青空に、薔薇 ...for Jeanne Hébuterne;流波 rūpa -140 //ふれる。それ/いま、そこに/きみの瞼に/あおむけの//06





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





夕方、敦子が帰って半時間ばかり、ひとりだけのもの思いに淫してみたあと、清雪はその少女に連絡を入れた。安藤藤。安藤が姓、名の読みはフジ。春のおわりの藤の花から取った。その名のせいで、子供の頃には虐められもした。そう、清雪は聞いた。もっとも、いまも子供だった。まだ十四だったから。とはいえ、清雪もまだ一日に十八になったばかりだった。一歳二歳の違いに辛辣な十代の目には、それでも藤はどうしようもない隔絶の、おさなさのみをまなざしにさらした。Lineに、「…なに?」声を聞かせた藤に、「どこ?部屋?」答える余裕は、藤にはなかった。立てつづけに、「そこにいて」云って、清雪が着信を切ったから。謂く、

   晴れた日には

   そのあかるさには

   ふと、感じるべき、…と

   憎しみ。たとえば


   晴れた日だった

   昨日は、…雨?

   その雨のなかで

   なにを、あなたは

謂く、

   晴れた日だった

      信じられなかった

    まるで、なに?なに?

     云って。…って

   昨日の雨の

      その色。色彩

    軽蔑すべき

     ね、噓だったよ

   雨の記憶を

      青。空の

    過失を犯した直後、と、そんな

     って。云って

   あらい流して


   晴れた日には

   そのあかるさには

   ふと、感じるべき、…と

   怒り。たとえば


   晴れきった日だった

   昨日は、…雨?

   その雨のなかで

   なにを、あなたは

謂く、

   晴れきった日だった

      信じきれなかった

    まるで、なに?なに?

     云って。…って

   白濁の靄の

      その色。色彩

    糾弾すべき

     ね、噓だったよ

   籠る色彩を

      紅蓮。空の

    裏切りをさらした直後、と、そんな

     って。云って

   すすぎ流して


   晴れた日には

   そのあかるさには

   ふと、感じるべき、…と

   軽蔑。たとえば


   晴れた日だった

   どうしようもなく、…雨?

   その雨のなかで

   なにを、あなたは

謂く、

   腫れものに

      昏い、青

    まるで、なに?なに?

     云って。…って

   さわるほどに

      その色。色彩

    警戒すべき

     忘れそうだ。もう、きみを

   張り詰め、そこに

      まなざしに、空の

    虚偽を吐き出した直後、と、そんな

     って。云って

   あやうい空が


   晴れた日には

   そのあかるさには

   ふと、感じるべき、…と

   喪失。たとえば


   晴れきった日だった

   どうしようもなく、…雨?

   その雨のなかで

   なにを、あなたは

謂く、

   腫れものに

      燃えた、赤

    まるで、なに?なに?

     云って。…って

   はじけるほどに

      その色。色彩

    侮辱さるべき

     だれでしたか?きみは

   いたましい、そこに

      まなざしに、空の

    反抗をきざした直後、と、そんな

     って。云って

   あざやかな空が


   ぶちまける

   朱を。オレンジを

   なすりつける

   赤を。黄いろを

謂く、

   ぶちまける

      吐き気はしない

    なぜ、そこに、…だれ?

     どこで、ぼくは

   朱を。オレンジを

      不快感も。まだ

    背後。わたしの、…唐突。喪失を

     ささやいてる?いま

   なすりつける

      悪寒。痙攣も

    咬んだ。そこに、…だれ?

