アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -41 //沙羅。だから/その唐突な/あなたの目覚めに/ふれていたのだ//07





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





謂く、

   耳を澄まそう

   蝶。くちびる

   蝶。喉。その

   息をはくもの


   はく息に

   それら、わずかに

   みだれるひびき

   やすらぎのない

謂く、

   耳を澄まそう

      はく。羽根を

    はく。だれも

     頭に

   蝶。くちびる

      はく

    だれもが

     はいた

   蝶。喉。その

      はきみだす

    なにもが

     ひたいに

   息をはくもの


   はく息に

      はく。触角を

    はく。いつも

     爪に

   それら、わずかに

      はく

    いつでも

     はいた

   みだれるひびき

      はき散らす

    どこでも

     かかとに

   やすらぎのない


   傷みのない

     葉先に

    どこでも

      はき散らす

   撒かれたひびき

     はいた

    いつでも

      はく

   それら、そこらに

     鰓に

    はく。いつも

      はく。複眼を

   はく息に


   息をはくもの

     甲殻に

    なにもが

      はきみだす

   蝶。舌さき

     はいた

    だれもが

      はく

   蝶。孔ひらき

     腸は

    はく。だれも

      はく。肛門を

   耳を澄まそう。たとえば、蝶。…なぜ?そのはばたきを故意に息。不規則に、沙羅。その息の、見た。…なぜ?まぼろしを。蝶。吐かれ、吐きかけられ思い描きない。ないのに。いちども、すこしも蝶など、愛したことなど。捨てちゃえ、と。はっきりわかる日本語で葉子がささやいた。その蝶、…じゃ、なくて、なに?蛾?朝。カーテンごとリビングのサッシュをひきあけた。閃光。一気の侵入。どこに?昏むまなざしは

   ゆらいだもの

      実在。その

見なかった。

   色彩

      羽虫その

どこにも。

   翳ったもの

      実在とは

赤裸々な

   色あい

      震動であった

昏みに、その

   綺羅めいたもの

      微動であった

蛾あるいは

   色彩

      電子が翳り

蝶の、はばたき。その色彩などは。背後には葉子。知っていた。彼女のいきいきした肉体がよこたわっていることは。何歳?まだ、宮島。わたしは、…十二?三?リビングに降りてきたとき、だからサッシュを開きに、換気に、…またいだ。肉体。脱力。フローリングにあお向けたそれ。背後、ななめした。ややはなれてささやかれたひびきは、ただ不穏を。なぜ?耳もとにささやかれたかに聞こえたから。わたしの、敏感になりすぎた耳には。まるで

   超弦とは

      翳りあう

息をさえ

   牙のある

      花々さえも

吹きかけられたかのように。

   蛾の微動である

      上弦の月に

蝶。あざやかなにくしみ。にくしみの対象。葉子の。なぜ?見なかった。その朝、蝶など。故意に葉子を、わたしがシカトしていたから。ない。なにも、特筆すべき不快感など。習慣。ただの、いつもの流儀。うざったいだけの狂ったささやきを無視しようと、好きにすればいい。放っておけば、葉子が好きなようにやる。立ちあがり、たとえば必死に追いかける。外に追いだそうと。しかもより深い室内に追い込みながら。容易ではない。入り込んだ蝶を、蛾を、舞うべきそとに追い出すことは。のどにひっかかる「…く、」その音。そして眼の前の清雪はようやく、おれ、と。そう、その二音節にじぶんを「意外に、…ほんと、」はじめて表現した。「意外に、」笑った。

   ははは

      花たち

わたしは、いつもの

   ばばば

      婆ぁが

道玄坂の

   ぱぱぱ

      パンツに

喫茶店。今年もひとりで来たそこ。赤裸々で、自分勝手なとまどいとためらいの清雪の須臾。一人称が、彼の手にあまってぶよつく。「…なに?」

やわらかに、さ迷いかけたまなざしをわたしにむけ、その眼は糾弾していた。いま、わたしの前で大人びようとして、余裕をなくし、余裕のなさを勝手に恥じて。ふたたび笑いそうになったわたしが笑みを押しとどめたのは、清雪をふたたび傷つけて仕舞うことを忌んだからだった。

「いいよ、別に」

「ピアノ、やめること?」

「じゃなくて、」ほほ笑んでしまった。その不用意な「おれでも、」須臾を「ぼくでも」羞じた。わたしは。十三歳の清雪は、もう友達の間ではおれだった。しかし、父親らしきひと、わたしのまえでいよいよそれをさらすのには、羞恥があった。もう、そんな年頃なのだった。自分を顧み、はじめて雅文にそんな言葉づかいをした、その記憶はどこにも、…空白。わたしはただ、

