アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -122 //なに?それは、なに?/ん?そこに/さっきまでずっと/きざしていたもの//01





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





   花。散り

   散る。庭

   ななめに、ゆらり

   翳りら。それら


   色づく葉

   葉ら。しろい

   花。擬態

   擬態の葉たち


   さがしてみようか

   花翳り

   葉翳り

   どこか、翳りにも

謂く、

   花散り

      ひびき。さわっ

    紫斑のような

     目隠し

   散る庭

      葉こすれ

    やさしい翳りに

     あなたに、その

   ななめにゆらり

      ざわっ

    肌。いぶき

     やわらかなまなざしが

   擬態の葉たち


   さがしてみようか

      なにも、目に

    破綻さえ

     ひかり、ひかりに

   花翳り

      見えないふりを

    崩壊さえ

     傷つかないよう

   葉翳り

      ふりをしようか

    ゆらぎ、ふれ

     そっと、ふと

   どこか、翳りにも

失語していた。だから、そんなあなたに、ただ言葉も知らずわたしはむしろささやこうとしつづた。謂く、

   花。舞い

   舞う。庭

   ふるえてゆらり

   綺羅ら。それら


   色づく、葉

   葉ら。しろい

   花。擬態

   擬態の葉たち


   さがしてみようか

   花綺羅ら

   葉綺羅ら

   どこか、綺羅らにも

謂く、

   花舞い

      ひびき。ふわっ

    空漠のような

     目隠し

   舞う庭

      花ゆれ

    あざやかな綺羅に

     あなたに、その

   ふるえてゆらり

      ふるっ

    肌。いぶき

     やわらかなまなざしが

   擬態の葉たち


   さがしてみようか

      なにも、目に

    破滅さえ

     翳り、翳りに

   花綺羅ら

      見えないふりを

    消失さえ

     傷つかないよう

   葉綺羅ら

      ふりをしようか

    ゆらぎ、ふれ

     そっと、ふと

   どこか、綺羅らにも

饒舌すぎた。だから、そんなあなたに、ただ饒舌すぎたわたしはひたすら失語していた。謂く、

   しあわせはなに?

   わたしの、あなたの

   しあわせはどこ?

   花ゆれに


   翳りと綺羅に

   わたしの、あなたの

   ほほえみはどこ?

   色ゆれに


   ざわめきながら

   ほら、空が

   いま、ふいの

   失神。空も

謂く、

   しあわせはどこ?

      ひびき。ききっ

    ふれあう肌

     耳ふさぎ

   花ゆれに

      翳りに

    うるおい、ほのめき

     たぶんもう

   ほほえみはどこ?

      ききっ

    感じあい

     轟音。氾濫

   色ゆれに


   ざわめきながら

      ひびき。るりっ

    あたたまる肌

     くちびるに、いま

   ほら、空が

      綺羅らに

    したたり、引き攣り

     吐きかけた

   いま、ふいの

      るいりっ

    ほほ笑みに

     息。ふと

   失神。空も

声をあげてもいいよ。そうしたいなら。そっとそばで聞きつづけるから。叫んでもいいよ。そうしたいなら。そっとそばで聞きつづけるから。もうすぐ儚く脆そうな雲が、空に数秒、日をかくす。謂く、

   壊れてごらん

   そうでそうなら

   その壊れさえ

   赦していよう


   滅びてごらん

   そうでそうなら

   その滅びさえ

   愛していよう

謂く、

   壊れてごらん

      息。ふと

    空に空が

     くちびるに、いま

   そうでそうなら

      ささやきかけた

    色彩をかさねて

     わらいかけた

   その壊れさえ

      くちびるに、いま

    かさねつづけて

     息。ふと

   赦していよう


   滅びてごらん

      息。ふと

    海に海が

     くちびるに、いま

   そうでそうなら

      わらいかけた

    色彩をかさねて

     ささやきかけた

   その滅びさえ

      くちびるに、いま

    かさねるように

     息。ふと

   愛していよう

海に、孤独者は、海に。謂く、

   かたむき。日が

   みなも。垂直に

   沸きあがった

   綺羅。まばたきに


   ふるえ、目は

   なにを?その

   目。まばたきの

   須臾、なにを?


   ゆらめき。波が

   空も、日に

   光暈を知った

   散乱。ひかりに


   まどう。目は

   なにを。その

   目。昏むその

   須臾、なにを?

謂く、

   まばたく。目は

      必要ない?

