アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -132
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
アラン・ダグラス・D、裸婦
...for Allan Douglas Davidson
と。そう問い返したかけたわたしの、だからけっしてささやかれなかった言葉などランは聞き取ったはずもなかった。そこに、まなざしの正面、ランはただほほ笑む。ほほ笑みというそれいがいになにもない、だから完璧な笑み。信じた。蝶のはばたきを。それが事実だという事実を。背後、庭。ぬれたしろいブーゲンビリアが匂った。そしてつちも。ぬれ、ぬれて、ぬれつづけた花翳りの空気、この六月。やさしい雨のなかに、わたしの頸すじをあやうく素通りして見られた蝶。ランのまなざしにだけ、飛沫にたしかに翅は鱗粉を散らしたのだ。
そう思った。
ランをふたたび見つめようとした。
事実、見つめた。
微笑んでいた。わたしの胸にかるくふれていたゆびさき。それから、そのほほ笑みまでの、わたしのまなざしのささやかな推移。うつくしく、しあわせなラン。須臾、ほのかな不穏があった。
まなざしは、だからすぐさま落ちた。ふたたび、ただ、その不穏にだけに。夏の、ランのVネックの胸元。…知った。たしかに、と。たしかに。なにも、なにかを渇望したわけでもなくて。
あやうく、やわらかで、せつなく、あざやか?…いや。ほのか。
胸元が、ふと警戒した。
羞じた。
わたしはランのその、あいまいな動揺のためにわたしを。咎める目を?…ラン。案じた。あわてて眸を見つめなおしたそこに、安堵。あるいは。笑んでいたから。ラン。やさしく。ただ、わたしだけを見つめ、わたしだけ。わたしだけに、赦し。そのあたたかな、赦し。そこに。知っていた。すでに。そっとランが胸元を誇ったことも。まなざしのそと、すこしせつない、わずかなしたに。
黎マ...2022
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