青空に、薔薇 ...for Jeanne Hébuterne;流波 rūpa -153 //その、唐突な/まなざし。そっと/猶も、ふいうち/まばたきあえば//05





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





道玄坂に帰ると、鍵は空いていた。なかに藤はいなかった。稀れなことではなかった。常態化していた。毎日ではない。週にいちどくらい。清雪は、ふと焦燥を感じた。嫉妬はなかった。懐疑も。ただ、藤の不在がせきたてた。まるで、家禽とでも?と。清雪は自分をうたがった。どうしても、猫の散歩に苛立つにひとしくしか思えなかった。清雪は水を飲んだ。とりたてて、渇きはなかった。過剰なうるおいに、自分が肥大化する錯覚を知った。謂く、

   華やぎの

   しあわせ感の

   よろこび感の

   なにもない、その


   贅沢を。または

   充実を。そこは

   空間中が

   なすった。ぼくを


   唐突な、また

   前触れのない

   ひとりの孤独に

   占有。ひとり

謂く、

   贅沢を。または

      泣けというなら

    ひょっとして、いま

     ぼく。ぼくだけは

   充実を。そこは

      滂沱の涙を

    きみは巨大な

     あざけり笑いを

   ひとりの孤独に

      きみ。きみだけに

    蟻に消化されちゃった、かな?

     笑ってよ。せめて。耳にそうささやいたならば

   占有。ひとり


   ふと、めざとくも

   ふと、あやしくも

   思う。たぶん、と

   うとましかった、と

謂く、

   ふと、めざとくも

      喉が、ふっくら

    裂けそうなんだ。もう

     聞こえない。きみの

   ふと、あやしくも

      実感。ふくらんで

    こころ。ただ

     声。または呼吸音も

   慥かに、ね?

      そして

    いとおしすぎて

     と、そんな事実

   うとましかった、と


   彼女の存在

   それさえ、ぼくに

   いつでも、すでに

   微笑。その媚び


   彼女の存在

   それこそ、ぼくを

   容赦ないほど

   焦燥。ただせつないほどに

謂く、

   彼女の存在

      ない。ない。もう

    さびしいですか?それともきみは

     見て!ほら

   焦燥。せつない

      居場所。行き場所

    豪雨がきみにだけふればいい

     雲たち。いま

   切迫。実体のない

      ない。ない。ん?

    かなしいですか?それでもきみは

     雲母。空。綺羅

   ぼくの存在

謂く、

   切迫。なんの実体もない

   容赦ないほど

   それこそ、きみを

   ぼくの存在


   微笑。その媚び

   いつでも、すでに

   それさえ、きみに

   ぼくの存在


   いたましかった、と

     と、そんな事実

    耐えられなくて

      そして

   慥かに、ね?

     髪。または息の匂いも

    こころ。ただ

      実感。ふくらんで

   ふと、かなしくも

     嗅ぎ取られない。きみの

    折れそうなんだ。もう

      喉が、ふっくら

   ふと、赦し難くにも

謂く、

   いたましかった、と

   思う。たぶん、と

   ふと、かなしくも

   ふと、赦し難くにも


   占有。ひとり

     笑ってよ。せめて。背後にそう独り語散たならば

    砂につぶされちゃった、かな?

      きみ。きみだけに

   ひとりの孤独に

     顎をさえ裂いて

    きみは、加熱しつづけた

      鼻水まみれで

   充実を。そこは

     ぼく。ぼくだけは

    ひょっとして、もう

      泣けというなら

   贅沢を。または

謂く、

   占有。ひとり

   ひとりの孤独に

   予告されない

   唐突、ほら、また


   なすった。ぼくを

   空間中が

   充実を。そこは

   贅沢を。または


   なにもない、その

   よろこび感の

   しあわせ感の

   華やぎの


   どこ?どこ?どこかな?

   ここ。ここ。ここかな?

   そこ。どこ?あそこ?

   だれ?きみ、だれかな?

