流波 rūpa ……詩と小説161・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈66
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
あるいは、
凄惨な夜明けに
≪流沙≫あなたは
あきらかに取り乱し
ひとり、そこにひとり
むしろ冷淡なくらいに
挨拶したね?警察官には
すみません。わざわざ…その笑みに
なんの悲しみ、悲しみなど
感じられなかったと
そんな混乱の
≪流沙≫。悲痛な
≪流沙≫。かれは
陰惨すぎる現場に
≪流沙≫あなたは
おののくそぶりさえもない
ひとり、そこにひとりで≪流沙≫。生き殘りの≪流沙≫。だからいまだ≪流沙≫たりえるすべを兆しとしてさえも持ち得てはいなかった頃の≪流沙≫。だからいわば未生の≪流沙≫。しかも孤独に傷つき、だから孤独で、だから孤立し、だから孤立し傷ついたそれが≪流沙≫。そのかれ。十五歳の≪流沙≫。断絶。かれがふいに連絡を、だれにも楓。楓にもわたし。わたしにもいきなり断って仕舞った唐突な孤立。…不当な。かれの望んだそれではないから、不当。わたしたちの望んだそれではないから、しかもその断絶は事実として不可能でさえあった。わたしには、楓にも。だから遠く引き裂かれて存在しながらもかれ。その≪流沙≫。かれの心の生き殘りの孤立はただ、もはや赤裸々にすでに感じられつづけてこそいたのだから。もはや≪流沙≫とわたし、わたしと楓、楓と≪流沙≫。それら人称さえをも破綻させて。だからむしろそれは留保なく隔離された≪流沙≫。断絶の≪流沙≫。生存者保護の名のもとに拘束された悲惨のひと、≪流沙≫。台無しにされかかっていた。かれは。そこで。その故に。だからあまりにも無慚な≪流沙≫。わたしは知っていた。たとえばその妹、仮りにここで佳奈美と名づけておくその二歳下の少女。かの女が、だから十三?知っている、のちのいくつかの事件解釈のひとつとして、犯人のそもそもの目的自体はこの少女にこそあったのではないかと、…なぜ?それは最終的な遺体損傷の苛烈さに依る解釈。なぜ?ともかく、佳奈美はここで、目を覚ます。それはたぶん、一時前。部屋。その部屋。かの女の、かの女のためだけではないその。兄。すなわち≪流沙≫。かれと共有だったから。眼を醒ます。その部屋の中で、仮りに≪流沙≫。そのかれがそのまなざしでなければすぐ背後に、いまだ眠る≪流沙≫。その息吹きを見たときにはかの女は思い出す。
沙羅。
…だれ?
わたしは、沙羅。
いつか、沙羅。
ふいに窓際に立って、沙羅。
立ったままその沙羅が振り返って、沙羅。
沙羅がその口をおおきくひらいて窓のそとの、そのかれをただ不穏に見い出す。…あれ?と、…いま?と、それはあくまでも顏見知りの犯行、と、のちの多くのひとびとがそう断定した。凄惨な、あまりに凄惨な容赦なき惨殺。…なぜ?あくまでも、素直に、ドアは内側から開けられたとしか想えなかったから。だから顏見知りの、…なぜ?なにも。鍵孔をいじりたおした痕跡さえもなく。はい。…ね?
もうすぐ、雨が
血の雨ですか?
え?
雨がどしゃしゃしゃ、と
明日にして。…ね?
どうぞ。あるいは、ドアなどあけられもしなかったのだ。最終的に鍵は閉まっていたのだから、その翌日に、それがすべてを見い出した≪流沙≫に依る内側からの施錠だったとしても。さまざまな可能性。…とまれ、その日のはじまり。日付変更を越えたというにすぎない睡眠の、基本的にはだれにも気づかれていなかった跨ぎ。超越。はじまり。そんなの夜。そしてその明けた朝には、叩き鳴らす。≪流沙≫。かれに電話で呼びつけられた警察が、そのドアを。施錠されていたから。でも、結局は、…なに?開いてた…かな?閉まってた、かな?どうなのかな?…かな?…でも、なんか、あんな、ああいうの見たあと、なんか、不用心な気がして?…それで、おれ、閉めたんじゃないかな?…≪流沙≫。
息をとめて
どうしたの?
