アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -118 //空。あの色を/沙羅。だからその/あなたも、まだ/まだ知らない//06
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
謂く、
そうじゃない
は?たぶん
そうじゃな
は?…だから
謂く、
そうじゃない
絶望も
好きにすれば
晴れかな?
は?たぶん
自己満足も
見つめているよ
あした
そうじゃな
苛烈。苛酷も
きみの最後も
どしゃぶりだった?
は?…だから感じる?なに?感じる?手ざわり、感じる?なに?感じる?息。そこにはかれたそこのあたたみを、…ねぇ。感じる?猶も、感じる?もう、ときには瞳孔をふかく翳らせてしまいながら。わたしに専門的な知識はない。ただ、直感的に、女性が感じるというとには不穏さがある。まして絶頂をなど。そもそもそんなもの射精する肉体にこそ必要なのであって、迎え入れる肉体は、だから咥えこむためのうるおいが滲む程度の感覚があればよいであって、女性のからだがほんとうにその肉体の生体機構の必然として感じているのだとは、わたしはなぜか、想えない。実際、絶頂する男の肉体のみすぼらしい素直さにくらべて、女性のそれには妙にいかがわしい複雑さがある。そんな気がする。あるいは、狂気が。男の肉体の絶頂に、基本的に狂気はない。だから巨大な錯覚だったのではないか。ランが、たとえ噓いつわりもなくわたしのまなざしにさらしたそれも。奉仕されるかぎり、なんどもさらしつづけたそれらも。もし、心が噓いつわりもなくただ錯覚していたなら、錯覚はそれでも猶も、あるいは故にこそ
感じる?
なに?
真実なのだろうか?
感じる?
ほら
ひょっとしたら
微動。わずかな
気づかないうちに
絶頂など無縁な肉体が、しかし
微風に
かかとを
赤裸々にそこに
ささやかな、あの
ぬらしはじめた
迎えたもの。快感の、
微動。わずかな
雨。雨の
だから、
微風に
ふりそそぐ
愛。それいがいにはもうなにもない
ささやかな、あの
ななめの
歓喜。頂点。いくどめかの、だからそのいくどめかにさえ猶も満足しない。ランが?だけ、ではなくて、むしろわたしこそが。ただ、わたしだけが。もっと。知っている。ランは疲れ果ていた。もうそっとしておいてほしいはずだった。ただ指先でだけ、舌で、肌で、いやおうなくいつくしまれながら、しかしそれではなかった。それは、もとめたものでは。ランがほしがっていたもの。肉体の充足などでは。ただ、いのちの契機。発芽の、そしていのちそのものが、…ラン。指を、くちびるを、顎をふるわせて、それでもわたしがもとめつづけるからランももとめた。もっともっと貪欲な歓喜を。実は、歓喜の雨などなにも
感じる?
なに?
ふりそそいではいない月の
感じる?
ほら
沙漠に。その砂に。砂をもう、海のできるほどにうるおわせて。だから月の、その不意の海のさざなむみなもの表面から、底の見えない深海の闇のふかみにまで、須臾にもさまよいつづけ、ゆらめき、海。月の海。さわぐ。波。わななき、月の海があたたかみを散らし、…ね?
「なに?」と。そこに葉子はささやく。だからたぶん十六歳の?わたし。その耳に、「なに?」
それは、なに?
ね?
「ね?」
ふきかける。息。ハオ・ランはいない。ビラ・モデルナだから。肌。息を。海。月の。溺れる。しかも醒めた肉体のいとしいランは、だから「なんで、好きなの?」
さっきまで、そこで
いつか
「油絵?」
もう、耐えられないと、だから「ずっと、描いてる。…暇が」
ためらいもなく
あなたのように
「いいじゃん」
なにが?もう、もたないと、だから「あれば、たぶん」
唇を咬んだの
ほほ笑んでみたい
「なんか、」
虐待?…ただ「暇がなくても」
なに?
ね?
「不都合?」
いとしさと奉仕。それら「ママ?」
それは、なに?
たしかに
「…ま、」
やさしい感情だけに「ぜんぜん。…好き。ママ、ね」
さっきから、そこで
ぼくらは、みんなを
「臭いよね、実際」
つきうごかされて、ゆびさきに「好き。描いてる」
うつむきながら
しあわせにするため
「おれも、この匂い」
舌に、ふるえ、「雅雪。…将来」
失禁しかけた
生まれてくる
「きらい」
ふるえて、しかも「画家さんになりたい?」
なに?
ね?
