タイトルのない詩と散文
色彩と事象の中で
謂く、
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっきまでずっと
きざしていたもの
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっきからずっと
きざしていたもの
なに?それは、なに?
わたしの眼に
突き刺してください。その
針を、せめて
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっき唐突に
燃え上がったもの
故に謂く、こんな夢を見た。その雨の中にとろけているしかなかった。青い奇蹟的なダイヤモンドのしずく。極限に液化したダイヤモンドの雨はふりそそいで、その凍りついた色彩の放つ容赦ない灼熱が、ふれる、ないし接近するあらゆるものを溶かした。雨は青く、綺羅めき、うつくしかった。かぐわしく、しかもその匂いを知っていた。…どこで?
なにに?…あるいはだれに?
だれの、なにに?
まばたき、青い霞みの綺羅らのゆらぎに濁っていた、…なに?風景。もはや風景として見出し得る如何なる風景もないなかに、うつむくわたしはせめて手のひらを見ようとした。
謂く、
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっき、その舌に
爪をなめていた
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっき、冷え切った
波紋にふるえた
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっき、しずかな
焰をたてた
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっき、微弱な
叫びを吐いた
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっき、ゆび先は
ふれられなかった
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっき、だれかが
血を吐くのを見た
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっき、こごえてた
震動にくずれた
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっき、かたちをきざした
手ざわりもなかった
また謂く、
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっきまでずっと
かぶさっていたもの
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっきからずっと
かぶさっていたもの
なに?それは、なに?
わたしの眼に
突然の涙が、その
叫びを消した
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっき唐突に
笑いだしたもの
故にまた謂く、あるいはこんな夢を見た。さかさづりにされた、…だれに?わたし。わたしが、…だれ?もうその体臭さえ…なぜ?うしないながら地中に…いつ?うずまり、ひらかれた口蓋は貪るのだった。ふりしきる雨。そのすさまじい新鮮さを。なんら、渇きなどなかった。喉にも。空隙にすぎない眼窩にも。だから孔として顎のふちにも。しかもダイヤモンドの雨は、猶も。しかも猶も未曽有の焰、もはや発熱の果てに、色彩さえ持ち得なかった焰そのものにすぎなかったから。
雨にうたれてわたしは燃えた。かさねて謂く、
なに?それは、なに?
…水滴。それは
ん?…そこに
色もない、綺羅
さっき、その舌に
やがて流れ落ち
爪をなめていた
なに?それは、なに?
…淚。それは
ん?…そこに
ひかり、あたたかな
さっき、冷え切った
だれかの頬に
波紋にふるえた
なに?それは、なに?
…花。それは
ん?…そこに
しろい、ちいさな
さっき、しずかな
まだ知られない
焰をたてた
なに?それは、なに?
…雨。それは
ん?…そこに
やさしく降った
さっき、微弱な
あの六月。霞み
叫びを吐いた
なに?それは、なに?
…傷み。それは
ん?…そこに
あなたにきざした
さっき、ゆび先は
ささやかな
ふれられなかった
なに?それは、なに?
…風。それは
ん?…そこに
驟雨をきざした
さっき、だれかが
匂う、かすかな
血を吐くのを見た
なに?それは、なに?
…香り。それは
ん?…そこに
ふと返り見た
さっき、こごえてた
あのひとの髪に
震動にくずれた
なに?それは、なに?
…頬。それは
ん?…そこに
かなしい、けなげな
さっき、かたちをきざした
せめてものほほ笑み
手ざわりもなかった
また謂く、
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっきまでずっと
くすぶっていたもの
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっきからずっと
滅びかけていたもの
なに?それは、なに?
わたしの眼に
わなないた孔。それら無数に
燃える、まがった鐵棒を
なに?それは、なに?
ん?…そこに
さっき唐突に
抉りだしたもの
故にまた謂く、あるいはこんな夢を見た。肛門と口蓋の両方からながい頸をさらしたけものが貪るにまかせた。だからわたしを。もはややつれきっていたその肉体を、咬む。ちぎる。すする。飛び散るしろい匂いのない血に、咬む。ちぎる。すする。わたしはそこに脱ぎ捨てられた殻。その断末魔のさけびを聞いた。むしろ、海をいまさら波立たせないように、やさしい微弱なささやきを擬態して、だからさっき、鳴りひびいていたもの。思った。いまや海は、あのたえまない雨のおかげで、奇蹟なすダイヤモンドの奇蹟の青い色彩に、…まさか!やがて照らされた月の海さえ染めているだろうと、…なんて!思わず笑んだ。
せつないほどの、海。月。そのしろに青。その可憐に。
かさねて謂く、
なに?それは、なに?
