アラン・ダグラス・D、裸婦 ...for Allan Douglas Davidson;流波 rūpa -26 //まだ知らない/あなたも、まだ/沙羅。だからその/空。あの色を//05





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ作品を構成する文章として暴力的・破壊的な表現があったとしても、そのような行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしそうした一部表現によってわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでもそうした行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





謂く、

   あげてごらんよ

   けだもの声を

   けだものだから

   ぶざまなけもの


   わめいてごらんよ

   異界の声を

   化けものだから

   壊れた化けもの

殺してくれ。おれを。だから澄み切ったプルシャン・ブルーの雨のなかに。謂く、

   あげてごらんよ

      息づかえ

    唐突な

     舐めたいの?

   けだもの声を

      噎せ返れ

    口づけを

     ばか?

   わめいてごらんよ

      えづきまくれ

    きみに

     咬みつきたいの?

   異界の声をあおむけたままの沙羅。だからその顔に、ななめに翳りはながれ落ちるしかない。沙羅。そのごく微細なうごき。くちびるを、口元を、頬を、または顎をもそっとうごかすたび、それらささいなささいにささやかにあふれ返った体臭。ゆらめく。ゆらめき、あふれた。こぼれ、こぼれ散ったようにさえ想え、さわがしさ。沙羅。その体臭。おちつく須臾もない、それ。たとえるなら、なに?パルメザン・チーズ?しかも火をつけて燃やしたそれ。黝ずんだオイル?さんざん揚げつづけて焦げ、焦げて異臭をのみ放つオリーブ・オイル。しかも甘い香水を、ポワゾンの赤いの。おもいきりぶちまけた、とか?ややとおくに腐りかけたドリアン?あえて大量の砂糖水にひたして、とか?単純に謂えば発情。鼻先に嗅ぎ取った瞬間、男たちに男を呼び覚まささせないでおかない、そんな。老人にさえも?だから

   見蕩れて

      咥えて

どこまでも品のない

   おれに

      そして

恥ずかしい、な

   おれにだけ

      しゃぶりあげて

…なに?

   見蕩れて

      しかも

臭気。やばっ、と。甘い匂いがするね。そう女たちは云った。わたしに。正確にはいい匂い、と。意味としては媚薬じみた甘さ、と。まなざしがそう、あからさまに言葉以上の言葉を訴え、すがるように。犠牲者たち。女たち。もはや暴力的な煽情にはずかしめられた犠牲者たち。女。虐げられ、だいなしにされ、そこに傷みと恍惚のあるまなざしをさらした、ん?女たち。いくつもの

   匂うよ

      やらしく

容赦ない

   あなたの

      くっそやら

煽情。来てよ。そして

   からだ。…ね?

      やらしく

抱いてよ。いま

   匂うよ

      いたましく

無茶してよ。もう

   あなたが

      くっそいた

見飽きるほどに見た。事実、見飽きた。ホストをはじめたばかりの初日に、未成年の目はすでに飽和しかけた。やがて、一週間と少し。倦んだ。飽きた。苦痛だった。一か月。拷問を越えた。惨殺にちかかった。女たちはいつも、それぞれの差異において、しかしおなじ目をする。わたしはそれらまなざしのなかでは加害者になる。理不尽な。残虐。冷血。凄惨。でも、…飽きてる?沙羅も。色違いのまなざし。そこに見出された風景のなか、男たちの、おなじ一様のまなざしのに、…ね?その女。もう

   ひびき。なぜ?

      やさしいん、…だ

名前さえ忘れた女。はじめての「なんか、…さ」女。はじめて「みんな。実は、さ。云ってんだ。みんな」わたしの「あんた、さ」肉体が「知ってる?」知った女の「いい匂い、なんか」肉体。その「いい、匂い、」肉に宿った「…さ、」声。

   陶器のこすれた

      眼にふれた

意識。

   ひびき。なぜ?

      すべた

精神。

   ささやきの

      せつないん、…だ

たましい。その

   ひびき。なぜ?

      耳にふれた

しめりけをおびるしかない追い詰めらた体温。その肌に。厳重かつ華美ないまさらのシャネル・スーツを越えて「…ね?」発散。女の

   ひびき。なぜ?

      すべて

湿度。そこ

   外の、なにかの

      はきっ吐きそうなん、…

まなざしのむこう、

   ひびき。なぜ?

      だ。舌にふれた

矜持。ただ

   樹木。街路樹

      すべて

いたいたしいくらいに場違いな

   こすれあう葉。葉ゞはここに

      いたいん、…だ

シャネル・スーツはたぶん、真昼の

   ひびかない。な

      え?

道玄坂にあってさえも彼女の、銀座の女だというプライドを、「…聞いてる?」笑った。そこに、その「いっつも」女が。「眞沙夜、ときどき聞いてなくなる」と、…なんで?「眞沙夜、いっつも」ね、ね、ね、「かなしい目、しかも、」って、ね?ん、「さ、ひとりで」んねっ?ねっ?「なんか、さ。だから」ん、ん、んんっ「やばいじゃん。もう」んねっ。ねっ、ね、「おばさん、放っとけなくなる…」二十六だと言った。…まだ?もう?

