アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -54 //ふるえていた/なぜ?沙羅/それら、すこしした/冷酷。睫毛の//02





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





謂く、

   はく息にも

   しかも、それでさえも

   壊れるというなら

   あることが稀有と?


   すう息にも

   しかも、それでさえも

   崩れるというなら

   あったことが僥倖と?

謂く、

   はく息にも

      冗談のように

    みごとすぎて

     きみを生んだもの

   しかも、それでさえも

      ばかばかしすぎた

    笑みはあまりに

     ほら、これが

   すう息にも

      冗談のように

    かわいらしすぎて

     わたしが倦んだもの

   しかも、それでさえも声もなく、だから、なんらひびきもなく醒まされていた眼。そこに。うごき。なにかの。いきたもの。いぶき。その。醒めた事実に覚め、醒める。眼は。眠り。いつでも不在の、じぶん固有の眠り。ない。もはや痕跡さえ。痕跡の存在し得る可能性すら。いぶき。感じられたいきたものの。すでに知っていた。その正体など。気づきとしてはっきり気づくべくもなく、沙羅。それは。その朝、九月二十一日の朝、わたしよりはやく眼を…眠っていた?沙羅は。須臾にであれ。覚ましていた?目を。ずっと。沙羅は。眠らなかった?とまれ沙羅は身を起こし、そこに匂った。いきなり、かたわらの至近に。かたむいた鼻孔。そのうえ、しかもはるかな。手のとどきようもない遠さ。須臾、その

   遠く、あまりにも

      朝。ひかり

隔たりの

   遠く、ぼくたちに

      散り。舞う塵

強烈を感じさせていた

   ふりそそぎ

      ひかる。朝

高み。髪の

   ぼくたちを、やがて

      ゆらぎ。舞う塵

毛。その

   失明させて

      鳥たちは?

匂い。たぶん、死屍のそれさえおなじ。髪。だれにも同じ、香り。思った。沙羅がその身をなにかに倦んだように、飽きたように、だから倦怠?耐えられなくなった惰性のうちに背伸びをしかけ、髪をかき、…と。疲れ果てた挙動。匂った髪の毛は、たしかに陰湿だった。すでに気付いている。わたしの肉体。それが冷え切っていたことには。あくまでも沙羅好み。限界まで冷やされた部屋の大気。エアコン。つけっぱなしが日常と化した苛酷。いたみのあるノイズを機械はたてた。まどろみなどなかった。わたしにはもう。いちども

   吹っ飛ぶよ

      葉翳りに

感じられなかった眠りの

   そろそろですよ

      ほら、蛹のなかに

崩壊をも知らず、だから

   吹っ飛ぶよ

      う。窒息。う

醒めた事実だけの唐突な露出。瞼はとじたままだったのに。閉じられた瞼には、なにを拒絶する意図もない。あるいは、沙羅の髪と、そして肌の匂いの倦怠から退避をこころみていたのだろうか?気づかないうちに。沙羅。その肌。肌だけはなんどもかさねられた。わたしのそれに。かさねられるというそれ以上をはついに「結婚するの?」

「わたし?」知ることがないまま。あるいはハオ・ラン。そのみずみずしく、幼すぎ、こころもとない肉体に、そんな「…意外。いや、」

「そう?」行為をかさねた二十代の前半。あのころにもおなじたわむれ。ただしハオ・ランの見せたそれとはまったくかさならない「もう、決断したんだ?」

「わたし?」たわむれの風景、そのなかに少女。ハオ・ラン。永遠の少女、…いまも?「するの?」

「迷ってたりして」と、睫毛をかたむけた敦子は、ふと、あいまいな沈黙を。ハオ・ラン。彼?…彼女?だから、いわば両性具有お気配のなかに、ハオ・ランはいまも、たぶん、まちがいなく、いまも。永遠の形姿。おとろえも、成熟も、老化のわずかなきざしさえ不可能な少女の肉体は、固有のまなざしにいったいどれだけの年月の厖大を消費したのだろうか。わたしは知らない。はじめてハオ・ランに会った十八歳のときも、永遠のハオ・ランは十五、六歳の少女の肉体のうちに目覚めていた。ハオ・ランを、わたしが捨ててしまった二十九歳のときにも、春奈。こわれた女。ハオ・ランはそのときも「しない、と、思う、よ」

