攝大乘論:攝大乘論本所知相分第三-03/無著/三藏法師玄奘譯
復有四種意趣四種祕密。一切佛言應隨決了。
◎
復、四種の意趣、四種の祕密有り、
一切の佛の言なり、
應に隨つて決了すべし。
四意趣者。一平等意趣。謂如說言。我昔曾於彼時彼分即名勝觀正等覺者。
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四の意趣とは〔=者〕、
一には平等‐意趣、謂はく說いて言たまふが如し、
『我れ昔、曾〔嘗〕て彼の時、彼の分に於て
(即ち)勝觀‐正等覺‐者と名づく』と。
二別時意趣。謂如說言。若誦多寶如來名者。便於無上正等菩提已得決定。又如說言。由唯發願便
得往生極樂世界。
◎
二には別時‐意趣、謂はく說いて言たまふが如し、
『若し多寶如來の名を誦する者は便ち、
無上‐正等‐菩提に於て已に決定することを得たり』と。
又、說いて言たまふが如し、
『唯、發願するのみに由つて、便ち
極樂世界に往生することを得』と。
三別義意趣謂如說言。若已逢事爾所殑伽河沙等佛。於大乘法方能解義。
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三には別義‐意趣、謂はく、說いて言たまふが如し、
『若し已に爾所〔そこばく〕殑ガ伽ガ河〔が〕沙〔しやう〕等の佛に逢事すれば、
大乘の法に於て方〔まさ〕に能く義を解せん』と。
四補特伽羅意樂意趣。謂如爲一補特伽羅先讚布施後還毀訾。如於布施如是尸
羅及一分修當知亦爾。
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四には補フ特ト伽ガ羅ラの意樂‐意趣、謂はく、
ひとり〔=一〕の補特伽羅の爲に、
先に布施を讚し後に還へつて毀訾するが如し、
於布施に於けるが如く、
是のの如く尸シ羅ラ及び一分修も當に知るべし、亦爾なりと。
如是名爲四種意趣。
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是の如きを名づけて四種の意趣と爲す。
四祕密者。一令入祕密。謂聲聞乘中或大乘中。依世俗諦理說有補特伽羅及有諸法自
性差別。二相祕密。謂於是處說諸法相顯三自性。三對治祕密。謂於是處說行對治八萬
四千。四轉變祕密謂於是處以其別義諸言諸字即顯別義。
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四の祕密とは〔=者〕、
一には祕密に入らしむ〔=令〕、
謂はく、
聲聞乘中、或は大乘中にて
世俗諦の理に依りて補特伽羅有り、及び諸法の自性‐差別有りと說くなり。
二には相‐祕密、
謂はく、
是の處に於て諸法の相を說いて三‐自性なりと顯らはすなり。
三には對治‐祕密、
謂はく、
是の處に於て行は八萬四千〔の煩惱行〕を對治すと說くなり。
四には轉變‐祕密、
謂はく、
是の處に於て其の別義に諸言・諸字を以て即ち別義を顯らはすなり。
如有頌言
覺不堅爲堅 善住於顚倒
極煩惱所惱 得最上菩提
◎
頌有り、言たまふが如し、
≪不堅を覺るを堅と爲し、
善く顚倒に〔=於〕住し、
極めて煩惱に惱まさるる〔=所惱〕も、
〔大悲に由りて〕最上なる菩提を得るなり。≫
若有欲造大乘法釋。略由三相應造其釋。一者由說緣起。二者由說從緣所生法相。三者由說語義。
◎
若し有るが大乘法の釋を造らんと欲せば、
略して三相に由つて應に其の釋を造るべし。
一には〔=者〕緣起を說くに由り、
二には〔=者〕緣從り生ずる所〔=所生〕の法の相を說くに由り、
三には〔=者〕語義を說くに由る。
此中說緣起者。如說
言熏習所生 諸法此從彼
異熟與轉識 更互爲緣生
◎
此の中、緣起を說くとは〔=者〕、
說けるが如し
≪言熏習より生ずる所〔=所生〕は
諸法なり、此の〔熏習は〕彼〔の諸法〕從り〔生ず〕、
異熟〔識〕と〔=與〕〔七〕轉識と、
更互に緣と爲つて生ず≫
復次彼轉識相法。有相有見識爲自性。又彼以依處爲相。遍計所執爲相。法性爲相。由此
顯示三自性相。如說
