アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -117 //空。あの色を/沙羅。だからその/あなたも、まだ/まだ知らない//05





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





謂く、

   …に?それ、なに?

   ん?…そこに

   さっきまでずっと

   ちりかけていたもの


   …に?それ、なに?

   ん?…そこに

   さっきからずっと

   ちりかけていたもの

謂く、

   …に?それ、なに?

      やめてその

    燃える?そこに

     くやしいから

   ん?…そこに

      まなざしさえいたっ

    波紋。ひろがれ

     まばたきさえくばっ

   ちりかけたけもの

      いたいから

    気絶しかけて

     せめてその

   ちりかけていたけもの。散った。しろく。好き勝手に。散った。しろく。無造作に。散った。しろく。舞いながら。散った。しろく。ふるえるように。散った。しろく。舞いあがりかけ、落ちた。しろく、しろい沙羅の花。そのたくましい高木のはるかな高みがおとす、はかなげな花弁がそっと、わたしの顎に。ひたいに。やがて鼻孔に、せき込む。唐突な肌ざわりに、引き攣ったに似て。だから、鳩尾にみだらなランは、邪気もなくわらう。気づかない。ランは、じぶんの髪の毛さえもう、沙羅の花を咬みくわえていたことにさえも。身をよじり、起こしたそこ、ランに

   ふれて

      せつないくらいに

跳ね落とされる恐れを

   ふれて、やさしく

      そっと

与えてしまいながら、

   ふ

      ふしだらなくらいに

ふれる。くちびるは、ラン。その頸すじのおわりかけに。あやういそこ。胸もとのいまだはじまらない、そこに。あばらさえ這いはじめない鎖骨。そして鎖骨。そのあいだ。くちびるは知らない。だからそのタオも。知らなかった。不用意な、言葉もないせめてもの愛の告白の結末の無慚に、壁のむこうに身を隠した彼女は、物音さえたてなかった。そう思っていた。事実そうだった。しずかだった。もはや、タオの息をひそめているかに想える沈黙の存在を忘れかけた。だからタオの存在さえも忘れかけていた。わたしは見ていた。液晶画面。見るともなく、そのくせ画像に集中力などいっさいもてない散漫のなかに、ピエト・モンドリアン。ネットで、適当に検索すればでてくるそれら、後期の

   いつ?いつか

      秘密だよ

コンポジション。過渡期の

   少年の、あやうい

      きみが、いま

十字。彎曲線の

   自慰に、その

      滅びたこと

樹木。あるいは、

   瞬間に

      きみのママには

樹木のいぶき。やがては

   思い出した。その

      きみのパパには

初期の、たとえば

   モンドリアンの

      きみ自身にも

花の絵。最愛の

   花。赤

      秘密だよ

画家の絵にさえ

   傷かった。わたしは

      きみが、もう

集中できずに、しかも

   屈辱を

      自滅したこと

なにもを

   咬み、冒瀆、…

      ともだちには

考えるともなく、

   と、ふと

       恋人たちには

タオ?完全に忘れている。タオなど、あるいは集中の不可能のただひとつの理由にほかならなかったタオの…あるいは、涙?

   だれも

      波が、波さえ

悲嘆?

   だれもが

      しぶき。しぶくさえ

すすりなき?