頸を絞めたの?
とめて、そして
吐きそう?
無垢な≪流沙≫。
やおら、吐く
心臓。おえって
にぎり絞めたの?
吐くっ。はっ
おぅおぇえって
だれも、ひとりもその手には殺さなかったと、だれもが知るべき≪流沙≫。かれは、だからふかい眠りの中に慥かにまだ存在してい…存在せずにい、…なに?…た。に、違いない。推定するに、最初はなに?
沙羅。
そこで、だから逆光のなかで、その、…なに?
昏みのなかにひとり、なにを、沙羅。
そこに思わずささやきかけて父親。たぶん、うざかったから?つぎに…さわがれたら、やじゃん。母親。仮りにここで洋一郎と名づけておくかれ。父親にはあばれた形跡がない。だから、たぶん寝ていたのだ。そしてふいの眠りのなかに馬乗りに刺し貫かれる眠りのなかに刃物の痛みを永遠につづく眠りのなかに燃えるように?…炸裂するように?…どんなふうに?だから目覚めた時にはすでにあたらしい未曽有のふかい昏睡の中になかばは落ちて仕舞っていたと。だから、最後。言葉にならない大音響を自分の耳に聞いていただけで、しずかに。しずかに。ただしずかに引き攣りの息の断滅とともに死。死。死んでいったそれ。かれが、それ。その父親だった。護ってやればいいのに。力の限り、家族を。結局はかれがかれらすべてを殺したようなものだ。父親が眞犯人だった。つぎは母親。その同じ部屋には…なぜ?いない。おなじ部屋にいたのは絵理子。そのベッドのかたわらに、いつものくせ、あくまでくせ、惡癖?として。すでに絵理子はひとり眼を醒ましていた。すでに知っていたはずだった。自分がなにを見ているのかは。茫然と?むしろ、なにもかもがもう手遅れになって仕舞った、そんなまなざしに、そして悲鳴さえ。沈黙?…まさか。むしろ絵理子自身にだけ鮮明すぎる阿鼻叫喚の轟音のなかに息。しずかに。だからしかもわずかなひびきのきざしひとつさえ聲に実現できずに沙羅。
その沙羅のくちびるがただ、そのやわらかなほほ笑みをだけかたちづくるのをわたしは、…なぜ?
見ていた。思わずその沙羅にわずかな聲さえあげずに座り込んでいて、ひとり、膝をかかえて。いかにも寒そうに。いかにも、そしてそのベッドの上に。だから、なにもせずに男は、だれ?——あるいは、なぜ?≪流沙≫は、と、だれもが実はそう思っていた。だから、仮りにここでその≪流沙≫は立ち去る。なぜ?だからたぶん、≪流沙≫にとって姉のほうなど興味の埒外だから。豊満すぎる。女はいらない。ましてその豊満は。なぜ?その母を思い出すから?かれを強姦ししかも慰みものにし、しかも射精を覚えるころにはなぜ?あわててかれを折檻してよろこびにおびはじめた人格破綻者。だからつぎは母親。だれ?この女。単純にとおりがかりの居間に敷いた布団の上に、その寝息を認めたから。首を絞めた。もがく四肢が床をならした。だれ?佳奈美を目覚めさせて仕舞ったに違いないと≪流沙≫はとおどかない反対側の壁に、わたしはそこに靠れたまま指さきを、その二本をだけのばして、沙羅。
その沙羅にわたしは、しかも、ふれようと?
…なぜ?
あるいはふと、だからふと思い出して、…だれ?思った。だから≪流沙≫。かれは階段をあがる。もう死んだから。興味がないから。だから豊満な肉体は例外的な単なる無傷の…って、さ。絞殺体だった、…って、さ。死んでも無傷だ。笑う。その母親は。たぶんここで一度≪流沙≫は部屋に帰った。妹との部屋に。その佳奈美の部屋に。不安だったから。しずまりかえった静寂のうちに、佳奈美が泣き叫んでいる可能性をさがしだして。そしてその聲が周囲に鳴り、もはやいつ?
