アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -93 //冷酷。睫毛の/それら、すこしした/なぜ?沙羅/ふるえていた//02





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





謂く、

   あげる。…なに?

   この世界。きみに

   きみだけに

   あげた。喜びも悲惨も

謂く、

   あげる。…なに?

      のたうちまわって

    生きろ

     わななきおびえて

   この世界。きみに

      わめき

    はきながら

     おびえ

   きみだけに

      わめきちらしさえして

    生きろ

     引き攣けて

   あげた。喜びも悲惨もだからあくまでもふいに。いまだあお向けた、その沙羅はしかも、ベッドの上に猶もさらされたままの体。…けだるさ?おもったるさ?…わずかな重力。時空のひずみ。のけぞらす。沙羅は、そしてのけぞったままに背伸びをした彎曲。這った綺羅はうすいブリッジを、…翳り。えがきかけた上半身の、…ゆらぎ。胸。うすらべったく引きひのばされたそれは日射しに、ためらい?射す。容赦ない、それらやさしい…朝。ひかり。ふれられ褐色の肌に、乳首のふたつだけがよりあざやかな濃い穢れとして花?しかも、ちぢこまり、花。ただみにくい花の

   ずべっ…と

      収縮

花のように?

   くちびるに

      瞳孔。あくまで

笑った。

   ぬりたくったように

      収縮

おもわず、

   ずべっ…と

      不用意に

わたしはそして、意味もなく。笑い声など、その無防備な沙羅は感知しない。だからたわむれにその腹部。やわらかなのけぞりにふれるゆびさきは、わたしの。ゆび。ふれ、ゆびさき。ふれた肌。ふれられた質感をゆびになじませるかけた須臾、おそれ。赤裸々な。恐怖、と。そう言い切る寸前、あわい、猶も稀薄な、しかも鮮烈な。…おそれ。張り詰めた腹部、しかし皮膚一枚下に空洞をあばいた、こころもとない手ざわりのあやうさ。いのち。思い出す。何度も、かぞうべくもない何度目かにも、そのいのちのあやうさ。にもかかわらず、いきものはなかなか

   微動だに

      やわらかに

死なない。死にきれずに

   微動だにも

      数秒。くもった

もがく。死に瀕して

   忿怒

      空がやわ

猶も。決して壊れやすいなどとは。壊れやすさとしぶとさの矛盾の、まさにそのあやうさ。ふいにゆびさきが感じた理不尽に、そりかけた爪。わたしのまなざしの底の底にまで赤裸々なおびえを突き刺してしまってい、ラン。あのランでさえ、最初の受胎の喪失と、三度もの人工授精と、二度の体外受精の失敗のちにさえ生き延びていた。壊れきりは

   微動だに

      やめて

しなかった。壊れそうな

   微動だにも

      いま。ぼく

傷み、あやうい

   忿怒

      こわれちゃ

淵にふらつきながら。ハンはよりやわらかだったというだけかもしれない。生き残るわたしたちよりも。タオも。春奈も。その腹部にもふれた。おなじように。そこはおなじ空洞の手ざわりにわたしのゆびをおそれさせた。おなじように、春奈は壊れた。壊れなかった。わたしは。

   遺伝子学上の

      ずぼらだからね

わたしこそは

   優位性…っすか?

      孔だらけでね

強靭すぎた狂人そのものだったかもしれない。核融合を起こし得ない鐵の鈍重が、やがて自重につぶれて特異点の不可解を発生するように。無限に飲みこみつづける反転、無限の膨張をも咬みついたわたしの健全は、まさに赤裸々な狂気そのものだった。精神は、だから狂気にしかふれない。…と、あるいはそう清雪にささやいたら、清雪はなんと云っただろうか。たぶんただほほ笑んで、うなずきも頸をふりもしない曖昧にわたしを取り残してしまったにちがいない。知っていた。だれもが。敦子さえ、…こそ。十六歳のころから清雪が、その自己破壊にむけた疾走をしかけはじめたあやうさ。いつかすでに纏われていた

