アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -85 //沙羅。返り見た/目のまえ。ふいに/扉は、沙羅。いま/ひらかれた。いま//02





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





謂く、

   雨はそれでも

   それでも猶も

   なぜ?雨。ほら

   雲にはきれめ


   雨はしかも

   しかも猶も

   なぜ?雨。ほら

   裂くひかり

謂く、

   なぜ?雨。ほら

      は。はく息

    いちどもたぶん

     あなたを

   雲にはきれめ

      息さえ、あなたを

    愛したことなど

     窒息さえも

   なぜ?雨。ほら

      あなたを

    須臾にもたぶん

     づ。すう息

   裂くひかり。あ、…と。なにか、ひびいたというひびきがあったわけでもなく。だから完全な静止の気配の中、しかし返り見た窓際の沙羅を感じて想わず見た。沙羅を。その、汗を流したばかりのわたしが。髪にもいまだ雫をこぼしながら。沙羅は寝起きのままの素肌に返り見ていた。たしかに、わたしを。頸。かすかにねじれた背筋。ゆたかな腰の鈍重。それがすなおな固有のいびつをさらした。いまだ流されなかった夜の、沙羅の体液が匂った気がした。馴れて狎れきった鼻孔。あくまでも敏感に、うっすらとではあれ。朝の沙羅はいつも匂う。ことさらに。ややすずしくなりかけた九月の夜、冷え切りすぎた部屋の中で、沙羅がよくひとりだけ寝汗にまみれていられるものだと思った。沙羅の顔。そこ。きざした、不安をも感じさせたまなざしの翳り。わたしはあやうぶむしかなかった。昏い目。虹彩。しろ目も?睫毛。瞼が?まさか、ただすみやかに延びた眉が?かすかに笑んでいてさえも昏い沙羅。その、だから日常にすぎない狂暴な昏さとはべつの、吹き消されかけたのろうそくのひかりの須臾に歎いたような?…そんな、曖昧な、明確な、まなざしの翳り。想う。不安など

   我々は

      鼻さきに

感じるはずがないと。その

   不逞なる花。花のように

      汗のつぶ

沙羅。

   開口した

      なぜ?

狂気。知性などかけらもないけだもの。沙羅。不安など。あの春奈。最後の時期のくちびるがさらしていたこれみよがしの明るさ。なぜ?「壊れる、かも」

   きみの

      キスを、その

「なにが?」

明るさ、昏さ、そんな明暗の概念に見えた風景でさえなく、もう、その「すぐ、…ね?もう、」

   きみだけの

      足。みぎ足の

「なに?」

まなざしのまえではなにも言えなくなるほどに、ただ、ひたすらな「たぶん、もう」

   傷みがゆらぎ

      くすりゆびの

「なんで?」

光源。だから、そこ。光源にそのまなざしは、…だれ?「手の施しようもないくらい、に」

   ほぐれていった

      爪に

「なにが?」

沙羅の?それとも、「壊れちゃうと思う…」

   きみの

      キスを、その

「いつ?」

春奈の?…なぜ?「あなたの、」

   きみだけの

      くるぶし。みぎの

「だれ?」と。ささやいたレ・ハンの耳たぶを咬んでやる。たわむれに、そして、レ・ハンがおなじくたわむれに、ことさらの、恍惚の声をあげてみせたのを聞いた。赦した。レ・ハンを。そのわたしだけへの侮辱を。愛撫、そのかすかにさえ、ふれるものへの軽蔑しかさらさないレ・ハン。だれよりも上手に、やさしく心の一番ちかくに笑んでみせるレ・ハンは「大切な奧さん」そう、そのやさしいくちびるに「でも、」つぶやいた。「妊娠したかも。…ね?」