それはいつの夕暮れ時に、沙羅。
ベッドに突っ伏したうつ伏せのわたしのみにくい背中。
その沁みと皴を指さきにいたぶって、沙羅。
その沙羅はふいに唾を吐いた。
…なぜ?
なんらの邪気も、惡意も感じさせずに沙羅。
あるいはくれてやった恩寵だとでも?
…沙羅。鳴り響きひびき渡っている可能性に気づいて。だから妹をあやすなりはげますなり折檻するなり拘束するなりの手立てが手招きした。≪流沙≫は。仮りにそのまなざしが≪流沙≫でないなら、≪流沙≫はそのとき、そこに寝ている。ベッドに。まだ。しかしそんな都合のいいことが?なら起きている。かれは。だから、見知った顏の男に…あれ?
いま、ね
あーね。もーねっ
と。だから、…なんで?
いいたいこと、ある
昨日、死んだんで。うちら
と。そして…あれ?と。
すきっ
あーね。もーねっ
なに?≪流沙≫は理解できない。なにを?…と、いま、おれはなにを見ているいるの?…あなたのせい、≪流沙≫。のちに、時にふいに泣き出して仕舞うくせのついた過呼吸の≪流沙≫。かれはその時に限って自分のせいだ、と、おれの、おれの、おれの、と、なぜ?見殺しにしたのはその≪流沙≫だから。抗いもせず、護りもせず、戦いもせず、しかもかならずしも死。死。死。屠殺。そんなことなど受け入れたていたわけなどまさか!まさか!まさか!さらにはなんら、…無能?助けを呼ぶ聲も、…ごくつぶし?ただ驚愕の悲鳴、…人間の恥?叫び聲さえあげはしなかっただからそれそこがみな殺しの≪流沙≫。かれこそがたしかに、そして沙羅はその体をわたしのうえにかさねた。
重み。
その沙羅。
あたたかみ。
沙羅。
その、だから沙羅。
かの女はむしろ言い逃れしようもなくみんなを殺した。自分でなんどもそう責めさいなんでいたまさにそのとおりに、…≪流沙≫。引き戾して姉、…何歳?妹、八歳。弟、六歳。妹、三歳。ことごくに同じ部屋にぶちこまれて眠り、上から順に?——いや、右から順に屠殺してまわっただけ。たぶん十七歳、絞殺、さらに刺し傷約五十箇所。八歳、刺し傷約六十箇所。六歳、絞殺、さらに刺し傷約二十箇所。三歳、刺し傷約三十数箇所。しだいに飽きていった?連れらた妹は、その十三歳のかの女。沈黙。そのくちびるは、もう、喉も。なにも、だから舌も。言わない。まるですでに≪流沙≫。かれに脅されいわば調教されきっていかのように、…いいよ。抵抗の意志もなく…好きにして。唇に…いいよ。なにか、それでもささやきつづけて…なに?いただけにすぎない。…なぜ?言葉。ば。本人のこころにさえ聞き取れなかったに違いないことば。ば。あるいは本人のその耳にだけは最強音でなりひびいていた、そんな、ことば。ば。それは、それら、ことば。ば。≪流沙≫はそのまま、ナイフをわたした。妹に。そして、ささやく、「待ってて」と、だから、ことの最初から全裸だった≪流沙≫。かれは血を飛び散らした全身の血と窒息させようと?