   なすってあげ

      お。…っと

危機。纏われるどころか、

   背中に

      ふたたび

取り返しのつかない

   薔薇を

      翳りはじめた

深いタトゥーのように。

   むらさきいろの

      空を…っと

わたし、敦子、正則。それぞれの目にあやぶんだあやうさの実体は、清雪が好んでささやく精神の美の語、または肉体の美の語、それらになんんら自身、信頼をよせていなかった事実にあった。わたしたちは、それぞれのしかたでその精神の現状そのものが、怖かった。敦子はこれみよがしに、押しつけがましい喪失の恐怖に怯えた。わたしの前で。わたしは必死の冷淡に、清雪のためにこそ身を飾り立てようとして、そしてしくじり、しくじりつづけたゆびさきがふれた須臾、そしてすぐさまにゆびが

   なぜ?

      やさしすぎだよ

離された

   なぜ?

      やさしすぎたよ

須臾、まばたく。春奈は。たわむれにつくられたまなざし、なぜかわたしに諫める年上の女の気配を、…あれ?と。

   ん?

      いとしすぎだよ

どうしたの?ベイビー・ボーイ。

   ん?

      いとしすぎたよ

まだ、ハオ・ランに単にうざったがられていただけだった春奈。ふいの侵入者。道玄坂。わたしにまとわりついて離れない、まだまともな眼をしたもうまともなまともではなかった女。春奈。十九歳のわたしの顔を、朝の添い寝にななめの視野。ねじられた頸。頸だけ。気づかない。春奈は、その視野がかたむいていたという事実になど。もはや早朝とは言えなかった。朝のいぶきさえ老いさらばえかけた。深い朝。その不快。これからようやく、夜の住人にすぎない肉体、ふたりのそれらは眠りに落ち込みはじめる、そんな。二十四?三?五?春奈。いちど、わたしたちの眼の前から消えていなくなる数か月前。カーテンは引かなかった。春奈は、いつも。そこ、歌舞伎町の真ん中。日射しはただ、しずかに強度をます。ますほどに稀薄な清冽の純度。時間の感覚をうばう、顔がない午前のあたたかさ。春、その部屋にひろがっていた。

春奈の寮。店にあてがわれた部屋。区役所通りちかくの、本職と外国人と風俗関係者しか住まないマンションの高層階。北向きだった。だから醒めたひかり。濁りのにじむに似るあたたみをだけ、わたしは

   うとましいんだ

      網膜

感じた。春奈は

   あかるさが

      大気に、網膜が

沈黙など

   すがすがしくて

      無防備に

していなかった。まるで

   鬱になるんだ

      ふれて

だまりこむ自分の喉の沈黙が、だから、それをひとたび赦してしまえば永遠の失語に落ち込むにちがいないと?意味不明な恐怖と緊急の切迫のある饒舌。不穏。沈黙にひとしい。わたしにの耳にも。聞きとられた須臾からすべて忘れられてゆくしかなかったひびき。ふと、おなじくあお向けたわたしは笑んでやり、——寝なよ、と。

「いい子は、もう寝る」

「時間、すぎてない?起きる時間すら、」と、ふと「過ぎてない?」笑う。「…いま」春奈。声。耳のそばに鳴るのを、わたしは赦した。そのひだりの耳たぶのさき、ちいさな光澤がなぞるのを見、見た?と。逸らしたんだ、と。わたしはそこに、そう思った。春奈にはあくまでもかくして、その、目を見つめるという行為からおれは眼を逸らしてる、と。ふいの無意味な思いつき。なぜか、笑えた。なにを笑ったのかわからないまま、あくまでふいの短い笑い声。春奈はいぶかった。おののきにちかい。おののきにはなれない曖昧。春奈はそこにささやいていて、…ね。

