アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -105 //ふれていたのだ/あなたの目覚めに/その唐突な/沙羅。だから//04
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
謂く、
あくまでも気弱な
豚の一瞬の惡意に
そのためだけに
その肛門に咲いた紫陽花のために
雨は降った
やさしく降った
わたしの爪に
火をともしてくださいませんか?
謂く、
雨は降った
咀嚼してあげられたら
ください
顎で
やさしく降った
ぼくの凶暴な
きみの、かなしみ全部
ぼくの野蛮な
わたしの爪に
歯で
ください
くだいてあげられたら
火をともしてくださいませんか?
ロビーをくぐった。咎めるものなどいない。二棟かけもちのレセプショニストは、だからそのときも不在。ただ、作動するカメラだけが、そして沙羅はあわいやわらかな翳りをくぐった。褐色の肌が昏んだ。正面にひらかれたガラスばりの待合い。投げ込まれるひかり。ながい明るみは肌に。沙羅の褐色のはかなさを感じた。作動する監視カメラの赤い点滅。見ているのだろうか?百メートルすこし向こう。あの、甲高い声ではなすレセプショニスト。どんな顔で?液晶画面の鮮明な映像に、沙羅のふしだらを。あやういすれすれに、汗ばんだ沙羅の体臭が匂った。たわむれかかった。だから
いつでもぼくらは
散る。不用意に
白痴の
やさしすぎて
きみに、汗
笑い。そして昏い、絶望のまなざし。それら、交互の交錯。嘲笑と絶望が、おなじ顔に交叉した。自動ドアに、ひらかれきらないままに、いきなり走った。沙羅は。頭上のちいさな赤いセンサーの明滅など。ガラスのドア。ふたつに引き裂かれた、そしてひかり。ただ、あふれかえっていたひかり。外気。温度。熱気。沙羅はなにをも返り見なかった。知った。思った。昏んだ、と。その目が、沙羅。いきなり横溢したひかりのせいで。走る沙羅。追う肌に、ひたいに、眉に、睫毛に、網膜にさえも、もはや赤裸々に熱を咬ませるひかりら。氾濫に噎せた。熱に厭い。死体。ラン。発熱する肉体はいぶき、息づかい、すでに。たしかに。死体。ラン。執拗に汗ばんだ。生きた体液。にじみださせつづけ、寝室の熱気の籠り、しかもじぶんの発熱にももう、ランは抵抗しようとさえしていなかった。最初の体外受精の失敗に、ランは。いきなり「人間って、さ」
「…なに?」
なぜか発熱し、その
「基本、みずぼらしいじゃん」
永遠に
完璧に
「そう?」
高熱。ひたいに、あるいは
「かわいいね。基本」
このまま、ほぉっと
ささやかなくていいときに
「なんで?」
肌にふれるまでもなく
「みすぼらしすぎて」
ほほ笑んでいれば
くちびるは
「お前も」
添い寝するだけで赤裸々な
「人間だろって、でしょ?」
ね?
ひびきを知る
「違う?」
高温に伏せ、病院から帰って来るなり
「…から、いうの」
永遠に
完璧に
「なんで」
ベッドに
「人間越えてるって場所で妄想しないと、人間なんて見えないじゃん。これ、目の物理的限界でもある」
「莫迦?」邪気もない十五歳の清雪のことばにわたしは、しかし素直に笑んだ。その年の三月はあたたかく感じられた。そして、かれの頬、あるいは口元にふと感じた気がした芳香——まだ熟れなくて、熟れもしなくて、調整されてないまま野蛮な?…瀟洒。典雅。風雅。暴力的なそれ。わずかに、強烈な色気をしのばせた少年の匂いを嗅いだ。汗をもはや肌に粒だたせ、ついに流し、こぼし、したたらせはじめてからもう、一時間ちかくたった肉体。ラン。だから、絶望の女。ラン。カミーユ・コローの描いた、絶望的なまでに醒めきった女たちのように、とりつくしまもない
Buồn...
ぼろぼです
存在。扇風機をつけようとした。事実、廻しもした。ランは
Buồn...
ずだずだです
拒否した。なぜ?
Em buồn
ぐちゃぐちゃです
傷いから。
Vì Ma buồn
びちゃびちゃです
傷い?
Em buồn
でろでろです
傷いから。
Buồn...
ぎぼぎぼです
風が?…傷いから、と。ラン。籠り、籠るしかない夏の熱気。六月。灼熱。汗。添い寝のわたしのひたいにも吹き出た汗がしたたって、ランを余計にぬらしていた。思いついたようにしあわせ?とその
Buồn...
いたっ
ランがささやき、…え?
Em buồn
い、い、い、
幸せ?…おれ?
Vì Ma buồn
いたっ
しあわせ、…
Em buồn
ゔぃ、ゔぃ、ゔぃ、
わたしは、と。その
Buồn...