「別に?」
ふるえつづけて「誰が好き?」
それは、なに?
いつか
「画家?」
波。だから「だれ?フェイヴァリット」
さっきまで、そこで
あなたのように
「ゴッホ」
月の海に「ママもかいてよ。ゴッホみたいに」
猿轡を咬み咬みしめしかも見事すぎる
やさしくなりたい
「いびつじゃん。あれ。…いいの?」
そのみなもに「知らないんだ」
ブリッジを見せたの
ね?
「なに?」
厖大な「ほんとのゴッホ」
なに?
たしかに
「実物?」
飛び散る、青い「しずかなの。すごく、…」
それは、なに?
ぼくらは、みんなを
「見た?」
綺羅。それら「広島で、見なかったね。まーは。…庭」
さっきから、そこで
守ったげるため
「庭?」
青い綺羅めき。「庭に、しろい家。すっごく、しずかで、けなげなくらい」
失笑とともに、ふと
生まれてくる
「おれも、」
なぜ?「健康なの…ごめん」
自決しかけたの
ね?
「なに?」
その海を「こんど、いつか、行こうね。一緒に」
なに?
いつか
「いいよ…体調」
照らすから。あさく「連れてっていってあげてれば、…わたし。ごめん」
それは、なに?
あなたのように
「いいよ。…だいじょうぶ?」
海のすれすれに「ぜったい、こんど」
さっきまで、そこで
すなおになりたい
「誰がすき?」
のぼった月が「ママ?」
声もないまま
ね?
「絵描きさん。だれ?」
だから「まーくん」
埋まってったの
たしかに
「じゃなくて、」
ひたすら青い「モンドリアン」
なに?
ぼくらは、みんなを
「まじ?」
青い月が。それら「ね、…」
それは、なに?
導くため
「わかるの?抽象とか」
海に青く「好きだよ。わたし。あのひと、」
さっきから、そこで
生まれてくる
「なにがいいの?」
綺羅らは青く「つつましいじゃない?」
ひとり、じぶんの
ね?
「まじ?」
青く綺羅めき「押しつけがましくない」
肛門をなぜたの
いつか
「間違えてない?それ、だれかと」
青く綺羅散らし「しかくい線のひとでしょ?」
なに?
あなたのように
「まじだ…」
青く綺羅散り「いちばん、すき」
それは、なに?
けなげになりたい
「…そっか。それ」
ただ、ひたすらな「彼が、いちばん」
さっきまで、そこで
ね?
「すっげぇ、意外」
青の
すすり泣きか
たしかに
「すき」と。だから、…え?と。そしてふいに清雪は吹き出した。笑った。「なに?また、夢でも見てた?」
ん?
「じゃなくて、」
「やめてね。最後までそういうすかした、」お前の声がちいさすぎたのだと、なぜかそう返す気にならなかった。その画像通話。Lineでわたしを呼び出した清雪に。そもそも集中力のたもてない会話ではあった。ひとりぐらしのこと。そして、最近つきあいはじめたという女のこと。もう、と。ささやく。ぼくも自由になっていいかなって。…敦子から?言えなかった。そんな核心に入り込んだ問いを投げる余地など、そのただ稀薄なだけの会話。こころここにあらざる清雪。迂回しつづけた会話。迂回をかくしもせず、あまりにも繊細な、清雪。声。実際、かれがそんな些事を云いたくて、その二十歳になる直前の二月、通話をいれたとは想えない。また、清雪じしん、想わそうともしていない。清雪の、やや伏し目の、しかしもうなんらの翳りもないまなざしをあやぶんだ。見慣れた、目にどうしても馴れてくれない眉。泣きながら無理やり笑ったような「お願い、ある。ぼく」
「金?」
「まさか。もういらない」
「女?」
「もういる」
「男?」
「一緒にしないで。雅雪さんみたいにやりたい放題じゃないから」
「ひどいね」笑うわたしに清雪はもう笑顔さえ返しはしなかった。ふいに、さらに殊更いじょうに声をひそませて「二月の、十九日」
「清雪デー・イブじゃん」
「覚えてた?…意外」
「誕生日、忘れたら敦子に怒鳴られる」笑んだ。わずかにだけ清雪は。憐れみをせめて投げてくれたかに想えた。
「インスタ、やってるよね?」
「ほぼ稼働してないけどな」
「知ってる。その、ライブ見てよ」
「なんで?」