明け方近い、とまでは言えない。夜の深い、とも、もはや謂う気にならない。そんな四時過ぎにドアが空いた。清雪は、ソファに投げつけたシーツを、デッサンしていた。とりたててなんの役に立つという気もなく。返り見て、やがてドアにもたれた藤に笑んだ。そこに、ふと、じぶんの巧妙を知った。ほほ笑みまでの刹那、清雪はいちども懐疑も不安もなにもさらさなかった。藤を傷つけないため、清雪はあまりに完璧だった。自信が、よみがえった。ようやく、「だいじょうぶ?」ささやいた。のけぞるようにドアに、後頭部まで身を預けた藤は、切れた唇を舐めていた。右の頬と、眼窩が腫れた。息は乱れていなかった。清雪は立ち上がった。そして、足音に気を付けながら、藤に近づきかかる。「おまえ…」

「秘密」言った。みじかく。するどく。藤は大人びた、しかし微弱音で。清雪は立ち止まらなかった。藤は抗わなかった。身をかたくすることさえも。追い詰めたようなかたちで、だから玄関、藤の眼の前に清雪は立った。もたげられたその指さきが、右の眼窩の変形の至近に立ち止まったのにも藤は「だれにも、壬生くんにも、神様とかにも、」気づかない。「…秘密」

「なにを?」

「…秘密。内緒だから。だから、」藤は「見ないで」目を閉じた。清雪は、その瞼を見つめた。皮膚のうすい下に、黒目が繁忙をきわめた。ときに、わななさえ。まえぶれもなく、清雪はひたいに口づけた。謂く、

   雪が、やがて

   いつかは、きみに

   きみの睫毛

   そのうえだけに


   降るのだろう

   ふれた須臾には

   溶け、きみを

   まどわすのだろう

謂く、

   雪が、やがて

      語りえないなら

    あしもとに、きみは

     えづくように

   いつかは、きみに

      沈黙を。だからその

    ふみつぶし、雪は

     笑う。そして

   きみの睫毛に

      沈黙という赤裸々な困難

    あしもとに、きみは

     過呼吸。その寸前

   ふれた須臾には


   自傷?…と

   ふと。ぼくを

   昏ませたきみを

   処罰するがいい


   きみが。きみだけが

   じぶんで、きみを

   きみのためだけを

   思いながら。ただ

謂く、

   自傷?…と

      やりなせたら、って

    腐りそう?そう

     眉毛に

   ふと。ぼくが

      そんな、しかも

    くずれそう?そう

     でしょ?聞こえた?

   昏む。きみだけが

      流し目。いちどだけ

    もう、遅い?そう

     悲鳴。…ね

   きみのためだけに


   自傷?…と

   ふと。ぼくは

   自虐?…と

   ふと。ぼくは


   まさか、ね。きみが

   いま、眼の前で

   はにかむきみが

   まさか、ね。だから

謂く、

   自傷?…と

      ぼくは傷まない

    だいじょぶ。もうすぐ

     傷を。を、を、を

   眼の前で、いま

      きみを傷めは。きみも

    空が焼けるから

     空間さえもが

   はにかむきみが

      傷めない。ぼくは

    ぜんぜん、もうすぐ

     その周囲だけ、け、け

   自虐?…と


   自虐?…と

   ふと。ぼくを

   悩ませたきみを

   傷めるがいい


   きみが。きみだけが

   その爪で、きみを

   きみのだめだけを

   思いながら。ただ

謂く、

   自虐?…と

      死にたくない、って

    はり裂けそう?そう

     眉毛に

   ふと。ぼくが

      そんな、しかも

    へし折れそう?そう

     でしょ?聞こえた?

   きみのだめだけを

      まばたき。急速に

    もう、駄目?そう

     ため息。…ノイズが

   思いながらも


   きみはすべてを

   未遂させるんだ

   未遂させたんだ

   きみがすべてを


   だれ?だれに?

   だれ?…と

   咬んだ。軽蔑を

   それは、ね?

謂く、

   だれ?だれに?

      知らないよ。たとえ

    にじむように

     細胞たちが

   だれ?…と

      いまきみが

    喉に。だれの?

     おびえていますか?

   咬んだ。軽蔑を

      失神しても

    ぼくの。ん

     いま、あざやかに

   それは、ね?


   だれ?だれが?

   だれ?…と

   知った。自嘲を

   それは、ね?

謂く、

   だれ?だれが?

      知ってるよ。きみが

    焦げつきそうに

     細胞たちは

   だれ?…と

      のたうちまわる、その

    舌に。だれの?

     破裂しますか?

   知った。自嘲を

      すれすれにいるという事実

    ぼくの。ん

     いつか、表皮に

   それは、ね?


   だれ?だれを?

   だれ?…と

   悔いた。過失、と

   それは、ね?

謂く、

   だれ?だれを?

