アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -57 //ふるえていた/なぜ?沙羅/それら、すこしした/冷酷。睫毛の//05





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





謂く、

   ほんとうのこと

   ほんとに謂うよ

   言っていつも

   噓を。…噓


   見ていたのは

   きみの目。…噓

   きみの、…なにを?

   信じないで。ぼくを

謂く、

   ほんとうのこと

      信じる?いつも

    信じる?あのひと

     ね?いつか

   ほんとに謂うよ

      歌った。歌を

    好きだった。海

     寝言を云った

   きみは、…なに?

      母の教えたそれ

    海が。ほんと

     しあわせ?きみに

   信じないで。ぼくを

「似てきた…」

「だれ?」

「おまえ、なんか、年取るたびに」

「だれに?」

「似てきた」

「だから、だ」

「お母さん。お前の、」と。その十七歳の清雪にささやいたひとことが、ふいに清雪に茫然を与えた。知性のないそれ。欠損に落ちた、と、そんな。利発なことをどうしてもかくせない清雪の唐突な痴呆は、だから見つめたわたしのまなざしに、なにか自虐的な喜びを与えた。

「でも、その名前って、禁忌じゃなかったですっけ?たしか、僕の前では」

「大坂?」

「だから、タブー」

「壬生の、でしょ。それは。敦子と、…敦子。それから、敦子。特に敦子」

「敦子ママだけじゃん」その三月の対面のはじめ、喫茶店に窓の外を見やるだけの清雪を見止めた瞬間、わたしは枯渇を感じた。彼と話すべきなにものも、すでに、と。いきなりあばかれた事実の新鮮。急激に大人の、どこか荒く麁いいぶきを匂わせはじめた思春期おわりの清雪。ある断絶を見た。なにとの?わたしとは、つながりさえもなかったはずだった。わたしの枯渇が、清雪にはどうだったのか確認するすべはない。ただし、片方の懊悩は、もう片方をも懊悩させるほかない。テーブル越し、眼の前に、どちらもの存在をもてあましてばかりいたふたりは、…出ようぜ。云った、わたしの

   沈黙という

      傷み。ふと

唐突。

   花。色彩のない

      口走った

三月の、あたたみが

   花のような

      ことばが、逆流

あくまでもふい打ちとしてきざされはじめた

   それは、沈黙

      傷み。ふと

明るさ。その中に、やがては松濤公園を歩いた。公園に、思い出さないむかしがないわけでもない。追憶など、かたわらの少年とのぎこちなさがすべて上滑りさせる。しずかな場所をさがした?ふたりだけになれるところ。とはいえ、もとからふたりだけだった。喫茶店でも。桜の時期には、公園にひとはいつでも散らばる。それなりに。そんなことなど予測できたはずだった。ひとはいた。ただし、しずかだった。さくらにはまだ早すぎた。蕾んだだけの枝。それら無数の翳り。わたしは安堵と、かすかな失望を感じた。

「…パパとしては、嬉しかったりするもの?」

「パパ?」

   いま、わたしたちは

      ん?

「認知してないって?」

「茶化すなよ」…ね、と、笑う。清雪。翳りのさざめき。ひとりだけ。翳りには、大気は冷やむ。「ちょっと、興味ある」

   いま、わたしたちは

      さわぐ、あわい

「なに?」

「なんで認知しないの?」

   ささやきのなかに

      ん?

「おまえを?」

「だってもう、なんか既成事実化してない?…敦子ママもだれも、みんな普通にあなたの子供だって認識してる。ちがいます?…お金なんか、べつに求められたこともないんでしょ。いまさら、」

   いま、わたしたちは

      さわぐ、あわい

「あり余ってるからな。やつら、壬生のやつらには」

「ケチだよ。意外に。でも間違いなく、」

   ささやきのなかに

      色彩が、むしろ

「されたいの?」

「認知?」

   孤立した。そこに

      うとましく

「されたい?おまえ、」

「まさか」ささやき、ふと返り見る清雪に、かれがもう充分ひとりの男だという事実が匂う。それがただ、悔恨に似た、無念にも想われた、…なに?かつて大切にしていたものが、他人にいつか台無しにされていたのを見たような?

