アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -96 //冷酷。睫毛の/それら、すこしした/なぜ?沙羅/ふるえていた//05





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





謂く、

   女を知った

   少年はすこし

   すこし、見せた

   倦怠。飽きた?


   女をかくした

   少年はすこし

   すこし、匂わせた

   羞恥。にくんだ?

謂く、

   女を知った

      いいんじゃない?

    だれも

     まだ、もってるから

   少年は飽き

      それで

    問いただしはしない

     こわれてないから

   すでに厭い

      しかたないから

    知れ切ったことなど

     いいんじゃない?

   羞恥。勝手な人に似合う花など存在しないと思った。たとえば沙羅。海辺をふたりで歩いたいつか、その路上、だれかの雑多な庭からこぼれだしていたブーゲンビリア。咲き誇る色葉。いずれにせよその紅にもちかいむらさきのみだらなも、その真ん中にうずくまるちいさなしろい、黄色のにじむ花の清楚も。うつくしいはずの沙羅の色彩にもかたちにもついに寄り添わない。ブーゲンビリアにくらべれば、蜂の赤裸々な複眼のみならず、蝶のゆれる複眼のみならず、人の単純なまなざしのなかにさえ、沙羅はえぐく、みにくい。じぶんには

   てのひらに

      孤立。いたましい

決して寄り添わない

   ふるえたよ

      孤絶。いたたまれず

花を、…色葉を、しなだかれかかるそれの枝をつかんだ沙羅は、もてあそぶ。ふるわす。まなざしは見向きもしない、なんら、花など。返り見たそこ、わたしだけを見ていた。ハン。花を貪る女。その百合、…なに?いずれにせよしろい花。喰い散らされながら、しかも花はハンに似合わない。いつだろう?最初の、不似合いを鋭利にさらしたのは。眼を驚かせたのは。あるいは、わたし?それは。出産のために退任する若い女教師にささげるための花束。腕に持たされたわたし。成績優秀で、素直で、素行の良い、あの母親にはあまりにもけなげすぎる稀有な十歳。うつくしいわたしがそのうつくしさを要因としておとなたちに託された花。ふと、見た。体育館の姿見の鏡。うつしだされた花咲く少年。容赦ない対比のすさまじいみにくさ。あるいは、もはや名前も顔も忘れた女。たしか、…だから誕生日?花束をつくりに

   きみのぢゃ

      泣き叫ぶ

立ち寄った。

   ないから

      アスファルトを

六本木。

   きみのためぢゃ

      舐めた舌

花屋。

   ないから

      泣きわめく

花。花。花。花に囲まれたうつくしすぎるホスト。無駄に過剰な気づいに勇んだ女店員。見た。鏡。もはやむきだしのみにくさ。

わたしたちはみにくい。沙羅。ベッドのかたわら。わたしに、まばたきかけた沙羅。あるいは煽情的なうつくしさ。寝乱れた髪の数本のみだれの嘲弄「…聞きたいこと、ある」

「なに」

醜い。…なら

「いい?」

   いつか、我々に

      無理だよ

「言えよ」

清雪は?

「…って、」

   頭上にふり

      ぼくは、きみを

「なんだよ。だから」

十四歳?…ただ

「いい?こころの準備、」

   ふりしきるもの

      傷つけられ

「なに?」

無造作にもただ、うつくしい

「お母さん、…」…どんなひとだった?…と、「…って。聞いたら」故意に、ことさらにじれさせたあと、清雪は「よろこぶ?」ささやく。ささやき終わらないうちにもすでに、笑っている。ひとりで。そこに。狂おしいまでに、少年。うつくしい。いたましすぎるだろうか?ひょっとしたら、その

「はにかむなよ」

   背徳。その

      咬んでください

「はにかむ?」

眉としては。男のそれとしては、——春奈。名残り?

「たんに、聞きたいだけだろ?…正直」

   きみ。眉の

      肌。ひたいの

「…って、」

眉。その欠損?…こそ

「いま、お前」

   翳りは

      執拗な皮膚を

「なんで?」

むしろ固有の、なにか

「若干、さ」

   背徳。その

      咬んでください

「でも、」

言いたりないうつくしさを描き、繁茂する

「やや、やや、」

   きみ。睫毛の

      肌。眉間。その

「雅雪さん、…って」

睫毛。虹彩の

「うざいよ」

   綺羅は

      あいまいな皮膚を

「なんか、そういうはにかみ?…みせないと」

うざったいほどの綺羅めき、その

「若干だけ、」

   背徳。その

      咬んでください

「春奈さんのこと」

なまなましさに、ふいに

「なに?」

   きみ。目じりの

      肌。喉もとの

「話せなくない?…」

失語させる。夢の少年美。…違います?…と、その「でしょ?」壊しようのない美の挑発に見蕩れさせた。たとえばミケランジェロの見ていた少年美とは違うにはしても、アジアの、固有の。ひたすら精密な美の色彩と形象。わたしは「言えてる」笑んだ。素直に、あるいはすでに禁忌になりかけていた春奈という女。そのかつて存在した事実をすなおに、…だから違和感?認めてしまう自分の素直すぎる素直を、ひとり、笑う。

