流波 rūpa ……詩と小説159・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈64





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





あるいは、

   燃え上がる

   焰。それが≪流沙≫

   それがあなた

   ≪流沙≫は燃えた


   ひらかれる

   ≪流沙≫。その口が

   それが焰

   焰は≪流沙≫


   なにを見ているのだろう

   そう思っていた

   ここはどこなのだろう

   そう思っていた


   燃え上がる

   ≪流沙≫。それが焰

   それがいま

   まなざしを領して燃え上がる≪流沙≫。それに夙夜。だからその夙夜、昏い。だからまだ夜。だからこその夙夜。「…ね。」と、それはわたし。わたしの唇にその「≪流沙≫、…ね?」ささやかれていた、それは「知ってる?」人間の喉にたった聲。だから聲。「おれたち、ぜんぶ、たぶん、ぜんぶ間違えてるんだよ。こころなんてぶっ殺しちゃおう。こころなんて存在しないから。幻だから。狂気だから。おれたち、ぜんぶ、燒きつくしちゃおう。ただ、もう、犬にもおとる肉塊。生き延びるしか持ち得る目的さえもない糞まみれの肉塊。それらの世界の中で、単純に今日の飢えのために生きてみたら?だからきれいな、きれいな、きれいな世界。救いようのない、救済のない、そんなもん最初からないただきれいな、きれいな、きれいな世界。むしろ絶望としてのみつぶやく、しかもきれいだと。そんなきれいな、きれいな、きれいな世界。ただ、方法論だけ。もて遊ぶべきは生き殘るための。せめてものその方法論だけ。それだけ。…ね?ぼくらは、≪流沙≫。すでにとっくにただ曠野にむきだしの全裸の猨だった。知ってる?デカルトなんて気ちがい以下だった。光りの存在を照明しようとした。振り返ったそこに壁があった。壁に綺羅めきがあった。だから、その綺羅は光りを明示していた。光りはふれた。あたりまえのように底にふれた。それは底。底が壁。狂人はつぶやいた。壁こそが実在その根拠だと。光りは壁に依り存在すると。壁こそが光りを生んでいたのだと。ただの底にすぎなかったのに。その存在に意味さえない、ごくあたりまえに光りにふれられるしかない底。それが所詮コギトの秘密。意識の。わたしという固有性の。…なんでもないんだよ。だから、なんでもなかった。だから、いま、もう、こころと呼ばれる事象の見え方の、それらすべての切り開いた風景ごと、燒き盡くしちゃおう」そのときに感じていた。なに?わたしの頬は、…なぜ?あたたかさ。と、しかもひややかさ。と、…なに?冴えた温度。それらを一度に。慥かに。なぜ?わたしはもう、あられもなく泣きじゃくっていたから、謂く、