「やめてね。勝手にくっだらない追憶にひたってほくそ笑むの」

   記憶の中で

      いいんだ。きみは

「ほくそ笑んでない…やなの?」

「なに?」

   きみは、いつでも

      思い出さなくて

「たとえば、生みの母親のこと、いまさら」

「てか、ね?…笑える」

   かたむいて

      いいんだ。きみは

「なに?」

「だって、確実にぼくの知らないぼくに関する事実が、事象?…が、あって。で、それは事実で、そのぼくの知り得ない事実を知ってる僕の良く知ったひとがいま、眼の前で、ほら、ひとり勝手な追憶をもてあそんでる」右眼に不穏。だから、右の、そこに

「べつに、…」

   なぜだろう?

      人類。ソノ超克ノ

「不思議じゃないって?」

右まぶたをだけ、…なぜ?

「なにを言いたい?おまえ」

   春は、そして

      第一ニシテ最終トハ、タダ

「ぜんぜん、あたりまえで」

ふるわせた。まるで

「聞いていい?おまえ」

   その先駆けは

      精神革命デアル。而シテ、

「もうあたりまえすぎて」

痙攣。春奈。その

「ひとりで、そこで」

   くれるのだった

      精神革命トハ激烈ナル

「水がうえからしたに流れて」

…なん歳?たとえば

「なにを、見て」

   容赦ない

      純粋ニマデ窮マリヲ見タ、

「蝶々が海にとびこんで」

二十五?もう

「ね?…なにに」

   絶望を

      唯-精神主義ノ純粋デアル。ソノ

「自殺したりしない程度に」

ハオ・ランにも、そして

「怯えてるの?」

   なぜだろう?

      一端ハ、タトエバ痛ミノ

「…まさか」

わたしにも、ただ

「なぜ?」

   春に、そして

      超克デアロウカ。モシモ、

「残念。でも」

辛辣なまでに、完全な

「なにが、…お前」

   その先駆けに

      貴様タチガマダ、燃エタ

「そうならよかった?母親と」

手遅れだと。生きながらの

「なにに、…おまえ」

   昏むのだった

      脇差ニ抉ル皮膚ニ、

「おんなじように」

死屍?まだ

「聞けよ。おまえ」

   唐突に

      肉ニ、骨ニ、痛ミヲ

「ジャンキーになって。それで」

匂い。散る粉の

「追い詰められてる?」

   目は

      感ジルナラバ、

「あたま、おかしくなって?」

残存のかろうじて散る女の

「なんに?」

   なぜだろう?

      貴様タチハ所詮

「肉親にさえ、もう」

女たちの

「勝手に」

   春は、そして

      家畜的保守的人類ノ

「見捨てられて」

…なに?

「ひとりで、」

   その先駆けは

      ママデアル。故ニ

「あなたに、好き放題」

ささやき、その

「なんで?」

   もう、耐えられないほど

      貴様タチヨ。イマ、タダ、

「もてそばれて、そして」

…見ないで、ま、

「言えよ。おれに」

   いとおしく

      ソノ精神ニ

「こわれちゃったほうがいい?」

眞沙夜。や

「無害だろ?…おれ」

   赤裸々すぎて

      身体的苦痛ヲ

「あなたに、こころも」

くちびる。しただけ

「別に、なにも」

   なぜだろう?

      超克セヨ。

「からだも、」

肉厚の、…や

「なに?」

   春に、そして

      貴様タチハ、

「汚されて」

眞沙夜。や、見ないで

「おまえがひとりで」

   その先駆けに

      人類超克ノ

「絶望?たとえば」

ささやき、春奈

「見てるのは、」

   傷むのだった

      足ガカリヲ、

「ぼく、ここで」

こんな…ね?

「なに?…言え」

   肉体は

      ソコニ踏ムノデナケレバナラナイ。

「あなたのまえでは」

…ね?

「黙れ。ほんの数秒だけ」

   骨も

      而シテ精神的苦痛ハ

「絶望?…ぼく」

こんな、…ちかっ

「黙れ。おまえ」

   なぜだろう?

      アクマデモ

「絶望してたほうが、」

…ね?