   いまでも

      ね?こころに

逆らうしか取り柄のない

   いつまでも

      きみのここ

糞餓鬼だったから、

   いまでも

      ね?こころに

…いいの?「やめて、」…いいの?清雪。その、わたしの追憶をうち消したささやきが、父親心のきざしをも「…いい?」うち消す。清雪は、さっきの一人称をいまだに羞じていた。だから自分のふがいなさをひとり居心地のわるさに、少年。眼の前の、うつくしい少年を、ただ可愛らしくのみ思った。わたしは、そしてまた、それが彼に稀薄な、しかも強烈な屈辱を与えたことにも気づきもしながら、…って、「お前が勝手に始めたんじゃなかった?」

「それ、だれ情報?」

「正則…正則おじさん。かな?敦子…」

「ママ?」わたしのささやきかけた、そのことばを清雪が「だったっけ?」毟り取ったのに意味を

   奪うように

      ここだよ

感じないでもなかったのは、あるいは

   そして

      ぼくは、いまも

わたしの不当な

   奪われたように

      ここで

被害者意識だったろうか?いずれにせよ、知らないところで清雪に彼等の教育は施されていく。そして清雪は大人になっていく。あくまでも、わたしのまなざしのそとで。もちろん養育者にこそ教育権はあって、たとえわたしが彼を調教したところでどうだろう?女に寄生するだけ、そのくせ同性愛にたわむれるだけの、人間のクズの怪物モドキ。清雪までそうしたいわけがない。かならずしも自己嫌悪があるわけでもなくて。…ありえない。ささやいた。清雪が。あくまでも

   吐き気がするほど

      これは

独りごと。ようやく

   繊細な

      わたしの

自分を取り戻し、

   むしず走るほど

      爪です

いつものエレガントな

   こまやかな

      これは

冷淡さに。じょうずに纏われた嘆息の深い翳りを、そこに入念に匂わせ、うつくしい。たしかに、その、もの思いの表情の描かれ方は。「ちがうの?」

「八歳か九歳の誕生日。たぶん。天体望遠鏡、欲しがってたこどもにいきなりベーゼンドルファーあたえるママ役の女のひとがひとりいて、それって、ぼくの希望ってこと?」

「おれでいいよ。…敦子なの?」

「じゃないかな?正則おじさんかも。…壬生のだれかだよ。ぼくじゃない」

壬生の大親父にとって、壬生の親父のきなくさい、筋肉が過剰に汗をかく肉体は過失にすぎなかった。大親父がほしがったのはあくまでも、その名のとおりの風雅だった。孫たちは誰かれの区別なく、大親父の思う風雅な趣味を押しつけられた。壬生の親父がそれをどう思っていたのかは知らない。とまれ、かたくなにおれを拒否し始めた清雪に、わたしは笑むしかなかった。清雪はちがう意味にとったにちがいない。…頭、おかしい、と?「でも、そういう子に…教養?ゆたかな?そういうのに、おまえ、育ってもらいたかったんじゃない?」

「で、いきなりベーゼン?」

「まえ、音楽室のヤマハの惡口言ってなかったか?」

「それとこれとは別。いまは、…」清雪がふいに、その虹彩にどこか自虐的な夢見がちな色を「むしろ、」見せた。そう「音楽は、さ」思えた。それは「あくまでも音楽はどうでもよくて、」本当のことを「ぼく、ね、ほんとは」ささやきはじめる時の「意外に、さ」彼のくせだと、「えらんかありたかったり」後になって「…する」知った。その最後の年に…なに?

   あら?いま

      香り立つ

聞き取れなかった。

   いま、天使が

      あまい匂いが

うまく。だから

   けっつまづいて

      ふと、ぼ

自然、懐疑的ないらだちをだけ、眉間はさらしていたにちがいない。清雪は、そっとわたしを見た。見て、しかもなにも云わない須臾があって、そして、ようやくすなおに笑った。無邪気な、清潔すぎる笑みを、「え」

「え?」

   ええ?

      え。え。え

「え。」

「え?」

   ええ?

