アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -68 //ひらかれた。いま/扉は、沙羅。いま/目のまえ。ふいに/沙羅。返り見た//06
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
謂く、
さくらさく
さくらのはなに
花びらに
咬む。蝶が
さくらかむ
蝶たちの牙に
その不用意に
雅びと名づけた
謂く、
さくらさく
あなたは、笑うね?
衰退など、もう
頸、切ったら、さ
さくらのはなに
ぼくが、眼の前で
知っていた。しかも
その、鼻先で
さくらかむ
吹っ飛んだら、さ
厭いなど、なにも
ほほ笑むね?あなたは
蝶たちの牙に
「もう、いい加減にしてくれない?って」
「なに?」
「いや…」ささやく、その声を聞く。わたしは、しかも不用意に笑んで。
その朝に
穢されなど
「なんだよ。いきなり。なんか、」
「なに?」
「あったの?」…いや、と、そう正則のくちびるが動きかけた気がした。だから、
朝焼けに
なにも。だって
「ごめん。…違う。なんか、おれ」
「なに?」
「ごめん。顔見た瞬間、おまえの、…に、」夏。清雪が、十三歳だった、その夏に、わたしは
きみは。なに?
すでにぼくらは
「愚痴るっていうかさ、もう」
「なんだよ。だから」
「でも、さ」見つめる。やや、見上げる。正則はその親父ゆずりの長身を
なにを見たの?その
泥にまみれて
「わかれよ。おれの気持ちも。なんか、お前ら親子に」
「…清雪?」
「いや、…」親父に似た瘦せた身体に持て余すようように、そして
朝焼け。ひとり
傷められなど
「知ってる?」
「なに?」
「聞いてない?…か、」ふと、その猫背を「あいつの…」伸ばした。思わず「敦子。ダメになった」笑った。わたしは。その、代々木上原のカフェの事務所スペース。そのころ、安原という若い建築デザイナーがいて、カフェは彼の仕事場と店舗とを兼ねた。古い中古マンションの一階の、凝ったつくりのカフェの内装は、そのまま安原の仕事の見本であり且つ、飲食業収入をももたらしていた。センスのいいデザイナーだった。そして商才も、金もなかった。泥水はすべてわたしがすすってやった。清潔な店内。アイボリーと、白と、あわいピンク。それら、言葉にすれば下品を極める色彩が壁の面をそれぞれにかざり、つつましく瀟洒に空間を憩わせた。見事な仕事だった。モンドリアンもロスコも、たぶんそこではもはや単色に見える。安原は、そのときわたしの背後で、CADだかなんだかのソフトを弄っていた。「覚醒剤でもやりはじめたとか?」
「我喜屋と一緒にするな」
目を逸らす。正則が。嫌悪。「似たようなもんでしょ?で、」正則の来店は、「…どうしたの?」唐突だった。目を「いったい、」疑った。入口の「なに?」あわい逆光。そこに
しずかに時間が
木漏れ日に
翳るひとのかたちが
流れればよかった
笑ってみない?
