アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -87 //沙羅。返り見た/目のまえ。ふいに/扉は、沙羅。いま/ひらかれた。いま//04
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
謂く、
知る。少女は
死者は死者にすぎないと
花。日射し
目をそらす
知る。少女は
死者は不在にすぎないと
花。翳り
棺にかくす
謂く、
知る。少女は
涙は
ことば?
不可能だった
死者は死者にすぎないと
ふれない
弔うべきことば
かなしむ?
花。日射し
死者は不在
ある?他人に
まさか
目をそらす
知る。少女は
息は
悼み?
かなしかった
死者は不在にすぎないと
かからない
悼むべききもち
絶望的なまでに
花。翳り
死者は死者
ある?他人に
ただ
棺にかくす不安などない。沙羅には。気が狂っていたから。あるいはラン。彼女のように不安に、ときに翳り、ときにふるえることなど、沙羅。だからむしろ花を喰い散らすハンのように。不安などない。沙羅には。タオ。家出からの発見。一族のだれかに連れ戻され、死にゆく父親にそれなりに手をつくしながらも不安。なにに?なにが?タオのように不安にときに、ない。不安などない。沙羅には。あの父親。やつれ、末期の、もはや顔の筋肉を酷使して表情の微細を実現するなど不可能だったその顔。表情のない顔の不安のような不安など。ない。沙羅には。だからレ・ハンのように。葉子のように。しかも不安。そこにたしかに兆していた
なに?しかも
屠殺されかけ
不安。だから
なにを、ひとりで
花々は
わたしはただ
見てた?
かたむく
惑う。もっとも、そのまなざしに於く曖昧な事実が、まったき事実だったか確定させるすべはない。わたしに不安として知られる感情として、それが沙羅にも見出されてしかるべきだったかどうか。だから、ただ放棄としてのみ不安な、と、名づけるべき翳りに沙羅の、そしてくちびるがかすかにひらきかけるのを見た。タオ。なんどもおなじ、くちびるの微妙をさらした。タオ。だから十六歳のタオ。その十二歳、はじめて顔を知ったあたりからなん度も唐突に繰り返されたタオの
我々はむしろ
いびつ
家出。はじめて見たときは、
容赦ない沈黙に
いびつに、眉
繊細で、
沈みこむことで
いびつ
臆病そうで、それら
日々の生態を
いびつに、顎
繊細と臆病に阻害された素直の残骸を見た。わたしに、家出は意外だった。告げたランに聞き直したほどに。タオが住んでいたのは、その父親の父親、だから祖父の家だったが、ランの家に近い。歩いて十分もない。ミンという名の祖父。彼は、ランの祖父でもあった。ハンは祖父ミンの娘のひとりだったから。老いさらばえ、枯れて猶その巨体を誇る。最初に
狂人族であった
喰いちぎれ
ランに年齢を聞いたとき、
ぼくたちの始祖
たわわに実っ
九十歳くらいと言った。いま聞いたとして、おなじ答えが返ってくるにちがいない。独立戦争時代。正確な生年月日のわからない老人はここに、すくなくない。ドラゴン・ブリッジの脇の大通りに面した四階建ての家屋。それがミンの家だった。裏庭はひろかった。鶏がさわいだ。その二階の一室にタオは、女たちふたりと、そのひとりの連れ帰った男の子と寝起きする。女たちふたりは、ミンの娘だった。だからハン、かつて同居した妹、タオの実父カン、そしてこのふたり、そのどれもがおなじ母親なのかどうか、わたしは
Phan、潘
Bội、佩
Châu、珠
知らない。顔はあまり
Võ、武
Nguyên、源
Giáp、甲
似ていない。自分の
Trường、長
Chinh、征
部屋がないことはタオに、
Chu、朱
Văn、文
Tấn、晉
かならずしも不幸ではなかったはずだ。そんなことは稀れではない。いったいなん世帯の家族がその、仏間ふくめて五つの寝室しかない家屋に住んでいたことになるのか、わたしはよくわからない。一階の昏がりに、ひとつだけ仕切られたすずしい寝室だけは、祖父ミンひとりのものだった。以前は妻と共有された。いまや若き日の遺影が壁を飾った。カンも、病院から戻された最期、そこで死んだ。じぶんで身を起こすにも苦労するタンに、階段をあがるなど不可能だった。運び込まれ、じぶんの飾り彫りつき木製のベッドに並べられた医療用の無機質に、死にゆく息子を、祖父ミンは
死。それは食物連鎖の
強制された
見つめた。癌の
契機であった
青空を見て
カンがただ一か月の入院で戻されたとき、一目見た須臾、すぐさまにミンは涙をこぼした。そう云った。ランは。ただ歎きをだけさらすし、わたしのまなざしの至近に。寝室で、わたしのうえに乗りながら、…ね?
