アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -104 //ふれていたのだ/あなたの目覚めに/その唐突な/沙羅。だから//03
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
謂く、
だから大空に!
焰の薔薇を
沈黙のうちに
かくしていますよ
だから大空に!
燃え滾る百合を
溶解しますか?
もう朝ですから
謂く、
だから大空に!
笑ってください
なぜブッディストたちともあろう唯物論的破壊的知性が
ゆがみはじめて
焰の薔薇を
わたしの顔が
転生という妄想にだけ
あなたの顔も
だから大空に!
くずれはじめて
固執したのだろう?
笑ってください
燃え滾る百合を笑っていた。沙羅は、せせらわらうように。わたしを?だからその須臾、沙羅に見蕩れるしかない家畜じみたわたしを?その残酷な笑いに、沙羅。知っている。わたしではなかった。その笑いの酸鼻になじられていたのは。見下されていたのは。蹂躙され、台無しにされさえしていたものは。たとえば、さっきまで、そこ。そのまなざしに散っていた翳りにすぎないひとびとの影。ようやく空が明けを知ったという時間。たかまりつづける日射し。日焼けを厭うひとびとがすでに、日射しを避けながら海岸に肌を誇り、戯れていた。それら無数の理不尽。たいがいはうつくしいわけでもなく。あくまで追放されていたままに。
そして無謀な対比。粉散る女たち。衰弱してゆく女たち。もはや女をやめた女たち。若かろうが老いぼれだろうが大差ない鈍重なだけの男たち。それら、複雑に撒き散らす対比。相対的なみにくさの多少、大小、沙羅。その風景に入って仕舞えば、たぶんあなたも。たぶんわたしも。海には綺羅。美、…と。いう、ふいの嘆息さえもはや追いつけない生滅。沙羅は口をひらいた。その、声にふと
きみに、残酷を
息を、とめ
あえいだ。
きみにだけ
とめて
あえぐ。
あげよう
うすばかげろうが
だから、
きみに、苛烈を
葉影に
あえぐ。
きみにだけ
息を、とめ
だから、
あげよう
とめて
…なに?交尾の最中の
きみに、残虐を
蠅が
ホモ・サピエンスの?
きみにだけ
葉影に
あえぐ。
あげよう
息を、とめ
あえぐ。
きみに、苛酷を
とめて
あえぐ。
きみにだけ
あげはが
…なに?断末魔の最中の
あげよう
葉影に
鷄たちの?
きみに、無慚を
息を、とめ
あえぐ。
きみにだけ
とめて
あえぐ。
あげよう
蚊が
あえぐ。
きみに、悲惨を
葉影に
…なに?発情に
きみにだけ
息をとめ
呼ばう豚の?
あげよう
とめて
牛の?
きみに、辛辣を
青虫が
家禽たちの?
きみにだけ
葉影に
あえぐ。
あげよう
息を、とめ
あえぐ。
きみに、絶望を
とめて
あえぐ。…なに?
きみだけに
蛹が
声。人間の声でさえない、なに?声。なに?ささやく。だれ?雅文が、なぜ?ひとり、そこに——いつ?ささやいた。顔のはんぶんが青とグレーの焰のゆらにもてあそばれている、そんな「なんで、ここ」雅文が「ここ、わかったの?」あえぐ。もはや人の言葉ではありえない啼き声。十歳くらい?おさない「…夢で、」その「見たんだ。おれ」
「云わなかった。おれは、」
なに?それ
目のしたに、いま
「あなたを、」
「なにも」
ながれおちた
なに?それ
「見たの。…あなたがおれに」
「おれは、なにも、お前に」
不穏な
しずく
「話しかけてる。そんな」
「探し出せと、まして」
なに?それ
鼻のしたに、いま
「夢。まるで、」
「あなたにだけは」
たれおちた
なに?それ
「ほんとうの親子のように」
「来るべきじゃなかった」
あたたかな
しずく
「血のつながった」
「見るべきじゃかなかった」
なに?それ
睫毛に、いま
「父親めかして」
「会うべきじゃなかった」
したたりかけた
なに?それ
「おれに、ただ」
「だから、明日」
不吉な
しず
「やさしい声に」
「燃えるね」と。その耳元に「海が」聞く。その「おっきな、音で」
燃えるだけで
いいの?
