流波 rūpa ……詩と小説134・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈41
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
あるいは、
ふいに、まるで
なにも存在しなかったかのように
須臾にさえも
その不在など
楓。再会の
あられもなく笑い
あけすけに笑う
笑う楓は
ふいに、まるで
なんら存在しなかったかのように
須臾にさえも
その失踪など
楓。突然の
邂逅に笑い
無防備に笑う
笑う楓がおもわずいまさらに目を見張る。見開きかけ、しかも、ひらかれきれずに「すっごい、久しぶり」と。渋谷のライブ・ハウス。だから、その十九歳の楓は。知っていた。すでに楓の現状は。だから現存の事実も生存の事実も。驚きなどなかった。驚きしかなかった。思わず目をしばたたかせて仕舞った、だからそんなくらいの。しかし、まばたきさえも忘れて。楓。かれは知るすべもなかった。わたしの、そして≪流沙≫の、だから一方的にかれが捨てたわたしたちの現状など。そもそも現存も、生存さえも。わたしたちに一方的に見い出され、見つめられ、聞かれ、聴き取られるだけの存在にすぎなかったから。楓。その失踪。家出。島からの離脱。十六歳でわたと≪流沙≫の前からすがたを消して、そしてわたしと、たぶん≪流沙≫もだから三年ぶりにかれの顏をふたたび見い出したのはまさか町で通りすがりになどではなくて。だから楓。その成功。テレビ番組。当時はまだ存在してたトークと演奏による音楽番組。そのなかの≪あす・ゆめ≫のフェミニンな右の方として、だから≪流沙≫もわたしも楓の生存と、現状と、公然の性別僞証の事実を見た。公稱は男性。かれは、普通に、惡びれもせずに。しかも実は女であることなど、熱心なファンのみならず一目見たサーフィン好きのエスキモー留学生でも察知できた。完全な坊主あたまに刈り上げた楓。うすい
素直すぎる
耳障りだった
唇に、意図のない
まなざしは
息遣い
不遜。だれより目立った
倒錯。赤裸々な
あたまのうしろの
美貌。へたなアイドルよりも、ただし
頽廃
だれ?
そのライブ・ハウスを訪れたのは偶然にすぎなかった。だからここでふたたび直に出逢って仕舞った、そのあり得なさに目舞った。それはもう、かれらの絶頂期。楓と九鬼蘭が≪あす・ゆめ≫として、ほんの二年足らずすごすことになった絶頂期、しかもすでに急速に崩壊しながら、ちょうど二曲めのヒットを飛ばしている最中に、…たしか。慥か、そんな頃だった。かれらの音楽を愛したことはない。親しんだことさえ。追憶とともにであれなんであれ、蘭と楓の、その≪あす・ゆめ≫。ふたりのユニットを心地よく瞬間さえ一度も、コンマの右に何億、何十億のゼロをかさねた先のわずかにさえもない。≪東京騒音委員会≫という名義だった。そのライブは。だからノイズ系の、九鬼ではないDJの男と——名前は忘れた。たぶん一時的な、ひょっとしたらその場限りのユニットに過ぎなかったから。あくまでも趣味的、あるいは余技的、そんな突発的ライブの轟音。ほとんど客の入っていない、歡聲などなにもない轟音。洪水。ノイズの、ひびき、ひびわれ、ひびき、ひびわれつづける途切れめに、「…楓」
だれ?だれ?
なぜ?
そう呼んだわたしの
きみの名前が分からないから
床が、なぜ?
ふいの大聲を、楓。かれは
きみの名前を呼んでみた
濡れてたの?
見い出した。笑い。もう
だれ?だれ?
べたべたしたの?
須臾もなかった。気づけばすでに楓は笑っていた。まるで不在だった時間など存在しはなかった、と?ごくごくあたりまえの、ありきたりなほほ笑み。聞こえない笑い聲、だからすでに轟音のせいで。あふれかえり、のたうちまわり、だからノイズ。ノイズ。ノイズ。その…裸のラリーズなんて好きだったっけ?轟音だけとともに、「…雅雪じゃん」
聞こえなかった。そう云ったことを、まなざしのこちらはくちびるに聞いた。ステージから、楓はなんら遠慮もなく、こともなげにマイクをくちびるの先のすれすれに、…なに?ただ、ハウリングだけ。離れたアンプから、
「あと、…三十分」
と?…わたしはなになになに?