わたしを。
沙羅。
脱力しきったその沙羅は完璧にわたしのうえに乗り上げて、沙羅。
そこでしずかに汗を洗いながすために。間抜けなミスは犯さない。馬鹿でも知っている。手に刃物があればだれかが刺される。刺され抜かれれば血が飛び散る。布生地は深刻なダメージ。シャワーをあびて出てくるのを妹は、もはやすでに赤裸々にあかるくほほ笑んだ顏に、そして出迎えた。泣きそうな顏で?ありがと、と、そのやさしい聲とともに≪流沙≫は連れ出す。だれを?その妹を。そして、ふと、山を昇った。
「見なよ…ほら」
「なに?」
それは夜明け。東むき。海。鳥居のない瀬戸内海。そこに差し込む朝の光り。光り。光り。殲滅、夜の。…を、なに?見ている。≪流沙≫は、…噓?…まだ、三時すぎなのに?…四時まえ、か。そしてそれはあまりにもあざやかな紅蓮。しかもただ息を吐いた。わたしの肩に、あるいは首筋にまでふれて、その息に、沙羅。
その口臭をせめても、と?
シーツにうもれて嗅ぎだすすべもないわたしはひとりさがしていたものの留保なく清潔な朝燒け。知った。その≪流沙≫は。もう足元には、殴られ、蹴飛ばされ、いくつかの骨折と強姦、殘された体液。そして爪に皮膚の殘骸。刺し傷は約八十箇所程度。もはやまともにつながっている部位はない程に、と。
野犬のせい?
鹿?
眠るように死んでいた妹を背後に感じながら、だからその≪流沙≫。かれはかたわらに同じく色彩に見蕩れた妹。その親しい息吹きを感じた、謂く、
怯えておくしかない
あきらかに、わたしたちの
わたしたちのだれか
だれが?
殺したのは、だれ?
あの凄惨な、そして
猟奇的な、そして
記録的な惨劇
知っていた。だれも
怯えるまえには
沈黙のくちも
知っていた。だれも
恐怖しておくしかない
あきらかに、島民たちの
島民たちのだれか
だれが?
殺したのは、だれ?
ふためと見られない、そして
悲惨すぎる、そして
容赦なき惨劇
知っていた。だれも
恐怖のまえには
そのまなざしにも
知っていた。だれも
かれしかいないから
信じられない。だけど
信じるしかない。だけど
驚くべき、しかも事実
そっとしておこう
近寄らないでおこう
あぶないから
あやういから
他人のふりをしておこう
事実それは他人の死
死はいつも他人
他人だけが死に
他人のみが死に
死はいつも他人
事実それは他人の死
他人のふりをしておこう
あやういから
あぶないから
近寄らないでおこう
そっとしておこう
驚くべき、しかも事実
信じるしかない。だけど
信じられない。だけど
かれしかいないから
知っていた。だれも
そのまなざしにも
恐怖のまえには
知っていた。だれも
容赦なき惨劇
悲惨すぎる、そして
ふためと見られない、そして
殺したのは、だれ?
だれが?
島民たちのだれか
あきらかに、島民たちの
恐怖しておくしかない
知っていた。だれも
沈黙のくちも
怯えるまえには
知っていた。だれも
記録的な惨劇
猟奇的な、そして
あの凄惨な、そして
殺したのは、だれ?
だれが?
わたしたちのだれか
あきらかに、わたしたちの
怯えておくしかない
すなわち家。家屋。それは≪流沙≫の。そこに見ていた。現場検証?…遺体の処理。状況確認。指紋採取。現場撮影。それら、それらの事象。さまざまな事象。それがあの、ブルーのむこうに。人工のブルー。ときにはためくブルー。かならずしも完璧に隱し通しているわけでもない、ブルー。だからブルーシートの目隱し壁ら。そのむこうに≪流沙≫。かれのまなざしがなにを見ているのか、わたしだけは知っている気がした。囲い込むひと。ひとびと。ひと。だから体温。および湿度。それらの発散。その気配。しかも息。息。息。無数にしかも聲。ささやき、ひそめ、ひそめあい聲。聲。聲。無数にしかも楓。ふいに返り見ればやや、離れて、そこに、…翳り。
あるいは臭気
なぜ?
だからゆれて
燃えた家屋の
燃やしたの?
ゆれうごく
臭気。ふきっさらしの
なぜ?