   叫んだ

      飛沫が。散るさえ

壁の向こう。

   泣いた

      波が、波さ

思いつかなかった。そんな可能性など。忘却。ひびき。ちいさな。機械式の爪。おなじく機械式の突起を…機械のボディの乳首をでも?ひっかいたような。そんな。なに?知っている。それがなんのたてた音かは。知らない。なに?必然がなかった。だから、そうだとは思いつききれなかった。だが、もう知っていたのだ。すでに心は。すくなくともこころとでも謂ういがいに不幸にして名づけられていなかった意識と無意識とのすさまじい総体。もう。コンロ。ガスコンロ。やがて匂った。肉を焼くような。鼻の、しかもちかくで腐った肉を。…と。そう謂って仕舞えばそれとこれとの現実的なあまりもの乖離に不快を咬むしかない。それ。難解な惡臭。焦燥?ふいに焦燥が兆すまえにはわたしは壁を越えていた。立ち上がり、走り出していたから。タオの存在さえまだ想起されない。こころ。無垢。すぐさまにキッチンに飛ぶ。壁。もうひとつ。もうふかい翳りを越えた。まなざしは見た。そこ。それ。タオ。コンロに顔を半分だけおしつけていた。だからわたしと目が合った。腰をまげたタオ。水平にのばされた上半身。足もそろえてまっすぐ床をふんでいた。コンロに火。匂う。焼かれる皮膚。肉。タオはじぶんの顔の半分を、…なぜ?その肌はもう、うっとうしほどにあなたがにじませた汗の味覚を、しかも甘美にわたしにつたえると、だから、あるいはみだらな陶酔の須臾にわたしはまばたき、かいだ。わたしはタオの生きた肌のたてる臭気を。その充満を。すいこんだ。肺いっぱいに、だからラン。その、もういやらしい発情をかくす必然もなくて、ただ赤裸々で、なんらみだらさも陰湿さもないその肌にさえも見蕩れた?そのときにわたしはタオに。その残酷に。その苛烈に。むごたらしすぎてむしろ滑稽にさえ想えた自虐の極致にふる。ふれる。ふり、ふりおちてふれ、ふれる。こぼれ、こぼれおちる花。その花。沙羅。しろい、その沙羅の花は、…沙羅。まっしろい花弁は、まるでランのあざやかな褐色の肌にさえ恋したかにも錯覚されて、瞳孔は開いていた。わたしに剝いていた。琥珀いろの虹彩。焰の焼かれる。赤く見える。錯覚?狂気はない。感じない。目。ただ冴えて、冷淡なほどにも冴えて、そう見えて、そこにもうなにも見てはいない目。のけぞりかえってそのランはふたたび、だから願った。もっと、ラン。その肉体を、ラン。汗を粒だたせしかもながれさせる肌を、ラン。もっと。なにもかも赤裸々な快感でだけでつつみこまれていてもらいたいと、わたしはもっと。もっと。もっとせめてしあわせになるべきだった。わたしたちは、しあわせであるべきだった。快感など、しあわせの末端にも属さない。しかしいまランがそれにつつまれかけているなら、もっとランは埋め尽くされるべきだった。わたしのからだのうえで。わたしの肌で。わたしのゆびで。舌で。ふれる髪。息づかい、それらすべてでなぜ?

その唐突な、すべてだいなしの

   花汁

      笑え

破壊を?

   ぢる

      ほら

タオ。

   ぶぢっ

      軽蔑的に

なぜ?

   鼻汁

      笑え

いきなり、

   ぢる

      ほら

容赦ない

   ぶ

      声もなく

自己破壊を、わたしをも巻き込んでもう燃えあがって仕舞えばと。ラン。わたしをも撒きぞいに、ラン。沙羅の雪。汗に。みだらなうるおい。ここちよさ。快感。ゆらぎ、みちびくまま内側から発光し、そしてついには燃えあがって仕舞えばとひきはがした。タオを。頸をひっつかんで。傷み。ゆびに。火。瞬間、なぜ?ふれたから。火が。まなざしの至近。焼け爛れたタオ。ない。いまだ焼け爛れた色彩など。かたちもなにも。定着しない。まだ。傷み。傷みにのみ噎せ返る肌、しかも麻痺。傷みなど、…なに?だから肉の混乱を、——なぜ?タオのくちびるがひらきかけた。歯を咬んでいたことを知った。身をのけぞらした。わたしは。警戒?口づけを?わからない。そしてそこにひとり、タオはいきなり空気を吸った。右の虹彩が真っ赤だった。もう、見ていた。もう、白目さえ向きかけ、そしてひっくり返りそうになりながらも息を吸うタオを、謂く、

   なに?それは、なに?

   ん?…そこに

   しかもずっと

   見つめていたもの

謂く、

   …に?それ、な

      ふいに

    やめて

     ためらい?