   裸の猨が振り返る

   澄んだまなざしに

   咥えている、と

   そう思った。その歯に


   なにを?その歯。咬みちぎり

   咬み、歯頚を咬み

   咬み、咬みちぎり

   恍惚の涎れ。その叫び


   狂っていたから。猨

   その猨はすでに

   吼えている

   明晰な言葉を。うつくしい詩に


   苛酷な言葉に

   あざやかなひびきに

   華麗な聲に

   めざましい魂


   猨は精神。孤高の光り

   気ちがい猨は、猨は綺羅

   崇高なる綺羅

   知ってる。だれもが


   猨。猨が咬み、咬む

   咬みつくき…なに?咬む

   虛空を咬む

   咬み、咬みちぎりだれもが


   猨。ゆがむ。空間がゆがむ

   重力。口に、歯に、咬む

   重力。咬みちぎり、猨

   口に咥えた言葉は吸い込む


   吸い込み、すする

   すすり、飲み込む

   飲み込み、飲み、咬む

   ひきずり込み、猨。咬み、くだき、猨


   裸の猨が振り返る

   澄んだまなざしに

   飛び散っている

   もう、すでに。その口に


   ほら、その歯頚の肉。散って、散り

   散る。肉汁。飛び、わめき

   散る。体液。血。唾液

   恍惚、血まみれ。口さえ飛び散り


   狂っていたから。猨

   その猨はすでに

   吼えている

   明晰な言葉を。うつくしい詩に


   なんら、価値なき気ちがい

   気ちがい猨にできること

   その狂気。知り、知りつくすこと

   知性とは、狂気


   なんら、栄光なき気ちがい

   気ちがい猨にできること

   その狂気。知り、知りつくすこと

   言葉とは、凶器


   猨はせめても巢をつくる

   仮りの隱れ家。せめてもの

   生き殘るために。ただの

   無能者だから


   価値などなにも、かれにないから

   狂人だから

   正気のものなどなにもいないから

   曠野にせめても、巢をつくり


   悔恨のみに燒かれていた

   終わりもなく燒かれつづけた

   裁かれるべき、すべもないから

   孤独で、孤立し、しかも空。ほら、無窮の久遠


   どこへ行こうか?

   なにをしようか?

   なにを見ようか?

   どこへ行こうか?


   孤独で、孤立し、しかも空。ほら、無窮の久遠

   裁かれるべき、すべもないから

   終わりもなく燒かれつづけた

   悔恨のみに燒かれていた


   曠野にせめても、巢をつくり

   正気のものなどなにもいないから

   狂人だから

   価値などなにも、かれにないから


   無能者だから

   生き殘るために。ただの

   仮りの隱れ家。せめてもの

   猨はせめても巢をつくる


   言葉とは、凶器

   その狂気。知り、知りつくすこと

   気ちがい猨にできること

   なんら、栄光なき気ちがい


   知性とは、狂気

   その狂気。知り、知りつくすこと

   気ちがい猨にできること

   なんら、価値なき気ちがい


   明晰な言葉を。うつくしい詩に

   吼えている

   その猨はすでに

   狂っていたから。猨


   恍惚、血まみれ。口さえ飛び散り

   散る。体液。血。唾液

   散る。肉汁。飛び、わめき

   ほら、その歯頚の肉。散って、散り


   もう、すでに。その口に

   飛び散っている

   澄んだまなざしに

   裸の猨が振り返る


   ひきずり込み、猨。咬み、くだき、猨

   飲み込み、飲み、咬む

   すすり、飲み込む

   吸い込み、すする


   口に咥えた言葉は吸い込む

   重力。咬みちぎり、猨

   重力。口に、歯に、咬む

   猨。ゆがむ。空間がゆがむ


   咬み、咬みちぎりだれもが

   虛空を咬む

   咬みつくき…なに?咬む

   猨。猨が咬み、咬む


   知ってる。だれもが

   崇高なる綺羅

   気ちがい猨は、猨は綺羅

   猨は精神。孤高の光り


   めざましい魂

   華麗な聲に

   あざやかなひびきに

   苛酷な言葉に


   明晰な言葉を。うつくしい詩に

   吼えている

   その猨はすでに

   狂っていたから。猨


   恍惚の涎れ。その叫び

   咬み、咬みちぎり

   咬み、歯頚を咬み

   なにを?その歯。咬みちぎり


   そう思った。その歯に

   咥えている、と

   澄んだまなざしに

   裸の猨が振り返る

すなわち聞いていた。≪流沙≫。その≪流沙≫。もうすでに燃えて燃える燃えるだけの≪流沙≫。すでに聞いていた。あきらかに。隱しようもなく、しかも遠くに、猶も赤裸々になに?笑い聲。せせら笑って。これみよがしにも?まさか、不意に、鼻に漏れたにすぎないむしろ繊細でわずかなだけの聲。息。ノイズ。ひびき?…だれ?知っている。それはわたし。わたしはそこで、いちどしずかに、そっと笑ってまばたき、たぶんあなたに捧げたもの?その須臾のあかるい聲。息。ノイズ。ひびき?それは。なぜ?≪流沙≫。焰はゆらぎ、ゆらぎつづけて≪流沙≫。まだ遠い足元には夜の櫻が。廃墟の櫻が。…ね?見て。≪流沙≫、かさねて謂く、

   裸の猨が振り返る

      かなしみを?

    倫理など

     ≪流沙≫。きみへの

   澄んだまなざしに

      たとえば、喪失

    ≪流沙≫

     たとえば、喪失

   咥えている、と

      ≪流沙≫。きみへの

    だれもほんとうには語らなかった

     かなしみを?

   そう思った。その歯に


   なにを?その歯。咬みちぎり

      そのかなしみを?

