流波 rūpa ……詩と小説137・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈44





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





あるいは、

   素肌には切り傷

   火傷。その痕跡

   引っ掻き傷

   かさなりあう打ち身


   悲鳴は?

   その喉に

   知ってた?

   悲鳴。もう、その舌に


   青タン。顏半面に

   週イチ。鼻血

   視力異常。時に

   転倒と事故を言い訳に


   助けは?

   あなたに

   だれもが?

   無視。じゃなくて、様子見?だから目をおおうほどに特異的で。だからなすすべもなく特異的で、しかも赤裸々で。だからあまりにも赤裸々で、しかも無防備で。だからもはや無防備なまでに容赦なく、しかもひたすらに悲劇的なひと、と。あの楓。つまりは≪流沙≫に対するのと同じように楓に対してさえもそう見い出したのはだれ?…すくなくともわたし。わたしは楓を、と、しかしそれは、たぶんかれの肉体と精神の乖離になど依っていない。乖離?そもそもたとえば獅子の肉体に鮭の精神を宿せば溺死しをのみ意味し、鮭の肉体に鷲の精神を宿せば墜落死をのみ意味するほどには、それがいったいどれほど価値のあった乖離だっただろう?いたましい楓。壊れかけの楓。いつ壊れてもおかしくはなかった楓。のちに、…あるいは、さきに、…あるいは、いま?…それらさまざまな時性のなかにもわたしのまなざしに楓。うすい唇。不遜な笑み。かれが、ひとびとに悲劇的なひと、と、たとえば親殺し兄弟殺しの≪流沙≫。その虐殺の≪流沙≫という形姿を纏ったその≪流沙≫に殺されずに生き殘ったひとびとのまなざしに、≪流沙≫。だから血まみれの≪流沙≫が血まみれにそこに顯らわれて仕舞うときに、むしろ

   きれは、何ですか?

      赤い花なら

そんな≪流沙≫たるべきだったのは

   きみの傷です

      鼻にすすって

楓、と。兩手を

   直視できない

      青い花なら

血に染めてしかるべきなのはただ

   きみの傷です

      咬みちぎれ

楓のほうだった。妹ではなく、その父親を。だから、あのだれもが知っていた虐待。その兩親に、やがてはただひとり殘った父親による虐待。その苛烈。容赦なき苛烈。苛烈な苛酷。苛酷な虐待。かなしく、いたましく、いたいたいしい楓。それが結局、例の肉体と精神の乖離に起因するものだったとは、わたしには想えない。たとえ、はやく小学生のころからすでに女の子のような…の子、らしい?長髮を、…の子、にふさわしい?って、それって性差別じゃねぇの?カス。拒否し、時に島の保守的な床屋のって、それって性差別じゃねぇの?カス。当時の咥え煙草のって、それって性差別じゃねぇの?カス。職人にさえも…って、それって性差別じゃねぇの?カス。懐疑されながらも、スポーツ刈り、お願いします。…ってそれって性差別じゃねぇの?カス。短く、わたしたちと同じように刈り上げることをだけ求め、望みの満たされない時にはって、それって性差別じゃねぇの?カス。あるいはののしり、あるいは言葉に理論武装し、あるいは拳の暴力、身体の乱暴にさえも訴えてって、それって

   それは何ですか?

      死にました

性差別じゃねぇの?カス。試行錯誤のすえに

   きみの狂気です

      昨日、こころが

知恵のついた最終にはやはり

   正視に耐えない

      フライ・オイルのひと掛けで

もと通り、こどものように

   きみの狂気です

      悶死

いたいけなく泣いて見せるという、それら、床屋における散髮。月イチの楓的儀式。って、すべての女の髮なんか刈り上げちまえよカス。男女平等むしろ黒く、黒く塗りつぶせ。だから、いつでも短く刈り上げた少女の楓は黒く、黒く塗りつぶせ。だれの目にも不当な暴力にやりこめられたまるで黒く、黒く塗りつぶせ。徒刑囚のような形姿をだから、ひとびはミックと矢沢のロックなくちびるにその容赦なきフェラチオ。そのまなざしに黑く、黑く塗り見い出していた。いずれにせよ楓にふりそそぐ虐待。それは苛烈だった。かれら、…仮りにここで豚オと豚コと名づけておくって、それって性差別じゃねぇの?カス。かれらの一人娘、と、かれら豚オと豚コが見出していた、その、だからボーイでもガールでもない≪さむしんすぺっしゃる≫のって、それって性差別じゃねぇの?カス。楓は、黒く、黒く、黒く塗りつぶ「きのう、…さ」と。その、