   消えてよ

      翳りのなかに

女はその時のわたしには

   くさいよ

      花は、いちばん

容赦なく

   消えた方がいいよ

      うつくしい

もう、だった。十九歳だった。わたしは。そして死ぬべきだと思っていた。わたしは、もう。十九歳の最後の日にでも。だからもうすこしだけ、そこ。道玄坂。映画館の上のカフェ。お気に入り。女。やくざのたまり場。やりたい放題に女に発情されていたその日にとっての、ほんの数週間あと、わたしは死に、死ぬべきで、ほしかった。せめて最後にいち枚の絵を

   セザンヌのような?

描き残しておく、

   チマブーエのような?

才能。その

   フラ・アンジェリコのような?

油彩。…どんな?

   ピエト・モンドリアンのような?

わからない。どんな?

   初期ロスコのような?

なんの絵?どんな

   あえて抽象主義にはしってみたドガのような?

絵?燃え上がり

   まだ顔のあるモネのような?

音もなく消失し

   鴨居のような?

温度もなく

   ジュアン・ブリスのような?

消滅する絵。わたしの

   リチャード・ディーベンコーンのむしろ具象のような?

最後の日。その

   ジョアン・ブリュルのような?

最後の時に。だからだれにも

   魔王カミーユ・コローのような?

描かれることのあり得ない絵。オスカー・ワイルドにでも頼むべきだったろうか?エドガー・ポーにでも?「聞いてるよ」

「噓」

「見蕩れてた」

「にやついてる。…すでに」二十歳の誕生日に、わたしは女に体をくれてやった。うえに乗った女。さけびかける女。自分勝手にオルガズムスの演技に没頭する女。その、彼女に。知っていた。もう、そこに、その肌があかしていたわずかな発熱。股。こすられ、しかも嫌気がさすくらいのそれら、過剰。知っていた。体温。温度にひとり、知っていた。籠りきり、沙羅。そのくちびるがすでにささやきつづけていたことは。耳がもう、聞きつづけていたから。歌うように、即興に口ずさむように、なめらかな、…ん?それ。アルト。ややひくめの。フラットがかる寸是のあやういピッチ。伝説のアルトゥーロ・トスカニーニ氏だったなら「わたし、…ね」声。ささやいていた、あの「なんか、怖い。…いま」レ・ハン。なにも「あなたのこと、もう」惡びれもせず、ただ「好きすぎて。だから」あたりまえに「もう、いま」この子、…ね、と「なんか勝手に」おかしいんだよね「しわせすぎて、いつも」なに?…だから「怖い。かなしいくらい」あたまのなか。…それって「怖い。かなしいくらい」さ、変わり者ってことなの?「怖いの。でも」…じゃ、なくて「すっごい、すっごい」ほんとうに、…ね?「しあわせ。わたし」変なの。この、…「泣いちゃいそうなくらいに、」とでも?そのささやき。あわいふるえるあやうい声の沙羅。けだもの。けものじみた沙羅。破綻。破損。だからけだもには決してありえない「言葉さえ話せないよ」

レ・ハンが言った。わたしをふと返り見た。かならずしも、表情らしいそれもなく「…言葉?」

「ぜんぜん」

「噓でしょ」笑った。声もなく、「それは、…でも」かたむいた。

顎が。「それは噓だよ」

「なんで?」笑み。ふきこぼれるただ上質な「だって、」笑顔。「話してたでしょ。さっき、ふたりで」言い訳じみた。ふいに、わたしの声は。レ・ハンの笑顔の容赦なさに。沙羅を、ホテルに紹介された日、「ふり、だよ。ふり、だけ。めんどくさいじゃない。だって」

「笑ってたじゃない?」

「話しかけてくるから。わけのわからない言葉?…みたいなので。ずっと、だって」沙羅の頭を撫ぜてやり、レ・ハンは「あぶないじゃない?」沙羅。シャワーあがりに濡れた裸のまま、ベッドに胡坐をかいたその、だから濡れた光澤。ゆたかすぎる髪は。返り見かけ、レ・ハンはわたしに笑みを「嫌じゃない?」

「なに?」

「刺戟したくない」…そんな女を、おれに?と。ただレ・ハンだけが気づかない自明の不埒を口にはださなかった。彼のななめの横顔にきざした気がした笑みに、せめて笑み返してやるのにだけいそがしかったから。謂く、

   うっとおしいほど

   沙羅。その

   匂った。肌が

   うとましいほど


   いやらしいほど

   沙羅。その

   匂った。息が

   華美すぎるほど


   臭気。口

   いきももの匂い

   体内の。または

   すでに腐乱?

謂く、

   くさい沙羅

   いきももの匂い

   体内の。または

   すでに腐乱?

      あきっぱなし

    せめて見蕩れて

     吼えてごらん

      口。家畜の

    見蕩れてあげよう

     それは喉。それは

      口。くち

    ぶざまな裸身に

     消化器官。留保ない


   いたたまれないほど

   沙羅。その

   匂った。髪が

   めざましいほど


   いじらしいほど

   沙羅。その

   忌避した。鼻が

   ねじまがるほど


   臭気。口

   吐き出す臭み

   内臓の。または

   すでに腐乱?