從有相有見 應知彼三相
◎
復、次に、
彼の轉識の相法は
有相〔識〕有見識を自性と爲し、
又、彼れは依處を以て相と爲し、
遍計所執を〔以て〕相と爲し、
法性を相と爲し、
此れに由つて三‐自性の相を顯示す、
說けるが如し、
≪有相・有見に從ひ、
應に彼の三相を知るべし。≫
復次云何應釋彼相。謂遍計所執相於依他起相中實無所有。圓成實相於中實有。
◎
復、次に、
云何んが應に彼の相を釋すべきや。
謂はく、
遍計所執の相は、依他起相の中に於て實にあること〔=所有〕無く、
圓成實相は中に於て實に有り。
由此二種非有及有非得及得未‘見已見。
(※「見已見」三字三本宮本俱作「具已具」)
眞者同時。謂於依他起自性中無遍計所執故。有圓成實故。於‘此轉時若得彼即不得此。
(※「此」字三本宮本俱无)
若得此即不得彼。如說。
依他所執無 成實於中有
故得及不得 其中二平等
◎
此の二種の非有及び有に由りて
〔眞を〕得るに非らず、及び〔眞を〕得、
未だ〔眞を〕見ず、已に眞を見るは〔=者〕同時なりとは(※「見已見」三字三本宮本俱作「具已具」)
謂はく、
依他起の自性の中に於て遍計所執無きが故に
圓成實有るが故に
此の〔依他起の自性〕轉ずる時に於て(※「此」字三本宮本俱无)
若し彼〔の遍計所執〕を得れば即ち彼〔の圓成實〕を得ず、
若し此〔の圓成實〕を得れば即ち此〔の遍計所執〕を得ざるなり、
說けるが如し、
≪依他に〔遍計〕所執無ければ
〔圓〕成實は中に於て有り
故に〔眞を〕得、及び〔眞を〕得ず、
其の中、二は平等なり。≫
說語義者。謂先說初句後以餘句分別顯示。或由德處。或由義處。
◎
語義を說くとは〔=者〕、
謂はく
先づ初句を說き、
後、餘句を以て分別し顯示す、
或は德處に由り、或は義處に由る。
由德處者。謂說佛功德最淸淨覺‘不切佛平等性到無障處。
(※「不」字下三本宮本俱有「二現行起無相法住於佛住逮得一」十四字)
不可轉法所行無礙。其所安立不可思議。遊於三世平等法性。其身流布一切世界。
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德處に由るとは〔=者〕、
謂はく、
佛の功德、最も淸淨ばる覺を說くなり、
〔(1)二現行せず、
(2)無相の法に趣〔=起〕き、
(3)佛の住す〔る所〕に〔=於〕住し、
(4)一〕切の佛の平等性を〔逮得し〕、(※「不」字下三本宮本俱有「二現行起無相法住於佛住逮得一」十四字)
(5)無障處に到り、
(6)轉ず可からざる法なり、
(7)行く所〔=所行〕無礙なり、
(8)其の安立する所〔=所安立〕不可思議なり、
(9)三世‐平等の法性に〔=於〕遊び、
(10)其の身、一切の世界に流布し、
於一切法智無疑滯。於一切行成就大覺。於諸法智無有疑惑。凡所現身不可
分別。一切菩薩等所求智。得佛無二住勝彼岸。不相間雜如來解脫妙智究竟。證無中邊佛地平等。
極於法界。盡虛空性窮未來際。最淸淨覺者應知。此句由所餘句分別顯示。如
是乃成善說法性。
◎
(11)一切の法に於て智に疑滯無く、
(12)一切の行に於て大覺を成就し、
(13)諸法の智に於て疑惑有ること無く、
(14)凡そ現ずる所〔=所現〕の身は分別す可からず、
(15)一切の菩薩等の求むる所〔=所求〕の智なり、
(16)佛の無二〔平等の法身〕を得て勝れたる彼岸に住し、
(17)相ひ間雜せざる如來の解脫‐妙智、究竟し、
(18)中邊無き佛地平等を證し、
(29)法界を〔=於〕極め、
(20)虛空性を盡くし、
(21)未來際を竆む、
最も淸淨なる覺とは〔=者〕應に知るべし、
此の句をばその餘の〔=所餘〕句に由つて分別し顯示し、
是の如く乃ち善說の法性を成ずと。
最淸淨覺者。謂佛世尊最淸淨覺。應知是佛二十一種功德所攝。謂於所知一‘向無障轉功德。
(※「向」字明本作「句」字)
於有無無二相眞如最勝淸淨能入功德。無功用佛事不休息住功德。於法身中所
依意樂作業無差別功德。修一切障對治功德。
◎
最も淸淨なる覺とは〔=者〕
謂はく、
佛世尊の最も淸淨なる覺なり、