   いぢっ

      わかるかな?

虐待に対する抵抗者にして

   いぢっ

      まだ、人間の言葉

徒刑囚、楓。かれは

   いぢめてよ

      わかるなか?

耳もとに、「ぶんだらげぇえんばっ」と?

   いぢっ

      なわかるな?

慥かに人間の言葉を話し、話して、話していながらに、笑い聲。それにそれを作り變えて仕舞い、たとえば、…なぜ?イソギンチャクの言葉に。「なに?」それは…なぜ?十二歳の、…十三歳の?…いつ?そんな、島の中学にあがったばかりのころに櫻。

   ひとの、ひとの、ひとの言葉など

      ノイ、ズィーに

さくら。

   聞かなくていいよ

      溢れ返った

櫻。どこでもかならず春の学校には

   蝶がもう

      ノイ、ズィーな

櫻。

   ささやいたから

      ノイ・ズゥ

さくら。

   きみの、決して

      ノイ、ズィーに

櫻。「びばぁじゃへんばつっ」

   聞き取れないひびきで

      わななき散った

笑った。わたしと≪流沙≫は、たぶんおなじように耳もとに、たとえばそうささやかれていたと感じていたに違いない、それ。かなしいまでに可憐で暴力的なまでにあやうい楓の聲。振り返ったわたしたちのすこし後方の中央に、聲。ふたりのだれを見い出すともなく聲。つぶやく、あかるい聲。楓の聲。なぜ?あなたの聲はそんなに、と

「ひぃんだらげぇにゃっ」

   傷みなんか、もう

音楽的にひびくのだろう?無慚な

   蒸発、しちゃった

笑い聲の無慚にただ、

   てへっ

みだされきっていながらも。しかも、わたしたちはもう、楓の言いたいことのほとんどすべてを理解していたのだった。だから、たとえば、≪流沙≫はこうつぶやく、むしろあかるく、「また、ぶん殴っちゃったの?」だから、あるいは、わたしは。だから、たとえば、≪流沙≫はこうつぶやく、むしろあかるく、「また、蹴り入れちゃった?」だから、あるいは、わたしは。だから、たとえば、≪流沙≫はこうつぶやく、むしろあかるく、「また、引きずり廻しちゃったの?」だから、あるいは、わたしは。その時が果たして

   傷みなんか、もう

それらどちらであったか、そんなことは

   分子崩壊、しちゃった

どうでもいい。いつも

   てへっ

そうだった。どちらかはそうささやいた。そしてかれの、…その楓のためにほほ笑みを、≪流沙≫。かれはそれでも一応はもの案じげな色を添えて、わたし。それはただ赤裸々に楓の勝利をよろこぶ、だから歓喜?ことさらに、称賛?いずれによ、苦笑?そんな笑み。聲。ひびき。ゆらぎ、それらのうちに楓。かれを「きのうも?」

「ぃいんばらぁげだぁあ」それら、ひびき。

   ノイ、ズィーに

      犠牲に、なる、よ

色彩。

   飛びかい、乱れて

      ぼくがね、みんなの

櫻の?