「敦子?」十五、六歳だった。永遠を貪るハオ・ランは、例外的なまでにうつくしい十代のものにだけゆるされた「だって、…」

「でも、断われないじゃん?」あやうい、傷みのある、嘆かわしいうつくしさを撒き散らすしかなかったまなざしに、「そんなことない」

「皇族かなんかなんだろ?…相手」老いさらばえてゆくわたしを見た。ハオ・ランにさえ匹敵した嘆かわしさの清雪が、その「…ね?」

「なに?」最後に数年には急激に衰微しはじめた事実を、そして少女の眼は「見たくない?」

「なに?」どんな想いに見ていたのだろう。清雪をハオ・ランに引き合わせたのは「いわゆる、高貴な人たちが、」

「ん?」わたしだった。十六歳の彼。敦子への反抗。彼には、壬生以外の環境が必要だと、わたしは「屈辱…っていうか、そういうのに、まみれる」

「なに考えてる?」思った。たぶん、たくらみは失敗だった。すくなくとも結果的には。あるいは、「敦子ママは、たぶん」

「お前、なに、たくらんでる?」わたしが清雪を殺したのだろうか。いずれにせよ十九歳の、かすかでしかし鮮明な「しないよ」

「なぜ?」衰微の清雪のそばで、ハオ・ランだけは知らないままだった。わずかな衰微も、成熟も、老化も、劣化も。わたしは

   猶も、あなたは

      純潔ノ至上ハ

ハオ・ランの

   たしかに、しかも

      自壊スル肉体ノ

眼に見られていた時期にさえ

   うつくしいから

      非人間的アル

留保なく

   猶も、あなたは

      苦悶ノコトト知レ

老いさらばえていったのだった。老醜の肉体。その顔。肌。くびすじ。胸元。わき。あらゆるすべて。さらけだされた無慚。うつくさに見放され、追放ゆくわたしと肌をかさねがら、ハオ・ランはひたすらなあやうさと清楚と野蛮の優雅な混洨として永遠の少女をその形姿に、…如何となれば、月がほろびてさえも。太陽が

   永遠に、きみを

      神国ノ高貴トハ

燃え尽きようとする

   きみだけを、いま

      積極的ナル

最後の

   愛。愛。愛

      自己矛盾ヘノ

風景にも。荒れて

   永遠に、きみは

      愛デアル

荒れきった地上にも、

   きみだけは、いま

      スベラギハ愚劣デアル

無数の、その

   愛。愛。愛

      スベラギハ愚鈍デアル

ひとりの取り残された

   永遠にって、さ

      故ニノミ

ハオ・ラン。二十九歳の

   ケツ痛くね?クソ

      スベラギノ為ノミニ死ヌ

わたしが、だから区役所通りを歩いていた背後に、…眞沙夜、と。その声。耳になれた、しかも聞き覚えのなかった声。記憶を呼び起こさない。なぜ?振り返ったとき、——だれ?…と?まだ、そんな疑問符さえも意識にきざさない一瞬、あまりにも上品に笑む三十過ぎの女が、いた。そこ。立ちどまった眼のまえに。髪。肩にかかる程度の、それ。ひっつめ、ひっつめられ、無造作に、あきらかに出勤前。言い訳のすべもない歌舞伎町の女。その女は、すでに女たちの、粉をちらして性別を告げる未熟な匂いの鮮烈をはとっくにうしなって、しかし老いさらばえた印象はない。あるいはいまだ粉の匂いをちらす二十歳前後の女なら、こんなふうに年をかさねたいと、あえて羨望をうかべてみるのだろうか。軽蔑のひとつのエレガントな具現として。しかもあくまでとおい他人の無縁事として。そのたたずまい。かならずしも

   わらっていいよ

      決別セヨ。カツ

美しいとは

   すてきだから

      粛清セヨ。スベテノ

言えない。眼を

   なきさけんでいいよ

      家畜及ビ

覚まさせる鮮烈など、

   すてきだから

      家畜流儀ト

なにも。凡庸な醜くさはないというそれだけの「ひさしぶり、…」女が眼を剝いた。まるでじぶんの発話にびっくりしたかに。すぐさまの、ためらいの翳り。そして

   やばっ

      ふ。ふんだ?

そんな、わたしには

   たばっ

      犬のクソ

理解できない

   やばっ

      ふ。ふんだ?