    隔離の時期

     いきものたちは

   なにを?その

      ない?わたしの

    捨て置かれ

     充満。稀薄に

   目は、まばたきの

      目。ない?

    海は海

     その波にさえ

   須臾、なにを?


   ひかる。目は

      必要ない?

    監禁の時期

     いぶきたちは

   なにを。その

      ない?わたしも

    剝き出され

     氾濫。稀薄に

   目は、昏むその

      見ない

    波は波

     その大気にさえ

   須臾、なにを?

レ・ハンと名乗る男がダナン市に身を寄せてからすでに十年ちかくになった。レ・ハンは目立った。ほぼすべてのひとびとに知られた。翳りもなくただ端正な顔と、そうすぐさまに印象づける顔を、ひとびとがどこかしらかで記憶したから。レ・ハンは野放図に、蠱惑的な笑みをさらした。完璧に上質で、かすめとるように俊敏な挙動。たいがいの、年頃の娘の母親たちは目の仇にした。せめてもの貞淑と安泰を娘にもとめる女ならば。おなじ目を、胸を咬む苦悩に似た憧憬と嫉妬に昏ませながら。じぶんをも焦がすレ・ハンが、莫迦な娘を翻弄してしまうなど当たり前にすぎなかった。

女に手などださないという事実もすでに知れ渡っていた。女たちには無視された。稀れに女づれで歩くレ・ハンを見とがめればたちまち、隠されていた新恋人の露見が噂された。ほれ見たことか。あのレ・ハンだってしょせんは男だよ、と。男たちは鼻でわらった。レ・ハンが女ごときに指一本ふれるはずがない。そしてまた、それは依然として事実だった。男たちは恍惚のあるまなざしにレ・ハンを見た。あやぶみながら接近した。彼の名を知り、彼を知る男ならだれもが知る。たとえ女さえよりつかないぶざまな男であったとして、そのぶざまこそがある須臾のレ・ハンの、こころの須臾を惹かないとも限らない。レ・ハンはだれにも予測不能だった。レ・ハン自身にさえ予測不能なレ・ハンのこころなどだれも知りようがなかった。しかもレ・ハンがひとたび興味を示せば、かならず望みを遂げてしまうのは間違いなかった。事実、レ・ハンはそうしてきた。

レ・ハンはその日、海を見に行った。ミー・ケーという名の海岸は、綺麗にだれもいない。Covid 19のパンデミックに世界中が染められた頃だった。ワクチン接種は諸国家および諸地域に国家的地域的格差をのみ素直にさらしていた。あくまで富裕国中心に接種されはじめ、そちらのほうはもう何度目かの接種計画がたてられはじめていた。かならずしも富裕国とは云えないベトナムでは、一回目の接種がようやく行われはじめていた。ダナン市に関しては遅きに過ぎたと謂うしかない。蔓延したデルタ株のせいで、富裕なる先進国にはくらぶべくなくとも、おそまきの急増を見せはじめた感染者封じ込めに、市はいまさらにロック・ダウンの施政を取った。

ひとびとは家屋に籠った。通りは封鎖された。どこから持ち寄ったか知れないバリケードとテープ。ひとびとはふと、もとの用途の察せない鉄柱の塊りの前で立ち止まって見る。バリケードとバリケードなしテープとテープの数十メートルが運動のために赦された自由圏だった。ミー・ケーの海岸線の椰子の木にも、立ち入り禁止のテープレ・ハンは張り巡らさていれた。レ・ハンの知ったことではなかった。

封鎖しようが何をしようが、かいくぐればどこへでも行ける。とまれ、レ・ハンはまた、ひとつの興味深い事例を見たとも思った。日々の暇つぶしの会話。さまざまなネット回線上の通話で話された友人たち、——と、だれをもレ・ハンは呼んだ。とりたてて愛するべくもない無能なホモサピエンスたち一般に捧げた呼称として。彼ら友人たちとの会話のいたるところに匂うのは、奇妙な連帯感だった。引きこもり、引き離されながら、彼らはおなじ運命の稀有を稀有に共有していた。すべては稀れなる時めきとみずみずしい輝きのなかにあった。彼らがいまほど世界が同じひとつの世界であったと感覚したことなど、かつてあったと想えない。白人たちがあくまで海のむこうのしろかるべき国々に、黄色い色付き人種不特定多数へ無数の人種差別をさらした断絶はあったにせよ、それらさえ共有された世界の容赦ない共有こそもたらした事象だっただろうか。白人は常に無能な人種であるにちがいなかった。だから、いまさらレ・ハンは差別的事象になにを思うでもない。