正則だと気づいたときには。「縁談、というのが、あいつに」
「敦子の?」
「そういうのが、あって、それが」驚いた。正則が店に単身来たという、その事実よりも、そもそも店舗事務所の場所を知っていた事実そのものに。「…だめに?」会うのさえ「…なったの?」久しぶりだった。清雪が「…そう」十歳だったときの、あの「…って、でも、あれ、なんだっけ?」春の、「知ってたの?縁談、」道玄坂以来。「聞いた。秩父宮どうのっていう…」
「馬鹿だよ。敦子は」
「なぜ?」
「断わるのは、まあ、いい。ただ、」
「あいつが、あいつから、断わったの?」
「理由、ぜんぶぶちまけて。誠実なかただから、誠意でお答えしなければならないとかなんとか、…自己満。だろ?それ。莫迦だよ。じぶんの恥さらしてどうするの?おれは、」
「なんで?…でも、先方、敦子の、…なに?過去?そういう」
「それは、もう。クリア。問題なし。だいたい、それも、…莫迦。あいつ傷もんじゃん?違う?いや、実の兄だから、からこそ、おれは言う。他の奴がもしこんなん言ったら、おれは」
「で?」
「せっかく、ぜんぶ承知で、それで身柄、引き受けるって云ってた。それを、さ。しかも」
「親父、盛り上がってたらしいじゃん?」
「そうでもない。今の方が、」
「いま?」と。わたしが言い終わる前に正則は口をひらきかけ、だから、待つ。わたしは、言葉を。目。正則の。それが、わたしを見ている。見つめる。ふと、切っ掛けもなくて、水平にすべった。瞬間、彼は
なに?それは、な
やわらかに
笑い崩れた。ひとり
吹っ飛んでしまっていたもの
すべるように
声を立てて。「謂く、末裔はしょせん末裔でも、一応、天皇の血筋に恥かかせたんだろ?泥ぬったんだろ?いいんじゃねぇか?それで、とか、さ。せせら笑ってたよ」
「…らしい。かも、な」テーブルを、わたしの指がふと、なぜた。「…いいんじゃない?決断…敦子の決断だろ?あいつなりに」
「ぜんぜん」
「悩んだうえのって、な」
「違う。ぜんぜん、」
「なに云ってる?お前」
「ぶち壊されたんだよ」
「だれに?」正則は「だれ?」そして「だれかって?」ただ、沈黙を返した。茶番じみた、不愉快な沈黙だったから。表情のない顔に、すくなくともわたしはただ、軽蔑をだけ見ていた。だれに対する?すくなくともわたしを含めた、だれかたちへの。推察するまでもなく、「やめっ、」それは「やめときゃ良かったんだよ」春奈、清雪。「引取るの」
「清雪?…なにしたの?あいつ」
「我喜屋なんてもう、血縁って謂ってやるべき血縁ですらないじゃない。お前だって、そもそもお前の親父さんだって」
「あいつは関係ない」
「大親父の長男のくせにさ、放ったらかしで無責任に、さ、おれ、人を育てる仕事します、的な?だろ?莫迦?馬鹿だよ。家出ていって、しかも、頭おかしな女、…だろ?妊娠させて、しかも、」
「だから、それは関係ねぇだろ。おまえ、いま、おれに」
「我喜屋とお前。…と、更にそのクソ餓鬼。もう、ほんと」
「やられたいの?」笑んでいた。わたしは。そこに。その笑みに増長していた自分を、正則は知った。そして見てあきらかな同じ笑みが、赦しのそれである以上に加虐の直前の、あやういそれである可能性さえ持っている事実に、いまさら気づいた。目を伏せた正則を、わたしは見ていた。安原は動じなかった。たぶん。背後、須臾にだけ、その目がわたしを伺った気配を「…ごめん」と、感じ、やがてひらきかけた正則のくちびるが、謝罪をつぶやくものだと、わたしは「あいつと、…」思っていた。「さ?あいつと、あの」
「だれ?」
「敦子。清雪。あれ、何歳ちがいだっけ?」正則。耳が聞いた声。冗談じみていた。奇妙に、その正則が赤裸々におだやかだったから。わたしが、内容は如何として、なにか声をかけられた瞬間に唐突にさらすかも知れない暴力性の苛烈など、自分には「おれは、」他人事とばかりに、「二十二だった。清雪を、春奈が生んだ時…」