   ん?…そこに

      唐突な、なに?

    その、かすかな

     なぜ?いま

   しかもずっと

      停滞。ふいに

    まばたきさえ

     ためらい?

   見つめていたもの

謂く、

   なに?それは、なに?

   わたしの眼に

   突き刺してください。その

   せめて、針を

謂く、

   …に?それ、な

      睫毛が。ふいに

    やめて

     逡巡?

   わたしの眼に

      ふいの、なに?

    その、かすかな

     なぜ?いま

   突き刺してください。その

      睫毛が。ふいに

    かたむきさえ

     逡巡?

   せめて、針を

謂く、

   人間って云っとけ

   そんなもん

   どこにもいねぇ

   けど、目を抉れますよ


   人間って云っとけ

   貧乏人にゃ

   杖もねぇ

   けど、目をくりぬけますよ

謂く、

   はい。人間です

      なになになに?

    汗?それ

     一本腕の子供は

   目を抉れますよ

      は?まじ?は?

    いま、さ。額、さ

     人間じゃありませんね

   くりぬけますよ

      なななになになっ

    汗?それ

     死にます

   はい。人間です

壁に背をはわす。タオは。手のひら。ひだり。壁をさぐりった。わたしを見つめて。威嚇?タオ。いつおそいかかるかもしれないわたしを警戒し、そこに。放された手。わたしの。野放し。タオは。遠ざける。タオは、わたしを見たまま、後じさりし、だから、やがてややとおまきにタオを追った。刺戟しないように。わたしの警戒。だれのために?タオのために?それいじょうの自虐がないように?わたしのため?彼女に加害されないように?咬みつかれないように?せめてわたしだけは無傷でいられるように?事実、無傷だった。わたしは。ひそめた

   一本足でうまれました

      たてがみ燃やすぞコラ

声。つぶれた、

   三本足でした

      莫迦か?オラ

だから、ひそめた

   ぼく、まだ

      スフィンクスは頭が悪い

感情。喉の

   人間ですか?

      スフィ

ふるえ、タオ。ゆっくり、うしろむきに、タオ。ときに、たとえば椅子のふちにひっくり返りそうになりながらも。その騒音に猫を駆けさせさえしながらも。ひかり。やがて。段差にあやうく転げかけ、息。詰めた息。ふいに、だから、わたしがそっと舌をさしこんだときに。花。その沙羅の花のしたに。もう、花のしろい色彩がいつ舞って、いつおちたのかさえ気づかずに、確認。わたしは、容赦なく。息をひそめて。ラン。そのやわらかな体内のかたち。あやうい舌ざわり。味覚。汗に似た、潮の、それよりももっとあわい、…海?あさい、…波?ほのかな、しかも執拗な光り。もう全身をふりそそぐ夏のひかりにさらし、焼かれた半分の顔。かくすすべはない。かくそうともしない。素足だった。気にしなかった。庭。そこに、タオ。しろい花。色葉?わらっていた。むしろ。声はなかった。泣いていた?涙も

   ぶったぎられました

      たてがみ燃やすぞコラ

なく。過呼吸にも

   手足がありません

      莫迦か?オラ

見えた。開かれきった

   ぼく、まだ

      スフィンクスは頭が悪い

口蓋。

   人間ですか?

      スフィ

くちびる。頸。胸もと。それらのみの、痙攣。花の樹のしたに、タオ。翳り。しろ。立ちどまった。仏間のふちに、わたしは。見た。そこに、声をたてて笑えばいつもまなざしは、その昏い色彩をうしなってしまう。狂暴な気配のまま、いきなり知性のない愚かしい顔に振り切れてしまうタオ。その、いわば白痴の顔をわたしは見ていた。あるいは、抉ろうとしたのだろうか?たとえば、オイディプス王の戯曲のように。もはやなにをも見ないように。両眼をつぶそうとしたのだろうか。焰をもって。タオは。焰に煽られた燃えた顔の虹彩はもう、むらさき色に変色し、なら、やがては

   片足のじじいいです

      たてがみ燃やすぞコラ

青く?