「意外」

清雪は、目を

   容赦なき美は

      夢を。きみの

「すっげぇ、素直。それ」

ほそめた。

「意外」

   留保なき加虐でこそあ

      夢を。ふと

「善人だったよ。あいつ…」かならずしも、いちども「たとえば壬生の、…あの」禁忌などにしたことは、事実「くそ親父とか?正則?…」なんども、春奈のその「敦子?…かれらが、」記憶。生、そして「かれじしんでは、なんと…」性?…あるいは「だから、どんな春奈をどんなふうに見ていようが、おれには」死。それら事実を消して「じゃ、なくて、」忘れようなどと、むしろ「おれの印象だけじゃなくて、ね?」くりかえし、だから「ただ、事実として」清雪と、もしくは「あいつは善人だった。莫迦っぽいくらいの」敦子。壬生のだれかを見ただけで「うまれつきの、だから傷つきやすくて、」だから、わたしは「壊れるしかなかった…と」決して、…「おれは思う」

   莫迦にしないで

      樹木たち。いま

「めずらしいね」

清雪は表情を変えない…ない?そっと

「なに?追憶にひたる、みたいな?」

   忘れられるもん

      いっせいに、いま

「なんか」

わずかに、目に、笑みを

「メランコリック、みたいな?」

   きみのこと

      かたむいて、いま

「ほんとうに春奈さん、愛してたみたいな感じ、いま、してる」深めた。ひとり、そして「…いまだけ」なにか答えてやるべきわたしの喉から、ことばを見事に奪ってしまう。沈黙するしかなかった。沈黙は赦されなかった。愚鈍。だから、言葉を探す無言の饒舌に、ただ沈黙のみを赤裸々にさらしたわたしは、清雪にあきらかに愚鈍、鈍重以外のなにものでもなかい。…じゃ、と。清雪がわたしを「愛してたって、ことで」救った。「愛って、」と。「なに?」自分の言葉を消す言葉の唐突。おなじ瞳孔に、清雪はあらためて、わたしを「…って、なに?」見直す。

   やめて

      咬みつぶした

焦燥。

   こころ

      蛾が

わたしは。

   燃えた

      幼虫を

だから云った。「わからないわけじゃない?愛っていう、その言葉の、だから男女間?同性間?なんでもいい、あなたがすき、の愛。その定義。時代によって変わるって、でも、その同一時代でも。個人の自由って?その個人のなかでも、いま、お前にとっての愛を定義しろって。…できないでしょ?あるいは、言い足りないとか?何を言ってもなんか違う。違和感ある、とか?だから、おれたちは愛なんて語るべきじゃない。不可能だから」

「やさしいんだ」

あらためて、だから笑みをはっきりとわたしにくれた、清雪を見た。「やさしいって?」

「でも、知ってた。なんか、雅雪さん、本質的にやさしいって、…で、それ、」

「べつに、…」

「敦子ママも言ってた」

「あいつにおれ、やさしくしたっけ?」

「やった?」

「なに?」

「ね?…敦子ママと」

「まさか。興味ない。安心しろよ」と、ささやくわたしの言葉の意味をしる。なぜ?と、ふととまどいながら、清雪の冷淡な目にはたしかに、わたしに対する…敦子への?焦燥じみた嫉妬が見えた気がした。かれが「やっちゃえばいいのに」そんな感情を「やっちゃえば、たぶん」抱いている事実があるとは「よろこぶかもよ」想えない。どうしても、わたしには。「…あのひと」

「お前がしてやれよ」

声を立てて、いまさらわたしは笑っていた。清雪がふと、わたしを見つめて…だから、見つめつづけていた瞳孔に、そこにわたしをなんどめかにも見つめ、なにか言いだすそぶりもなく、沈黙?…と思う「いいよ。じゃ」間もなく「こんばん、」言葉を、「やってあげる。まるで」笑み。その「飢えた」うつくしすぎる、「けだものみたいに」それ。もはや、遠慮もなく笑うわたしの声を聞いた。わたしも、清雪も。なにも、かならずしも不快の思いもなく、また、いとおしむでもかなしむでもなく。聞いてさえいないほどの素直さで、そこに、それを。

