アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -39 //沙羅。だから/その唐突な/あなたの目覚めに/ふれていたのだ//05





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





謂く、

   見つめていなければならない

   いつでも、沙羅

   わたしは、沙羅に

   咬みつかれないように


   見つめていなければならない

   いつでも、沙羅

   わたしは、沙羅に

   咬みちぎられないように

謂く、

   見つめていなければならない

      ふれられないほど

    狂暴な沙羅は

     消えれば?

   いつでも、沙羅

      ふれないで

    歯さえも

     もう

   わたしは、沙羅に

      ふれられないから

    狂暴だから

     消えて仕舞えば?

   咬みつかれないように


   見つめていなければならない

      ちかづけないほど

    穢い沙羅は

     死ねば?

   いつでも、沙羅

      ちかづかないで

    歯さえも

     もう

   わたしは、沙羅に

      ちかづけないから

    穢すぎるから

     死んで仕舞えば?

   咬みちぎられないように嗅いだ。沙羅の体臭を。わたしはふいに噎せ返る。眼を閉じた昏み。喉のおくのほう。頸のつけ根のあたり。その底のほう。飽きなかった。沙羅は、じぶんが振舞った唐突なひたいへの口づけに。舌。そのうごき。すりつけるように。沙羅は

   よ。いたましいくらい

      ゆらいだ綺羅を

さぐった。睫毛と

   よ。しようよ。キ

      翳りを

まぶたとを。匂った。

   キス、しよう

      見てた。おもわず

唾液。わたしは

   よ。いたましいくらい

      翳りを

たしかに

   よ。しようよ。キ

      ゆらいだ綺羅を

その。匂いは実感として、まさか。嗅ぎ取られなど。不可能だった。あたりまえだった。髪の毛の厖大な臭気。それこそが顔中をおおいかくしていたから。眉をくすぐる毛さきに葉子。至近にまばたき、なぜ?わたしの鼻に息をふきかけ、吸い込まれる空気がいやおうなく沙羅、その葉子。至近にあざけり、なぜ?わらい声を散らし、爪。手入れされないそれ。鎖骨にふれ、右。わたしの鎖骨。傷み。かすかな葉子。陽光。頭の向こう。窓ごしに陽光は、…逆光。あからさまな。昏む。こすれる。睫毛。と、睫毛。須臾。沙羅のそれ。そしてわたしの葉子。ひらく、鼻孔を。昏い孔を、なぜ?喰いちぎるの?思った。わたしは、…十歳?咬むの?…十二?ぼくを咬みち撫ぜていた。沙羅の後頭部を。いとしいラン。彼女のそれにするのとそっくりおなじに。そのくちびるをうばい、やわらかさ。にじむような、しみこむようなやわらかさのたしかなかたち。おしつけがましくくちびるが確認したベッドのうえ。あるいは

   ぼくたちは

      なんどでも、いつも

リビング。

   青む翳りの

      返り見るんだ

ガレージ。ときに

   ひなたに、きみを

      あの日の

庭。だから青む花翳り。お気に入りはブーゲンビリア。その双樹のした。葉翳り。あたまのうえ、葉がさわいだ。ブーゲンビリアの傲慢。あの、花を擬態したいろづく葉の群れ。さわぎつづけた。ありふれた赤むらさきではなくて、稀れなしろ。しろのブーゲンビリア。至近に眼を閉じたランが、見つめた。だからわたしは、ときにうごかされた

   どこ?どこ?

      蛹に、葉翳り

まぶたに。虹彩のゆれも

   どこですか?

      葉翳りに羽虫が

いっしょに、だから、

   どこにいますか?

      停滞しかけた

見あげはしなかった。いちども、その

   どこ?どこ?

