青空に、薔薇 ...for Jeanne Hébuterne;流波 rūpa -151 //その、唐突な/まなざし。そっと/猶も、ふいうち/まばたきあえば//03
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
離れに、秀則は酸素吸入器と、血圧計と、点滴と、それら複雑な機器に囲まれていた。寝台はすでに医療用の武骨なそれに変えられていた。あるいは、山崎秋子の日常はすこし、楽になったのかもしれなかった。いままで、手づから力のない巨体を起こしてやっていたのだから。秋子はかたわらの、ふるい武骨な木椅子から立ち上がると、清雪にめずらしく会釈した。挨拶の言葉はあえて、ない。ただまなざしが清雪に、親密に、無言のこころを告げた。その言葉の明確をは知らない。翳る、と。そう抽象的にでも謂うしかない、本人にも解析できない、なにか空疎な感情。「意識は?」いきなり問う清雪を、とがめない秋子に老人の様態を知った。「…でも、」秋子は「喜んでる、…」目を逸らさない。清雪から。まなざしのそとに、その気配をだけ、清雪は見た。視野のなか、老人だけがあった。肉体そのものとしては生きて在る兆候を、そこに見せつけてはいない、皴。その厖大な密集。「…らっしゃる、」と。断絶をしかさらさない唐突を以て、言い直した声を聞いた須臾、清雪はふと、秋子を見た。逆に秋子は、一瞬だけ目を剝くと、すぐさま視線を流してしまう。音もなく、その意味は、清雪には分からなかった。「もう、」清雪は、やがて「大親父、…ん、」秋子のために「ね?」…なに?と、眼。「秋子さんに、そろそろ」頃合いを見て「お疲れさまって言えるのかな?」ささやきかけた。秋子の表情は、やや恍惚じみた茫然のままくずれない。やがて、きざしもなにもなくふいに白目が輝いた気がした。瞬間、くちもとの筋肉だけが緩んだ。と、いきなり秋子は声を立てて笑った。みじかい笑い声だった。消えてしまったあとで、さながらに夢のように、秋子が笑った事実を清雪に知らせた。「意外に、…わたし、」見ない。秋子は、むしろかたくなに、「なにも、…もう」清雪を。「なんにも、」
「大変だったから。いままで」
「でも」そして「わたし、もう、奧さんみたいなものよ?このひとの」一息に言い、秋子は思い切り息を吸う。清雪をただ、にらむにも似て見つめながら。「…ほんとうに」刺す。目が。訴える。睫毛さえ。清雪は「…ね?」答えない。秋子は、思うこともなくまなざしだけにもの思う空疎な沈黙を「ちがう?」容赦しない。「何年?」
「大奥様がまだ、お元気だったころから。…だ、から。見てよ。もう、大奥様の亡くなられたお年さえ越えさせてもらって、それで、」
「秋子さんだけだよ」その唐突な清雪に、秋子は思わず顎をあげた。「大親父の死を、悲しむ資格、あるのは」秋子。くちびるが、顎のあげられたままのさきに二度、三度、四度、そしてどれもに言い淀む。だから、沈黙を、清雪のまなざしにだけ咬ます。清雪は、まばたく自由さえあたえられない。ふと、じぶんがいま、秋子のために上手にほほ笑めているものかどうか、清雪は気になった。
「まだよ」秋子が「だいじょうぶ。まだ、」言った。「たぶん、恢復なさる」その秋子のしろ目は、突然の、なにか昏い情熱にむせ返るかに想えた。たとえば、秋子の背骨に突き刺さるような。あくまでも虹彩は、そこに冷淡なままで。…そう、と。「そう、だね」清雪は、そしてみぎ手に秋子の肩にふれた。謂く、
なにを、ね?
ね?って。ね
思いつめてる、それ
なにを、ね?
奇妙なほどに
不遜どころか
不埒なほどに
わかやいだ目が
まるで糾弾、と
思った。ぼくは
見つめた、ぼくを
そのまなざしには
謂く、
奇妙なほどに
ふと、懐疑。ぼくは
ね?なにを
忘却。もう
わかやいだ目が
懐古って、する?
ん、っと。ね
ひとつの記憶さえ、残存しなど、と
見つめた、ぼくを
ひとり、暇なとき、とか?
ね?なにを
そんな。そんな気が
そのまなざしには
なにを、ね?
ね?って。ね
思いきってる、それ
なにを、ね?
うとましいほどに
傲慢どころか
不穏なほどに
したしげな目が
まるで中傷、と
思った。ぼくは
逸らした。ぼくも
そのまなざしには
謂く、
うとましいほどに
ふと、傷み。ぼくは
ね?なにを
寂寥。もう
したしげな目が
泣きそうなん、じゃん?
ん、っと。ね
どこにも。進むべき前方という方向性だけが
逸らした。ぼくも
じつは、さ。理由もなく、もう
ね?なにを
消失。そんな気が
そのまなざしには
たとえば怒りを
激怒をさえも
なぜか感じた
ひとりで、猶も
赦し難い、と
その苛烈さを
傷く思った
しろ眼の綺羅を
謂く、
たとえば怒りを
ブールド。ネージュ
花を、咬もうか
咀嚼しちゃえ
激怒をさえも
ブレイリー2番
無際限な、花園で
なぜ?
傷く思った
紫燕飛舞
咬もうか。花
辱めてみな
しろ眼の綺羅を
なにを、ね?
ね?って。ね
思い込んだ、それ
なにを、ね?
崖に立つかに
悲痛どころか
滑稽なほどに
追い詰められ、目が
諦めたひとの
あかるさを、ぼくは
見ていた。ぼくを
見捨てた眼には
謂く、
崖に立つかに
ふと、軽蔑。ぼくは
ね?なにを
過失。…と
追い詰められ、目が
勝手にひとりだけ滅びないで。…ね?
ん、っと。ね
だれのなに、じぶんのなに、いつのって、てか
見捨てた。ぼくを
あなたはまさにみずみずしい
ね?なにを
そういうんじゃ、ん
そのまなざしには
あなたに、なにを
なにをささげてあげるべきだったかな?
やさしい言葉を?
辛辣な眼を?
あなたの自虐に
なに、ね
教えてよ。きみの
明日の朝には
あなたの焦りに
しよっか?…ね
ほんとの、気持ち。たぶん
どこ、ね?行こっか?
その屈辱に
自由になったら
きみさえ知らない
なに、ね
自己満足に
容認の眼を?
あざける言葉を?
なにをささげて?
あなたに、なにを
あるいはなにも
激怒をさえも
感じてなかった
ひとりで、猶も
もてあそぶだけ、と
その苛烈さを
ただ、たわむれた
しろ眼の綺羅の
謂く、
あるいはなにも
ブルボンクイーン
花を、ふもうか
散らしちゃえ
激怒にさえも
マダムスーシェ
無際限な、花園で
なぜ?
ただ、たわむれた
ジプシーボーイ
ふもうか。花
つぶしちゃってみな
しろ眼の綺羅の
あやうい外で
あやういそこ。もう
逸らされた目の
まだ、すぐそばで
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