「あいつ、泣いてよろこびそう」

「女って、年取るほど貪欲になるらしいじゃん」

「だれ情報?おまえ、耳年増?」

「…て、ね」そして、そっと自然に逸らされる清雪の眼差しが、だから取り残されるに似た感覚が、ふと、わたしにふれる。さびしさとともに、孤立の唐突な事実を知らせて。「不可能だな…できないでしょ。さすがに、…あんな」

言い淀むくちびるのうえ、まなざしは窓のそとの街路樹の色彩の綺羅めきを見た。

目を、なにげなくほそめ、

「…いや。すっごい、」

   ぼくらは、突然

      いい?いま

かならずしもそこが

「いい人なんだけど…」

   孤独になるんだ

      失神しても

まぶしくはないままに。あるいはその時にもっと真摯に聞き耳をたててやるべきだったろうか?と、そうしても、すでに手遅れだっただろうか?なすすべもなく、そこにもう実現されていたもの。…ラン。手遅れの、なすすべがないことの、結局はなにもなかったことの、その事実を知り知らされて、…ラン。何度目の?

   あなたを花に

      地面。蜂が

二度目?

   あえて、花に

      ひからびて

最初の?

   たとえてみれば

      あおむけ

…わからない。いずれにせよおなじ、しかも、ちがう傷み。ランが病院から帰ってきたことはすぐに知れた。バイク…しろいホンダのスクーター。音が、庭に聞こえたから。分かっていた。すでに。家で待っていたわたしが知らされるべき検査結果は。二週間前。体外受精の施術。無事に着床していたならすでに、病院からランは一報をよこしていたにちがいなかった。だから、それは二度目。…一度目はタクシーで、わたしも一緒に行ったから。なにも言わずに仏間の方から入って来た。ラン。衣擦れの音。そして空間にほのめかされた、ひかりをゆらす横殴りの翳り。ふたつめの小さい方のリビング。そこにパソコンを眺めているわたし。視界のあやういななめを素通りした。ランはわたしがそこにいることなど知っている。いつもそうだった。ランの家にいるとき、たとえば庭さきかベッドでランと戯れているとき以外、いつも。だから、無視。これみよがしの。赤裸々な。ふと、安堵した。おもわず。すぐさま不本意だった。おなじわたしが。その、棘の上にさらに牙をもはやして武装した無言のラン。なんの変哲もない、しかし、強烈な、…なに?傷み。かくすすべもない、

   しあわせ?

      舌が、ひそかに

赤裸々な、

   きみは

      ふるえていたので

それ。さらされたものは

   しあわせ?

      残酷な、し

見るしかなく、すでに知ったものも知られているしかない。不穏だった。傷み。わたしとランの、ふたりのいたみ。しかもランの傷みはただ、ランに固有に根を張っていた。ランにだけに。いたたまれない。ラン。その、まだ——ついに?わたしに共有されていな、——る、…され、る、こと、の、ない?だから淫乱な沙羅。その肉体に感じられるものを快感とも苦痛とも嘲弄とも忿怒とも識別せず、むせ返りつづける赤裸々な傷み。ラン。そこにただひとり、ひとりだけのランが。ことばを完全にうしなって、さらにはうしなっていられることそのものへの不意の安堵。嫌悪した。わたしは。だからその淫乱な沙羅。その、そこにひらかれた口蓋をまるで咀嚼するように。かたちも匂いも味も歯ざわりもない架空を咀嚼するようにその容赦ない

   しあわせ?

      舌が、ひそかに

自己嫌惡。なぜ

   ぼくは

      ふるえていたので

そこにわたしはただ、

   しあわせ?

      残酷な、し

かかわりのない他人の勝手な悲劇にふれないでいられる幸福を貪っているかに、ラン。そうじゃない。ただ、そこにあきらかなランの、だからわたしたちの赤裸々な傷み。それに猶もふれないままの安全地帯。しょせん仮構。そしてほくそ笑む、わたし。ぶざまな。愚劣な。愚鈍な。もはやふてぶてしいもうどうしようなく淫乱な沙羅。すでにわたしの手のひらにしかもやさしくそっとふれ、ふれた程度に押さえられ、もうなんの視界もなかった。だから汚らしい糞まみれの豚。恥辱の豚。豚の糞。嫌惡。自己嫌惡。燃えた。燃えてそんな自己嫌惡をひとり咬んで悦にいっているその汚らしい糞まみれの豚へのラン。わたしのむこうを通り過ぎ