     あるいは、ぼくに

   色彩を。いまや


   日没。わたしは

   たちあがりかけ

   その爪。付け根

   傷みを思った

引っ越しの片付けが取り得ずは終わりをみせて、敦子が、武蔵小金井の部屋を立ち去ろうとしたとき、ふと、自分がひとりで帰っていくのだという事実に思い至る。違和感がある。錯視に気づいた眼のような。思わずくずれかけた頬を、清雪のまえで慌てて直した。不用意な微笑は見られなかった。清雪はしゃがみこんで、ベースアンプにフェンダーローズの古いピアノを差しこんでいたから。「聞きたい?」清雪は返り見た。ただぎこちない、引き攣りかけた敦子の表情を見た。そして、敦子は目を逸らした。「ひさしぶりだね」ささやく。敦子が。清雪は笑んだ。即興。ゆびさき。できるだけしずかで、できるだけ傷みを、誰の耳をも傷つけない、そんな退屈な、ただ綺麗らしいだけのフレーズをかさねた。代々木に帰った。敦子はひとり、部屋に落ち着いた。と、気づく。違和感に。いつもどおりの空間。さらす平凡な室内。その違和の赤裸々。清雪がいなくなって、広すぎて見えるのが本当だと思ったのだった。そんな、不在の空漠をまなざしは必死にさがした。いつからと明確な記憶はない。だいたい十五歳くらい。唐突にはじまった清雪の反抗期。あの、ほんの二年に満たない期間。あれからすでに、たとえばリビングに清雪が憩うのを見るのは稀れだった。外出がちになり、在宅したとして自室に籠りたがった。結局のところ、自分以外にだれもいない風景に、まなざしはもうじゅうぶん慣れて、それが突然、敦子にさびしさをきざした。食事の準備をするべきだった。必要もなかった。外食に出る気にもなれなかった。とりたてて食欲もないことに気づいた。するべきことをさがした。清雪の部屋を、掃除するべきだった。その気になれなかった。風雅には連絡を入れなかった。正則にだけ、一応の引っ越し終了を、メッセージで告げた。返信は待たない。謂く、

   ゆるい波紋が

   ゆらめきが

   せめてあなたに

   傷みをくれれば


   泣き伏したがいい

   足元に、ふと

   花瓶。ガラスの

   陽炎。ゆるい


   楕円の波紋が

   そのいびつさえも

   せめてあなたに

   傷みをくれれば

謂く、

   泣き伏したがいい

      眸。涙が

    おぼえてる?ほら

     夜には、ふと

   陽炎。波紋が

      こぼれることなど

    せがんだ。ひたすら

     唐突な怯えを。きみは

   せめてあなたに

      決然。きみの

    キスだけ。あなたは

     いまでもおぼえていますか?

   傷みをくれれば


   ゆるい波紋が

   ゆらめきが

   せめてあなたに

   悔恨をくれれば


   息を吐くがいい

   あしくび、そっと

   あたたかみ。ひかりの

   滅びゆき


   消えかけの波紋が

   そのかすかさえも

   せめてあなたに

   悔恨をくれれば

謂く、

   息を吐くがいい

      くちびる。ふいに

    おぼえてる?ほら

     朝には、ふと

   陽炎。波紋が

      ささやきかけて

    かたむけた。顎を

     唐突なかなしみ。きみは

   せめてあなたに

      なにも。いつでも

    横眼に、あなたは

     いまでもおぼえていますか?

   悔恨をくれれば


   ゆるい波紋が

   ゆらめきが

   せめてあなたに

   冷酷をくれれば


   掻きむしるがいい

   くるぶしを、そこ

   ねじまげ、きみの

   こころのままに


   ゆがんだ波紋が

   その無色さえも

   せめてあなたに

   冷酷をくれれば

謂く、

   掻きむしるがいい

      睫毛。もう

    思ってた?ほら

     笑ってあげた

   陽炎。波紋が

      懐疑など、あえて

    愛されてる、って

     わたしは、あなたに

   せめてあなたに

      きみの決意を

    知ってた?じつは

     見つからないよう

   冷酷をくれれば


   見て。せめて

   まぼろしに

   醒めながらの夢

   夢にさえ


   きみの自壊を

   いとしみながら

   自爆したら、ふと

   笑ってあげよう

謂く、

   見て。せめて

      最後のときまで

    ね?憎んだことなど

     ぼくは。ぼくだけは

   きみの自壊を

      きみは、思うよ

    いちども、ななたを

     きみを、忘れた

   自爆したら、ふと

      ぼくを。ぼくだけを

    ね?愛したことなど

     その亡骸にさえも

   笑ってあげよう


   思い出したように

   なつかしむように

   弔いのこころに

   傷んだように









Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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