青空に、薔薇 ...for Jeanne Hébuterne;流波 rūpa -142 //ふれる。それ/いま、そこに/きみの瞼に/あおむけの//08
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
代官山は乗り過ごした。どこへ行くのか、聞いた。横浜、と、ややあって、不穏なしろ目に藤がささやく。虹彩はおよぐ。顎がかたむく。清雪が、ふと、声を立てて笑った。「…噓」
「じゃ、」言いかけて、藤は言い淀んだ。「…ない。って?」清雪の、手助けする声を聞く。ふいに、藤は清雪を見返した。ちょうどすいた時間帯。午後一時過ぎ。ややななめの正面から日射しをあびた清雪は、たしかにうつくしかった。そのことに、いま、藤は気づいた。あぶなっかしい眉をさらしていた。泣きながら、無理やり、ふいに笑おうとしているかのような。藤は「…ね?」まばたいた。「家出少女?」
迷いもなくうなづく藤を、清雪はふたたび邪気もなく笑う。代官山に待ち合わせた、倉田明日香からのメッセージをはすでに二度シカトした。明日香なら、彼女ならば学校で、どうせいつでも清雪に逢えた。藤はあるいは清雪に、いましか逢えない可能性があった。ならば藤にこそ、邂逅の恩寵を与えてやるべきだった。藤はほんの三日前に家出したにすぎない。そう云った。実家は文京区にある。インターネットカフェで寝泊まりした。その宿泊代およびその日の飲食代を払うべき金銭はすでにつきていた。藤からこれらを聞き出すまでに、すでに横浜を折り返していた。藤は清雪に、売りを求めるでも、援助を求めるでも、紹介を求めるでもなかった。あるいは、藤の目に自分はわかすぎたのだろうと清雪はふんだ。それとなく、藤がもう女だという実感は、まなざしにも鼻孔にあきらかだった。それが家出の数日の経験とは思えなかった。藤の女は、もっと挙動にさえこ狎れいた。ふたたび中目黒を過ぎかけたときに、…住むとこ、必要?清雪はふと、耳打ちした。藤は、いきなり頸をのけぞらした。しかも、肩ごと。清雪の接近を厭うこころはなにもなかった。不穏だった。むしろ、自分に対する屈辱にも感じた。そして、清雪の傷心を案じていた。だれにも拒絶されたことなどなかったにちがいなかった。見つめたまま、そこに見放していた須臾のまなざしが、あらためて清雪をのみ見つめはじめると、ただ、なんの容赦もない冴えた笑みだけがあった。かなしみ、と。ふいに藤は、その、言葉の意味を知った気がした。「…泊めたげる」
「ひとり、ぐらし?」
「違うけど。…待ってて」渋谷駅で降りて、清雪はハオ・ランに電話した。
きみのからだ、が
におう、んだ
ふと。明かすように
告白のように
謂く、
きみのからだ、が
さがしながら。きみは
ん、…と。ふいに
思わせぶりであってはならない
におう、んだ
慎重に、言葉
電車のゆれを、なぜ?
あかるいひかりが
ふと。明かすように
上手な、あるいは、噓を?
ここちいいかなって
ななめに、きみをも
告白のように
なにも語りはしないだろう
たぶん、なにも
きみには、なにも
ない。語り得る
なにもないから
騙るように
だから、ぼくらは
ささやいただろう
謂く、
たぶん、なにも
赤むらさき
たとえれば、きみを
雨。あるいは
きみには、なにも
地表すれすれに
花に、…なに?
気づけば、ふと
騙るように
撥ねた土
泥まみれの寒椿
やんでいた、あの
だから、ぼくらは
きみのからだ、が
におう、んだ
ふと。明かすように
告白のように
謂く、
きみのからだ、が
まどいながら。きみは
ん、…と。ふいに
無知であってはならない
におう、んだ
じぶんに、言葉
眼じり。ためらい。なぜ?
あかるいひかりが
ふと。明かすように
うわずる、あるいは、その声を?
もう、いいよって
ななめに、きみをも
告白のように
思う。思った
思ってたんだ
きみのはじめてが
たぶん、いたましい
記憶を残した
あるいは、そんな
昼間の、ひかりは
どんな風景を?
そのまなざしの
ふかい、むこうに
そこに、きみだけの
風景のなかに
謂く、
思う。思った
赤むらさき
たとえれば、きみを
雨。あるいは
思ってたんだ
地表すれすれに
花に、…なに?
気づけば、ふと
そのまなざしの
撥ねた土
泥まみれの寒椿
やんでいた、あの
ふかい、むこうに
きみのからだ、が
におう、んだ
ふと。明かすように
告白のように
謂く、
きみのからだ、が
咬みつくように。きみは
ん、…と。ふいに
ばれてしまってはならない
におう、んだ
性急に、言葉
頸すじ。おくれ毛。なぜ?
あかるいひかりが
ふと。明かすように
ふいの、あるいは、唐突なあせりを?
きたならしいなって
ななめに、きみをも
告白のように
思う。思った
思ってたんだ
きみの唐突な
耐えきれはしない
決断を強いた
あるいは、そんな
明け方の、ひかりは
どんな風景を?
そのまなざしの
ふかい、むこうに
そこに、きみだけの
絶望の強度に
謂く、
思う。思った
赤。くれない
たとえれば、きみを
波紋。あるいは
思ってたんだ
踏まれはしない
花に、…なに?
唐突な、ふと
そのまなざしの
いまは。いまだけは
水たまり上の薔薇
やさしい風、あの
ふかい、むこうに
きみのからだ、が
におう、んだ
ふと。明かすように
告白のように
謂く、
きみのからだ、が
憐れみながら。きみは
ん、…と。ふいに
辛辣でなければならない
におう、んだ
不用意に、言葉
すべる。眸が、なぜ?
せめて。…ね?ひかりが
ふと。明かすように
ぼくを、あるいは、眼に映るすべてを?
ぜんぶ、噓だろって
ななめに、きみをも
告白のように
思う。思った
思ってたんだ
きみの逃走は
はじめから、すでに
敗走をさらした
あるいは、そんな
朝の、ひかりは
どんな風景を?
そのまなざしの
ふかい、むこうに
そこに、きみだけの
無根拠な歓喜に
謂く、
思う。思った
赤。ふちに湧き上がるような、白
たとえれば、きみを
蜂が、あるいは
思ってたんだ
なぜだろう?ただ
花に、…なに?
羽搏きの微風。ふと
そのまなざしの
壊れるのが見たい
散りかけの夏牡丹
くずおれさせた、あの
ふかい、むこうに
きみのくちびる、が
ささやき、かけ、た
ふと。かくすように
そのおののきさえも
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