「だいたい、その関係自体、血縁じゃない?」
「敦子、何年生まれ?」
「おれの七つ下」
「何年だよ。…だいたい十八くら、…十七?くらいだったろ?春奈の葬式。…あの時、高校生だったから」
「親子ほど違うわけじゃない?清雪と。年が」
「どんな親子だよ」
「お前が謂うなよ」そして、正則は「おまえが、」笑った。沈んだ「ほざくな。…」声を立てて。「お前ごときが」と。あのとき、壬生の邸宅に連れこまれた時、だからはじめてわたしが壬生風雅と対面した朝にも、そこで風雅はそう云ったのだった。そして、「ほざくな」もう一度、短くささやいて、風雅。鼻が、ふと、唐突に笑った。耳慣れない、沈んだ笑い声で。大親父と、家族のみならず古参の取締役クラスまでもがそう呼ぶ先代、秀則の時代にはまだ急激な成功を収めた不動産開発業者に過ぎなかった。風雅の代で経営は一気に多角化した。買収した傘下企業含め、全体の組織図がどうなっているのか、わたしは知らない。後を継ぐとすれば、直系としては正則しかいなかった。正則にその才覚がないのは明らかだった。家出同然に宮島に流れた雅文とは絶縁状態だった。そう聞いた。島の寺の住職に。雅文に、後継たるべき嫡子はいなかった。あるいは雅文だったらむしろ、この当時の会社組織をうまく統括できたかもしれない。もう、風雅たちの時代ではなかった。巨大になりきった企業組織はなにがなんでも自浄に走らざるを得ず、更に、尖端企業と矜持したひとびとの口にはコンプライアンスという言葉がささやかれはじめていた。泥まみれの英雄は不要だった。わたしは、十六歳で宮島を捨てた。家出した。行きついたのは歌舞伎町だった。新人ホストだったわたしを、住んでいた神楽坂のマンションの前に、その朝出迎えていたのは当時としても驕ったスーツの男たちだった。いわゆるバブル期。笑いそうになった。あまりにも町と、時間と、男たちの顔と、肉体と、ともかくすべてに、そのエンポリオ・アルマーニは過剰にすぎたから。肉体は、格闘技のそれと知れた。人数をいちいち数えはしなかった。暇がなかった。十人はいなかった。空手家ふうだった。ムエタイのしなやかな細さと無縁で、柔道の鈍重な重さにもかさならない苛立たしい太さは、当時の空手以外にはなかった。ひとりがわたしをプリント写真に確認した。声をかけるまでもなく、男たちはわたしを羽交い絞めにし、そして集団で傷めつけた。何度か落ちそうになった。思えば初めてだった。苛酷なリンチ。稀れにすれ違う一般人は、目に見た風景をほんとうにできずに通り過ぎた。失神したことに、わたしは気づかなった。だから、どうやって壬生の麻布本邸に連れこまれたのか、知らない。気づいたときは、女の手で手当てされていた。それがあるいは、正則の双子の妹だと云っていた女だったのかもしれない。うつくしい女ではあった。その、あくまでも抽象的な言葉の記憶しか、もはやない。笑んだ。逆光だった。そんな気がする。なにも話さなかった。語りかけられもしなかった。だいじょうぶ?のひとこさえ。だれ?と、そうつぶやくにはわたしの顎は、傷みすぎていた。肉体が疎ましかった。わたしの目覚めを見て取ると、女はすぐに出て行った。やがて、違う女が部屋に来た。放置されていた時間の記憶はない。そればかりか、その部屋。洋室だったか和室だったかの記憶さえも。飛んでいるのか、もとから正気づいてさえいなかったのか。女がわたしの名を呼んだ。会話があった。例によって、その記憶はない。あとから、女が敦子だったことを本人から聞かされた。それがほんとうなら、正確には少女と呼ぶべきだっただろう。その、具体的な記憶のない抽象的な女は。十一、二歳だったことになるから。わたしは自分で歩いて、和室に行った。