青空に、薔薇 ...for Jeanne Hébuterne;流波 rūpa -150 //その、唐突な/まなざし。そっと/猶も、ふいうち/まばたきあえば//02
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
その夜、正則を訪ねた。敦子から、壬生秀則の様態の惡化を聞かされたからだった。敦子が顔を出すとは思えなかった。仮りに老人が死去したとして猶、あるいはその時にこそ、敦子はあからさまな冷淡をさらすに違いない。Lineで、敦子は美大のことにも、武蔵小杉のことにもふれなかった。道玄坂からそのまま、麻布に行った。正則が数年前に籍を入れた楓が、ひとり本邸に在宅していた。まだ三十をも越えない楓は、瑞穂に比べてさえ老けた印象を残した。焼身自殺の、その遺体確認のあたりから、急速に衰微をきざした正則が、銀座で拾ってきた女だった。リビングで、それがいまの趣味らしい編み物に暇をつぶした。声をかけた清雪に顔をあげると、まぶしげに楓は目を細めた。視力がわるいことを、清雪は知った。ふと、意味もなく清雪は問う。「いらっしゃるの?」
「だれ?」
そして、楓は笑んだ。「…すごい」清雪。「いま、そういうのやるひと、いなくないですか?」これ?…と、楓は毛糸の玉を指に転がすと、「笑っちゃう。すっごい、季節外れ」
「できるんだ」
「お母さま。あのひと」
「やれって?」頸を振る楓が、なにか言いかけ、やがて自嘲の笑みに勝手に、頬はゆがんだ。清雪は、その指先の華奢から、もう、目を逸らした。「じゃなくて、できないの?って」
「性格、わるっ」笑う清雪に、楓はあえて反応を示さない。…でも、さ。ややあって、「むかしはそうじゃなかったんでしょ?」
「あのひと?」
「妹さん…正則さんの」
「まあくんじゃなかった?」
「の、妹さん、亡くなってから」
「もともと、いまも惡い人じゃないんだよ」
「清くんには、でしょ?」
「ああいう、人にいいひとって言われるひと、うちではきっついこと云うパターン、多くない?」…そ、と。楓は云って、ふと、テーブルに肱をついた。「やさしいんだね。清くんは」
「部外者だから。おれも」
「も?」
「楓さん、内輪のつもり?」
「性格、わるっ」口真似し、そして楓はすなおに笑った。「離れに、」やがて「います。相変わらず」目線を横にながしながら、そうささやく楓に清雪は、そっと笑いかけてやった。あくまで彼女のはずした目線の、その脇で。謂く、
たくらみを、…なに?
なにか。たくらみに
上手に染まり
静止するうわ眼
ささやかれた
数語。わずかの
言葉以上の
ほのめかしだけを
謂く、
たくらみを、…なに?
ないんだ。知ってる
笑う。たぶん
かくすことも
なにか。たくらみ
きみには、なにも
傷みをあなたに
かくれ去ることも
曖昧にすぎた
かくされたものなど
見た人に愚かを
やめたから。もう
ほのめかしだけを
器用な笑みを
うかべつづけた
はじめて逢った
その紹介の場にも
優雅に腰を
ゆらがせていた
秋の茶会は
じぶんのものだと
謂く、
器用な笑みを
ピアス。その
ゆびさきが
きらいなの、と
うかべつづけた
孔。むっつ
ふと、その
香水は、だって
優雅に腰を
ぜんぶで
大理石を這う
臭くない?…あれ
ゆらがせていた
擬態。知ってる
バレてた。ぼくにも
あなたの翳りを
やわらかな疲労を
擬態。知ってる
分かり切って、猶
あなたは翳りを
上手に病ませて
謂く、
擬態。知ってる
雲が、あなたの
いいよ。そのまま
やわらかな
バレてた。ぼくにも
頭部の至近に
しあわせでいて、ね?
人工照明が、いま
あなたは翳りを
雪崩れかかるまで
赦されていいよ
複雑に、頸に
上手に病ませて
上質なやつれを
さらしていられた
ひとりのときは
嘆息を、ふと
奇妙なよろこびを
しずかにしずませた
落葉が埋めた
秋の庭にも
謂く、
上質なやつれを
タトゥー。その
手のひらが
ね、いつも、と
さらしていられた
みぎ。脇腹に
ふと、その
なにしてるの?だって
奇妙なよろこびを
蔦と孔雀
ふくよかさを
ひとりじゃん。いつも
しずかにしずませた
擬態。知ってる
だれも。ぼくさえも
あなたの孤独を
孤立の傷みを
擬態。知ってる
白日のもと
あなたは擬態を
気づかないままで
謂く、
擬態。知ってる
雪が、あなたの
いいよ。泣くにも
てかりが、ほら
バレてた。ぼくにも
みぎのこめかみに
ひとしい笑顔、ね?
メイクの、ね、いま
あなたは擬態を
傷をつけるまで
赦されてたから
暑苦しいだけのきみの額に
気づかないままで
ここちよい
たださわやかな
さびしさにだけに
たわむれ、ひとり
あざやかに
憩いにあなたは
さびしさにだけに
癒され、ひとり
謂く、
ここちよい
つまさきに、そっと
きみは権利者
ふむ。ななめに
たださわやかな
なすったように
幸福。きみの
伸びた、いくえもの
憩いにあなたは
影を、ふむ
権利者。きみは
きみも、翳りを
さびしげ。ひとり
数度の堕胎を
思い返した
はじめて知った
悲痛の場面も
なつかしい傷みを
思い出に変えた
ふりしきる雨は
もう遠いのだと
謂く、
数度の堕胎を
微笑。その
爪が、やがて
好きなんだ、と
思い返した
こなれすぎていた
ふと、その
お掃除。なんか
なつかしい傷みを
あばずれだよ、と
小指の腹を
癒されない?…あれ
思い出に変えた
擬態。知ってる
幸福。ぼくにも
あなたにひとつの
しあわせの固有を
擬態。知ってる
泣かないでいいよ、いまも
翳りを、なじんだままの
うわ眼のまどいで
謂く、
擬態。知ってる
日照りが、あなたの
いいよ。あなたは
皴。目じり、ほら
バレてた。ぼくにも
鎖骨のあたりに
猶もうつくしい、ね?
笑うから、わたし
なじんだ翳りの
皮膚を裂くまで
そう、噓をついたげる
よく、ひとりでいたって、…と
うわ眼に、笑んで
たくらみを、…なに?
なにか。たくらみに
かたむくその目に
かさねた眸に
ささやかれていた
数語。わずかの
言葉以上の
ほのめかしだけを
謂く、
たくらみを、…なに?
ないんだ。最初から
いとおしむのだった
さらすことも
なにか。たくらみ
きみに、陰険な
憐れみをあなたに
さらけだすことも
かたむくその目に
さかしさは、なにも
ささげる莫迦を
必要ない。もう
かさねた眸に
ここちよい
ただざわやかな
孤独にだけに
うずまり、ひとり
あざやかに
乱れた花々
孤独の匂いに
赤裸々に、ひとり
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