    だれもが樂園に

     いちども

   咬み、歯頚を咬み

      感じはしなかった

    そこにのみ存在しようと目論んだから

     感じはしなかった

   咬み、咬みちぎり

      いちども

    至上の樂土に

     そのかなしみを?

   恍惚の涎れ。その叫び


   狂っていたから。猨

      そのときにも

    倫理など

     燃えて墜ちる

   その猨はすでに

      ≪流沙≫燃えて

    ≪流沙≫

     ≪流沙≫燃えて

   吼えている

      燃えて墜ちる

    だれもほんきに語らなかった

     そのときにも

   明晰な言葉を。うつくしい詩に


   苛酷な言葉に

      ≪流沙≫その焰のときにも

    曠野にしか

     かなしみなど

   あざやかなひびきに

      わずかにさえも

    それはないから

     わずかにさえも

   華麗な聲に

      かなしみなど

    荒れ土にしか

     ≪流沙≫その焰のときにも

   めざましい魂


   猨は精神。孤高の光り

      だからむしろ

    恐怖しか

     きみを見ていた

   気ちがい猨は、猨は綺羅

      すがすがしいくらいに

    それしかないから

     すがすがしいくらいに

   崇高なる綺羅

      きみを見ていた

    容赦ない恐れ

     だからむしろ

   知ってる。だれもが


   猨。猨が咬み、咬む

      だからその

    曠野には

     こわれてゆく

   咬みつくき…なに?咬む

      眼の前の破壊

    赤裸々な恐怖

     眼の前の破壊

   虛空を咬む

      こわれてゆく

    戦慄。しかも、しかも無限の

     だからその

   咬み、咬みちぎりだれもが


   猨。ゆがむ。空間がゆがむ

      だからその

    倫理など

     くずれさってゆく

   重力。口に、歯に、咬む

      眼の前の崩壊

    ≪流沙≫

     眼の前の崩壊

   重力。咬みちぎり、猨

      くずれさってゆく

    だれもほんとうには見い出さなかった

     だからその

   口に咥えた言葉は吸い込む


   吸い込み、すする

      傷みを

    だれもが樂園に

     ≪流沙≫。きみへの

   すすり、飲み込む

      たとえば、惜別

    そこにのみ到達しようと目論んだから

     たとえば、惜別

   飲み込み、飲み、咬む

      ≪流沙≫。きみへの

    唯一の樂土に

     傷みを

   ひきずり込み、猨。咬み、くだき、猨


   裸の猨が振り返る

      その傷みを

    倫理など

     ≪流沙≫。きみへの

   澄んだまなざしに

      たとえば、惜別

    ≪流沙≫

     たとえば、惜別

   飛び散っている

      ≪流沙≫。きみへの

    だれもほんきに見られなかった

     その傷みを

   もう、すでに。その口に


   ほら、その歯頚の肉。散って、散り

      その傷みを

    焦土にしか

     いちども

   散る。肉汁。飛び、わめき

      感じはしなかった

    それはきざしもしないから

     感じはしなかった

   散る。体液。血。唾液

      いちども

    燒け土にしか

     その傷みを

   恍惚、血まみれ。口さえ飛び散り


   狂っていたから。猨

      そのときにも

    恐怖しか

     燃えて墜ちる

   その猨はすでに

      ≪流沙≫燃えて

    それしかないから

     ≪流沙≫燃えて

   吼えている

      燃えて墜ちる

    容赦ない恐れ

     そのときにも

   明晰な言葉を。うつくしい詩に


   なんら、価値なき気ちがい

      ≪流沙≫その焰のときにも

    焦土には

     傷みなど

   気ちがい猨にできること

      わずかにさえも

    赤裸々な恐怖

     わずかにさえも

   その狂気。知り、知りつくすこと

      傷みなど

    戦慄。しかも無限の

     ≪流沙≫その焰のときにも

   知性とは、狂気


   なんら、栄光なき気ちがい

      だからむしろ

    こう考えて見よう

     きみを赦してた

   気ちがい猨にできること

      ほほ笑ましいくらいに

    それは慥かに畸形だったと

     ほほ笑ましいくらいに

   その狂気。知り、知りつくすこと

      きみを赦してた

    鰭れある流線形は

     だからむしろ

   言葉とは、凶器


   猨はせめても巢をつくる

      だからその

    こう考えて見よう

     こわれてゆく

   仮りの隱れ家。せめてもの

      眼の前の破壊

    それは慥かに畸形だったと

     眼の前の破壊

   生き殘るために。ただの

      こわれてゆく

    翼のある強靭な胸は

     だからその

   無能者だから


   価値などなにも、かれにないから

      だからその

    こう考えて見よう

     くずれさってゆく

   狂人だから

      眼の前の崩壊

    それは慥かに畸形だったと

     眼の前の崩壊

   正気のものなどなにもいないから

      くずれさってゆく

    駆けるしなやかな四本の足は

     だからその

   曠野にせめても、巢をつくり


   悔恨のみに燒かれていた

      ≪流沙≫

    こう考えて見よう

     きみを

   終わりもなく燒かれつづけた

      すでにわたしは失っていた

    それは慥かに畸形だったと

     すでにわたしは失っていた

   裁かれるべき、すべもないから

      きみを

    飛び交う枝をつかむ尾の自由は

     ≪流沙≫

   孤独で、孤立し、しかも空。ほら、無窮の久遠


   どこへ行こうか?

      もうすでに

    事実、すべてのかたちは

     ながれゆく砂

   なにをしようか?

      ≪流沙≫

    留保なく

     ≪流沙≫

   なにを見ようか?

      ながれゆく砂

    まさに畸形にすぎなかったから

     もうすでに

   どこへ行こうか?