「…で、」

   春に、そして

      無窮純粋精神オヨビ

「良かった?そっちのほうが…」

ね、こんなちかくに

「聞け。…ね?」

   きみのかたわらに

      肉体ノ

「なぜ?」

見ないで

「なに?」

   まえぶれもなく

      唯一的滋養ト知レ。

「だれもみんな、ぼくに」

わたしを

「おまえに?」

   泣きそうになる

      無窮純粋精神ハ

「期待してるの?」

こわれちゃうじゃん。…と

「かもね。…おまえはたしかに、」

   意味もなく

      明確ニ察知サレタ

「なぜ?」

れちゃ、じゃ、…眼の前に

「稀有な気がする。だから、未来を」

   なぜだろう?

      具体的超人ノ

「どうしようもない、僕の」

莫迦なの?たしかにひびいたはずの声を春奈は

「なんでだろ?」

   春は、そして

      先駆ケデアル。故ニ

「破滅を、如何にも」

意図的に無視し、しかも

「…だれだよ。それ、誰が」

   その先駆けは

      貴様タチハ、

「案じるまなざしの、そのむこうに、」思わず、「…たしかに、」わたしが不意につぶやいたので、清雪はふと、沈黙に咬まれた。落ち込んだ陥穽に、須臾のみわれを忘れた、と?…そしてわたしはその頬が、やがてしずかにようやく笑みを、故意にではあれせめてもつくりあげるを待った。清雪は笑んだ。そこに。赤裸々に、やさしく、しかもあまりにも上手に。

「いつ?」

聞く。だからその、わたしのくちびるにだけ澄まされた耳。清雪。その耳は、「…いつおまえ、ダメになるの?」咬む。咬み、そっと

「いつ?」

春奈。その

   もう、日射しは

      過失。ほら

笑み。うすく、

「いつこわれるの?」

三十過ぎの、再会のくちびる。

   ほほ笑まない。…もう

      はずかしげもなく

だから

「いつ?」

春奈のそれを。

   わたしには

      過失する

ただ、

「いつ、なにかにもに」

なんのささやきもない。

   あなたには?

      わたしたちは

くちびるは、

「見るものすべてに」

息。鼻に。

   だったら、いいな

      過失、だから、ね?

春奈、その

「傷ついて、なにかも」

鼻孔に、ふかい、ただふかい、

   もう、花々は

      過失。ほら

…息。なぜ?

「いつ?」

咬む。

   わたしにふらない。…もう

      ためらいもなく

春奈は、その

「ふれるものすべて」

目の前、わたしの、だから、二十九?

   わたしには

      過失する

まなざしに、

「傷ついて、しかも」

咬む。

   あなたには?

      わたしたちは

ひとり、くちびるに

「手あたりしだい」

咬み、ほそい裂傷がさらされていても、

   だったら、いいな

      過失、だから、ね?

…春奈。咬み、

「息するあいだにも、」

咬むつく春奈は、裂傷を、しかも…

   もう雨は

      過失。ほら

春奈。咬む。

「…さ。きずつけて、いつ」

なぜ?

   うるおわさない。…もう

      留保さえなく

すでに、

「あなたのマンションから飛び降りるの?…」わたしは、「…て?」眼を逸らす。その、笑むだけの清雪。なんら邪気もない彼の素直から。まちがいなく息子らしく、だれもにそう思われていて、事実そうにちがいないことはあきらかながら、しかし、たぶんわたしたちふたりそのものにはどうして信じきれないなにかが、しかも、真実らしきもの。予感のような、だからくまでも清雪のそば、…予感のような親子?さくらの幹にゆらぐ翳り。木漏れ日。それみずからに籠った翳りと木漏れの綺羅らに、知った。いまさら、わたしは清雪だけを見つめていた。すでに、冷淡なほどにながい数分、「知ってたの?」

   くれてやる

      どしゃっ。しゃっ

「春奈さん、だっけ?…あのひとの」

「だれ?」

   笑みを。最高の

      どしゃぶって

「最後。…だから、死にざま?」

「だから、だれ?おまえに」

   ほほ笑み

      どしゃぶりなんだ

「意外だった?」

「そんなこと、」

   喰らえ!