      須臾に

しろの横溢をなどは。宏大な庭だった。樹木の濫立。あふれかえるあざやかな翳り。ひと眼にはふれようもない。あくまで隔離されたわたしたちの庭の、わたしたちの破廉恥。暇さえあれば、おもいつくまま、ときにはタイ・サーラ。その根本でも。そのずぶとい樹木は一本だけあった。すでに荒廃しかけた離れの家屋のなげた翳りに。ランの母親の妹、たしか、ヨン?ホン?さしあたり、ヨン。彼女たちがかつて捨て去った家屋。いまや、わたしのアトリエ。地に突き刺さったタイ・サーラはあくまでも

   燃えろ

      いつでも

たくましい。好き放題に

   燃えあがれ

      花は

垂れさがった蔦が

   そして

      描く。ただ

放逸をさらし、そして蔦には

   巻きあがれ

      無言の焰を

花々が。地面から涌き出で、燃えあがっているように見えた。そのかたちは強靭だった。凶暴だった。野蛮だった。いかにも南国の、強烈な日射しの申し子。野生の花のいぶきを散らす。しかし色彩はかなしいまでにはかない。わずかな悲しみにさえいともたやすく壊れてしまいそうな、あやういうす桃色。野蛮なかたちとの鋭利な矛盾。今昔物語の謂う、滅びの

   矛盾だった

      わたしに

ブッダにかつて降りおち、屍の

   見上げた

      逆光に

肌にふれその

   空さえも

      すがたを消して

色彩を

   あなたに

      いま、きみは

喪失させたのは、あるいは、この沙羅の花なのだろうか。湧きあがる野生の儚さのかたわらに、廃屋はすさむ。ヨン。彼女には娘が四人いた。娘ふたりは夫と出て行った。残ったひとりのつくった五人家族と、そしてもうひとりの見捨てられた娘と住んでいた。見捨てられたひとりいがい名前は忘れた。ランの家を訪れた最初、ひとりひとり紹介されたにもかかわらず。土地の所有権問題で、もとから疎遠だった。いよいよ乖離してゆくばかりだった。問題はいつまでも解決しなかった。名前を忘られなかったひとりは、ファニーで狂暴なユエン。母親にも姉妹にもその子供たちにも見捨てられた女。まして婿たちになど。庭のどこかで、ユエンはそのまなざしにまばたく。わたしが住み着くようになって、一年くらいだっただろうか。娘五人家族とヨンとは出て行った。その婿がちかくに建てた家に。七十年代に建てられた古すぎる家屋。もはや金銭価値いがいの価値などなかった。たとえ狭かろうが、新築の方が住む良いに決まっている。残されたユエンは、だからいまどきの四階建ての近代的家屋にはなじまない、と?そういう理由づけだったのか。ファニーな中年女はひとり宏大な庭のどこかで、無意味な咆哮と嘲笑に明け暮れた。狂っていた。知能障害だったのか、後天的なそれか、知らない。わたしたちは放置した。彼女の世話は、おもに近所の親族のだれかが見てやっていたようだ。ランも、わたしも関与しない。排斥さえ、しない。庭の

   叫び、叫ばれ

      土が、複雑に

もっと奧に行くと、

   ほら

      複雑な模様を

ココナッツ、

   木漏れ日が

      ひかりと翳りに

バナナ、または

   ゆれた

      ほぐせない模様を

名前の知らない樹木の濫立の翳りが、そして

   ゆられ、ゆすられ

      ゆらぎあいながら

それらのなかに或る大樹がそびえる。周囲の樹木を圧倒して高い。むしろ、だからだろうか。高さにおいて孤立していたそれを、せめぎあう葉翳りのなかに、ひとの眼は地上から見あげない。気づかないから。大樹がはるかな頭上、花を咲かせていたことになど。散り、しかも他木の葉をくぐりぬけ、ふと足元に落ちでもしない限りは。ただ、それさえも眼は、かたわらの樹木のものとして錯視してしまうのだった。ランと結婚して、この家に来てからわたしがその樹木固有の花の散乱に気づくまで、たしか二度ばかり旧正月を祝ったのではないか。気づいた日のことはわすれない。猫が、ふたつめのリビングのほうの、あけはなたれたままのシャッターから侵入してきたのだった。そして、御影石の床の上を步いた。木製の、ふるい豪奢な飾り彫りの長椅子に、ふとわたしは身を起こす。うつくしいけもの。顔はお互いに知っている。だが、家猫というほどでもない。家屋進入は、あくまで稀れだった。ペット嫌いのランが見つけたら、…怖いのだ。子犬さえも。だからいきなり発狂したに違いない。嘲笑を排除したユエンの咆哮?そんな、切迫した大声で。きっとわたしを