Buồn
しずむ
悲しいわ、と。その、
Buồn
おちる
かなしいただ一音節だけ、耳に
Buồn
いたむ
かなしく消えまかせ、やがて本当に、いまか夜明けにか、カンの最期の瞬間の接近を知らされたランは、その深夜、わたしをゆすり起こす。行きましょう、と。云った。理由も告げずに。ただ行き先をだけ告げたランは、バイクを出すわたしを待った。ただ、ひたすらなかなしみにわたしを見つめ、見つめる集中力もなく。立ち尽くしたランは、まるでわたしをこそ悲しんでいたかに錯覚させた。鈍感だった。わたしは。理由を言わないランの
我々の覚醒は
強制された
理不尽と不可解が、やや
須臾の倦怠をの
青空の下で
わたしの機嫌を損ねはじめたが、深夜にひとつだけ煌々とあかるい家屋、祖父ミンの部屋に入るとすぐに察する。家屋は人をあふれさせ、騒然をさらし、孤立していた。この国の慣例として、死にゆく者の最後の瞬間のため、入口面の荷物を全部片づけ、がらんどうにし掃除する。あつまった一族は繁忙をきわめた。慣れないタオは、ひとり役立たずにうろつく。ただ、ほんの半歩半歩の範囲をだけ。娘がいま消え去ろうとする父親のそばに寄り添わない事実に、あるいは慣習の理不尽と冷淡を見た。奥。ミンの部屋。漏れ聞こえる遠慮のない慟哭に事態を察した。別居の妻が娘を連れて、そこに来ているのだった。泣き叫ぶ
おぅおぅおぅ
嬌声がひびき
声。思わず、ランに、
おぅおぅおぅ
青空お喰らふ
もう?と。あわてたランはわたしの口をふさぐ。唐突な指先。…まだ、と。傷みのある眉。ラン。もの狂おしげなささやき。事実、カンは生きていた。立ち上がりそうにも見えないが、死にそうにも見えない。準備はすべて終わった。いまかいまかと、しかしたぶん、朝をむかえてからだな、と。ひとびと。やがて唐突なカンの小康。実際、ひとりで立ち上がってトイレに用を足した。なんとなく気抜けした思いがただよいはじめた。そんな頃合い、突然カンは死んだ。三時くらい。正確な時間はわすれた。家屋の入口ちかく。なにもない、あまりにも空虚な空間にわたしは、ランの腰をそっと
ほう。…ら
あふれ出よ
抱いていた。カンの
なみ。だ、が
とめどもなく
妻がののしりながら
ほう。…ら
発熱せよ
出てきて、尻を降る。ミンの娘のひとりが罵倒した。妻が連れた十歳ばかりの少女はスマホのゲームに忙しい。ふいに顔をあげ、なにも見ずに泣き叫んだ。指は液晶をはなさない。そんな、最後の夜明け前、ふいに近づいたタオはたしかにおなじように、なにか言いかけて言いださず、なにか言いそうでなにもいわないくちびるの微妙なひらきを、もたれた背中。わたしの。壁にもたれたわたしは、タオ。笑みに似る顰めつら。あるいは反対?まなざしのなか、そこに、ゆっくりと乾いていく粘膜の痛みをなぜか感じ、その乾きに?あるいは、
ぼくらのすべては
だいじょぶだ、よ
怯えた。容赦もない
虚偽であった
あしたは暴風
乾燥。やがて
ぼくらの風景は
だいじょぶだ、よ
タオの
偽りに染まった
あしたは噴火
肉体のすべてがだから、
ぼくらにせめて
だいじょ
さらさらと?乾燥していくのをべたべたと?びしょびしょと?ぬるぬると?濡れ、濡れた沙羅。ただ、そこにあくまでも健全な、健全にうるおう健全な沙羅その健全な唾液さえもが乾き、そのやわらかな開口から見えない水蒸気の蒸発になってかすかにかすかすに?すかすかに?だからやがてぼろぼろに?…衆目のもと、いまや崩れて行くしかない永遠の乾燥をさらすべきだった巨石。ナイル川のちかくの太古のファラオたち。しずかな崩壊。見る影もなくあるいは最後の晩餐。レオナルド。ただすさまじい構図の精密をしかのこさない乾燥?マヤの。乾燥?マチュピチュの。乾燥?ひからびて朽ち、朽ちてゆくかのように湿気のためにいきいきと。しかも猶も沙羅は微動だにさせないくちびるのひらきにうるおい。猶も?恐怖。ただもう、そこに猶予のないラン。そこ。股に流れ出す体液。ようやく宿った命がなぜ?絶望を、そのときにわたしは、なぜ?まだ流れ切ってはいないそれに、もうすべての終わりを。ラン。絶望にランを、恐怖を、危機を、激怒にちかい切迫を、緊急を、瀕死。しかもなにもできないでいた四肢のふるえ。放置。ただ見つめ、ゆびさき。なぜ?わたしの、痙攣。こゆび。吐くべき言葉のかけらさえうしない、…なぜ?謂く、
まだ?まだ?まだ?
まだはやいけれど
うめてしまおうか
まだ?まだ?まだ?
儀式とは、たぶん
巧妙な方法ではないか
死をみとめないでいるための
儀式とは、生者の
まだ?まだ?まだ?
吐きそうだ、と
きみの頭上で
耳。わたしにだけ
まだはやいけれど
ささやく。だれが?
滑走をやめない
だれが?叫んだ
うめてしまおうか
耳。わたしにだけ
雲が、ふと
もどしそうだ、と
まだ?まだ?まだ?
褐色の少女は
茫然と、ただ
その茫然を、ただ
少女はさらした
まだ?まだ?まだ?
もどしそうだ、と
雲が、ふと
耳。わたしにだけ
うめてしまおうか
だれが?叫んだ
滑走をやめない
ささやく。だれが?
まだはやいけれど
耳。わたしにだけ
きみの頭上で
吐きそうだ、と
まだ?まだ?まだ?
儀式とは、生者の
死をみかけないでいるための
絶妙な方法ではないか
儀式とは、たぶん
まだ?まだ?まだ?
うめてしまおうか
まだはやいけれど
まだ?まだ?まだ?
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