      どしゃっ。しゃっ

「正則さん」秘密です、と。わたしに。ぜったいに、まじで、くれぐれもと…秘密です。正則。いつも本気か噓かわからない神経質すぎる男だった。笑ってさえ苛立って見えた。めずらしく彼はもの思わしげな、しかもふいに素直な声に頼み、だから、事実なんか、どうでもいいから。もう十年ちかくまえ。すでにものごとがなんとなく分かり始めていた敏感な清雪の鋭利すぎる敏感を案じて、「言わないで」

   くれてやる

      ぐしゃぐしゃですよ

「素性?素行?母親の…」

「じゃなくて、あいつの、死」

   絶望を。最悪の

      きみの、ほほ

「…飛び降り?」

「それだけは、」

   絶叫に

      ほほほ。涙?

「なぜ?」

「おれが謂うから」と、

   喰らっ

      ほほほほ

眼をふせた。正則。云ったとは聞かなかった。正則からは。想えば、そもそも彼から連絡が来ることは、基本、ない。知っていた。彼がわたしを憎み、むしろひとつの固有の人種として軽蔑していたことは。謂わなかったとも謂わなかった。あるいは、もちろん、彼の勝手にすればいい領域だった。わたしに立ち入る隙はなかった。権限もなにも。他人の家庭。その他人の問題。事実、そうだった。

「…ね?答えて」

「なに?」

   するもんかっ

      降るのだった

「云いたくないなら、言わなくていいよ。でも」

「なに?だから」

   沈黙なんか

      汚物の雨が

「ぼくのこと気にして言えないなら、…」

「お前を?いま、」

   するもんかっ

      あじさいに

「そういうのが逆に、ぼくをいま」

「いまさら?」

   吃音なんか

      降るのだった

「傷つけるから」

「なんだよ。だから」なぜ?そのときにわたしは清雪の声、のみならずわたしのかたわらに息づかっている事実そのものに、焦燥していた。「まだるっこしい?」

「言え」

「悲しかった?」…って、なにが?そう、あたまに鮮烈にひらめいたつぶやき。その、問い返し。理不尽な?しかも、明晰な。だれかの、他人の、それ。ささやき。吐き出しはしなかった。わたしの喉は。その他人声をこそ聞きながら、「春奈さん…飛び降りたとき」

わたしのくちびるはなんども

「見たんでしょ?…ひとりで、」

   きみに、残酷を

      きれい

ひらきかけ、清雪。ささやきつづける

「眞沙夜さんが、…聞いた。でも、それが」

   残酷をあげたい

      きよらに

その声を、…ひらきかけ、

「本当かどうか、それは、知ら、」

   苛酷を、きみに

      ららら雪らら

妨害しようと?清雪を

「正則さん、…彼、」

   きみにあげ

      はかなげに

その声を、しかし

「駆け降りたらしいよ。って。叫びながら。泣き叫びながら?…とか。マンションの五階から、墜ちたあじさいの植栽まで」噓だった。それは。完全な噓ではなくとも、知りもしない正則がこじつけた勝手な、だから妄想。そもそも階数さえ、春奈。最後の日、ベランダ越し。したに見つけたわたしとハオ・ランの姿を見止めた春奈。だから、喜びいさんで?手を振り、まるでひとあしとびに、十二階をふみ出した足が、たやすく路面をふみしめ得てしかるべき、と。そんな気安さ。ただ、わたしの名前を口に呼び、声。翳りもない、傷みもない、声。いちどだけ。

「おまえ、…」おもわず口走りながらわたしは、清雪。そのめずらしくまどろこっしかった問いかけ。まどろっこしい低佪の意味を知った気がした。清雪は、その問いかけの陳腐をひとりためらっていたのだった。あるいは勝手な勘ぐり?「…むしろ、」わたしの?「笑っちゃったとか?」

清雪。なんら屈託もない、垢ぬけた笑み。そこに、頬に綺麗なゆがみ。

「知りたい?」すでにささやいていた。わたしは。そして、故意に間を持たす。清雪を見つめる眼。わたしはひとり、答えるべきことばをさがしていた。

「なに?」

「悲しかったよ」噓、と。じぶんの、やさしいささやき。いまさらの耳あたりの良さに嫌悪をだけ咬む。清雪のためだけに、笑んだ。…知ってる。「あざ笑ってたんでしょ?」

おれが?