くすぐるように
「ひびかせて」
ゆらめくだけで
こわっ
んっ…か、微風
「燃えるね」
温度のない、しかも
ぶっ壊しても
ふっ
「空が」
容赦ない炎は
いいの?
いたわるように
「いく重もの、音で」
破壊。その
ころっ
んっ…か、微風
「かさなりあわせて」
皮膚を。その
ぶっ殺しても
ふっ
「燃えるね」
肉を。その
いいの?
ふきかけるように
「風が」
神経を。その
はづっ
んっ…か、微風
「おまえの肌の」
骨までも?
ぶっ辱めても
ふっ
「至近にだけに」雅文。転生のかれがわたしの耳たぶをそっと咬むのを赦した。わたしは。…なに?と。おもわずわたしだけがつぶやいたのを聞いた。聞かなかった。沙羅は。素肌をさらし、そのままわたしの眼のまえをすどおりし、沙羅。なにも身に着けない褐色が部屋を横切った。横切りかけた須臾に返り見、沙羅が「…だから大空に!」と?云った。「焰の薔薇を!」とでも?聞き取れなかった。いつものように。獣声。沙羅。…どこへ?おもわずわたしが、——なぜ?その沙羅が、いきなり部屋のドアを
だから大空に!
網膜を
あけひろげたから。
焰の薔薇を!
背後から咬んで
入口。しかしもう
燃え滾る
咬みちぎった
外気は一気に
薔薇を!
牙。色彩
雪崩れこんだりはしない。すでに背後、バルコニーにカーテンははためいていた。暗い通路に、非常灯の緑り。赤。それら、むしろ病んだ色彩。浮かびあがった通路は沈滞していた。澱みさえ感じられた。あやうかった。沙羅。そのいきいきとした肉体が、だから、そこにいきなり穢されてしまうかに想えて。気にしない。沙羅は。なにも。だからそのまま笑い、笑うままにふるえる顔。沙羅。獣声。振り向きもしないで、翳りに沙羅は侵入した。非常灯の病が沙羅を、——死。
とどまれ
わたしたちは
死?
永遠に
それぞれ、たいせつな
死。
執拗に
いのちです
…死。だから、まるで沙羅は、死という未知の、そしてついにはふれられず、故にあるいはつねに無価値で無意味にすぎないそれ。死。死に、身投げ?死。
とどまれ
わたしたちは
死?
永遠に
かけがえなさすぎる
死。
凄惨に
いのちです
…死。にもかかわらず、過剰な価値と意味をのみ持ってわたしたちのまなざしにきらめく、…妄想。もはやそんなもの妄想。妄想にすぎない、しかも現実。暗い闇なすその通路に、——生誕?
はじけるように
パッションんだ
誕生?
生まれてみようぜ
てか、パッ
生まれ、うまれでるということ。…発生。だから、まるで沙羅は、そこがだれかの膣孔だったかの擬態を、意味深な擬態をただ、わたしのまなざしにだけ投げて、わたしだけが見ていた。沙羅。知っている。すでに。部屋に取り残されかけたわたしだけの見る目。孤立した完全で完璧で留保ない妄想にすぎない。笑う。だから、すでにわたしは——死。
とどまれ
わたしたちは
死?
永遠に
あまりに、とうとい
死。
強烈に
いのちです
…死。知っている。その死。知った。その死。壬生の、敦子がわたしの携帯電話を鳴らしたときに、…それは、「いま、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶじゃないって、言ったら?」いつ?たしか、壬生の強引な拉致から見放されるように解放された、その
「気はたしか?」
「残念。まだ発狂してない」六月?…七月?…いずれにせよ、雨。窓の外には
「じゃなくて、」
「なに?」ふりしきる、しかしやさしい雨が。たぶん窓を開け放ちさえすれば
「気を、しっかり持って」
「うぜぇよ。言えよ。莫迦」なるならえたぉ…と。そのひびき。亡くなられたのという日本語だったことに気づくのに時間はかからない。ベッドの上、永遠に老いさらばえることのできないハオ・ランの、永遠に十六歳の少女の肉体がその頸をもたげ、…だれ?