ゔぃたっ
くちびるが、ただ、そこにHappyと。ランにとってもわたしにとってしょせん外人の異語にすぎないその単語。口走ったときに、ふいに、ランの双渺がとけた。くずれた。涙。滂沱の涙に。容赦なく、留保ない洪水。しゃくりあげるひびきさえもない。わたしは憎んだ。涙を。かろうじて保たれていたランの小康。ささやかなわたしたちの憩い。…に、まではたどりつけなかった、ささやかな安楽?…までにも、たどりつけなかった、傷みの須臾の
忘れさせて
猫が、ふと
忘却。
あなたの愛さえ
虐殺の夢を
ほうっておいてほしかった。もう、
その
夢を見た
なににも。ランの
ぬくもりさえ
あくび
こころにきざすランの思いにも。ランの感情にも、感傷にもなににも、ランとわたしたちを。右の涙に、くちづけた。たすけてほしい。願った。いますぐ、だれかに。なにかに。わたしたちを、もう「勘違い、しないでね」
「…なに?」
熱い。だから
「ぼく、基本、憎んでない」
うつくしいんだ、よ
灼熱の
「噓」
その、…なぜ?意味もなく
「ほんと。基本、雅雪さんも」
きみが、ふと
三千度超の雨こそが
「なんで?」
唐突な発熱。たぶん
「だれも」
思ってるより
薔薇。ばらら。らば
「恨めよ」
肉体にではなく、ランの
「なんで?」
この、世界
きみが咥えた
「憎んだら?」
こころが?…ただ
「飽きた…それから、」
たのしいんだ、よ
薔薇にふさわしい
「なに?」
熱い。肉体は、もう
「なんか、無理」
きみが、ふと
血を吐いた
「なんで?」
涙さえもが
「もし、ぼくが死んだら伝えてほしい。いまま出逢ったひとすべてに。ありがとって。ぼくを、たとえば壊しかけたひとにも」
「おまえ、…」言わなかった。
幸福を
ぼくに
それ以上は。
きみに
苦痛をくれ
清雪の目が、すでにかれの言葉が終わったことをつげていたから。それ以上の追及は、もはや相槌ちですまない。わたし自身の、わたし固有の時間の、わたしのことばで、だからわたし自身による清雪への追及だった。怖かった。それ以上、かれの口に言葉を聞くのが。知るのが。笑んだ。邪気もない清雪の笑みに、せめて答えようと?模倣しようと?だから「…おとなじゃん」わたしは笑っていや。その涙のうえで。くちびるをぬらして、笑っていた。涙に。その背後。逆光で、笑う。ささやきかけながら、しあわせ、と、笑う。その背筋の濃い褐色の、右半分だけのケロイドを、笑う。なぜ?いま、あなたはそんな問いかけを?やさしすぎる、その笑う。自分で焼いた、沙羅の、その、振り返れば、笑う。言葉を、やさしすぎるその涙に、と。笑う。返り見た沙羅は、その琥珀の虹彩のうつくしい反面に、笑み返した。わたしに、そこに、昏い絶望の
眼球は
さらら。ひかりら
まなざしのままで。
抉られるための臓器である
さらら
見えないはずの
睾丸は
さらら。ひかりら
ブルー。焰があたえた変色。ブルー。そこにも猶も日射しはあざやかに、だからあざやかなケロイド。変形。もつれるような。えぐれるような。変色。歪んだ半分の顔を、だから青い虹彩は見るのだった。もしもその破綻した視神経の残置物にまなざしさえあれば、綺羅を。かがやきを
なに?…そ
さして
知り、知り過ぎた街路の
さっきから
さしこんで
綺羅の
見つめられてたの
もう
横溢を。もはや
なに?…そ
ふしだらなくらい
綺羅めきに似たあかるい
さっきまで
さして
翳り。這う
見つめかけてたの
さしこんで
ななめ。色彩をも。
なに?…そ
もう
笑った、
おまえの目に
叫んじゃうくら
わたしは。だから沙羅さえも笑った。言い切れなかった。そこに、その滂沱の涙に。なぜ?しあわせと。しあわせというにはあまりに複雑な感情に、わたしはしかも、しあわせだった。わたしのしあわせはラン以外にはなかった。だからしあわせだった。しあわせでさえありえなかったほどに。謂く、
その肌に
肌。ふれ
ふれるたび
肌。きみに
そのしあわせを
願い、ただ
そのしあわせを
祈り、おののいた
なに?その
しあわせは、なに?
なに?この
眸のむこう、なに?
いとしいひと
ただいとおしいひと
あなたは知らない
そのしさわせの
かたち。しあわせの
意味も。その
あわい笑み
ほほ笑みに
爛れた肌に
反面の破壊
怪物は笑み
引き攣るように
皮膚。焼かれ
壊され、崩され
ちぢめられされ
引き攣るように
謂く、
爛れた肌に
だれ?いま
絶望をだけ
おれの?
怪物は笑み
頭、吹っ飛ばしたの
見よう。怪物
きみの?
引き攣るように
だれ?いま
その異形に
絶望。この
引き攣けるように
そのゆびに
ゆび。ふれ
ふれあうたび
ゆび。きみに
そのしあわせを
思い、ただ
そのしあわせを
もとめ、恐怖した
なに?その
しあわせは、なに?
なに?この
体温のさき、なに?
いとしいひと
ただいとおしいひと
なにも教えない
そのしさわせの
すがた。しあわせの
景色も。その
つめたいゆび
かすかなふるえに
ブルーの眸
片方の異彩
ややかたむき
ひらきっぱなしに
虹彩。あぶられ
傷められ、煽られ
破綻されられ
ひらきっぱなしに
謂く、
ブルーの眸
だれ?いま
苛酷をだけ
おれの?
ややかたむき
舌、咬み切ったの
見よう。怪物
きみの?
ひらきっぱなしに
だれ?いま
その美貌に
苛酷。この
ひらかれっぱなしに
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