レ・ハンはその日、朝、家を出た。海辺の木立ちに埋もれた家屋から、バリケードをくぐって海に辿り着いた。どうしても海が見たかったわけではない。ロック・ダウンへの一種のからかいのみかも知れない。または、やはり海の匂いを懐かしんだかも知れない。いずれにせよレ・ハンはその朝、夢を見たのだった。めずらしく記憶した夢だった。夢のまなざしに、海があった。それはいまだかつて見たこともない海だった。海は、海だから当然綺羅めく。綺羅めきは、綺羅めきだから当然ざわめく。綺羅の白光は、だから当然明滅しつづける。そうでなければ、すくなくとも地球上において海は存在し得ない事実を、レ・ハンは夢に知った。その海には如何なるかたちでも明滅がなかったから。

不穏だった。もっともすぐさまに海の発狂ないし破綻を思った事実もない。まなざしには見えていた。ただ赤裸々な不穏のきざしこそが。またはあくまでも、なにかの仄めかし。すがたをやがてさらすかもしれず、そのままかもしれず、もとからそんなもの存在しなかったかもしれない、とまれなにかの。いわば海は、ささやきかけながら打ち明けきらず、けむに巻いて謎めききるでもない。ひかり、ひかりつづけるた。そして海はあきらかで健全な光源にほかならなかった。なにも隠されてはいなかった。むしろあばかれていたのだ。無造作に。無防備に。レ・ハンは惑うた。わからない。そのひかる海のなにがいったい不穏なのか。なにがいったい、これほどまでにかなしいのか。なぜ、いたたまれないほどに巨大な喪失感をのみ、まなざしは見ていられるのか。レ・ハンはだから、じぶんがいま圧倒的に無能であるという事実に驚愕した。錯覚ではない。否定しようがなかった。レ・ハンは無能だった。眼のない生き物よりもなにも見なかった。耳のない生き物よりもなにも聞かなかった。皮膚のない生き物よりもなににもふれなかった。すさまじい愚鈍。

契機はない。いきなり海が燃えあがった。燃えあがって、燃えあがっていたことに気づいた。ギュスターヴ・クールベ。たしか。朱の空と海。もはや印象派を予告するどころか抽象絵画にすぎないそれ。似ても似つかないながら、だからクールベじみた炎上。だれに見せられたタブローだったろう?どこで?なんで?美術館に用はなく、絵を買う趣味もない。その時、レ・ハンはあらためて気づいていた。たしかに、炎上のまえの不穏なあの海はまぎれもなく、うすむらさきだったという事実に。

もはや燃えあがる海面はすべて、焰の綠りいろをのみさらしていた。うすむらさきどころか、赤のいぶきも青の気配もなにもない。知った。いまさらに、あの海。焰につつまれるまえの海は素直だったのだ、と。ひかり放つ海はただ、あざやかな単調をのみ見せていた、と。だからどうと謂うでもない。やがていつ醒めた記憶もなく目を覚まし、レ・ハンは冷えた水を飲んだ。直後に海に忍び込んだ。

途中、封鎖の路上にだれをも見なかったわけではない。湾岸道路に出たとき、やや背後、ななめの遠くにバリケードを見た。警察がふたりは見えた。寄り添いあって接近していた。まるで交配中じみた距離のふたりに、とおくのレ・ハンは手を振った。とりあえずのジェスチャーをしてやった。その意味は知らない。また彼らがそれに何を了解したのかも知らない。了解の合図だろう手振りを大ぶりに見せていた。いつでも野卑にならないスタイルを愛するレ・ハンは、黒いパンツにあわいピンクのワイシャツだった。とおくの野卑な彼らに、その端正な男が不埒な違法者だと想い得る余地などない。そんなことをは知りぬいたレ・ハンは、だからなにも恐れない。そのまま海岸に出た。そしてひとり、革靴に砂を踏んだ。砂粒がときに入り込む。それも知ったことではない。あてもないレ・ハンはさしあたり、北に向かった。林雲という寺の、巨大な観音像が岬に立つほうだった。寺にも観音菩薩にも用はない。南に行けばそれなりに整備された砂浜がひろがる。観光客用の飼いならされたそれ。北にはまだしも荒れた、野生にちかい荒廃がある。レ・ハンは、だから海に波のかたわらを歩いた。









Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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