應に知るべし是れ、佛の二十一種の功德の所攝なりと。
謂はく、
(1)所知に於て一向〔ひとへ〕に無障〔智〕轉ずり功德、(※「向」字明本作「句」字)
(2)有無に於て二相無き眞如に最勝‐淸淨にして能く入る功德、
(3)無功用にして佛事をば〔作し〕休息せずして住する功德、
(4)法身の中に於ける所依‐意樂‐作業‐無差別なる功德、
(5)一切の障〔さはり〕を對治すりことを修する功德。
降伏一切外道功德。生在世間不爲世法所礙功德。安立正法功德。授記功德。於一
切世界示現受用變化身功德。
◎
(6)一切の外道を降伏する功德、
(7)世間に生在するも世法の爲に礙へられ〔所礙〕ざる功德、
(8)正法を安立する功德、
(9)授記する功德、
(10)一切の世界に於て受用‐變化身を示現する功德、
斷疑功德。令入種種行功德。當來法生妙智功德。如其
勝解示現功德。無量所依調伏有情加行功德。
◎
(11)疑ひを斷ずる功德、
(12)種種なる行に入らしむる〔=令〕功德、
(13)當來の法、妙智を生ずる功德、
(14)其の勝解の如く示現する功德、
(15)無量の〔菩薩の〕所依にて有情を調伏する、加行の功德、
平等法身波羅蜜多成滿功德。隨其勝解示現差別佛土功德。三種佛身方處無分限
功德。窮生死際常現利益安樂一切有情功德。無盡功德等。
◎
(16)平等の法身と波羅蜜多との成滿する功德、
(17)其の勝解に隨つて差別の佛土を示現する功德、
(18)三種の佛身、方處‐分限無き功德、
(19)生死の際を竆め、常に一切の有情を利益し安樂にすることを現ずる功德、
(20)無盡の功德(21)等なり
復次由義處者如說。若諸菩薩成就三十二法乃名菩薩。謂於一切有情起利益安樂增上意樂故。令入一切智智
故。自知我今何假智故。摧伏慢故。堅牢勝意樂故。非假憐愍故。
◎
復、次に、
義處に由るとは〔=者〕
『若し諸の菩薩、三十二法を成就すれば乃ち菩薩と名づく』と說くが如し、
謂はく、
一切の有情に於て利益‐安樂の增上なる意樂を起こすが故なり、
(1)一切智智に入らしむ〔=令〕故に、
(2)自ら我れ今何に智を假るかを知るが故に、
(3)慢を摧伏するが故に、
(4)堅牢なる勝れた意樂の故に、
(5)假の憐愍に非らざる故に、
於親非親平等心故。永作善友乃至涅槃爲後邊故。應量而語故。含笑先言故。無限大悲故。
◎
(6)親・非親に於て平等心なるが故に、
(7)永く善友と作り乃至、涅槃を後邊と爲すが故に、
(8)量に應じて〔=而〕語るが故に、
(9)笑を含んで先づ言ふが故に、
(10)無限の大悲なるが故に、
於所受事無退弱故。無厭倦意故。聞義無厭故。於自作罪深見過故。於他作罪不瞋而誨故。
◎
(11)受くる所〔=所受〕の事に於て退弱無きが故に、
(12)厭倦の意無きが故に、
(13)義を聞いて厭ふこと無きが故に、
(14)自作の罪に於て深く過を見るが故に、
(15)他作の罪に於て瞋らずして〔=而〕誨〔敎〕ふるが故に、
於一切威儀中恒修治菩提心故。不悕異熟而行施故。
不依一切有趣受持戒故。於諸有情無有恚礙而行忍故。爲欲攝受一切善法勤精進故。
捨無色界修靜慮故。方便相應修般若故。由四攝事攝方便故。於持戒破戒善友無二故。
以殷重心聽聞正法故。以殷重心住阿練若
故。
◎
(16)一切の威儀の中に於て恒に菩提心を修治するが故に、
(17)異熟を悕〔願〕はずして〔=而〕施を行ずるが故に、
一切有趣に依らずして戒を受持するが故に、
諸の有情に於て恚礙有ること無くして〔=而〕忍を行ずるが故に、
一切の善法を攝受せんと欲するが爲に勤めて精進するが故に、
無色界を捨てて靜慮を修するが故に、
方便‐相應して般若を修するが故に、
四攝事に由りて方便を攝するが故に、
(18)持戒・破戒に於て善友、無二なるが故に、
(19)殷重心を以て正法を聽聞するが故に、
(20)殷重心を以て阿ア練レン若ニヤに住するが故に、
於世雜事不愛樂故。於下劣乘曾不欣樂故。於大乘中深見功德故。遠離惡友故。親近善友故。
◎
(21)世雜の事に於て愛樂せざるが故に、
(22)下劣乘に於て曾て欣樂せざるが故に、