   ノイ、ズィーな

      犠牲に、なる、よ

むしろ、楓の。

   暴風をなして

      ひとりで、ぼくが

くちびる。

   ノイ、ズィーに

      犠牲に、なる、よ

さくらいろの、とでも?まさか。それは回顧的でかつ非現実的なアニメーションの回想場面の現実。そんな感傷的表現などよせつけない、あまりに濃い、濃い、濃い、皮膚の翳りの色彩。くちびるの、それはむしろ沁みのような。謂く、

   くちびるに

   そのくちびるに

   裂けめ

   切れめ


   いたっ…たたっ

   たっ。た、た、たいたっ

   いたっ…たたっ

   たっ。たっ。いたっ


   そこにいた

   きみは、目の前に

   そばにいた

   時には、となりに


   くちびるややうえ、しかもすこしななめ

   その皮膚に

   切れめ

   ふさぎかけ


   いたっ…たたっ

   たっ。た、た、たいたっ

   いたっ…たたっ

   たっ。たっ。いたっ


   そこにいた

   きみは、ほほ笑み

   生きていた

   時には、茫然


   ふいに、失神

   そんな気配

   行っちゃった?いま

   南極に?…オーロラのなかに?


   行っちゃった?きみは

   月に?

   その海

   どの海に?


   静寂の海には

   櫻さきみだれた

   その下には、さ

   ダイヤモンドの焰が燃えて


   焰はすべてダイヤモンドで

   その下には、さ

   櫻さきみだれた

   静寂の海には


   波。どの海に?

   その海に、しずかな波

   月に?

   行っちゃった?きみは


   南極に?…オーロラのなかに?

   行っちゃった?いま

   そんな気配

   ふいに、失神


   時には、茫然

   生きていた

   きみは、ほほ笑み

   そこにいた


   たっ。たっ。いたっ

   いたっ…たたっ

   たっ。た、た、たいたっ

   いたっ…たたっ


   めくれ

   ふさがりかけ

   その皮膚に

   くちびるややうえ、しかもすこしななめ


   時には、となりに

   そばにいた

   きみは、目の前に

   そこにいた


   たっ。たっ。いたっ

   いたっ…たたっ

   たっ。た、た、たいたっ

   いたっ…たたっ


   切れめ

   裂けめ

   そのくちびるに

   くちびるに

すなわち楓が頭の上にのっけた櫻の花びらをなぜか、≪流沙≫は笑う。かさねて謂く、

   くちびるに

      ときどき

    弛緩して

     気のせい?

   そのくちびるに

      思い出した気がする

    だらっ…くちびる

     思い出した気がする

   裂けめ

      気のせい?

    ふいに

     ときどき

   切れめ


   いたっ…たたっ

      その顏を

    聲が立った

     いとしく

   たっ。た、た、たいたっ

      せつないほどに

    笑い聲?

     せつないほどに

   いたっ…たたっ

      いとしく

    その聲を聞いた

     その顏を

   たっ。たっ。いたっ


   そこにいた

      いとしすぎて

    ななめに

     その顏を

   きみは、目の前に

      せつなかった

    光り。たぶん

     せつなかった

   そばにいた

      その顏を

    朝の

     いとしすぎて

   時には、となりに


   くちびるややうえ、しかもすこしななめ

      覚えてねーよ

    翳りは

     普通によ

   その皮膚に

      ひとの顏なんか

    ななめに。たぶん

     ひとの顏なんか

   切れめ

      普通によ

    だから

     覚えてねーよ

   ふさぎかけ


   いたっ…たたっ

      思い描けねーよ

    痙攣しかけて

     昨日別れたやつの顏もよ

   たっ。た、た、たいたっ

      自分の顏もよ

    ぐくぃっ…鼻孔

     自分の顏もよ

   いたっ…たたっ

      昨日別れたやつの顏もよ

    いきなり

     思い描けねーよ

   たっ。たっ。いたっ


   そこにいた

      だれの顏もよ

    聲が立った

     霞み附き

   きみは、ほほ笑み

      だから顏なし

    笑い聲?

     だから顏なし

   生きていた

      ぼかし附き

    その聲を聞いた

     だれの顏もよ

   時には、茫然


   ふいに、失神

      ぼやけのなかに

    なんでも、言ってね、と

     うすいくちびる

   そんな気配

      かろうじてくちびる

    先生も

     あざやかなくちびる

   行っちゃった?いま

      うすいくちびる

    どの先生も

     霞みのなかに

   南極に?…オーロラのなかに?