「妊娠…」と。レ・ハンの

   咬んで

      ささやく

舌。馬乗りの、そして

   耳たぶを

      細胞たちが

無造作な顎に

   咬んで。そして

      さなぎのなかで

わたしの鎖骨を

   にじませて

      こぼれる

傷めながら、

   透明な血を

      ひびきが

厭う。汗ばんだ喉にその味覚と匂いを感じるのを。妊娠?ことばは、しかし喉に、…って、なに?ふるえない。

「なに?…それ」

明確に、もうすでに確定と、不安と、懐疑と、惑いと、それらさまざまな感情が予測される様々な未来…過去?すでに存在する過去なる事象?…の、さまざまにふさわしく、またはふさわしくもなく顔のふかみにゆれ、ゆらぎ、「なに?」沈黙。

「ランと、やっちゃったから」

瞬間、のけぞる肉体。レ・ハンのやさしい無抵抗。股に敷いた。ひっくり返され、喉を捉まれ、馬乗りにされたその肉体。そのぶざま。レ・ハンは恥じらいも、厭いもしない。わたしにさらしていた。そして素直に脱力していた。しかも、須臾にも、降伏など。

いいよ。と。声が

   なぜ?いま

      ひんまがった

聞こえた。

   あなたはせつない

      背骨が

わたしを

   ほほ笑みを

      失神

見つめる目。やさしいだけの、…いいよ。

「すきにして、」いいよ。逸らした。眼を。わたしは。だから、

   絞めてあげよう

ひびき。雨。たしかに、

   頸を。きみが

      えづく

雨の。そこ。

   気絶するまで

      鼓膜が

耳に、

   閉じていよう

      えづく

鳴り、そこ。耳に

   目を。ぼくが

      静脈が

鳴り響き、雨。

   失語するまで

      えづく

そこ。ふりしきる、そとに。しかもやさしい、そとにだけに。「なぜ?」と。耳にはすでに明確に聞かれていた言葉。決して喉にはきざしさえ。なにも。かけらさえも。なにも。雨。雨の響きなど。なにも、だから晴れ渡った六月。ダナン市の真夏。その日の午前の、だからレ・ハンの家のひろいリビングには微風が、雨。しめやかな?けなげなほどに不遜なレ・ハン。いつも雨。せつなげな?その寝室ではなく、ましてやわらかな寝台でもなく、雨。ためらいがちな?リビングの御影石の床の上でのみ、わたしを抱き、雨。どこか、あやうい?たわむれるいたずらな雨。しかもついにはただやさしいだけの、

   降れ。もっと

      とめた。息を

雨。その

   かぎりなくやさしく

      ふれた、指

雨のなかに

   降れ。もっと

      ひそめた。息を

振り返ったランはわたしになにか言いかけた。「なに?」その耳にすでに明確に聞かれていた言葉は決して喉にきざさない。わたしのふいの朝のくちづけ。そっと身をのけぞらせ、やがて抱かれた腕の中。そこからも逃げ出すように、ラン。だから手を放された自由なラン。解き放たれた、——ほんの数歩だけ向こうに

   ん?

      翳る

歩いた。振り返った。「…怒った?」そのレ・ハンはささやく。だから

   ん?

      ひかる

夢見るような美しい声。わたしはしかし、じぶんの忿怒がただわたしの視野をだけ熱狂させまさに発熱を以て咬むのを不安。たしかにその雨の朝、雨のひびきに気づく前には気づかれていたラン。その不在。だからベッドのかたわら。不在。いちどもわたしより先に目覚めた事のない、不在の存在。ラン。なにもなかった。昨日の夜には、なにも。なんのきざしも。なんの気配も。ほのめかしも。云わなかった。なにも。ラン。ひとりだけ早起きしなければならない例外が、今日であるなど「昨日…じゃない。」笑み。むしろ「一昨日、…か。だから、」諦めたに「ランの、家に、」似た「…ね?」笑み。「行った」

「知ってる」知らなかった。そんな事実など。しかしわたしはたしかにその雨。ひびき。すでに雨が降っていたことに、だからわたしは身を起こしてなんら物音のない、…ひそめた?リビングに、…雨。その、それら歩いていくとやさしい雨。その、やさしいただ、そとに。「早いじゃない?」と。その耳にすでに明確に聞かれた言葉は決して喉にきざさない。なぜ?