   いつでもぼくは

      あ。ほら。あ

呼ぶ。マー、マー、マー、と。

   叫んでいたんだ

      すべる。蛾が

金切り声で、

   しあわせに

      ななめに。蛾が

マー、マー、マー、と。

   なりたいって。だから

      あ。ほら。あ

とおりすぎる猫に、なんというでもなくついて行った。仏間を、…極端に華美な電飾。ここではどこでもそうだ。猫に、ブッダも観音菩薩も知ったことではない。やがて表の庭。右の方、かさなりあう翳り。その青みに入り込んでゆく猫。わたしはひとり、追う。目に、足に。猫にやや離れた葉翳り、ユエンがいた。ユエンは猫に気づかない。うしろむきだから。ユエンの、見たこともない情熱のある巨大な双渺は、猫を見ない。夏だった。正午は過ぎた。ランをふくむほとんどのベトナム人たちが昼寝を貪っていた。慣例どおりに。ユエンは、あるずぶとい樹木の幹の根元に、その尻を

   ぶっ出すよ

      いま、足もとに

剝き出しにして

   ぶ。ぶっ。ぶっ

      蟻の数匹が

しゃがみかけていた。やや

   ぶっ出すよ

      ふかい呼吸を

かたむけた曖昧な位置に。ななめのほうで、別の猫が鳴いた。わたしを引きずり込んだ猫は、すでにどこかに消えていた。とおい左手のさきのほう、車とバイクのノイズをだけ送る。前面道路の姿をは、いかにしても隙き見させない。ノイズは、とおく、やわらかく。繁茂。樹木の葉のむれ。臭みのあるノイズの角を、すべて削りとってしまうのか。肥えたユエンの尻は、

   ぶっ出すよ

      なに?その

着衣にかくされている

   ぶ。ぶっ。ぶっ

      羽虫。見て

部位でありながらも

   ふっ出すよ

      ちいさな、しろい

褐色が濃い。なにも気にしないユエン。みごとな褐色に染まった顔。褐色の腕。褐色の足の脛。それらよりもむしろ濃い褐色。違和感を、目が感じはじめるまえにユエンは放尿をはじめた。叫んだ。…蚊が!

   いつでもぼくは

      あ。ほら。あ

と?たとえば、

   叫んでいたんだ

      ながれた。綺羅が

蚊が!とでも?

   しあわせに

      葉に。ふと

わたしには

   なりた

      あ。ほら。あ

わからない。外国人を考慮しないむきだしのベトナム語だから。そして、ベトナム人であってさえなにを言っているのか理解できないから。だから「蚊が!」ただの「蚊がステーキ、く」意味不明な「喰っちゃっ」咆哮。「…だから、たから、だから」その声に「さ。屁が出る!」とでも?笑った。尻が「燃える、」ゆれる。だから「もう、七色の」その褐色も「屁が!」沙羅。彼女のことばとおなじように。

   吼える

      散った

咆哮。

   吼えた

      唾液が、ぼくの

ユエンには、ひとり

   吼える

      くちびるに

子供がいるはずだった。ランと年のちかい、…女?どこかに。だれとの?知らない。言わない。ランは。巨大すぎる敷地。巨大すぎる庭。樹木は何本も茂る。翳りはかさなる。ひたすらに濃く、青く。陸の孤島とでも?ハン河ぞい、しかも観光名所たるドラゴン・ブリッジの至近だったのに。たぶん、もともとは豚なり牛なりでも飼っていたのだろう。再開発前の、ひなびた樹木の翳りで。周囲だけが勝手に拓けてしまったということなのだろう。ユエンは庭を、どこでも、なんにでも、すきなようにつかう。トイレとして、浴室として、食堂として、寝室として。以前にはいた

