アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -86 //沙羅。返り見た/目のまえ。ふいに/扉は、沙羅。いま/ひらかれた。いま//03
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
謂く、
絶望をあげよう
きみがいつか
くれたから。ほら
この絶望を
苦痛をあげよう
きみがいつか
なすりつけたから
この苦痛を
謂く、
絶望をあげよう
がくがくし
感じない。もう
剝く
きみがいつか
くがが
傷みさえ
すり剝く
くれたから。ほら
がくがくしてた?
おとなですから
剝く
この絶望を
苦痛をあげよう
わなわなし
おびえない。もう
削る
きみがいつか
なわわ
傷みには
すり削る
なすりつけたから
わなわなしてた?
こころないから
削る
この苦痛をヨハンネス・ブラームス。ハンブルク生まれ。ウィーンで死んだ。十代の頃には軽蔑の対象だった。音楽の強靭すぎる洗練とうらはらの人物像の鈍重な印象。二十代には嘲笑だった。三十を過ぎ、なにを切っ掛けにというでもなく、ふと彼が見ていた風景の固有に気付いた。あのしかめつらしい長大な交響曲ハ短調。第一番。いわゆる第十番。あの悲痛な序奏。そこに見出すべき風景はロベルト・シューマンの残骸を見る青年のまなざしにひろがっていた荒涼だったにちがいない。赤裸々な、…なに?絶望?悲嘆?苦悩?苦悶?苛酷?苛烈?憎惡?忿怒?絶叫?燃える沈黙?なに?貧しく、あまりにも貧しく未来のないヨハンネスを見出し、引き立てた恩人。しかも憧れのアーティスト。ロベルトの妻に親しむ。噂は本当だったのかもしれない。妄想だったのかもしれない。それに対して、いまさら他人がとやかくいうすじあいはない。とまれ、ロベルトとクララとともにヨハンネスは幸福だった。未来がその目にたしかにきざした。未来に、型どおりの幸福などあり得ない事実はすでに知られながら。破綻。しかも熾烈なそれ。その、ふいの訪れ。発狂のロベルト。そして入水。しかも、失敗。ぶざま。生き残った譫妄のロベルトを見たときのヨハンネスが見出し得た風景はいったい如何なるものか。絶望という文字そのままの、未来の断たれた現在だけが存在する凄惨。なにもかもが不可能に追い込まれていた。それだけが事実だった。傷ついたロベルトを救う?どうやって?譫妄のロベルトの耳に届く人間の言葉など存在しないのに。赦しを乞う?だからどうやって?如何なるものの如何なる言葉で?圧倒的な救済のなさ。圧倒的ななすすべもなさ。ヨハンネスは言葉をうしなうしかない。ただ、たしかな技術のみが空っぽの、しかもあまりにも高度な音楽を高度に生産し、彼はそこに取り残されたつづけるしかない。たしかに、解決しなければならない。いますぐに。しかし解決すべき手段はすでにすべて断たれた。懊悩のなか、ついに思いつく。にもかかわらず、音楽だけはうつくしい、と。破綻をしか見なかったロベルトの、しかもその音楽は猶もあきらかにうつくしい。クララのそれも。そしてヨハンネスの空虚なそれでさえも。しかも、そのうつくしさをもって救われ得たものなどなにもない。この、なんらの救済もない空虚な美の事実に、それでもゆるがしいがたい確信を見出すしかなかったおいぼれかけの男はようやくはじめての、逡巡しかなかった交響曲の完成に向かう。聞けばいい。完璧な音楽美。最終楽章。歓喜の主題のその意味をさえ消滅させる美の構築の強靭。展開の嵐。すさまじい強度の音楽美だけの伽藍の強烈。なにも救わない音楽美。しかも絶対的な美。あるいは、もっとも苛酷で救いなく、辛辣でもはや微光させささない究極の傷み。それがまさにブラームスの風景だったのではないか。ホ短調。作品98。ためいきのH。もはや笑うべきメロドラマのテーマの陳腐。それさえ提示の直後には容赦ない音楽美の明晰。空虚で凄惨な美の伽藍として構築され、須臾のだれ場ももたつきもない。完璧で完璧な、完璧なだけの暗黒の美。マーラーは明るい。ショスタコーヴィチは猶も日常生活に固執している。シベリウスはむしろ凡庸なメルヘンにすぎない。ぺッテション、やさしいひびき。シュニトケはただ、嗚咽の目に赤裸々に哄笑する。ただひとりブラームスのみがもはや言葉も追いつけない沈黙をさらし、北極星の果てに誰にも見出せない美の伽藍を構築していた。零度の、しかもぶざまな美。ランの唐突な、最初の妊娠の…唯一の。きざしに、そしてその告白のはにかみ笑いに、…マー、と。あなたは、パパになります。歓喜は噓ではなかった。レ・ハンを赦したわけでもなかった。言葉に出すかはともかく、ランを
からめる
しあわせですか?
