流波 rūpa ……詩と小説151・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈56





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





あるいは、

   見舞った。楓を

   いとしいひとを

   あるいは、それは

   亡き骸?…それは


   思った。楓を

   生き殘ったひとを

   あるいは、それは

   亡き骸?…それは


   愛した形態

   そんなもの、どこに?

   どこへ行ったのだろう?

   あの楓。どこに?


   なつかしんだ。楓を

   眼の前のひとを

   あるいは、そこに

   亡きひとを?…だから≪流沙≫。もう、すでに≪流沙≫になって仕舞った事実に猶も自分では、しかも更にかれをやがて≪流沙≫と呼ぶことになるわたしにさえもまだかれがまさに≪流沙≫である事実が気づかれていなかった、だから…なに?その≪流沙≫。ふいにかれは茫然として、…恍惚?

   虹彩は

      琥珀の色に

だからふいに恍惚として、…覚醒?

   その虹彩は

      蚊のつばさ。こげちゃっ

突然、ふいにむしろ醒め切って、しかも——夢からいま醒めて仕舞ったかのように?網膜のさらす風景をなどなにも、——憑きものの墜ちて仕舞ったように?そこにあるわたしをさえ含めなにも見ないまま、ただ——ひとりわれに返って仕舞ったように?そのまなざしにはあきらかな風景。あきらかに、かれだけの見ているあきらかな風景をあきらかに見つめる、それは≪流沙≫。…わたしをこそ虹彩は捉えているはずなのに?その≪流沙≫。瞳孔をひろげ、ひろげきった≪流沙≫。だから、そのかれはわたしを見つめながら「…あれ、さ。聞いたら、」ささやく。「…さ。なんて云うかな?」

「楓?」

それは≪流沙≫。そう名づけられたマキシ・シングル、いまや伝説的なそれ。ただの光るプラ円盤がマイナー・レーベルのエンブレムの下に一応は発売されて数週間たっていたころ、そんな、ふいの感傷的な≪流沙≫。やや追憶にふけこみそうになる須臾を散らした≪流沙≫。だから気がかりにいちいち気にしてやらなければならなかった≪流沙≫。そんなふいの≪流沙≫の思いついたお見舞い。楓。完成記念?発売報告?楓…かつてそう呼ばれ、そう名づけられたいきもの。装置が赦した

   行かないで

      くさっ

現状の生存。だから

   もう、行かないで

      薬品。くさっ

ふたりは、…だれ?

   ぼくのそばで、…ね?

      くさっ

わたしと≪流沙≫。それは

   笑ってて

      アルコール。くさっ

≪流沙≫そしてわたし。…なぜ?瑠璃をは排除して。それはその前日、一日中なぜか極端に繊細さに傾いた一方的なまなざし。その≪流沙≫。そんな≪流沙≫。かれの意志だった。かれにとって、瑠璃という女などふさわしくなかったのだろう?つまりはひびき。わたしたちのささやきあう聲のひびきに、ひびき。とけあわないひびき。あるいは

   洗淨しろよ

      ふるえるままに

息吹き。感じられつづけ、感じあい

   その虫歯

      こころがそっとやっ

つづけるやさしい体温の

   高圧洗淨しろよ

      やさしさを知り

親しい息吹き、それらに息吹き。呼応し得ない息吹き。容赦ない夾雑物。いわばノイズ。単純に謂えば穢れとでも?そんなものそのものに他ならなかったから。

「あれ、気に入るのかな?…かれは」

「…無理」と、それはふいの思いつき。しかも、赤裸々な暴力。または愚弄。あえて思いつくかぎりもっとも殘忍にひびくにちがいない言葉。思いつき、その殘忍を慥かに知りながらあえて?…思わず?…魔が射して?…なに?しかしわたしは慥かに意識してこそ吐いた。「人間じゃないから。…もう、」なぜ?「ないから。楓にはもう、まとまな耳すら。まともに殘ってない…知ってるでしょ」

「…ね、」

「手って、どれ?…ね?足って、どれ?…ね?もう、生まれつき死児として排出さえた肉の塊りみたいに。骨格さえゆがんで肉をのみ膨張させた、…ね?これ、なに?…ね?ほら、この、」と、「…殘骸」わたしはまさに、その自分の言葉を聞き取る耳から、すぐさまに全身にすぐにひろがって仕舞っていたのは苦痛。ただ、ひたすらな苦痛。…傷み、謂く、

   呼吸音を聞く

   そして心拍音を

   それら、ノイズ

   装置が立てる


   それら、ノイズ

   あなたのイノチ

   ふいに、気付く

   その不可能性に


   耳は逸らせない

   目をそらし

   指をはなし

   鼻をふさぎ


   だが、それだけできない

   耳をそらすこと

   聞かないでいること

   そのひびきを


   それら、ノイズ

   あなたのイノチ

   ふいに、気付く

   いま、それこそがイノチと


   いま、それだけがイノチと

   ふいに、気付く

   あなたのイノチ

   それら、ノイズ


   そのひびきを

   聞かないでいること

   耳をそらすこと

   だが、それだけできない


   鼻をふさぎ

   指をはなし

   目をそらし

   耳は逸らせない


   その不可能性に

   ふいに、気付く

   あなたのイノチ

   それら、ノイズ


   装置が立てる

   それら、ノイズ

   そして心拍音を

   呼吸音を聞く

すなわちにもかかわらず、それでも猶も、うかべていたのだ。ほほ笑みを。≪流沙≫。そして、しかもわたしも。ふたりで、そこで、その悲惨の前で、…なぜ?それだけが、かれに…だれ?その楓。たぶん意識さえない楓、…だれ?あるいは不在の楓。楓の不在、…どこに?かれにもっともふさわしいのはほほ笑み。あくまでも、かれを赤裸々に、無防備に、愛し愛されたわたしたちの、わたしたちだけの、微笑がとこそ、確信されていたはずだから、かさねて謂く、

   呼吸音を聞く

      呼吸?…その

    息づく

     いまも猶?