まばらな人々が、そこにいた。それぞれに、立ったり、座ったり、もたれたり。なんの緊張もない。狎れあいもない。憩いも、冷淡もない。もっとも、あくまでも記憶はあやしい。ひろかった。何畳と数えるより何坪と数えるべき広さだった。真ん中に座らされた。正座を強制されたかもしれない。不可能だった。膝が曲がった瞬間、痛みが腰を砕いた。後頭部を焼いた。頽れて、わたしはかたむいた胡坐をかいた。たぶん、だれかが笑った。そしてだれもわたしに話しかけなかった。わたしはただ、そこに茫然を赦された時間を貪っていた。恩寵として。談笑のひびき。それらの遠いこちらに。失神するように、眠り落ちてしまいたかった。やがて男が来た。丸太のような、しかし、瘦せた巨体だった。矛盾は、しかし、ない。強靭な骨格。張り巡らされた筋肉。贅肉の欠落。風雅だった。それが、壬生の親父。風雅。ちかよってくるなり、そこに立ったままなにか話しかけていた。わたしにか、だれかにか。やがて、わたしにだと認識するあやうい須臾があった。風雅を、唐突に見上げた。聞いた。…どのつらさげて「どっがんつらぁ」ここに「さげくそうて、のうや」来た?「こけぇきたん?」声。おどろくほどに、甲高いそれ。カンターテノールというにも近い、その矛盾。肉体。図太さとの、矛盾。知っている。方言。広島の、もうすこし東の方。岡山?「あんたが連れこんだんだよ」と。わたしは言った。肺のなかでは。喉はいっさい鳴らなかった。舌がえづいた。声。しかもさかんに周囲の人間たちの声がするのだった。あるいは風雅に話しかけてさえいたのだった。ひとつ以上の声を同時に聞きこなすという、日常的な意識のすさまじい技術的な高等を、わたしはひとり思い知っていた。不可能だった。…いまさら、ここに「いまさらぁこけぇおめぇ」なんの用がある?「なんのようなら?」
「莫迦?」鳴らない。声は。だから、風雅は見下ろされた沈黙に、ふと、笑った。気泡が、はじけたにも似。…お前、空手は「おめぇからちゃあ」やらないんだな?兄貴は「やりょうらのんか?あん、」教えなかったのか?「あにきゃぁおしえんかったんじゃのうや。こん」そこにいる「そこんおる、そん、」正則でも「まさのりぃゆうてからぁ」と。そこで正則の名を出したかどうか、わたしは知らない。後に考えればそこに、正則の名以外、入るべくもない。やるけどな。…たかが「やりょうるがのうや。ん…せぇでも、」五人だろ?「たかがごにんかそこらじゃろうが」嘆息。違う。五人ではなかった。もっと。…とても、た易いぞ。お前、「でぇれぇあらくじゃが。さぁなん、おめぇ」歌舞伎町で女「かぶきちょうでおめぇ、おんなぁ」誑かしてるから「ちょろまかっしょうるけぇのぉや、そっ。がぁな」そんなもんか「もんなんけぇのぉや」あきののに、と。風雅はふいに、その声の音調を改めた。ささわけし、と。そこで、息を吸った。切った。と、留保なくたてつづけにあさのそでよりも、あはでこしよぞ、ひぢまさりける、と。気づかなかった。その歌に。戦前のふるい演歌のフレーズかと思った。演歌が、戦後のハイカラとマニエリズムの相の子という事実も知らずに。歌い切った風雅は、ひとり満足していた。自分勝手な須臾の沈黙を、勝手に断ち切り、そして言った。…兄貴も「あんあにきもおんなにのぉや」女にたぶらかされて「たぶらかされっしょうてぇじゃ、ほねぇ」骨抜きにされて「ぬかれっしゃあてから」激怒。「んぉんでぇ」激昂。「っがぁなくっそぉも」忿怒。「しろうもなぁ、じゃ」なぜ?わたしの喉の奧に突然きざした、耐えがたいそれ。情熱。もはや、耳は
割れた!…わ
はじけます
声を聞き取らなかった。ひびきは
ひび割れ
ほら鳳仙花
すべて
割れた!…わ
はじけま