「眞沙夜さん…」

なぜ?

「生きることに二度も失敗した女の失敗の、だから死のあまりのみすぼらしさに」笑み。あくまでも

   絶望を、きみに

      新シキ

笑み。それは

   きみにあげたい

      人間精神オヨビ

笑み。これが、

   耐えがたい、その

      肉体ヨ。目覚メヨ

これこそが、と。そういきなり耳元に大声でなじられたような、そんな。だからもう、懐疑の須臾が須臾にきざす隙もない完璧な笑みは墜ちた。

   なに?それは

      飛沫

手を振りながら。

   なに?さっきから

      散り。ちり

墜ちた。

   そこで

      波紋

春奈。

   さっきまで

      ほわわん

肉体。

   そこで

      ふうわん

墜ちた。

   ゆらめきかけていたもの

      飛沫

空中。

   なに?それは

      散り。ちり

そっとしずかにゆっくりとひっくりかえり、

   なに?さっきから

      波紋

墜落。

   そこで

      ぼうわん

墜ちる。

   さっきまで

      ぶうはん

顔の表情はなんら

   そこで

      飛沫

かわらないまま。

   にじみかけていたもの

      散り。ちり

降下。

   なに?それは

      波紋

春奈。

   なに?さっきから

      くううん

その足のさき。

   そこで

      るううん

つま先のした。

   さっきまで

      飛沫

たぶん、空。

   そこで

      散り。ちり

六月、その例外的な晴れの日。

   ほぐれかけていたもの

      波紋

青。

   なに?それは

      とうあん

容赦ない、青。ただ「それは、…ね?」色彩は「それは百合。百合の、」炸裂。色「しろ。それは、」あざやかな、そこ「…ね?アネモネ。アネモネの、」翳りのなかに、「しろ、それは、」聞いた。耳の「…ね?ヒヤシンス。ヒヤシンスの、」うしろのほうに、それら「しろ、それは、」ふたつ?…みっつ?「…ね?オルレア。オルレアの、」声。だれかの、「しろ、それは、」いくつかの、声が…「…ね?すず蘭。すず蘭の、」なに?…と、そこに「しろ、それは、」つぶやく、その「…ね?薔薇。薔薇の、」かすかな動揺さえも、だから「しろ、それは、」声。醒めた「…ね?アナベル。アナベルの、」声。冴えた「しろ、それは、」声。ハオ・ランの「…ね?カサブランカ。カサブランカの、」耳の近くに一度だけ「しろ、それは、」声。冷静な、しかも「…ね?睡蓮。睡蓮の、」赤裸々にハオ・ランのこころに動揺のみが容赦なく燃え広がっていたのを伝え耳をもう、おおってさえもう、赤裸々な、

「しろ、それは、」

   ゆびさきに

      つややかに

鮮明な、

「…ね?ダリア。ダリアの、」

   むしる。かき

      笑ったんだ

明確な

「しろ、それは、」

   掻き毟る

      知ってた?

新鮮な

「…ね?芙蓉。夏芙蓉の、」

   花。蕊。花

      そこ。その

あざやかな

「しろ、それは、」

   鼻さきに

      うしろ髪のむこう

叫ばれたより

「…ね?コスモス。コスモスの、」

   とる。むしり

      なよやかに

わめかれたより

「しろ、それは、」

   毟り取る

      笑ったんだ

なに?動揺。わたしは?

「…ね?ビオラ。ビオラの、」

   花。蕊。花

      そこ。その

なぜ?永遠の

「しろ、それは、」

   抉ってよ。おれの

      きみの垂直に

ハオ・ラン。いくつもの

「…ね?すいかづら。すいかづらの、」

   卵巣を。しかも

      垂らす。蝶が

死の悲惨など、もう

「しろ、それは、」

   睾丸ごと。または

      頭で、涎れを

見飽きたはずの

「…ね?梅の木。梅の、」

   舌さきに

      垂らす。蝶が

ハオ・ラン、…わたしは?