   燃え尽きた

      でも、ふと

彼女はひとり、

   灰。灰のうえを

      ねがっていた

消えた。

   ふむ。ふんで

      きみが、瞼に

シャワールームに。

   はう。はって

      くちづけ、くれると

理解した。いつも

   はく。はいて

      ねがっ

そうだった。それはCovid19のパンデミックのさなか。だから慎重なランはいつも人ごみの中からの帰宅には、…やめて、と。さわらないで、と。ちかづかないで、と。まして、キスなんかぜったいに淫乱な沙羅。あお向けた、しかも猶も頸をのけぞらせ、つきだされた尖端に白濁。なにを?舌。ふと舐めるべきものの匂いへだけの訴求。鼻孔は、だから拒否し恋と親密のいまだ新鮮ないとしいまなざしに、いたずらじみて笑う帰宅直後のいつものラン。…わたし、ね?

きたないから、ね。「…ね?」

   Ma yêu

      いとしのお化け

だから、いそいで「…ね?」

   Ma yêu

      いとしの亡霊

シャワールームに消え、「…ね?」

   Ma yêu

      いとしの怨霊

ひとりだけさきに「…ね?」

   Ma yêu

      いとしのもののけ

清潔になって淫乱な沙羅。差し出された舌は、なににもふれないまままるで、たしかに感じられる味覚を執拗になぜ?そんないつものいとしい表情さえつくれないランを、なぜ立ち上がり追いかけて無理やりうしろから抱きしめなかったのだろう?Noとは告げる須臾さえ赦さないくちづけを、猶予。なぜ、むさぼったのだろう?猶予。あまりにもうすぎたない、家畜の猶予にわたしは淫乱な沙羅。喉の皮膚には微細な翳り。微細な綺羅。そして赤裸々な褐色が知っていたのに。逃げ場など、だから猶予など沙羅はそこに息をだからひきちぎられそうだった。なにを?かなしみ?なに?失望?なに?落胆?なに?なに?なに?なに?なに?なに?なに?なに?

   いま、ぼくに

なに?

   ふりそそぐもの

なに?

   なんですか?

なに?

   いま、あなたに

なに?

   たぶん、もう

なに?

   ふりそそぎつづけていたもの

なに?

   なんですか?

なに?

   いま、ぼくに

なに?

   咬みつてるもの

なに?

   なんですか?

なに?

   いま、あなたに

なに?

   たぶん、もう

なに?

   ふりそそぎつづけていたもの

なに?

   なんですか?

なに?

   いま、ぼくに

なに?

   燃え上ってるもの

なに?

   なんですか?

なに?

   いま、あなたに

なに?

   たぶん、もう

なに?

   燃え上りつづけていたもの

なに?

   なんですか?

なに?

   いま、ぼくの目を

なに?

   抉りつぶしてるもの

なに?

   なんですか?

なに?

   いま、あなたに

なに?

   たぶん、もう

なに?

   血まみれの不可視をだけ

なに?

   あたえつづけていたもの

なに?

   なんですか?

なに?

   いま、ぼくの喉を

なに?

   発熱させてるもの

なに?

   なんですか?

なに?

   いま、あなたの喉に

なに?

   たぶん、もう

なに?

   灼熱の息吹をだけ

なに?

   ぶち撒き続けていたもの

なに?

   なんですか?

なに?

   なんでひらかれた

なに?

   あかるい視野が

なに?

   こんなに昏く

なに?

   なんで赤裸々な

なに?

   肌のすべてが

なに?

   骨ごとその

なに?

   実在をうしない

なに?

   なんであたたかな

なに?

   夏の大気に

なに?

   わたしたちはもう

なに?

   ふたりだけ温度を

なに?

   温度をうばわれ

なに?

   なぜ?

なに?

   なんで?

なに?

   なんですか?

なに?

   いま、ぼくに

なに?

   こだましつづけているもの

なに?

   なんですか?

なに?

   いま、あなたに

なに?

   たぶん、すでに

なに?

   こだましつづけていたもの

なに?

   なに?

なに?

   なに?

      なに?

なに?

   なに?

      なに?

         なに?

なに?

   なに?

      なに?

         なに?

            なに?

なに?

   なに?

      なに?

         なに?

            なに?

               なに?

なに?

   なに?

      なに?

         なに?

            なに?

               なに?

                  なに?

なに?

   なに?

      なに?

         なに?

            なに?

               なに?

                  なに?

                     なに?

なに?

   なに?

      なに?

         なに?

            なに?

               なに?

                  なに?

                     なに?

                        なに?

なに?

   なに?

      なに?

         なに?

            なに?

               なに?

                  なに?

                     なに?

                        なに?

                           なに?

なに?

   なに?

      なに?

         なに?