数秒の闘争のあと、ようやくあらためて

   ふんだっ

      やばっ

笑む。ささやく女の声を聞いていた。わたしは。すでに完璧なやさしさを浮かべた笑顔は、じゅうぶん丁寧に仕上げられていた。眼の前の、その不穏な悲嘆が須臾刹那にきざす女の笑顔の不穏のためだけに。眞沙夜という、ホストの源氏名にわたしを呼ぶならいずれによ、顧客のだれかにはちがいなかった。「忘れてる?」だから、「なんか、印象ぜんぜん違わない?」だれ?…と。あざけりじみたあせり。

「…春奈」

ささやいた。女は、

   だれ?だれ?だれだ?

      微細をきわめた

はっきりとした声で、

   うしろからずばっと

      超レア系の

迷いのない

   おれを刺したの

      震動です

ひびきに。「わたし、…すっごい、ひぃさしぶりだから、たぶんも。眞沙夜、わすれちゃってる。…ら、さ。でも、春奈。壬生」と、「春奈」そう云った。なまあたたかった。風が。五年の不在。わたしは春奈の、唐突な、しかもあまりに素直なほほ笑みの一瞬のためだけに、笑みを。もう、わすれないくらいに上手な、いとおしさのあふれかえった笑みを、その春奈にだけはくれてやろうとしていた。謂く、

   いつ?夏

   夏。たぶん

   違和感があった

   だから、肌に


   声。かんだかい

   それ。いつか

   聞いた。たしかに

   耳のちかくに


   なに?なにを?

   ささやいてほしい?

   なに?なにを?

   わたしに。くちびるに

謂く、

   いつ?夏

      くちびるのうえ

    熱気はしかも

     思い出したくないから?

   夏。たぶん

      汗のつぶを

    ふれない?きみに

     知った声

   違和感があった

      ひからせながら

    きみにだけ

     だれ?だれ?

   だから、肌に


   いつ?夏

   夏。たぶん

   不愉快があった

   だから、頸に


   匂い。その酸味

   そこに。いつか

   嗅いだ。たしかに

   こめかみのそばに


   なに?なにを?

   見せてほしい?

   なに?なにを?

   わたしに。ほほに

謂く、

   いつ?夏

      しろい肌

    日射しはしかも

     考えたくないから?

   夏。たぶん

      青みの気配を

    迂回?きみに

     知った匂い

   不愉快があった

      綺羅が這った

    きみにだけ

     だれ?だれ?

   だから、頸に


   いつ?夏

   夏。たぶん

   過失を感じた

   だから、うなじに


   息。ややゆらぎ

   あらい。いつか

   感じた。たしかに

   こ指のうえに


   なに?なにを?

   つぶやいてほしい?

   なに?なにを?

   わたしに。のどに

謂く、

   いつ?夏

      まぶたのみぎ

    高揚など、しかも

     いまさらだったから?

   夏。たぶん

      引き攣けを

    なにもないきみに

     知った息づかい

   過失を感じた

      いちど見せながら

    きみにだけ

     だれ?だれ?

   だから、うなじに


   いつ?夏

   夏。たぶん

   焦燥があった

   だから、額に


   頸すじ。あいまいに

   かたむき。いつか

   見ていた。たしかに

   鼻のさきに


   なに?なにを?

   ほのめかしてほしい?

   なに?なにを?

   わたしに。まぶたに

謂く、

   いつ?夏

      足首さえ

    失踪は、しかも

     どうしようもないから?

   夏。たぶん

      かたむきを

    ふいに、きみに

     知った癖

   焦燥があった

      じれていた

    きみにだけ

     だれ?だれ?

   だから、額に


   いつ?夏

   夏。たぶん

   手遅れな気がした

   だから、顎に


   気配。澄んで

   冴えた不穏

   なぜ?矛盾

   眼の前で


   なにもない

   笑い。翳り

   悩む翳りさえ

   なにも。笑み


   なに?なにを?

   見ていてほしい?

   なに?なにを?

   わたしのこの目に

謂く、

   いつ?夏

      くちびるを咬み

    まなざしはしかも

     いじらしかったから?

   夏。たぶん

      咬みかけただけ

    そらさない。きみに

     かたくなに

   手遅れな気がした

      うわくちびるを

    まなざしはしかも

     だれ?だれ?

   だから、顎に








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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