「見てほしいから。雅雪さんにも」はっきりと、そのときには彼がなにをすると察知したわけではなかった。だが、容赦なく恐れという以上の、まして疑いなど、そんあ曖昧なものではなく、…だから、なに?昏い、冷え切った、しかも暑苦しい不穏なかたまり。それだけがわたしの喉を咬んだ。なぜ?その「…なに?」清雪。もはやまっすぐにわたしを見ていたまなざし。あまりに真摯すぎて?あまりにも素直すぎて?あまりにも「秘密。…」
「やめろ」
ふと、清雪は呆気に取られた。…え?と、「なんで?」
「やめろ」
ようやくゆるんだ、頬。清雪。だからはじめて素直にゆるんだくちもと。素直な笑み。ふと、ほのめきを見た気がした。「…それは、」しかも「無理だな」
「おまえ、」
「もう、」ささやく。「決めちゃったから」
沈黙。
わたしは。
それ以外、すべはなかった。
なにも知らない。事実、わたしは彼がなにをしようとしているのか、なにも。具体的ななにをも、察してさえ。おののきと、おびえと、そして焦燥があった。耐えられなかった。説得したかった。なんでもよかった。ことばがなかった。ただ、傷みに噎せた。ながいながい沈黙があった。そう思えた。時間的な事実など。ただ、むさぼるように清雪を見つめた。ふれることさえできなかった。液晶画面はあまりに無能だった。もう、と。そして清雪はささやいた。「切る」
液晶を操作しかかる指先にわたしはなにか、不意にとどまったその指。…ね?
「なに?」
「ごめん」
口ごもった。清雪が、そこに。あまりにも、なぜか、けなげに。
「笑ってよ」
ささやく。
「なんか、やっぱ、」
そっと、まるで
「笑っててほしいかな。…いつもの、なんか、馬鹿にされてるみたいな、」
耳に吐息をふきかけたような。声。ことば。枯れていた。わたしにも。尽きていた。だれにも。枯渇していた。ささやくべきだった。叫ぶべきだった。わめくべきだった。思いついたように、やがて清雪がささやいた。ぼくのこと…と。
なに?
ただ、喉の奧にだけわたしの声がひびき、「好きなのかって?」わたしの耳だけが、直接その声を、「おまえを…」
「切るね」
通話は切られた。見ていた。ただぶざまな画面を。通話終了。それだけ。なぜ言わなかったのだろう。無理やりにでもその耳に。清雪に。なぜ伝えなかったのだろう。なぜ伝えられなかったのだろう。云うべきだった。すくなともそのとき、すくなくともその須臾にだけでも慥かだった、間違いようもなかった、だから本当の気持ちを。
真実を。
清雪の指定した時間にランはまだ眠っていた。わたしの傍ら、終わった夜のまま素肌をさらし、わたしにしがみつき、だからからんだ腕と足。完全な脱力。ふかい、あるいはあさい?しかし、慥かに幸福な眠り。耳にふれる寝息。ただやすらかで、そして、わたしは律儀に清雪との約束につきあってやる。ベッドに身を横たえ、あおむけた、もう、朝焼けさえすぎたあかるみに。ライブ・スティームが始まったとき、最初に映っていたのは一人の、華奢な
流波 rūpa;破
鎖骨の接写だった。調整?カメラの。すぐとおざかる。あとじさりに。清雪ではない。少女。おさない。清雪にくらべてもはるかに、…未成年。たしかなのはそれだけだった。歌舞伎町でつかまえたにちがいない。困惑のある目に、世慣れなさと、世間ずれの不埒とが同居した。あの町の女たち。そのひとりがメイクなしの寝起きの素顔をさらして、無防備にそこに暇をつぶしている、と。そんな。のちに、すぐさまに彼女が飛び降りて仕舞った事実をは知りもしないままに、だから、たとえばモディリアーニ。そのモデルの女。あんな、いたまさなど少女にはまだ、なにも。その決意など、気配さえ。
少女は一分に満たない間、そのまま画面のこちら側を見詰めていた。音声はなかった。カメラを見たまま、自身が背後に隠して仕舞っているらしい誰かに話しかけているように見えた。ときに顎が返り見かける。ささやきつづける。さかんに唇がなにかを、むしろ事務的な冷淡さに。不意に画面が疾走した。空間が揺らいだ。不快でぶざまな須臾の後、画面ははっきりとビルの屋上に座っている清雪を映し出した。ようやく隅にちらつきつづけた昏い白みと赤裸々な青みが、空の、大量に雲を散らした色だったことを気づかせる。ビル。屋上。階段入り口かエレベーター建屋の背面の壁。そこに旭日旗が掲げられていた。あざやかな白と赤。放射。そのこちら、清雪はひとり胡坐をかく。一瞬、その眼が彼の左の上の方のなにかに気を取られた。だから、カメラのこちらに、少女?須臾、他人の、しかも異性の、さらに未成年の、そのまなざしを共有した錯覚が不用意に、しかし、一瞬だけ。