上滑りした。おそろしい轟音を聞いていた。ふと、しかし、…なぜ?わたしは、そこに、われに返っていた。まばたいた。風雅の顔が眼の前にあった。両端がめくれかかる、特徴的なくちびるが言った。…おまえの親父が「やじぁ…おめぇんぉやじぁあ」云ってきた「ゆうてきた。がきょう」探してくれと「さがぁてくれぇてのうや。せぇで、」笑う。風雅。みじかく。口臭。…お前が「おめぇがぁ」いなくなったから「らんにょうんなってからに、」二週間かかったぞ「にしゅうかんじゃぁ。にぃ、」雅文が?と。…噓でしょ。思った。なんで?わたし。そこに、そのわたしは。…ま。と、…ま、ゆっくり「まぁ」しろよ「ゆっくりするこ」
「出てきます」
「は?」呆気にとられた。風雅は。表情が、素直だった。疑った。わたしはふと、目を。あまりにも「おれ、すぐ」不用意に「ここ、」想えた。「…いますぐ、」
「ほざくな」と。「お前ごときが、」そう正則がつぶやいたときに「社長。…だめ」声。返り見た。安原。笑んでいた。背後に。頸をだけ、わたしによじって。あまりにも「いま、やめて。ここ、」円満な、その「店。いま、」笑み。「客、いる」笑った。思わず、「…ね?」わたしは。声もなく。頬。そして口もとで。すくめた。肩を、安原に。正則を見返すと、そこ、顔全面に赤裸々な怯えが浮かんでいた。目じりが引き攣けた。わたしは「だいじょうぶ…」そっと「なにも、しないよ」だれに?すくなくとも、まなざしは突然の怯えを見つめて、そうささやいた。ややあって、正則が云った。「ここ、煙草、吸えるか?」
「吸うの?お前」
「全席禁煙とか、謂うなよ。ここ、だれも」
「好きにしろよ。客はみんな思ってる。お前がクライアントか何かだって。勝手に、す」
「禁煙かよ?」
「火、だれも火、つけない。煙草に。雰囲気に呑まれて。それだけ。…灰皿、あるよ。たしか…ってか、意外だな。お前が」
「高子だよ」ん?と。そして、ふと見止めたまなざしのなかに、キューバかどこかのシガリロだかシガレットだかを、ジャケットの胸に押し込んだ。どこかで見たことのある箱だった。ボックス・タイプの、白地の、…「高子?」
「あいつのせい。あいつが、あんな死に方してから、…」その女。壬生高子。双子の、…ない。会ったことは。わたしは。あの、逆光の抽象的な女以外には。写真なら、たぶん、見た。いちど、いつ?敦子の携帯電話で「…イラつく。お前にも、清雪にも、敦子にも、」
「高子さんにも?」ロメオ。思い出す。ロメオとジュリエッタ。歓喜。シガー。なぜか、わたしに、胸ポケットの箱は、…歓喜。たしか、Romeo y Julieta。そういう名前のキューバの葉っぱだった。沈黙。あるいは、ふいの激昂。叫び。…そんな予測を裏切って、——といって、かならずしも明確な予測などなにもなかったが、正則。脱力。椅子の背にもたれ、そして「敦子、さ」息を「あいつ、」吐いた。「泣いてたよ」
「いつ?」
「見たわけじゃない。でも、たぶん」
「…てか、」
「いや、そんな雰囲気はつくらないよ。あいつ、あえて」
「知ってる?お前、」
「ん?」
「ことの次第について、お前はまだなにも俺に明確に告げてな」
「聞けよ」そこに、いきなり「敦子か、清雪に。じゃなきゃ、」正則は立ちあがって目。一瞬の「察しろ」嗜虐的な。踵を、そこに返した。フロア係の女が、すれちがいざまに頭をさげた。すぐさまわたしに目配せをした。そのまなざしの、意味をは知らない。謂く、
きみが、夢
夢ならだれも
悲しくなくて
夢。夢だったら
ただ夢だったら
傷つかなくて
しあわせで、だれも
きみは、夢
謂く、
夢ならだれも
ぼくが
そうするがいいさ
耳を
悲しくなくて
壊れそう。きみは
残酷であれば?
叫びそう。きみは
傷つかなくて
目は
そうするがいいさ
ぼくが
しあわせで
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