飛沫たち。粒だち
…水滴。それは
たぶん…ね?
ん?…そこに
ひらひらするから
色もない、綺羅
え。…っと
さっき、その舌に
水滴。それが、…猶も?
やがて流れ落ち
なに?それは、なに?
爪をなめていた
なに?それは、なに?
淚。しずくは
…淚。それは
ささやかないで
ん?…そこに
きりきりするから
ひかり、あたたかな
え。…っと
さっき、冷え切った
淚。それが、…だれの?
だれかの頬に
なに?それは、なに?
波紋にふるえた
なに?それは、なに?
花たち。花は
…花。それは
きっと…ね?
ん?…そこに
ゆらゆらするから
しろい、ちいさな
え。…っと
さっき、しずかな
花。それが、…いまも?
まだ知られない
なに?それは、なに?
焰をたてた
なに?それは、なに?
雨たち。雨は
…雨。それは
息を、しないで
ん?…そこに
くらくらするから
やさしく降った
え。…っと
さっき、微弱な
雨。それが、…咬みっ
あの六月。霞み
なに?それは、なに?
叫びを吐いた
なに?それは、なに?
傷。傷ついては
…傷み。それは
やっぱ…ね?
ん?…そこに
ひらひらするから
あなたにきざした
え。…っと
さっき、ゆび先は
傷。それが、…虹?
ささやかな
なに?それは、なに?
ふれられなかった
なに?それは、なに?
微風。風立ち
…風。それは
うごかないで
ん?…そこに
びくびくするから
驟雨をきざした
え。…っと
さっき、だれかが
風。それは、…もう
匂う、かすかな
なに?それは、なに?
血を吐くのを見た
なに?それは、なに?
香りたち、匂いは
…香り。それは
あの、…ね?
ん?…そこに
ひりひりするから
ふと返り見た
え。…っと
さっき、こごえてた
匂い。それが、…どこ?
あのひとの髪に
なに?それは、なに?
震動にくずれた
なに?それは、なに?
頬にゆがんだ
…頬。それは
もう、そこに
ん?…そこに
いびつなふるえは
かなしい、けなげな
え。…っと
さっき、かたちをきざした
笑み。それは、…なに?
せめてものほほ笑み
なに?それは、なに?
手ざわりもなかった
手ざわりなどなかった
なに?それは、なに?
せめてものほほ笑み
笑み。それは、…なに?
さっき、かたちをきざした
え。…っと
かなしい、けなげぇ…
いびつなふるえは
ん?…そこに
もう、そこに
…へど。げぇ…くさっ
頬にゆがんだ
なに?それは、なに?
震動にくずれた
なに?それは、なに?
あのひとの髪に
匂い。それが、…どこ?
さっき、こごえてた
え。…っと
ふと返り見た
ひりひりするから
ん?…そこに
あの、…ね?
…香り。それは
香りたち、匂いは
なに?それは、なに?
血を吐くのを見た
なに?それは、なに?
匂う、かすかな
風。それは、…もう
さっき、だれかが
え。…っと
体液を散らした
びくびくするから
ん?…そこに
うごかないで
夜明けの変質者。ぐばっ
微風。風立ち
なに?それは、なに?
ふれられなかった
なに?それは、なに?
ささやかな
傷。それが、…虹を?
さっき、ゆび先は
え。…っと
あなたにきざした
ひらひらするから
ん?…そこに
やっぱ…ね?
…傷み。それは
傷。傷ついては
なに?それは、なに?
叫びを吐いた
なに?それは、なに?
あの六月。霞み
雨。それが、…咬みっ
さっき、微弱な
え。…っと
やさしく降った
くらくらするから
ん?…そこに
息を、しないで
…雨。それは
雨たち。雨は
なに?それは、なに?
焰をたてた
なに?それは、なに?
まだ知られない
花。それが、…いまも?
さっき、しずかな
え。…っと
しろい、ちいさな
ゆらゆらするから
ん?…そこに
きっと…ね?
…花。それは
花たち。花は
なに?それは、なに?
波紋にふるえた
なに?それは、なに?
だれかの頬に
淚。それが、…だれの?
さっき、冷え切った
え。…っと
ひかり、あたたかな
きりきりするから
ん?…そこに
ささやかないで
…淚。それは
淚。しずくは
なに?それは、なに?
爪をなめていた
なに?それは、なに?
やがて流れ落ち
水滴。それが、…猶も?
さっき、わたしに
え。…っと
色もない、綺羅
ひらひらするから
ん?…そこに
たぶん…ね?
…水滴。それは
飛沫たち。粒だち
なに?それは、なに?
2020.05.14. 黎マ
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