   そして心拍音を

      燒け爛れた皮膚

    猶も。猶も、容赦なく

     燒け爛れた皮膚

   それら、ノイズ

      いまも猶?

    しかも。しかも、赤裸々に

     呼吸?…その

   装置が立てる


   それら、ノイズ

      治癒?…その

    細胞分裂

     すこづつ?

   あなたのイノチ

      褐色。黑。皮膚

    血管流動

     褐色。黑。皮膚

   ふいに、気付く

      すこづつ?

    漿膜のうるおい

     治癒?…その

   その不可能性に


   耳は逸らせない

      間違えた腕

    生きつづける

     …なぜ?

   目をそらし

      伸びるべき場所を

    猶も。猶も、容赦なく

     伸びるべき場所を

   指をはなし

      …なぜ?

    しかも。しかも、赤裸々に

     間違えた腕

   鼻をふさぎ


   だが、それだけできない

      間違えた足

    時折りの痙攣

     …なぜ?

   耳をそらすこと

      ゆがむべき箇所を

    筋肉の生存

     ゆがむべき箇所を

   聞かないでいること

      …なぜ?

    体毛の伸び

     間違えた足

   そのひびきを


   それら、ノイズ

      教えてほしい

    不在でさえない

     なんのかたち?

   あなたのイノチ

      あなたは、なに?

    そこにいるから。…あなたは

     あなたは、なに?

   ふいに、気付く

      それ、なんのかたち?

    慥かにいるから

     教えてほしい

   いま、それこそがイノチと


   いま、それだけがイノチと

      塊まった肉?

    慥かに生きて

     膨張の固まり

   ふいに、気付く

      機械接続

    生きているから。…あなたは

     調整良好

   あなたのイノチ

      固まりの膨張?

    殘骸ですらない

     肉の塊まり?

   それら、ノイズ


   そのひびきを

      それ、なんのかたち?

    体毛の伸び

     教えてほしい

   聞かないでいること

      あなたは、なに?

    筋肉の生存

     あなたは、なに?

   耳をそらすこと

      教えてほしい

    時折りの痙攣

     なんのかたち?

   だが、それだけできない


   鼻をふさぎ

      …なぜ?

    しかも。しかも、赤裸々に

     間違えた足

   指をはなし

      ゆがむべき箇所を

    猶も。猶も、容赦なく

     ゆがむべき箇所を

   目をそらし

      間違えた足

    生きつづける

     …なぜ?

   耳は逸らせない


   その不可能性に

      …なぜ?

    漿膜のうるおい

     間違えた腕

   ふいに、気付く

      伸びるべき場所を

    血液流動

     伸びるべき場所を

   あなたのイノチ

      間違えた腕

    細胞分裂

     …なぜ?

   それら、ノイズ


   装置が立てる

      すこづつ?

    しかも。しかも、赤裸々に

     治癒?…その

   それら、ノイズ

      褐色。黑。皮膚

    猶も。猶も、容赦なく

     褐色。黑。皮膚

   そして心拍音を

      治癒?…その

    息づく

     すこづつ?

   呼吸音を聞く

それら、波立ちの音を。耳は、しかも聞こえるはずのないそれら波。まざしに、もちろん波。如何にのばしたゆび先にさえ波。ふれられるべくもない遠い、波。窓の向こう。そこに波。しかもあきらかな、綺羅。しかも綺羅。いやがうえにも綺羅。ひたすらに綺羅ら。もはや、月の光り、その生滅の綺羅。その無際限であったにすぎない綺羅の、だからひびきを、綺羅。わたしの耳はあるいはほほ笑み。すでに知っていた。だから、思わずそこにわたしがほほ笑んでいたという事実を、いずれにせよ聞こえないひびきを聞きつづけて、わたしはゆびに、そっと、その窓ガラスにふれていた。

爪。

その尖端。

うつくしい皮膚。

夢のような男。

うつくしいひと。

そのゆびさき。

たしかに。

窓越しの海のうえに空は、あくまでも点在の雲。

しかし、曇り空とは言えないのだった。

間違っても。

派手過ぎる派手な誇張であっても。

橫溢。

奇妙なほのあかるさをこそ充滿させながら、しかも昏い。

昏い夜のはじまりの新鮮な昏み。

その空は冴えて、すがすがしいばかりに、ただ不穏だった。

空。

まばらに散る雲のいくつかが雲母の白濁を、昏いままにそこにさらし、空。

またたかないほのかな綺羅のきざし。

それら。

その綺羅だち。

空。

ただ、猶もしかもただ不穏だった。

見えなかったから。

月が。

それを隱すべきおおきさの雲などどこにも存在していないのに。

なら、…なに?

なにが?

なにがその、どこにその、なぜその浮かんでいなければおかしい月を隱し、月はあかさないそこに隱れていたのか。

椰子の木の遠い葉のしなだれをさえ、疑った。

見えなかった。

ひたすらあかるい、明瞭なだけの夜だった。

…なぜ?

まばたいた。

そこに、わたしが。













Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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