「ちょと、待ってて」そう聞いた?…ノイズ。わたしを眼を細め、指先。楓のそれらがさらにそこにフィードバック・ノイズをかさね、掻き立て、鳴らしつづけて楓。わたしは見つめていた。もはや静寂のなかに、かれだけを。楓の存在、その眼の前にいるという事実をいまだに本当の事には想えないままに。そこにいること。慥かにかれが、そこにいて、そこはかれを存在させ、わたしさえも巻き込んで存在して仕舞っている…なに?事実。…なぜ?想えば、ひょっとしたら≪東京騒音委員会≫というのは、あくまでイベントの名称だったかもしれない。ユニットなどではなくて。ほんの一時間もなく楓はステージの脇に退いて、消え際にしかも手招きした。わたしに、そのままこっち、上がって來いよ、と。もちろんすでに楓が楓であることに気付いている周囲の人間たちのさまざまなまなざしたちのさらす複雑さなど、なんら考慮にも入れずに。謂く、
タトゥー。それら
最初のそれは
太ももの色彩
絵柄は龍。それ
タトゥー。それら
背中のそれは
まがりくねる色彩
蔦、棘、薔薇。なぜ?
タトゥー。それら
頸筋のそれは
黑白の色彩
不機嫌なエンジェル。それ
タトゥー。それら
手の甲のそれは
いきものの色彩
蓮を咬む蛇。なぜ?
タトゥー。それら
陰毛の上は
赤らんだ色彩
顏つきの太陽。それが
その女。女。まばたき
わたしをそこに
連れこんだ女。…好き?
こういうの、好き?
その女。女。あざわらい
わたしにそこに
捨て置かれた女。…なに?
どこ行くの、なに?
大久保駅でちぎれ飛ぶまえ
いつかはだれもちぎれ飛ぶから
死んで仕舞うから
処理されるから
始末されるから
死んで仕舞うから
いつかはだれもちぎれ飛ぶから
大久保駅でちぎれ飛ぶまえ
どこ行くの、なに?
捨て置かれた女。…なに?
わたしにそこに
その女。女。あざわらい
こういうの、好き?
連れこんだ女。…好き?
わたしをそこに
その女。女。まばたき
顏つきの太陽。それが
赤らんだ色彩
陰毛の上は
タトゥー。それら
蓮を咬む蛇。なぜ?
いきものの色彩
手の甲のそれは
タトゥー。それら
不機嫌なエンジェル。それ
黑白の色彩
頸筋のそれは
タトゥー。それら
蔦、棘、薔薇。なぜ?
まがりくねる色彩
背中のそれは
タトゥー。それら
絵柄は龍。それ
太ももの色彩
最初のそれは
タトゥー。それら
すなわち異物挿入。血。生理の?…その、健常な人体反応のせいにしておいた。回らない呂律に、ね、ね、ね、それら、それらのひびきの間隙のどこかに、かの女の耳だけに聴き取られていた言葉。自分の言葉。それこそが伝えたいことなのだと、…なぜ?知っていた。感づいていた。だから額にキスをくれた。その髮の毛から目をはそらして。匂いさえ嗅がないようにして。それはタトゥー。そのせい。だからその、タトゥーだけのせいにしておいた。暇もないほどに繁殖するタトゥー。鮮やかな顏料。肌のくすんだ色みになじみ、ただ、くすんでゆくだけの鮮明。部屋に來るなり笑った。大げさに。大口をあけて。笑い聲もなく。不在の前歯。二本。ようやく追いついた笑い聲の発作のあとの疲労。極度の倦怠に、女は、ようやくわたしにしがみついてつぶやく、…自分で、抜いた。
なんで?
鋏で。
だから、なんで?