ひと。ひとびと。
大がかりな火葬の
生き殘りの
ひと。それらの
火が放たれて
それが唯一の弔いのすべだと?
翳りと綺羅と、その
燒いたあとだから
なぜ?
裂けめには
…焰
燃やしたの?
楓。目ざとかったのだった。楓は。さきにその眼にはわたしを見つめていたのだった。楓の虹彩。もはや表情がなくておもわず楓に、…かれに。かれのそこへの存在その発見にたいするそれだけのためにほほ笑み。思わずほほ笑みかけて、…って、さ。
あなたは、どんな?
泣いてな、な、な
いいの?おれ
どんな顏を?
笑ってな、な、な
これ、いま
そのとき、どんな?
怒ってな、な、な
いま?
どんな顏を?
案じてな、な、な
いいの?にやって?
そこで、どんな?
おののいてな、な、な
って、さ、これ…だからそんな混乱の須臾のわたしに、ふいに淚。だれ?楓は。だから楓はその瞬間に泣き出したのだと思った。事実、淚が、…文字通り滂沱の淚があふれかえっていた。そこにだけは。息ひとつさえ乱さないままの、顎のひとゆれさえもないままの、その直立の楓。…なぜ?と。かれじゃないよ、よ。楓があきらかにそう言っているのが分かった。おれは知ってる。かれじゃない、と。そして護送されていく≪流沙≫。拘束…保護されて、…あやうっ。警察車両に…手錠もないじゃん。乗り込みながら、かれはふともはや寄り添いあうわたしと楓に気づいて、それがだれかわからない顏をした。わたしは思った。いまわたしたちには顏さえもない、と。そのあからさまな事実の明示、かさねて謂く、
怯えておくしかない
ふむ。ふみ、ふむ
またも、いくつもの
ふむ。ふみつぶし
あきらかに、わたしたちの
花々を
いったい、いくつの
花々を
わたしたちのだれか
ふむ。ふみつぶし
その屠殺
ふむ。ふみ、ふむ
だれが?
殺したのは、だれ?
それら花々
いくつの、たとえば百合が
花々。しろ。しろ
あの凄惨な、そして
埋葬されはしなかった
屠殺されるのだろう?
埋葬されはしなかった
猟奇的な、そして
花々。しろ。しろ
しろい百合ら
それら花々
記録的な惨劇
知っていた。だれも
ふむ。ふみ、ふむ
その葬儀に
ふむ。ふみつぶし
怯えるまえには
花々を
見知らぬ人の
花々を
沈黙のくちも
ふむ。ふみつぶし
その無数の葬儀に
ふむ。ふみ、ふむ
知っていた。だれも
恐怖しておくしかない
それら花々
それら、花々
花々。しろ。しろ
あきらかに、島民たちの
埋葬に散らされた
飼育された花
埋葬に散らされた
島民たちのだれか
花々。しろ。しろ
人に殺されるための花。花
それら花々
だれが?
殺したのは、だれ?
ふむ。ふみ、ふむ
またも、いくつもの
ふむ。ふみつぶし
ふためと見られない、そして
花々を
いったい、いくつの
花々を
悲惨すぎる、そして
ふむ。ふみつぶし
その屠殺
ふむ。ふみ、ふむ
容赦なき惨劇
知っていた。だれも
それら花々
いくつの、たとえば水仙が
花々。しろ。しろ
恐怖のまえには
死屍を覆った
屠殺されるのだろう?
死屍を覆った
そのまなざしにも
花々。しろ。しろ
しろい水仙ら
それら花々
知っていた。だれも
かれしかいないから
ふむ。ふみ、ふむ
その葬儀に
ふむ。ふみつぶし
信じられない。だけど
花々を
見知らぬ人の
花々を
信じるしかない。だけど
ふむ。ふみつぶし
その無数の葬儀に
ふむ。ふみ、ふむ
驚くべき、しかも事実
そっとしておこう
それら花々
それら、花々
花々。しろ。しろ
近寄らないでおこう
のけぞりかえった
調教された花
のけぞりかえった
あぶないから
花々。しろ。しろ
人に殺されるための花。花
それら花々
あやういから
他人のふりをしておこう
花はしろ
いくつの花に埋葬しようか?