   見ていいよ

      爆発です

こうるさい妹たちからも、または

   その眼の前で

      あとマイナス五秒で

母親からも、いまや

   吹っ飛んでやるよ

      誤爆で

ユエンは完璧に自由だった。葉翳りに、空気は新鮮だった。わらっていた。わたしは。庭先での四十近い女の放尿は、ふと、どうしようもなく不道徳で非衛生に想えたから。ずれる。わたしが。ずれるように、わたしが、…なに?ずれた。丸くなるだけ丸くなって、もうとっくに蒸発してしまっていたはずの情熱。自分で引き抜き、引きずり出し、砕き、すでに始末してしまっていたはずの情熱。衝動として、背筋と喉に灼熱をきざしていた。気づかなかった。わたし自身は。ほほ笑みながら、いつもにましてやさしく、ひたすらにやさしく、笑んでちかづく背後の男を

   匂うんだ

      発情していた

ユエンは

   あまやかに

      蜜が。ほら

見止めた。その、ただ

   夢のように

      蜂のケツで

狂暴なだけの

   匂うんだ

      発情していた

男を。放尿はすでに

   なまめいて

      蜜が。もう

終わっていた。ユエンは中腰で

   うとましいまでに

      ケツがぐじょぐ

用をたしていたから、そのふくらはぎと太ももに飛び散った痕跡があった。そこにいや濃い褐色。相反するちいさな綺羅。のけぞるように立ちあがり、頸だけ向けた。至近に近づいたわたしに。情熱。もう、

   ぶ。ぶ。ぶ。ぶ

      半殺し

解放されるしかなかった。瞬間、

   ぶっこわす。ぶっ

      血まみれ

ふと、ユエンが

   ぶ。ぶ。ぶ。ぶ

      反吐まみれ

顔をあげた。うえのほうを

   ぶっこわす。ぶっ

      ぶち込まれたい?

見た。つられて見あげたわたしは

   ぶ。ぶ。ぶ。ぶ

      ケツに、かかと

そこに、見慣れない

   ぶっこわす。ぶっ

      口蓋に、す

しろい花の密集を垣間見た。低い樹木の葉の群れの先に。謂く、

   知ってる?ユエン

   あなたはくさい

   どうしようもない

   無防備な匂い


   だからユエン

   花の匂い

   熟れて腐り

   蜜の腐り


   膿んだ甘味

   腐乱のしたたり

   なすすべもない

   傷んだ匂い

謂く、

   花の匂い

      かくしさえ

    無能の花

     おどろき。かすかに

   蜜の腐り

      穢い肌さえ

    舞う。能なし

     感じられた。まだ、その

   膿んだ甘味

      穢い息さえ

    舞う花

     肌。傷みを

   傷んだ匂い


   知ってる?ユエン

   あなたはくさい

   どうしようもない

   無慚な匂い


   だからユエン

   水たまり

   雨水の腐り

   饐えた澱み


   泡散らし

   醗酵した汚穢

   たとえようもない

   傷んだ匂い

謂く、

   雨水の腐り

      おおいさえ

    ぶざまな花

     おどろき。かすかに

   饐えた澱み

      穢い目さえ

    舞う。ぶざま

     感じられた。まだ、その

   泡散らし

      穢い尻さえ

    舞う花

     肉。傷みを

   傷んだ匂い


   知らない?ユエン

   いちどもあなたに

   嗅ぎとられない

   あなたの臭気を


   ささやこう。ユエン

   うまれたときから

   狂っていた耳

   狂った虹彩に

   ささやこう。ユエン

   あやうい香気は

   匂いたち

   ただ、なつかしい

謂く、

   うまれたときから

      かくせさえしない

    しら雪のように

     おどろき。かすかに

   ユエン。狂っていた

      穢いいぶき

    舞う花。花

     感じられた。まだ、その

   あやうい香気は

      穢いあえぎ

    舞う雪のように

     骨。絶望

   ただ、なつかしい








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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