「眠れないんだけど」

春奈を、抱いてやった。その頃にはまだ、わたしは。ときには。基本的には。春奈の

   偶発的な

      い、い、い、い、いっ

不安。そして

   衝動。しかも

      と。塵。綺羅ら。すべる

不安の醗酵の

   偶然的な

      い、い、い、い、いっ

臭気にすぎない

   燃焼。ゆえに

      と。塵。水平に。すべる

欲求不満。それらが限界に達してきたと想えたときにだけ、春奈がじぶんの肌に赦す肌。…いいよ。そして、そのころにはたしかに抱いて。いいよ。抱まるで、わたしが求めているかに、赦す。肌。生き生きとしていた肌。しろい。よりしろい白濁。匂い。肌に、濃いしろい濁り。臭気と肌ざわりと手ざわりをもてあそぶ。ゆびに。かってにひとり噎せかえって見せた高揚のいつか、われに返る唐突な数秒。その須臾。他人の情熱の自壊。その須臾。おなじ場所に他人ごとの目に見たおなじ風景。いったんだ。ささやき。春奈。気づく。それは他人。他人がそこに生きていた。からだのうえに。死んだ。醒めた。赦した。受け入れた。春奈。あいまい。瞳孔。睫毛。肌に、決して沁み込むことなく、なじみもしないそれをいじりつづけ、だから哄笑じみた笑い声のあかるさとともに。洗い流さなかった。頑なに。春奈の不潔。その意味を、最初の数か月目に知った。ささやいた。客のは、…ね?と、あらい流すもの。眞沙夜のは、…ね?と、こびりつかせてあげるもの。「よろこんでるじゃん」あるいは「お肌、」不快でしかない春奈の「…いま」個人的すぎる倫理規定を、しかしわたしは拒絶する気になれなかった。「…ね」

「ん?」

   我々は

      れ!知れ。れ!

途切れない饒舌をみずから叩き落とした短い、その、「ね」

「なに?」

   愛と名づけた

      恥を知

「今日、晴れてる?」

「お前、目、ある?」ささやき。声。耳の至近にだけひびかせ、晴天。秘密。空には、ささやきは。これみよがしな青。空。返り見なくとも、部屋のひかり。横殴り。あかるさ。あかるみ。無慚なまで。ただ無防備に。聞けばわかる。鳥が啼く。はばたく。歌舞伎町にさえ、すみつく鳥たち。もっとも意外に綠りが多のも事実だった。しょせん街路樹とちいさな公園と神社のそれに過ぎなくとも。飼いならされた樹木。わたしたちが滅べば、好き放題にね、ね、ね、と。

   なに?…それ

      垂れそうだったら

「晴れてるかな?」

「じゃない?」

ね、ね、ね、

   なにかな?

      すすればいいさ

「きっと、かな」

「じゃない?」

ね、ね、ね、

   さっきまで、そこ

      蚯蚓が受粉

「やっぱり、かな」

「でしょ?」

ね、ね、ね、

   滅びかけてたの

      しゃぶられそうなら

「是非、だよね」

「日本語、間違えてない?しかも故意に。おまえ」

故意に、

   なに?…それ

      はじけばい

あえて春奈のあかるさのためにだけに笑って見せ、声。わたしの声を、そこに春奈は聞いただろうか?あるいは、むしろ聞いたのは鳥たち?ひびいてはずの、声。記憶にいちども残されなかった鳥たち。声。はばたき。または都市のノイズ。さまざまなそれら。その耳は、こころは、…春奈。

「ピクニック日よりだったら」

「じゃない?だって」

   好きなことだけ

      なぜ?

「ピクニックかな?」

「したいの?お前」

   話してて

      頭頂部に

「したくないの?」

「おれ?」

   聞いてて、ね?

      執拗な

「ピクニックってさ、」

「お前、」

   聞いてて、ね?

      かゆみが

「お弁当持って、さ」

「すっげぇ」

   あげる

      なぜ?

「ビニールシート、敷いたりしてさ」

「似合わないんだけど」

   したいことだけ

      側頭部に

「あーんして、とかさ」

「なんか、ひとり」

   話してて

      絶妙な

「膝枕する?とかさ」

「してほしい?」

   聞いてて、ね?