      知らないよ。たとえ

    かなぐるように

     細胞たちさえ

   だれ?…と

      いまきみが

    歯に。だれの?

     発火するでしょう?

   悔いた。過失、と

      痴呆化しても

    だれかの。ん

     たとえば、きのうに

   それは、ね?


   やばいんだ。なんか

   傷いんだ。もはや

   苦しいだけ。ただ

   やば、…と。唐突な


   だれか、ね

     耐えられなくて

    だれかの。ん

      倒壊しかけた

   悔いた。過失、と

     駆けだすでしょう?

    歯が、だれの?

      いま、影が

   だれ?…と

     細胞膜さえ

    かなぐるように

      きみのうしろで

   だれ?だれを?

謂く、

   だれか、ね

   悔いた。過失、と

   だれ?…と

   だれ?だれを?


   だれか、ね

      事実、きみは猶も

    ぼくの。ん

     いつ、その毛孔に

   知った。自嘲を

      かなしみ。そのわずかをさえ

    舌が、だれかの

     自爆しますか?

   だれ?…と

      知らないかに見えた

    焦げつきそうに

     細胞たちは

   だれ?だれが?

謂く、

   だれか、ね

   知った。自嘲を

   だれ?…と

   だれ?だれが?


   だれか、ね

      あなたをやがてぶち壊してしまうのが

    ぼくが。ん

     いま、あざやかに

   咬んだ。軽蔑を

      たぶん、わたしではない、と

    喉を、だれかの

     おびえていますか?

   だれ?…と

      そんな事実のあるいは残酷

    あ、あ、あ、あ

     きみは全身で

   だれ?だれに?

謂く、

   だれか、ね

   咬んだ。軽蔑を

   だれ?…と

   だれ?だれに?


   あっためようか?

   きみを。でも

   はずかしがりやだ

   きみはそんな子


   だからあるいは

   汚物のなかに

   ぶち込んだげて

   きみを、嘲笑で


   穢してやろ、っか?

   あっためよ、っか?

   抱きしめよ、っか?

   ぶっこわそ、っか?

 謂く、

   え?え?え?

      あしたは、きみに

    すべての事象が

     やめて

   っか。っか。っか

      ほほ笑んだげる

    なおも、きみを

     睫毛。もうこきざみな

   え?い?あ?

      ね?…から、ね?

    苦しめるという根拠はない

     震動。やだよ

   っか。っか。っか


   噓。ついたげようか?

   きみに。でも

   つよい子なんだ

   きみはそんな子


   だからあるいは

   火薬をくちに

   ぶち込んだげて

   きみを、悲惨で


   手遅れにしよ、っか?

   噓ついとこ、っか?

   ほおずりしよ、っか?

   廃棄しとこ、っか?

 謂く、

   え?え?え?

      あしたは、ぼくが

    ある事象に対する

     やめて

   っか。っか。っか

      かきむしろうか?

    それが悲痛であるという意味確定は

     睫毛。あやうすぎだから

   え?い?あ?

      きみの網膜を

    どのつらさげて?

     微動。やだよ

   っか。っか。っか


   なぐさめようか?

   きみを。でも

   がんばりやさんだ

   きみはそんな子


   だからあるいは

   刃物のさきに

   斬りきざんだげて

   きみを、絶叫で


   満たしてやろ、っか?

   あっためよ、っか?

   抱きしめよ、っか?

   だいなしにしよ、っか?

 謂く、

   え?え?え?

      あしたは、きみが

    世界ときみとが

     やめて

   っか。っか。っか

      ぼくを嬲るんだ

    あくまで対峙しているのだというそのような

     睫毛。もうゆるやかな

   え?い?あ?

      ね?…から、ね?

    って、鼻孔に甲虫

     顫動。やだよ

   っか。っか。っか


   どんな子?きみは

   汚物まみれの

   悲惨。拷問

   どんな子?きみは


   雪が、やがて

   いつかは、きみに

   きみの睫毛

   そのうえだけに


   降るのだろう

   ふれた須臾には

   溶け、きみを

   まどわすのだろう

謂く、

   雪が、やがて

      沈黙という不可能を

    穢れていますよ。もう

     さえずるように

   いつかは、きみに

      屈辱、と。だから

    大気に、雪は

     吐いちゃえよ。そして

   きみの睫毛に

      倫理でさえもあるかのように

    染まっていますよ

     窒息を。きみは

   ふれた須臾には









Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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