糾弾しなかったわけでもなかった。わたしは
指と、指
充分、わたしは
知った。わたしと、そして
かさねる
しあわせです
ランの幸福がそこに存在することを。だから事実、わたしたちは慥かにしあわせだった。ランは、なにも言わなかった。なにも。ただ、ラン。その、いまだ膨らみはじめもしない腹部にふれて、「名前は、…さ」
うばって
ほ。ほんと
「もう?」
モーツァルト?…なぜ?You tubeからわたしが流しつづけたその、ピアノ。まろやかなひびきに「眞沙夜が、」
おれから
無理なんだ
「おれ?」
クララ・ハスキル。究極の美音。現実ではありえない「おれが、ね?」
希望を。すべて
あなた以外に
「名前?…まだ」
ピアノ。香り立つひび割れの、「つけて。…名前は」
うばって
愛せないんだ
「わからないじゃない?まだ」
変ロ長調、K. 595。胎教にいいんだよ。…と。その胎教という英語も、「なにがいい?」
おれから
ほ。ほんと
「男か、女か、」
ベトナム語もしらないわたしは「男の子だよ」
よろこびを、すべて
ダメなんだ
「なんで?」
まだ早いわよ…まだ「眞沙夜似の」
うばって
あなた以外に
「男は、母親に」
いいよ。すくすく、お母さんのなかで「そっくりの」
おれから
あり得ないんだ
「似るんじゃなかった?」
育つよ。たぶん「じゃ、女の子」
未来を、すべて
ほ。ほんと
「なにそれ」
知らない?「なんか、もう」
うばって
樹木の幹で
「お前、自分が」
知ってる。よく、「天使みたいな」
おれから
鉄が溶け
「きらいなの?…やめな」
知ってるわ、と、
Well I know
なに?それは、な
だからその幸福。容赦ないしあわせ。その微笑に、…なぜ「眞沙夜みたいな」
にじんでゆくね
ひたすらに
「自分を、お前」
ブラームスが猶もひびく余地がありえたのだろう?いまや「女の子。だから」
色彩が
冴えてゆく
「この期におよんで」
だれよりもよくあの暗黒のうつくしいひびきが似合う「でも、さ」
きみを見つめた
明け方に
「傷める?…みたいな?」
ラン。翳りに「でも、でも、でも」
まなざしのなかで
朝焼けのまえに
「そういう、」
やつれ、猶も「でもね?」
とろけてゆくね
空。昏い
「楽になったら?」
幸福をあきらめない「内緒。ハオには眞沙夜が」
色彩が
夜は
「なんで?」
ラン。その「名前つけたの、」
きみに見蕩れた
とめど
「内緒?」知っていた。すでに、一度も病院に行かないままに臨月ちかくになった胎をなぜながら、その時にはふいに唐突な薬断ちをはじめていた春奈。ただしほんの四か月だけ。だから、清雪は六か月間は薬物の影響下にあったことになる。「オッケー、」と。わたしは春奈のためにほほ笑みながらすでに知っている。おなじその密約をハオ・ランとも交わしていたことを。しかも、もう、なん度目にも、なん十度目にも。だからその二人分の、密約させた回数。時にはわたしの目の前でさえもハオ・ランに、そんな春奈。あどけない崩壊。赦した。わたしは。ハオ・ランは。いまは。やさしい崩壊。ほほ笑まれ、ほほ笑まれつづけ、密約をむすびつづけたそのひたいにななめに
すべてを
ぼく、死ねるかな?
綺羅。むしろあわい
あなたに
きみ。きみのため
綺羅。その
いのちさえ
迷う須臾なく
帯び。
あなたに
後悔もなく
ひかり。だから、
すべてを
きみ。きみのた
白濁。そのひたいはそこに、白濁のななめにだけ色彩をうしない、しろ。春奈は、その最後の時期にもまるでいちどもきたない外気にふれたことないとばかりに白濁。その帯び。そして、しかも帯び。にもかかわらず、翳り。やわらかなそれ。なじみあわない、白濁とは。とけあわない、絶対に。しかし、あやうい親しさがむしろそこにさらされ、翳り。対比。鮮烈な対比を返り見る沙羅は全身にさらし、だからもはや、あざわらうような——なにを?そこに誇られていた肉体を、だれが?わたしはひとり、そこに見ていた。謂く、
明け方に
いつか、しろい
しろむ、明けに
ひかりに、ひとり
見た。その
いきづかう腹部を
見た。その
かすかな荒れも
なぜ?しかも
ふれも、すこしも
わたしは、なぜ?
わずかにも、そこ
明け方に
いつか、しろい
しろむ、明けに
ひかりに、ひとり
謂く、
明け方に
呼吸。なぜ?
ふるえていた
たしかな
いつか、しろい
もだえ?
だれ?わたし
えづき?
しろむ、明けに
わずかな
小指だけ
呼吸。なぜ?
ひかりに、ひとり
ひとり、ひかりに
呼吸。なぜ?
右眉が
わずかな
明けに、しろみ
わななき?
だれ?わたし
途切れそう?
しろい、いつかに
たしかな
ふるえていた
呼吸。なぜ?
明け方に
謂く、
ひとり、ひかりに
明けに、しろみ
しろい、いつかに
明け方に
わずかにも、そこ
わたしは、なぜ?
ふれも、すこしも
なぜ?しかも
かすかなあえぎも
見た。その
いきづかう腹部を
見た。その
ひかりに、ひとり
しろむ、明けに
いつか、しろい
明け方に
見てていい?
いい?見てて
見、いぃっ
見てていい?
謂く、
見てていい?
ぼくが死んだら
渇く。なぜ?
たのしくて?
いい?見てて
笑う?意外に
喉?血が
口を
見、いぃっ
しあわせに?
渇く。なぜ?
きみが死んだら
見てていい?
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