            なに?

               なに?

                  なに?

                     なに?

                        なに?

                           なに?

                              なに?

なに?

   なに?

      なに?

         なに?

            なに?

               なに?

                  なに?

                     なに?

                        なに?

                           なに?

                              なに?

                                 なに?

なに?

   なに?

      なに?

         なに?

            なに?

               なに?

                  なに?

                     なに?

                        なに?

                           なに?

                              なに?

                                 なに?

                                    なに?

なに?

   なに?

      なに?

         なに?

            なに?

               なに?

                  なに?

                     なに?

                        なに?

                           なに?

                              なに?

                                 なに?

                                    なに?

                                       なに?

なに?

   なに?

      なから淫乱な沙羅。わたしに見つめられている事さえ知らず、気付かず、むしろひとりじぶん自身でだけ戯れているらわたしは、傷み?殴る。…ように、シャワールームのドアを、…蹴った?…なに?叩きつけた?…なに?ひらき、ラン。着衣のままのラン。そこに、ラン。出しっぱなしのシャワーに頭からずぶぬれになっていたラン。顔を覆ったままの、しかも拒絶さえない。ランの、赤裸々な無視。いるよ、おれは、なぜ?ここに。思わず。見てよ。ほら。…わかる。

   知ってる

      かさなる

わかってる。

   見たから

      かさなりかけ

そのラン。

   わたしも

      ふるえる

その傷み。

   知ってる

      あやうく

わななく肩。

   聞いたから

      性急に

頸。

   わたしも

      微細に

飛沫。

   知ってる

      激烈に

すべて。

   ふれたから

      ちかよる

そのすべて。

   わたしも

      すれちがいかけ

わかってる。

   知ってる

      ふるえる

なにもかも。

   感じたから

      強烈に

帰るまでの道にそのまなざしが見ていたそれら、風景の

   わたしも

      容赦なく

すべてさえ。

   知ってる

      繊細に

耳に、いちども聞き取られなかった町の騒音も。

   嗅いでいたから

      一致し

すれちがった臭気も。

   わたしも

      一致しかけ

なにも。

   知っ

      ふるえる

なにもかも、ぜんぶ。わたしはすでに泣きじゃくるランを抱きしめていた。おなじ水流、奔流のなかに。その、…沙羅。鎖骨の窪みに翳りが雪崩れた。タオは?沙羅の鎖骨に、だからその朝、ふとわたしは唇をふれ、…あの、…だれ?タオは?家出したタオ。じぶん自身をもてあまし、しかもひとりの庇護者さえいなくなった、タオ。行方不明のあの少女。タオ。十五、六歳だったタオはその朝には、すでに十八?十九?…咬んだ。わたしはランがときに、わたしのゆびへのたわむれにしてみせたような、それ。あま咬み。そのなまなましい鎖骨のあたたかさに言えなかった。まともな言葉など。ささやいた。No, stop…と、なに?まともな

   いいよ

      滅ぼしてほしい?

英語。片言の

   もう、いま

      たとえば

ベトナム語。No…むしろ

   なにも言わなくて

      空の青を

日本語さえ、No…忘れ

   いいよ

      オッケー

わたしは、…ダメだった

   わかってるよ

      明日、晴れた朝に

No, stop…だって

   いいよ

      火を放とう

でも、言えなかった。だって

   もう、なにも

      滅ぼしてほしい?

No, stop…連絡、したかった。けど

   なにもかも

      たとえば

No, stop…なにも

   ぜんぶ、いま

      海の白濁を

No, stop…だって、

   いいよ

      オッケー

No, stop…悲しむから。マーが。…マー

   なにも

      明日、みずみずしい夜明けに

No, stop…あなたが

   なにも言わないで

      毒をぶちこもう

No, stop…言えな知ってるから

   オッケー。ぜんぶ

      滅ぼしてほしい?

No, stop…わかってるから

   ぜんぶ

      たとえば

No, stop…なにも

   なにもかも

      都市空間の

No, stop…だから

   いいよ

      そのすべてを

No, stop…言えなかってるよ。もうわか

   いいんだ

      オッケー

なに語?…ラン。その、ラン。嗚咽の隙間にこぼしたていた、ささやき。聞き取ることさえ困難なノイズ。ラン。彼女は何語を?…すべて、わたしは明晰にすべて、あますところなくすべて、聞き取りそして願った。ずぶぬれで泣きわむくひと。彼女の

   なにを?

      もう

せめてもの

   なにを言えば?

      ただ

幸福を。

   なにを?

      もう

それだけを。謂く、

   きみを見つめた

   そばに、そばで

   見、見て、そばで

   きみを見つめた








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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