笑っていた。清雪は。下は柔道着かなにかのようなもの。それそのものだったかもしれない。空手なら、壬生たちの愛好する武道だった。ただ清雪が彼らの趣味を好んで取りいれるとも想えない。無防備に笑んでいた。わたしを、…たち、を。直接見つめているかの笑い顔が、もちろん知っている。もちろん、わたしたちになど彼は。ただ、少女。カメラを構えた、彼女にだけ。
視聴者としてカウントされている126人。その、こまかく増減をカウントしていく数字。示されたまなざしの大半もおなじ錯覚のなかにいただろうか?おもわず笑みを返してしまっただろうか。わたしとおなじように。自分だけが清雪に見出されているかの立ち去らない感覚。それを自嘲しつつ、しかもそっと楽しみさえしながら。恥じらいながら。そしてじれながら。見惚れながら。ふと嫉妬さえしながら。
上半身はだかの清雪はまさに美しかった。想えば、はじめて見た裸身だった。すくなくとも、わたしは。その清雪はあかるかった。邪気などなかった。悲痛な翳りがあった。泣きながらほほ笑んだに似た、いつもの不穏を眉は描き、ひかりのかげんが更にいたましさをだけさらけだす。笑んでいただけなのに。切れ長の冷静なまなざし。いかなる情熱をも感じさせない。眉の不用意な思いつめた悲痛が、その完成度の高すぎる顔に未完成な隙間をあたえた。と、打ちのめされてきたのだ。清雪は。と、凄惨な虐めにあって来たのだ、と。清雪。咄嗟にわたしはそう認識した。確信?いや、むしろ当たり前の事実として。
いま画面が捉えている少年が、男も女も含めて強烈な憎惡に出逢わないでいられるわけがなかった。かれの総てが壊せ、と。壊せ、ぼくを。ただ赤裸々にそう命じている。そんないぶきがあった。正則をもふくめ、敦子をもふくめ、いつくしまれるわけがない。また、いつくしみが単純であり得るわけがない。その容赦ない美少年は、たしかに、わたしたちの耳もとにささやきかけていた。あなたは、…ね?と、出来損ないなんですよ。
死ねば?
カス。あまりにもあざやかな、無言かつ明晰な表明。女の手から短刀を受け取った。一瞬、ぶれたカメラ。逆光が横から。ひかり。白濁。画面は、そしてほほ笑み。清雪の、やさしい笑み。ふれたものすべてを壊してしまいそうな、あやうい笑みのあざやかさ。いつもの。これからアルバイトにでも出掛かけて行こうとしているような、そんな当たり障りのなさで、——矜持?無理やりの。せめてもの。この期に及んでも冷静でいられる自分を誇示した?あるいは、じぶん自身をこそそう説得する?とまれ、なんら切迫感はない。無造作に背を伸ばした。ひとこと少女になにか云った。瞬間、いきなり清雪は腹に刃を突き刺した。
こんなにも、と。一瞬、眼を疑ったほど、まなざしは見ひらかれた。燃える瞳孔はひたすら凝視した。なにを?傷みを?情熱。無際限に燃えあがり傷み。燃え広がり傷み。灼けついた傷み。横に引き裂こうとした腕が、何度も力の限りにわななく。気づいている。腕の筋肉は。腹を割くためには腹の筋肉の強固な緊張が必要だった。なにものも引き裂き得ないほどの。緊張し切った筋肉。張り詰めた極度に腕はぶざまな痙攣をだけさらす。わななく。そのたび内臓は抉られた。血が散る。抉りだす。飛ぶ。染める。こぼす。染まる。充血した眼。顔貌さえ染める。腕。もはや腹をただずたずたに突き刺しているだけにすぎない。後ろ向きに清雪が、見苦しくひらいた両足を引き攣らせてひっくり返る一瞬に、そのひろげられきった眼差しに知性が戻った気がした。見た。いま、見た。慥かに須臾のまなざしは、あきらかに捉えたそれをはっきりと、鮮明に、なにを?認識。しかも、同時にすべて忘却してしまった、そんな、…なにを?茫然と恍惚と歓喜とに、なにを?…それ。なにを?
なにを?
なにを?
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