   孤独で、孤立し、しかも空。ほら、無窮の久遠

      きみにふれたことさえも

    そのまなざしにきざす知性と呼ばれた事象の可能性さえも

     なかった気がした

   裁かれるべき、すべもないから

      ≪流沙≫

    それは慥かに畸形だったと

     ≪流沙≫

   終わりもなく燒かれつづけた

      なかった気がした

    こう考えて見よう

     きみにふれたことさえも

   悔恨のみに燒かれていた


   曠野にせめても、巢をつくり

      くずれさってゆく

    尾のないなめらかな臀部は

     だからその

   正気のものなどなにもいないから

      眼の前の崩壊

    それは慥かに畸形だったと

     眼の前の崩壊

   狂人だから

      だからその

    こう考えて見よう

     くずれさってゆく

   価値などなにも、かれにないから


   無能者だから

      こわれてゆく

    うつくしい毛のない肌は

     だからその

   生き殘るために。ただの

      眼の前の破壊

    それは慥かに畸形だったと

     眼の前の破壊

   仮りの隱れ家。せめてもの

      だからその

    こう考えて見よう

     こわれてゆく

   猨はせめても巢をつくる


   言葉とは、凶器

      きみを赦してた

    ふいの二足歩行にのけぞる背骨は

     だからむしろ

   その狂気。知り、知りつくすこと

      ほほ笑ましいくらいに

    それは慥かに畸形だったと

     ほほ笑ましいくらいに

   気ちがい猨にできること

      だからむしろ

    こう考えて見よう

     きみを赦してた

   なんら、栄光なき気ちがい


   知性とは、狂気

      傷みなど

    戦慄。しかも無限の

     ≪流沙≫その焰のときにも

   その狂気。知り、知りつくすこと

      わずかにさえも

    赤裸々な恐怖

     わずかにさえも

   気ちがい猨にできること

      ≪流沙≫その焰のときにも

    焦土には

     傷みなど

   なんら、価値なき気ちがい


   明晰な言葉を。うつくしい詩に

      燃えて墜ちる

    容赦ない恐れ

     そのときにも

   吼えている

      ≪流沙≫燃えて

    それしかないから

     ≪流沙≫燃えて

   その猨はすでに

      そのときにも

    恐怖しか

     燃えて墜ちる

   狂っていたから。猨


   恍惚、血まみれ。口さえ飛び散り

      いちども

    燒け土にしか

     その傷みを

   散る。体液。血。唾液

      感じはしなかった

    それはきざしもしないから

     感じはしなかった

   散る。肉汁。飛び、わめき

      その傷みを

    焦土にしか

     いちども

   ほら、その歯頚の肉。散って、散り


   もう、すでに。その口に

      ≪流沙≫。きみへの

    だれもほんきに見られなかった

     傷みを

   飛び散っている

      たとえば、惜別

    ≪流沙≫

     たとえば、惜別

   澄んだまなざしに

      傷みを

    倫理など

     ≪流沙≫。きみへの

   裸の猨が振り返る


   ひきずり込み、猨。咬み、くだき、猨

      くずれさってゆく

    唯一の樂土に

     だからその

   飲み込み、飲み、咬む

      眼の前の崩壊

    そこにのみ到達しようと目論んだから

     眼の前の崩壊

   すすり、飲み込む

      だからその

    だれもが樂園に

     くずれさってゆく

   吸い込み、すする


   口に咥えた言葉は吸い込む

