花、な

   なに?その名

   たぶん、桜と、それに

謂く、

   花。散り、ち、ち

      あ、と。ふと

    見るの?歯のない猿も

     孤絶を、ぼくは

   散りかう花、な

      ぼくは唐突に

    夢を。たとえば

     網膜になすり

   なに?その名

      孤立していた

    岩場で、のけぞり

     あ、と。ふと

   たぶん、桜と、それに


   見た。夢を

   まぼろしのように

   まぼろしを、それを

   夢のようにも

謂く、

   見た。夢を

      まばたき、が。ぼくに

    醒めながら

     白昼夢。む

   まぼろしのように

      なぜ?突然に

    まばたき、が。須臾の

     覚醒夢。む

   まぼろしを、それを

      あまりにも容赦ないかなしみが

    まどろみもない

     まばたき、が。ん?

   夢のようにも


   花の翳りら

   その翳り、り、り

   翳りりらだけは

   見えていたから


   たぶん、桜と、その翳り

     いぃ、っと。と

    ひたいを岩場で粉砕しながら

      近すぎて

   なに?その名

     ふれないでてくれない?

    白状しろ。夢

      遠いんだ。なんか

   散りかう花、な

     やめて。微妙なん、だっ。いま

    見てたんだろ?歯なしの猿も

      いぃ、っと。と

   なな、散り、り、ち

謂く、

   たぶん、桜と、その翳り

   なに?その名

   散りかう花、な

   なな、散り、り、ち


   不遜でしかない

   だから、不遜に

   ひだりに、男が

   ふ、ふ。ふいに


   ふ、ふ、と

   そこに、ふいに

   不埒に、瞼に

   ふ、っと痙攣を


   花。いり、い、ち

   散りかうなな、な

   なに?その名

   なぶん、桜と、それに

謂く、

   花。散り、ち、ち

      ぼ、ど。どど

    あえぐの?猶も猿も、瀕死で

     傷みを、あまやぎを

   散りかう花、な

      ぼくは唐突に

    夢に。たとえば

     とける。網膜は

   なに?その名

      よろこびに目覚めた

    高木。その先端にあおむけに突き刺さった悲惨

     ぼ、と。とと

   たぶん、桜と、それに


   見ら。むめも

   まぼろろ、ろ、ろに

   まぼろろ、ろ、ろを

   むめんもうにも

謂く、

   見た。夢を

      まばたき、が。なに?

    醒めてんだ、から

     ばっ。ず。ずー。む。む

   まぼろしのように

      なぜ?突然に

    まばたき。その須臾の滅。め、め

     がっ。ぐ。でぇー。む。む

   まぼろしを、それを

      やべ。わらっていい?

    まどろみさえもない、だから

     まばたき、が。が

   夢のようにも


   花の翳りら

   その翳り、り、り

   翳りりらだけは

   見えていたから


   たぶん、桜と、その翳り

     るぃへ、っと。と

    内臓を口蓋にぶらさげながら

      ゆび。咬まないで

   なに?その名

     せめてひざまづくのだけはやめて

    吐き出せ。夢

      やめてください

   散りかう花、な

     やめて。いま

    死ねよ。も、無理じゃん。猿

      るぃへ、っと。と

   なな、散り、り、ち

謂く、

   たぶん、桜と、その翳り

   なに?その名

   散りかう花、な

   なな、散り、り、ち


   ぶちまけようか?

   ち。ち。ち

   ぼくのも。赤い

   翳りら。散乱








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000