謂く、

   くさい。沙羅

      たれっぱなし

    せめていやらしく

     のけぞってごらん

   吐き出す臭み

      唾液。野蛮な

    発情してあげよう

     それは頸

   内臓の。または

      唾液。えき。えっ

    無価値な裸身に

     排泄器官。まぎれもない

   すでに腐乱?


   臭気。歯に

   陰惨な匂い

   こびりつき

   とろとろに


   臭気。唾に

   みだらな匂い

   やや醗酵し

   澱む。にごり

謂く、

   臭気。歯に

      そっと

    ぶちのめしてだだっ

     ふれたかのように

   陰惨な匂い

      噓を、まるで

    お願いです。わたしを

     ゆびが、ふと

   臭気。唾に

      噓をつかれたかに

    ぶちのめしてくだっ

     ふっと

   みだらな匂い


   いやになるほど

   沙羅。その

   咬んだ。爪を

   いたいいたしいほど


   破廉恥なほど

   沙羅。その

   傷めた。爪を

   血がにじむほど


   傷み。目に

   舐めて咬み

   なぶるそれは

   不穏。いつでも

謂く、

   傷い。沙羅

      ぬれっぱなし

    せめて忌避して

     咥えてごらん

   舐めて咬み

      体液。恥辱の

    厭うてあげよう

     それは指

   自傷。それは

      体液。肌に

    穢い裸身に

     咀嚼器官。どうしようもない

   いつでも不穏


   狂おしいほど

   沙羅。その

   匂った。耳孔が

   鼻がむせるほど


   いびつだったほど

   沙羅。その

   匂った。汗ばみが

   無慚だったほど


   臭気。放ち

   いきももの匂い

   体表の。または

   すでに腐乱?

謂く、

   くさい。沙羅

      普通にしてても、さ

    アングルに描かれた

     ねじれているから

   放たれた匂い

      おまっ。狂って見え

    褐色の女

     ねじれて見えた

   体じゅう、もはや

      くるっ。狂ってるか

    骨格の異端

     なにもしなくても

   すでに腐乱?


   匂い。沙羅

   その鼻孔

   いちどもついに

   閉じきられない


   孔。孔なす孔

   孔。沙羅、昏い

   孔。嗅ぎたてた

   嗅ぎたてたのだ

謂く

   孔。孔ひらく孔

      きよらかに

    完全開口

     吐き出してごらん

   孔。沙羅、くさい

      肌に、綺羅が

    あけっぱなし

     それは目

   孔。嗅ぎたてた

      散り、あそび

    ひらきっぱなし

     育毛器官。めざましい

   嗅ぎたてたのだ


   ひびき。沙羅

   その耳孔

   須臾にもついに

   閉じきられない


   孔。孔なす孔

   孔。沙羅、昏い

   孔。聞きたてた

   聞きたてたのだ

謂く

   孔。孔ひらく孔

      体液に

    完全解放

     ごらん。吐血してご

   孔。沙羅、うるさい

      肌に、綺羅が

    もれっぱなし

     それは脛

   孔。聞きたてた

      ゆれ、ほら

    さらしっぱなし

     出産器官。若干やばめに

   聞きたてたのだ


   感触。沙羅

   その肌

   須臾にもついに

   消滅しない


   孔。孔なす孔

   孔。沙羅、昏い

   孔。あばきたてた

   あばきたてたのだ

謂く

   孔。孔なす孔

      吐かれた。床に

    完全全開

     とろけてごらん

   孔。沙羅、かゆい

      唾液に、綺羅が

    だしっぱなし

     それは眉

   孔。あばきたてた

      撒かれ、ほら

    むきだしっぱなし

     粘着器官。なに?

   あばきたてたのだ


   破綻。沙羅

   その意識

   なにをもついに

   捉えきれない


   孔。孔なす孔

   孔。沙羅、昏い

   孔。もてあそんでいた

   もてあそばれた

謂く、

   孔。孔なす孔

      ふれられそうな

    その頭

     なぜ?無理な姿勢で

   孔。沙羅、かくしようのない

      ほら、ゆびに

    頭のうしろに

     自然な笑みを?

   孔。もてあそんでいた

      なぞれそうなくら

    やさしい日射し

     沙羅。そこに

   もてあそばれた


   聞き、嗅ぎ、知り

   沙羅。息吹きのひびきも

   かすかなひびきも

   かすかな匂いも


   かすかな気配も

   肌ざわりさえも

   沙羅。ほのめかしさえも

   聞き、嗅ぎ、知り


   もてあそばれた

     なぞれそうな

    あざやかな日射し

      沙羅。そこに

   孔。もてあそんでいた

     ほら、ゆびに

    背すじのななめに

      自然な笑みを?

   孔。沙羅、かくしようのない

     ふれら

    その背筋

      なぜ?いびつな姿勢で

   孔。孔なす孔








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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