      こわれてゆく

    だれもほんとうには見い出さなかった

     だからその

   重力。咬みちぎり、猨

      眼の前の破壊

    ≪流沙≫

     眼の前の破壊

   重力。口に、歯に、咬む

      だからその

    倫理など

     こわれてゆく

   猨。ゆがむ。空間がゆがむ


   咬み、咬みちぎりだれもが

      きみを見ていた

    戦慄。しかも、しかも無限の

     だからむしろ

   虛空を咬む

      すがすがしいくらいに

    赤裸々な恐怖

     すがすがしいくらいに

   咬みつくき…なに?咬む

      だからむしろ

    曠野には

     きみを見ていた

   猨。猨が咬み、咬む


   知ってる。だれもが

      かなしみなど

    容赦ない恐れ

     ≪流沙≫その焰のときにも

   崇高なる綺羅

      わずかにさえも

    それしかないから

     わずかにさえも

   気ちがい猨は、猨は綺羅

      ≪流沙≫その焰のときにも

    恐怖しか

     かなしみなど

   猨は精神。孤高の光り


   めざましい魂

      燃えて墜ちる

    荒れ土にしか

     そのときにも

   華麗な聲に

      ≪流沙≫燃えて

    それはないから

     ≪流沙≫燃えて

   あざやかなひびきに

      そのときにも

    曠野にしか

     燃えて墜ちる

   苛酷な言葉に


   明晰な言葉を。うつくしい詩に

      いちども

    だれもほんきに語らなかった

     そのかなしみを?

   吼えている

      感じはしなかった

    ≪流沙≫

     感じはしなかった

   その猨はすでに

      そのかなしみを?

    倫理など

     いちども

   狂っていたから。猨


   恍惚の涎れ。その叫び

      ≪流沙≫。きみへの

    至上の樂土に

     かなしみを?

   咬み、咬みちぎり

      たとえば、喪失

    そこにのみ存在しようと目論んだから

     たとえば、喪失

   咬み、歯頚を咬み

      かなしみを?

    だれもが樂園に

     ≪流沙≫。きみへの

   なにを?その歯。咬みちぎり


   そう思った。その歯に

      どこへ?≪流沙≫

    だれもほんとうには語らなかった

     わたしたちは

   咥えている、と

      どこへ行こう?≪流沙≫

    ≪流沙≫

     どこへ行こう?≪流沙≫

   澄んだまなざしに

      わたしたちは

    倫理など

     どこへ?≪流沙≫

   裸の猨が振り返る

不思議だった。…なにが?わたしが、そこでふとその沙羅のいとしいほほ笑みの、だからもう耐えられないほどにいとしい沙羅。その眼窩にまだ眼球が存在していたという事実。ただ、それだけが?

それこそが?

不思議だった。

流された血。

血まみれの沙羅。

傷み。

ただ赤裸々な痛みに遁れようとして?

あるいはくりぬいた眼は、沙羅。

眼球は、沙羅。

吹き出した血。

そんなことなどなかったのだと、沙羅。

血。

だから血など、その雫。

雫さえも沙羅。

そこに、その褐色の沙羅。

夢に見られた夢のなかのまぼろしの、ふと想い描いていた夢のようにもうつくしい沙羅。

その双渺。

ふたつの、だから琥珀いろの虹彩は昏く、あまりにも昏い昏みのなかで、しかも濃く、いや濃く、ただ濃くもはやあざやかに綺羅。

そして綺羅。

散るふくざつな綺羅らの綺羅にも、沙羅。

けっして礙げられ得ない琥珀。

その色彩の謎に、沙羅。

かの女はそこでただ笑んでいた。












Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000