つぶす。ぷちっ
事実それは他人の死
しろ。しろ。しろ
屠殺された花。それら
虫。虫
死はいつも他人
しろだけ。花。花
花。花たちのために
葉裏。這う。つぶす
他人だけが死に
他人のみが死に
葉裏。這う。つぶす
花。花たちのために
しろだけ。花。花
死はいつも他人
虫。虫
屠殺された花。それら
しろ。しろ。しろ
事実それは他人の死
つぶす。ぷちっ
いくつの花に埋葬しようか?
花はしろ
他人のふりをしておこう
あやういから
花々。しろ。しろ
人に殺されるための花。花
それら花々
あぶないから
のけぞりかえった
調教された花
のけぞりかえった
近寄らないでおこう
それら花々
それら、花々
花々。しろ。しろ
そっとしておこう
驚くべき、しかも事実
ふむ。ふみつぶし
その無数の葬儀に
ふむ。ふみ、ふむ
信じるしかない。だけど
花々を
見知らぬ人の
花々を
信じられない。だけど
ふむ。ふみ、ふむ
その葬儀に
ふむ。ふみつぶし
かれしかいないから
知っていた。だれも
花々。しろ。しろ
しろい水仙ら
それら花々
そのまなざしにも
死屍を覆った
屠殺されるのだろう?
死屍を覆った
恐怖のまえには
それら花々
いくつの、たとえば水仙が
花々。しろ。しろ
知っていた。だれも
容赦なき惨劇
ふむ。ふみつぶし
その屠殺
ふむ。ふみ、ふむ
悲惨すぎる、そして
花々を
いったい、いくつの
花々を
ふためと見られない、そして
ふむ。ふみ、ふむ
またも、いくつもの
ふむ。ふみつぶし
殺したのは、だれ?
だれが?
花々。しろ。しろ
人に殺されるための花。花
それら花々
島民たちのだれか
埋葬に散らされた
飼育された花
埋葬に散らされた
あきらかに、島民たちの
それら花々
それら、花々
花々。しろ。しろ
恐怖しておくしかない
知っていた。だれも
ふむ。ふみつぶし
その無数の葬儀に
ふむ。ふみ、ふむ
沈黙のくちも
花々を
見知らぬ人の
花々を
怯えるまえには
ふむ。ふみ、ふむ
その葬儀に
ふむ。ふみつぶし
知っていた。だれも
記録的な惨劇
花々。しろ。しろ
しろい百合ら
それら花々
猟奇的な、そして
埋葬されはしなかった
屠殺されるのだろう?
埋葬されはしなかった
あの凄惨な、そして
それら花々
いくつの、たとえば百合が
花々。しろ。しろ
殺したのは、だれ?
だれが?
ふむ。ふみつぶし
その屠殺
ふむ。ふみ、ふむ
わたしたちのだれか
花々を
いったい、いくつの
花々を
あきらかに、わたしたちの
ふむ。ふみ、ふむ
またも、いくつもの
ふむ。ふみつぶし
怯えておくしかない
ふと、あるいは思い出す。沙羅。その肌を洗った。わたしは、沙羅。その沙羅の全裸を腕に、胸に、うしろから抱いて、晴れた日?…その、陽光など入り込み得はしないシャワー・ルームで、その沙羅。
かの女。
その沙羅。
その肌。
なめらかな、だから褐色の、沙羅。
あざやかに色づき、あくまでただあざやかな沙羅。
ただ赤裸々に伝わっていた体温さえをも水流が、無造作に、だからすべて洗い流しきざしきざしかけたとともにもすべて洗い流して仕舞うその喪失の感覚をそこに、ふれ、撫ぜる指先に、そこにも、ここにも、胸にも、どこにも、二の腕にもそこにもどこにもかしこにも惜しみ、悔しみ、歎き、厭いながら。
だから、もはや容赦ない剝き出しの屈辱。
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