「しろ、それは、」

わたしの顔は?知らない。そのときにわたしがどんな顔に、振り向いてハオ・ランのとりみだして引き攣る顔を見ていたのか。たんにいま不在の顔に、わたしは、…ねぇ。

   ん?…ん、ん?

      おめぇの背後で

おれ、いま、

   ん?…ん、ん?

      燃えてやるよ

なに、

   ん?…ん、ん?

      ガソリン被って

見てるの?

   ん?…ん、ん?

      燃えさかっ

なにを?——あからさまな、ひびき。わななくだけのハオ・ランのくちびる。無音のうち、決してひびかせなかったその声、聞いた。わたしは、ひっぱたいた。わたしは、そのハオ・ランを。

   人類は嘗て

      アッシジの

なぜ?

   人類のことばをしか

      聖者が木陰に

顔の筋肉にのみ

   語らなかった

      生首を撫でて

取り乱し、そこにハオ・ランは、…おわり?ささやく。冷淡に、その声が、「これが終わり?」耳にはもはや「これ?」周囲の口の無数に「これが春奈の、」声。他人たちの「終わったの?」すさまじい轟音。さけび「これが?」

「噓」われに返ってふいに、わたしは清雪に見つめられ「悲しくなかった。なにも?」

   おれに、唾をはきかけてくれ

      芍薬。ややや

「やっかいモノがいなくなって?」

   おれに、汚物をぬりた

      牡丹。わわわ

「救われなかった。なにも。でも、終わった。春奈の傷み?苦しみ?崩壊?なに?とにかく、こわれていく現在進行形は、だから確実に終わって、だからもう、だから、なに?ある意味、だから救われた?…なにも救われちゃいないのに、…ただ放り投げられただけなのに…だから、…」

「なに?」

「安心。安堵。…ほっとした。おれは、むざ、…だから、その無慚な春奈を見て、でも、だから、でも、良かったねって。やっと終わったよって。…だから、」噓。そんな記憶など。顔さえないのに。わたしには。顔さえそこに、わたしは。赤裸々にうしなってただ、わたしは昏い翳りにすぎなかったのに。清雪のために、わたしは慎重に笑んでいつづけた。謂く、

   見せないで。その

   まなざし。ふいの

   なぜ?翳り

   かなしい。いつも


   きみを見るたび

   わたしはかなしい

   骨が傷い

   肉が焦る

謂く、

   見せないで

      残酷さ

    耳元

     流れるよ。いま

   まなざし。なぜ?

      うつくしさ

    嘲笑されたような

     血が

   きみを見るたび

      その残酷

    なぜ?

     耳。耳に

   わたしはかなしい

・・・

   見せないで。その

   睫毛。ふいの

   なぜ?かたむき

   たえられない。いつも


   きみを見るたび

   ただ、たえがたい

   骨がつぶやき

   肉が燃える

謂く、

   見せないで。

      苛烈さ

    眼の前

     飛び散るよ。いま

   睫毛。なぜ?

      うつくしさ

    罵倒されたような

     血が

   きみを見るたび

      その苛烈

    なぜ?

     目。目に

   ただ、たえがたい


   見せないで。その

   虹彩。ふいの

   なぜ?綺羅めき

   色彩も、いつも


   きみを見るたび

   わたしは傷み

   骨が泣き

   肉が吐く

謂く、

   見せないで。

      執拗さ

    鼻先

     滾り立つよ。いま

   虹彩。なぜ?

      うつくしさ

    唾吐かれたような

     血が

   きみを見るたび

      その執拗

    なぜ?

     花?は。鼻毛に

   わたしは傷み


   眉の不穏

   泣きながら笑い

   笑いながら泣き

   ある危機感


   ある切迫感

   あわい肉迫

   褪せた、稀薄な

   つまり、不穏


   見せないで。その

   ほほ笑み。擬態の

   なぜ?赤裸々に

   むごたらしい。いつも


   きみを見るたび

   わたしはむごい

   骨がむごい

   肉がむごい

謂く、

   見せないで。

      うつくしい

    えぐってよ

     蒸発したよ。もう

   ほほ笑み。なぜ?

      たしかに、目の前に

    目を

     血が

   きみを見るたび

      ただ

    きみを見ないから

     わたしに

   わたしは無慚








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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