「だれ?」
だれ?と、そのハオ・ランの顔を、寝起きの、そしてやや疲れのある、しかもけだるげな、「死んだの、だれ?」
「お父様」
「だれ?」
「あなたの…」
「…は?」言った。敦子は。懐疑。なぜ?と、なぜ?その懐疑は。泣いていた。敦子が、まるでもはや、須臾にもさえも耐えがたい悲劇と悲惨そのものを見ているかの切実さで、「てか、おまえ、雅文なんかあったことさえなくね?」
「莫迦」と。
敦子が怒鳴った。意外だった。彼女の声帯に、ささやき以上の音量のあるという事実が。「関係ないから。…ね?わかる?だれのために泣いてるかわかる?あなたのためじゃないんですか?違いますか?人間ですか?血、ながれてますか?あたたかいですか?冷たい血ですか?こころありますか?病んでんですか?もうやめてください」
「お前、」
「ひとりだけ犠牲者のふりしないで!」
「うざ…」後悔した。
わたしが。最初の拘束軟禁から数週間。ふたたび家出したばかりのわたしは渋谷でハオ・ランと出逢って、隠れ家。謎めいた少女の極端に大人びた部屋。道玄坂の、…過失だった。軟禁の数日に敦子に携帯番号を知られたことは。しかもそのまま放置していたことは。変えておけばよかった。宮島で雅文からふんだくった金はまだ、ほとんど手つかずにのこっていた。壬生に拘束されるまで、雑居ビルの踊り場で夜をあかしたていたから。知っていた。最後の日、雅文が追い詰められていたことは。追い詰めたのはわたしだったから。死ねよ、と。そう云った。丁寧に、
ささげたよ
空は、青。青
耳元に。お前、
いのちを
空は、赤。赤
死ねよ。その
きみに
空は、黒。黒
ことばを、そしてわたしは雅文への残酷のためだけにせせら笑った。きびすを返し、勝手に出ていくわたしにもはや、雅文は声をかけなかった。雅文は表情のない目に、なにかを見ていた。だから、わたしを?葉子はただ茫然と、恍惚と、雅文の背後で壊れていた。外に出たときに、そしてふたたび外気を吸い込んだ時、解放感などなかった。倦怠もなかった。もう、なんどめかも知れなかった。家出など。ただ、あたらしさが、たしかに感じられた。確信していたから。彼はもう生きてはいられないだろう、と。だから壬生が拘束した数日、だれも雅文の死、たぶん自死を知らないが不可解だった。あるいは、葉子と一緒に心中ないし無理心中していたはずだった。
「知らないでしょ?」
なに?
赦して
声。それら
「お母さま…」
だれ?
わたしを
声たちは、そっと
「ずっと、…もう、正体もなくてらして、もう、」
なんの話?
傷めて
ふるえそうになり
「ずっともう、ご遺体、もう、あんなになるまで、ひとりで、」
だれの話?
わたしを
声。それら
「ずっとひとりでそばにいらっしゃって、…」
なに?
後悔させて
声たちは、そっと
「来て。おねがい。人間だっら、麻布に、…もう」
おまえ、いま
わたしを
かすれそうになり
「お願いします。来て。おかあさま、うちにいらっしゃる。引き取っ」
なに、ひとり興奮してんの?
叫ばせて
声。それら
「来てよ。助けてよ。お母様もお父様も壊していま」
おまえ、
わたしを
声たちは、そっと
「わたしまで壊します?来てよ…」なぜ?迷いはなかった。そのわたしが、追いかけ始めることに。あわてて、それでもショートパンツだけは身に着けて、ぶざまな肉体。赤裸々でもなくただ中途半端な肉体。階段を駆ける。降りる。その遠ざかる音響を模倣して。沙羅のように。わたしは、追った。追いかけていた。だから、沙羅を。褐色の素肌を。謂く、
最後。最後に
まばたきさえも
知っていた
失語
見た。まなざし
見ひらき
もたないことは
なぜ?
男は最後に
失語
知っていた
いまさら
だから、海
謂く、
最後。最後に
見た。まなざし
男は最後に
だから、海
綺羅きらしますか?
ゆららぎますか?
見蕩れましたか?
見ませんよ
あなたなど
興味もないよ
関係ないよ
目がないからね
見えませんよ
見蕩れましたか?
ゆららぎますか?
綺羅きらしますか?
だから、海
いまさら
知っていた
ふるえ
男は最後に
なぜ?
こわれることは
いちどだけ
見た。まなざし
恐怖
知っていた
ひらかれたくちも
最後。最後に
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