   ん?

      翳る

なにも不穏など。

   ん?

      ひかる

まだ五時過ぎ。

   微妙な、焦燥

      こわがらないで

雨のせい。

   微細な、傷み

      怖れな

夜の翳り。

   ん?

      ひかる

しかも、

   ん?

      翳る

稀薄に。夜明けがはじまりかけていた事実などあばかれていなかったそこにランは乾かしていた。洗ったばかりの髪の毛を、扇風機に。木製の長椅子。ねじられた、背すじ。自重を知る腰。見た。わたしを。見てなにか言いか——想いかけ?そして、

   あら?

      塵が、綺羅めき

ラン。笑おうとしたように

   あら?

      停滞。あいまいな

見えた。その、いまだ

   あら?

      旋回。しかも

表情のないまなざしに「話してた。…あなたはいなかったけど。雅雪との、…なに?しあわせな、…でも」だからその例外的なランに、わたしは「こどもの問題。…欲しがってるじゃない?…彼女。…で、」おののきにもふれようのないまま、いつもの「知ってるから。ぼくは、あなたが」膝間付いた抱擁を。そして、ほほ笑み。そして「できないこと。…もう、能力ないでしょ?責めてない。…だれも。ランも、で」ひたいへの、…だめ、と。「もう知ってるのに、しかも、さ」くちづけを、…やめて、と。

   Không được

      舐めてよ

「願ってる。あなたと、三人?…四人に、なって、いつか、」無理やり抱きかかえられたランは「きっと、」いまだ濡れた髪をわたしの「そうなること。だから」胸元に、そして「ラン、意外に」

「で、やったの?」…やめて。いまは、わたしは、

   Không được

      やさしく

「おれが種づけしてやるよって?ぶちこんで、引っ掻きまわして、ぶち壊してもて遊んでやるよって?」

「まさか…」惑う。いまやその頸。思わず絞めかけてさえいた手のひら。レ・ハンのまなざしは、赤裸々なかなしみに、しかも完璧な純度の矜持のあるまなざしに、…翳り。いたいたしい、だから、レ・ハン。——いちばん傷ついてるの、…と?おれだぜ?…そんな。たぶん、そんな傷みもなかなしみもただたわむれだけ。実には、なんらきざしてなど。まなざし。レ・ハン。不遜な天使。

笑んだ。レ・ハンは。いいよ、と。そのままで、と。「あなたは、ぼくを赦せない。だから」

   星々は

      燃えたのだろう

「赦せないそのままで…でも」

   翳ります

      あの失神していた

「ぼくは、さ」

   音もなく

      昏い鳥たちは

「あなたたちを幸せにしてあげる」あの雨のひびきだけを聞く。謂く、

   蠱惑。うつくしい

   男は至近に

   ちかくに、夢のように

   笑み、…え?


   ささやく向こうに

   壁には翳り

   横殴り

   なにが、…なに?


   ながい翳り

   まばたき、ふいに

   見て。わたしは

   大丈夫?まだ

謂く、

   男は至近に

      知ってる

    微風は

     意外…え?

   笑み、…え?

      ほほ笑んでいたこと

    微風?そっと

     なに?

   見て。わたし

      わたしが

    いま、髪を

     ん?…って、さ

   大丈夫?まだ


   蠱惑。うつくしい

   男はまばたき

   あわいまぼろしのように

   笑み、…え?


   ささやく頬に

   くちもとに窪み

   あさい、しかし

   あきらかな、なに?


   濃い窪み

   消え、唐突に

   見て。わたしは

   大丈夫?まだ

謂く、

   男はまばたき

      知ってる

    臭気が

     は?…なに?

   笑み、…え?

      せせら笑っていたこと

    臭気?そっと

     でも、さ

   見て。わたし

      わたしが

    なに?ふと

     ん?…って、え?

   大丈夫?まだ


   なにも言わない

   言わないでおくね?

   言わないでおいたね?

   なにも言わない







Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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