   行っちゃった?きみは

      本当かよ

    ちゃんと、敎えてね、と

     不遜なくちびる

   月に?

      印象じゃね?

    先生も

     印象じゃね?

   その海

      笑うと、不遜

    おおくのひとも

     本当かよ

   どの海に?


   静寂の海には

      きれいな、拳

    かれが殴る。…から

     殴ったことなど

   櫻さきみだれた

      だれも傷めたことなど

    父が殴る。…から

     だれも傷めたことなど

   その下には、さ

      殴ったことなど

    かれのせい。…だれ?

     きれいな、拳

   ダイヤモンドの焰が燃えて


   焰はすべてダイヤモンドで

      きみの顏さえ

    かれのせい。…だれ?

     だれもの顏も

   その下には、さ

      思い出せない

    父が殴る。…から

     思い出せない

   櫻さきみだれた

      だれもの顏も

    かれが殴る。…から

     きみの顏さえ

   静寂の海には


   波。どの海に?

      殴ったことなど

    おおくのひとも

     きれいな、拳

   その海に、しずかな波

      だれも傷めたことなど

    先生も

     だれも傷めたことなど

   月に?

      きれいな、拳

    ちゃんと、敎えてね、と

     殴ったことなど

   行っちゃった?きみは


   南極に?…オーロラのなかに?

      不遜なくちびる

    どの先生も

     本当かよ

   行っちゃった?いま

      印象じゃね?

    先生も

     印象じゃね?

   そんな気配

      本当かよ

    なんでも、言ってね、と

     笑うと、不遜

   ふいに、失神


   時には、茫然

      うすいくちびる

    その聲を聞いた

     ぼやけのなかに

   生きていた

      あざやかなくちびる

    笑い聲?

     かろうじて

   きみは、ほほ笑み

      霞みのなかに

    聲が立った

     うすいくちびる

   そこにいた


   たっ。たっ。いたっ

      霞み附き

    いきなり

     だれの顏もよ

   いたっ…たたっ

      だから顏なし

    ぐくぃっ…鼻孔

     だから顏なし

   たっ。た、た、たいたっ

      だれの顏もよ

    痙攣しかけて

     ぼかし附き

   いたっ…たたっ


   めくれ

      昨日別れたやつの顏もよ

    だから

     思い描けねーよ

   ふさがりかけ

      自分の顏もよ

    ななめに。たぶん

     自分の顏もよ

   その皮膚に

      思い描けねーよ

    翳りは

     昨日別れたやつの顏もよ

   くちびるややうえ、しかもすこしななめ


   時には、となりに

      普通によ

    朝の

     覚えてねーよ

   そばにいた

      ひとの顏なんか

    光り。たぶん

     ひとの顏なんか

   きみは、目の前に

      覚えてねーよ

    ななめに

     普通によ

   そこにいた


   たっ。たっ。いたっ

      その顏を

    その聲を聞いた

     いとしすぎて

   いたっ…たたっ

      せつなかった

    笑い聲?

     せつなかった

   たっ。た、た、たいたっ

      いとしすぎて

    聲が立った

     その顏を

   いたっ…たたっ


   切れめ

      いとしく

    ふいに

     その顏を

   裂けめ

      せつないほどに

    だらっ…くちびる

     せつないほどに

   そのくちびるに

      その顏を

    弛緩して

     いとしく

   くちびるに

指を、だから口蓋からふいに指を拔くと、沙羅は思わず顎に、それにすがるような挙動を見せた。わずかに、ほんのかすかな須臾に。笑った。わたしは。なにがとりたてておもしろかったわけでもなく。なにかおかしかったわけでもなく。ふと、腰のうごきをやめて仕舞った沙羅の、そして呆気にとられた?感情のないまなざしの赤裸々。そのくちびるを、だからその場にしのぎにふいにつかんでみるしかなかった。













Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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