(23)大乘の中に於て深く功德を見るが故に、
(24)惡友を遠離するが故に、
(25)善友に親近するが故に、
恒修治四梵住故。常遊戲五神通故。依趣智故。於住正行不住正行諸有情類
不棄捨故。言決定故。重諦實故。大菩提心恒爲首故。
◎
(26)恒に四梵住を修治するが故に、
(27)常に五神通に遊戲するが故に、
(28)依趣智の故に、
(29)正行に住し、正行に住せざる諸の有情の類に於て棄捨せざるが故に、
(30)言、決定するが故に、
(31)重諦、實なるが故に、
(32)大菩提心を恒に〔上〕首と爲すが故なり。
如是諸句應知皆是初句差別。謂於一切有情起利益安樂增上意樂。
◎
是の如き諸句は應に知るべし、
皆、是れ初句の差別なり、
謂はく、
一切の有情に於て利益‐安樂の增上なる意樂を起こすなり。
此利益安
樂增上意樂句有十六業差別。應知此中十六業者。一展轉加行業。二無顚倒業。三不
待他請自然加行業。四不動壞業。
◎
此の利益‐安樂の增上なる意樂の句に十六業の差別有り。
應に知るべし、
此の中、十六業とは〔=者〕
一には展轉して加行する業なり、
二には顚倒無き業なり、
三には他の請ひを待たずして自然に加行する業なり、
四には動壞せざる業なり、
五無求染業。此有三句差別應知。謂無染繫故。於恩非恩無愛恚故。於生生中恒隨轉故。六相稱
語身業。此有二句差別應知。七於樂於苦於無二中平等業。八無下劣業。
◎
五には求染無き業なり、
此れに三句の差別有り、應に知るべし、謂はく
(1)染繫無きが故に、
(2)恩・非恩に於て愛恚無きが故に、
(3)生生の中に於て恒に隨轉するが故なりと。
六には語に相稱する身業なり、
此れに二句の差別有り、應に知るべし、
七には樂に於て苦に於て無二の中に於て
平等なる業なり、
八には下劣無き業なり、
九無退轉業。十攝方便業。十一厭惡所治業。此有二句差別應知。十二無間作意業。
◎
九には退轉すること無き業なり、
十には方便を攝する業なり、
十一には所治を厭惡すり業なり、
此れに二句の差別有り、應に知るべし、
十二には無間の作意の業なり、
十三勝進行業。此有七句差別應知。謂六波羅蜜多正加行故。及四攝事正加行故。
◎
十三には勝進行の業なり、
此れに七句の差別有り、應に知るべし、謂はく、
六‐波羅蜜多の正しき加行なるが故に、
及び四‐攝事の正しき加行なるが故なり。
十四成滿加行業。
此有六句差別應知謂親近善士故。聽聞正法故。住阿練若故。離惡尋思故。作意功德故。
此復有二句差別應知。助伴功德故。此復有二句差別應知。
◎
十四には加行を成滿する業なり、
此れに六句の差別有り、應に知るべし、謂はく、
(1)善士に親近するが故に、
(2)正法を聽聞するが故に、
(3)阿練若に住するが故に、
(4)惡しき尋思を離るるが故に、
(5)功德を作意するが故なり、此れに復、二句の差別有り、應に知るべし、
(6)助伴の功德の故なり、此れに復、二句の差別有り、應に知るべし、
十五成滿業。此有三句差別應知。謂無量淸淨故。得大威力故。證得功德故。
◎
十五には成滿せる業なり、
此れに三句の差別有り、應に知るべし、謂はく、
(1)無量淸淨なるが故に、
(2)大威力を得るが故に、
(3)功德を證得するが故に、
十六安立彼業。此有四句差別應知。謂御衆功德故。決定無疑敎授敎誡故。財法攝
一故。無雜染心故。如是諸句應知。皆是初句差別。如說
由最初句故 句別德種類
由最初句故 句別義差別
◎
十六には彼れを安立する業なり、
此れに四句の差別有り、應に知るべし、謂はく、
(1)衆を御する功德の故に、
(2)決定して疑ひ無く、敎授・敎誡するが故に、
(3)財法を一に攝するが故に、
(4)雜染の心無きが故なりと。
是の如き諸句は應に知るべし皆、
是れ初句の差別なりと、
說けるが如し、
≪最初の句に由るが故に、
句は德の種類を別かち、
最初の句に由るが故に、
句別にして義、差別す。≫
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