      ズキズキ感が

「なに?」

「膝枕、おれに、したいの?」

   聞いてて、ね?

      なぜ?

「だったら、どうすんの?」

「すれば?」

   あげる

      こめかみやや横に

「待って」と、ふいに、瞳孔の中にわたしを消した。だから、謂わば眼をひらいてわたしを見たままの、そこに春奈は、「待って、…ね」だからただ、「もすこし。もすこし」ほほ笑みと茫然の「待って。…ま」あわいにそのどちらにもふれない「まってまってまって」曖昧な顔をわたしの「ま、ま、」目の、ほんの至近「やばっ」

「なに?」

   すきっ。すてき

      指さきが、いま

「いま、想像の中で、膝枕してあげた」

「莫迦?」

   きすっ。すきっ

      ひかりの直射を

「眞沙夜ったら、さ」

「お前、…」笑う喉。わたしの。こぼれていたはずの言葉。忘れた。完全に。わたしは。覚えていただろうか。春奈は。すこしくらいは。ほんの一日くらい?数分?一分?一秒?あるいは、思い出しただろうか?ときには。まったく無意味で、まったく無関係などこかで、いつか。その日の何本目かを、くわえこんだ瞬間にでも。そして、ふとせせら笑いかけただろうか。じぶんを。じぶんのたわむれを。たわむれていたわたしたちを。そこに。どこに?謂く、

   とまれ。とどまれ

   記憶。いとおしい

   記憶してゆくいまにもう

   ほら。いとおしく


   いとおしい記憶

   ふるえた?ベランダ

   花。知らない

   名は。植えたのはきみ


   咬じった。故意に

   みみたぶに

   傷み。たわむれに

   声。力つき


   まばたき。朝に

   ねむりのまえに

   めざめのあとに

   まどろみにさえ

謂く、

   咬じった。故意に

      晴れだから

    なにをしようか?

     指をまげ

   みみたぶに

      肌に、にじむ

    なに、できる?

     なにかのふり

   傷み。たわむれに

      翳りさえ

    なに、すべき?

     くちびるがひらく

   声。力つき


   まばたき。朝に

      道路が燃えた

    どこにいく?

     あかるいひかり

   あくびのまえに

      日射しに

    どこにも。もう

     ばかばかしいほど

   といきのあとに

      綺羅に

    どこにもないね

     晴れだから

   まどろみにさえ


   さめきってさえ

     晴れだから

    どうしようもないね

      翳りに

   たちどまるふいに

     ばかばかしいほど

    どこも。もう

      青みに

   ためいきしかけに

     あかるいひかり

    どこにいく?

      道路が燃えた

   まばたき。朝に


   声。力つき

     くちびるがひらく

    なに、すべき?

      翳りさえ

   傷み。たわむれに

     なにかのふり

    なに、できる?

      肌に、にじむ

   みみたぶに

     指をまげ

    なにをしようか?

      晴れだから

   咬じった。故意に


   醒めきってさえ

   たちどまるふいに

   ためいきしかけに

   まばたき。朝に


   声。力つき

   傷み。たわむれに

   みみたぶに

   咬じった。故意に


   名は?植えたのはきみ

   花?知らない

   ふるえた?どこで

   いとおしい記憶


   ほら。いとおしく

   記憶してくいまにもう

   記憶。いとおしい

   とまれ。とどまれ

謂く、

   とまれ。とどまれ

      くずれてく

    まぶたは、しかも

     あざやかに

   記憶。いとおしい

      雲が

    痙攣をやめない

     ふかい

   記憶してくいまにもう

      空。いま

    右の、そこ

     翳り。いぶき

   ほら。いとおしく


   いとおしい記憶

      きみが見なかった

    くちびるに、しかも

     鳩尾に

   ふるえた?ベランダ

      雲が

    痙攣をやめない

     ふかい

   花。知らない

      崩壊。いま

    舌の、さき

     色。いぶき

   名は。植えたのはきみ










Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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