      え。え

「…え」いたずらの、くすくすわらいを見せた。清雪。邪気さえ清冽な清雪を、眼がふと「絵画、…か?」厭う。「…描けばいいじゃん?」

「描いてる。…けど、」

   見つめられれば

      朱に染まる

「なに?」

「描けない」

   きみの目に

      海原さえも

「なんで?」

「だってさ、」

   見つめられれば

      見つめられたら

「意外に、画才だけはないとか?…なんでもできるっぽく見えて」

「器用だよ。絵も。でも、それだけの絵」

   青空さえも

      きみの目に

「才能の限界、悟っちゃってる?」

「だって、ほんとに描きたいもの、描いてないから」

   朱に染まる

      見つ

「なに?…描けよ。描きたきゃ、描けばいん」

「ヌード?十三歳で?」笑った。わたしは、声をたてて。たしかに絵を描く早熟な少年がぶちあたる物理的な壁はそこだったかもしれない。モディリアーニ。ルーベンス。ゴーガン。クールベ。セザンヌ。ミケランジェロ。かれらはそのもっともうつくしい瞬間のひとつを裸体画に刻んだ。一切それがなかったのは、ゴッホとルソーと現存のレオナルドくらい?しかも、変わり者で知られた異端にすぎない。ミケランジェロなら更に、頭上に仰ぎ見る立派な少年の陰部を彫った。十三歳の平成の日本人に、そんな自由はない。

「敦子にたのめよ。たぶん、意外によろこんで脱ぐぜ。…おまえのためなら」

「年、とりすぎ…それに、なんか魅力ない」

   わらって

      綺羅めきたち

「年増きらい?」

「形象として」

   ね、ね、ね

      綺羅めきさえも

「むずかしいな、お前」

「もっとわかいのがいい…同年代の」

   もっとふしだらに

      ほら。ほほ笑みを

「おませだね。…裸みたいだけじゃないの?」

「違う。…おさない、だから少年と少女がいいわけ」

   わらって

      翳りあう

「ロリンコン?しかも十三歳で?」

「形象的必然。あくまでも。…実際、そのころがいちばん、隙きがある…」

   ね、ね、ね

      色彩さえも

「隙き?なに?無防備ってこと?」

「だから、見てるひと。その勝手な思いの入り込む隙き、…じゃない?」

   もっと赤裸々に

      ほら。ほほ

「頼めよ。ともだちに。美少年の清雪くんのお願いなら、よろこんで、」

「もうやった」こともなげに言って、なんとも答えるべき言葉をおもいつけないわたしを、清雪は放置する。沈黙。眼の前。水平にながれる眼。そして、大げさにため息をついた。「…莫迦ばっかだから」清雪が。固有の、やさしい夢の中だけに鳴ったガラス製のハープのような。泣きながら笑んだ、眉が深刻に翳った。わらった。わたしは、もはや吹き出して、その「だれ?」清雪のために。「男?女?」

「とりえず女。でも」

「ひん剝いた?裸に?」

「ことばづかい、穢い」

「でも、じゃ、いいじゃん?女のほうもその気になったろ?」

「…から、うざいの」ふと、わたしは清雪の見る風景に「なきゃいい。…」思い当たっていた。「こころなんか、…」清雪は、ささやく。その「正直、」夢見るまなざしに「うざいよ。ただ、からだが気にいっただけなのに。その子の。やらしい意味、ないよ。フィギール…あくまで、形態。それから色彩…色黒なの。…ね?しろ肌って、」透けるほどに、「たいくつでしょ?」しろい清雪。「デッサンからはじめるから。特に、デッサン、いや、色、ないけど、でも、あれ、思うけどさ、…しろいとつまんないね…わかりやすいんだけど。油で描く時は逆にいらない。あざやかすぎると、…また、別の、しろいのが。でも、デッサンが、…な。色だけ別にする?可能?とにかく、そんな、こう、試行錯誤?黙ってこころもなくモデルだけやってれば…わかるし、わかってあげられてるし、知ってるんだけど。気持ちは、」

「女の?」

「もてるんだよ?…ぼく、客観的に謂えば」

「だろな」

「でも、さ。ぼくはよりよく見たいわけ。よりよく捉えたいわけ。よりよく…ちがうじゃない?女の子のほうは。辱められたみたいな?汚されちゃった、みたいな?ぜんぶあげちゃった、みたいな?自己犠牲?そういう、なんか、正直うざい。…しかも絶対、秘密だよって、そいつのほうから絶対に云うのね、ぼくは」