   かろうじて二本足です

      莫迦か?オラ

澄んだ、まるで

   ぼく、まだ

      スフィンクスは頭が悪い

空。ブルーに?海より

   人間ですか?

      スフィ

むしろ、ひたすらな空のひたすらなそのブルーに?見てる?…と。ふとおもう。わたしは。ラン。いつも眼を開いているラン。くちづけにも、失神にちかいあやうい須臾にも。なにをも見てはいないのに、ラン。瞼をとじないかたくななラン。レ・ハンさえ下卑て指摘した。邪気のないあざ笑いとともに。いたずらな虹彩。あおむけのランはいま、ふたたぶ空を?沙羅の木漏れのむこう、かさあった翳りの切れめに、空を?ブルー。葉と花の厖大にさえおおわれきらなかった空。見飽きた青。赤裸々なブルー。とおざかってゆくタオを見ていた。わらいながら…ら?わらいながら?…ら?泣き、ら?なに?タオ。やがて大通に出た。タオはそのままどこかへ行った。その日帰ってきたランはささやいた。また、タオよ。

   ごめん

      なんですか?

タオ?

   きみ、人間

      やめてください。そこで

家出したのよ。いま、いないのよ、どこにも。

   ごめん

      自慰しないで

深刻な

   きみ、

      匂い嗅が

顔。ラン。こんなパンデミックの時期に。まだ、いつ終わるかもわからない、コヴィッドたちの舞う外気のなかに。謂く、

   隠れていれば?

   籠っていれば?

   隔離され

   隔離してれば?

謂く、

   隠れていれば?

      スフィンクスはし

    逃げ出そうよ

     死にませんでしたから

   籠っていれば?

      死にました

    どこかへ行こうよ

     生まれました

   隔離され

      生まれませんでしたから

    逃げ出しちゃおうよ

     スフィンクスはぅっ

   隔離してれば?


   あなたの肌に

   爛れた肌に

   その細胞にも

   繁殖します


   いぶきます

   いきいきと

   元気です

   だから、そっと

謂く、

   いぶきます

      受け入れないよ

    哄笑。あるいは

     殴られますよ

   いきいきと

      そんなあなたを

    排斥。あるいは

     蹴飛ばされるよ

   元気です

      あなたの異形を

    忌避。たぶん

     ぶち込まれるよ

   だから、そっと


   隠れていれば?

   籠っていれば?

   隔離され

   隔離してれば?

謂く、

   隠れていれば?

     スフィンクスはぅっ

    放たれそうだよ

      生まれませんでしたから

   籠っていれば?

     生まれました

    流出するよ

      死にました

   隔離され

     死にませんでしたから

    とめどなさそうだよ

      スフィンクスはすぃっ

   隔離してれば?


   あなたの肌に

   爛れた肌に

   その細胞にも

   増殖します


   いぶきます

   いきいきと

   元気です

   だから、そっと

謂く、

   いぶきます

      目を背けるよ

    侮蔑。あるいは

     壊されますよ

   いきいきと

      そんなあなたに

    軽蔑。あるいは

     追い廻されるよ

   元気です

      あなたの異形に

    拒否。たぶん

     ぶち込まれるよ

   だから、きっと


   外はただただ

   苛酷だから

   外はただただ

   苛烈だから


   ここはただただ

   救いがないから

   ここはただただ

   絶望だから

謂く、

   外は苛酷

      ひみつだよ

    洗う?海

     言葉がなかった

   苛酷。苛烈

      ひみつにしとくよ

    海の潮水で

     明かすべき

   外は。ここは

      ひみつだよ

    その塩で

     言葉がなかった

   無慈悲。絶望


   外はか、か、か

      しらねぇよ

    洗え。海

     言葉がなかった

   かっ。苛烈

      おめぇクソだよ

    海の潮水で

     救うべき

   外は。ここは

      しらねぇよ

    その塩で

     言葉がなかった

   む、む、ぶっ。は?絶望







Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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