「お前、何人ひん剝いた?」

「別にどっちでもいいじゃない?ぼく的には。だから云われるまま云わないわけ。だれにも。そしたら、」

「女のほうは言いふらした、と」

「そんなもんだよって?そういう話は聞くけど、さ。正則さんも、あれじゃない…壬生の男って、みんな、——でもあそこまでひどいとは想わなかった。で、じぶんがすげぇ難しい立場になってんの」

「お前?」

「じゃない。女のほう」

「先生にもばれた?」

「ばれない。クラスの、…友達とか?なんか、見てて可哀想。あそこまでのけ者に…いや、表面上仲良くしてるよ。けど、露骨にのけ者なの。女同士、…わかるでしょ?」

「でもその剝かれた女のほうは、意外に平気じゃない?」

「…すっごい、追い詰められた、しかも、なんかしあわせな眼。…でしょ?ぼくを見てくる。特権意識みたいな?」

「恍惚と不安的な?」

「その表現、いい」

「パクリだよ」

「正直、うざい」そして長い、あたたかな息を吐いた。沙羅は。その唇は。もはやわたしの咽仏に、顎に微妙につっかえたじぶんの鼻梁。複雑な「おまえ、」憤り。「結局、どんな絵を描きたいんだよ」

「主題?…構図とか?」

「どんなの?ぎざぎざかくかくした売春婦とか?」

「アヴィニョンの娘たち?。それ冒瀆だよ。ある意味。…わかん」

「キュビズムが?」

「じゃなくて、なにを描くか。まだわかってなくて、…だから、デッサンなり、試作なり、大量に書いて書きまくったあと、はじめて構図もポーズも色彩もかたちもなにも、見えてくるはずだからたとえば、」と、清雪は「水浴。セザンヌの」

「ただのどへたじゃん?」温度。ふりかかる、至近の、沙羅の息のそれは、だから喉に。ずれて、肩越しに。ときには鎖骨に。唐突に「でも、さ」

「なに?」

「ピアノやめるって?なんで?ピアノやめる必然、なくない?」

「なくはないよ」

「なんで?」眼を開いていたわたしは見る。沙羅のすこし乱れのある頭髪の翳り。至近におおわれ、見えるか見えないかくらいの、それ。陽炎。沙羅のむこうの。天井の途中から、そしていまは見えない壁のほうにまで雪崩れ、それ。陽炎。ひかりの

   色彩は?

      見つめない

わななきの

   陽炎の

      ぼくは、ただ

とめどない

   色彩は?

      君の、その

音もない

   どこに?

      横顔だけは

騒ぎ。騒乱。混乱。紛争。戦闘に似、「くせが、」

「ん?」

「…できる」

「くせ?」

「感じるよ。描いてて。…デッサンとかでさえ、っていうか、こそ。鍵盤をたたく、その癖。どっかに、」

「気のせいだよ」綺羅のひびき。ひびきあう綺羅。陽炎。それは

「敦子が云ってた」

ひびきもなく、そこに

   ワシリー・ワシリエヴィッチさえ

      なに?それは

「おまえのピアノ、…おなじベーゼンが」

とめどもない轟音にも思え

   彼さえも

      なに?そこに

「おまえと敦子とじゃ…」

すさまじい、ゆがみ。散り

   捉えられなど

      うぞもれかけた

「正則とも」

くだけ、くずれ

   アルノルト・Sの

      黄色の停滞

「ぜんぜん違う。…ほかの奴のは色彩も何もない」

掻き乱れ、あるは

   ひびきをなど

      なに?それは

「あざやかな、」

ささやかに

   アルバン・Bの

      なに?そこに

「色の気配。そんな」

揺れていた。その

   ひびきなど

      伸びをしか

「おまえだけの、」

「意味不明。…」清雪はその冴えすぎた目に「自分勝手な、それこそただの」すなおを瀟洒に描き「…言葉あそび」笑っていた。「そう云えば…」

   美とは

      ぶはっ、…と

「なに?」

「敦子ママ、言った?」

   狂暴な

      はじけた気がした

「だから、なにを?」

「縁談話」

   理不尽な

      あいまいな背後で

「だれの?」

「だから、」

   美とは

      ぶるぁっ、…と

「敦子ママの」おもわず、吹き出して笑った。わたしは。清雪がささやく、「正則さんは、進めたがってる。壬生の親父さんも」

すぐに、笑い顔を「というか、」撫でつぶす。「親父さんは、もう」いたたまれなかった。わたしにまで「躍起になって、もう、」笑われてしまえば、あまりにも、「本人なんか、そっちの」

「いいんじゃない?」

「だから、ぼくたち、」…ね?「お公家さんになるかもね」

「公家?」

清雪はやさしく、しかし知れた。わたしに笑む眼はもう、そこにわたしなど見失っていた、と。やがて、清雪はわたしのいまの女の話を聞きたがりはじめた。彼につきあってやりながら、ふと、どちらが苛酷だっただろう?想う。もちろんそんなもの、比較吟味の対象ではないことは自明として、同じく父親と母親の顔を知らないわたしちたち。清雪。そしてわたし。より苛酷だったのは、どちらだったろう?清雪のほうが、より多くふつうに、あるいは、たとえ平凡とは謂えなくとも、すくなくとも固有の幸せを以てあり得る契機を、持ってはいた。そう想えた。すくなくともその時には。若干、自分勝手ではあっても、清雪を案じてやまない正則。そしてただ、もはや自己愛にもひとしく清雪をだけ愛する敦子の傍若無人。思春期。飽和し、ただただうんざりし、もてあまし、しかし結果的に彼は愛に溢れ返っている。そう思った。わたしは清雪から眼をそらさなかった。なにか、そこに彼をもてあましながら、しかもずっと見つめつづけていた。謂く、

   翳り。あざやかな

   翳りに肌は

   色づく

   あざやかに


   翳り。不用意な

   翳りに肩は

   息づく

   不用意に


   ななめに、綺羅ら

   ひかりら、ふいに

   はばたき。至近に

   はばたく。色彩

謂く、

   ななめに、綺羅ら

      泣き、あられもなく

    ほほ笑みさえ

     知ってる?

   ひかりら、ふいに

      泣きながら、ふと

    少年は、そこ

     狂気のなかに

   はばたき。至近に

      笑んだような

    ほほ笑みさえ

     生まれた日

   はばたく。色彩


   翳り。おだやかな

   翳りに髪は

   綺羅めく

   おだやかに


   翳り。唐突な

   翳りに腰は

   かたむく

   唐突に


   ななめに、綺羅ら

   ひかりら、ふいに

   はばたき。肌に

   はばたく。色彩

謂く、

   ななめに、綺羅ら

      笑み、ためらいもなく

    ささやきかけさえ

     知ってる?

   ひかりら、ふいに

      笑みながら、ふと

    少年は、そこ

     破綻のなかに

   はばたき。肌に

      泣き出したような

    ささやきかけさえ

     いぶいた日

   はばたく。色彩


   翅。蝶の

   ふるえ。色

   空間に、そこ

   虚空に、色彩

謂く、

   翅。蝶の

      泣いていて

    茫然となど

     泣く前に、ね?

   見切れない色

      似合うから。そこに

    恍惚となど

     笑っちゃ…まばたいたの

   見ない。そこ

      あられもなく

    冴えるばかりに

     この子…ってか

   赤裸々に、色彩


   虚空に、色彩

     この子…ってか

    冴えるばかりに

      ためらいもなく

   空間に、そこ

     笑っちゃ…まばたいたの

    恍惚となど

      似合うから。そこに

   ふるえ。色

     泣く前に、ね?

    茫然となど

      笑っていて

   翅。蝶の


   赤裸々に、色彩

   見ない。そこ

   見切れない色

   翅。蝶の

謂く、

   はばたく。色彩

     いぶいた日

    語りかけさえ

      泣き出したような

   はばたき。肌に

     破綻のなかに

    少年は、そこ

      笑みながら、ふと

   ひかりら、ふいに

     知ってる?

    語りかけさえ

      笑み、ためらいもなく

   ななめに、綺羅ら


   はばたく。色彩

   はばたき。肌に

   ひかりら、ふいに

   ななめに、綺羅ら


   唐突に

   かたむく

   翳りに腰は

   翳り。唐突な


   おだやかに

   綺羅めく

   翳りに髪は

   翳り。おだやかな

謂く、

   はばたく。色彩

     生まれた日

    見蕩れさえ

      笑んだような

   はばたき。至近に

     狂気のなかに

    少年は、そこ

      泣きながら、ふと

   ひかりら、ふいに

     知ってる?

    見蕩れさえ

      泣き、あられもなく

   ななめに、綺羅ら


   はばたく。色彩

   はばたき。至近に

   ひかりら、ふいに

   ななめに、綺羅ら


   不用意に

   息づく

   翳りに肩は

   翳り。不用意な


   あざやかに

   色づく

   翳りに肌は

   翳り。あざやかな









Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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