鋏だって。
だからなんでなんだよ。…なぜ?理由は知らない。なにを以て?かの女の、ふたたびすこしの血をだけ舐め始めた口蓋。もう、言葉などささやこうとはしなかったから。かさねて謂く、
タトゥー。それら
好きな色は
救いたい
黃色
最初のそれは
ね?…実は、ね?
きみを
ね?…意外に、ね?
太ももの色彩
黃色
そう思った
好きな色は
絵柄は龍。それ
タトゥー。それら
莫迦?
なぜ?
けなげだから
背中のそれは
莫迦なの?
自分さえもう
莫迦なの?
まがりくねる色彩
けなげだから
燃え上がる寸前
莫迦?
蔦、棘、薔薇。なぜ?
タトゥー。それら
きらいな色は
守りたい
言えない
頸筋のそれは
ね?…実は、ね?
きみを
ね?…なにげに、ね?
黑白の色彩
言えない
そう思った
きら、ら、らいな色は
不機嫌なエンジェル。それ
タトゥー。それら
死んで
なぜ?
言えないから
手の甲のそれは
お前、死んだら?
自分さえもう
お前、死んだら?
いきものの色彩
言えないから
くずれおれる寸前
死んで
蓮を咬む蛇。なぜ?
タトゥー。それら
じゃっかん、好きな色は
笑わせたい
みず色
陰毛の上は
ね?…実は、ね?
きみを
ね?…若干だけ、ね?
赤らんだ色彩
みず色
そう思った
じゃっかん、好きな色は
顏つきの太陽。それが
その女。女。まばたき
だから?
なぜ?
みずの色ってなに?
わたしをそこに
だから、なに?
その頬はすでに
だから、なに?
連れこんだ女。…好き?
みずの色ってなに?
笑いくずれて
だから?
こういうの、好き?
その女。女。あざわらい
せつない色は
きみはいつでも
ぐんじょ色
わたしにそこに
ね?…なんとなく、ね?
よく笑った
ね?…ま、ね?
捨て置かれた女。…なに?
ぐんじょ色
これみよがしなくらいにも
せつない色は
どこ行くの、なに?
大久保駅でちぎれ飛ぶまえ
意味わかんね
きみはいつでも
あれ、地味じゃん?
いつかはだれもちぎれ飛ぶから
草喰った?…お前
ハーゲンダッツに
草喰った?…お前
死んで仕舞うから
あれ、地味じゃん?
コンビニのおつりに
意味わかんね
処理されるから
始末されるから
こわれそうなくらいに
レシートにさえ
泣きちゃいそうなくらいになんでもない目覚めを
死んで仕舞うから
ささげようか?…きみに
おくれ毛にさえ
ささげようか?…きみに
いつかはだれもちぎれ飛ぶから
泣きちゃいそうなくらいに
あかるく笑った
こわれそうなくらいにやさしい朝を
大久保駅でちぎれ飛ぶまえ
どこ行くの、なに?
あれ、地味じゃん?
これみよがしなくらいにも
意味わかんね
捨て置かれた女。…なに?
草喰った?…お前
よく笑った
草喰った?…お前
わたしにそこに
意味わかんね
きみはいつでも
あれ、地味じゃん?
その女。女。あざわらい
こういうの、好き?
ぐんじょ色
笑いくずれて
せつない色は
連れこんだ女。…好き?
ね?…ま、ね?
その頬はすでに
ね?…なんとなく、ね?
わたしをそこに
せつない色は
なぜ?
ぐんじょ色
その女。女。まばたき
顏つきの太陽。それが
みずの色ってなに?
そう思った
だから?
赤らんだ色彩
だから、なに?
きみを
だから、なに?
陰毛の上は
だから?
笑わせたい
みずの色ってなに?
タトゥー。それら
蓮を咬む蛇。なぜ?
みず色
くずれおれる寸前
じゃっかん、好きな色は
いきものの色彩
ね?…若干だけ、ね?
自分さえもう
ね?…実は、ね?
手の甲のそれは
じゃっかん、好きな色は
なぜ?
みず色
タトゥー。それら
不機嫌なエンジェル。それ
言えないから
そう思った
死んで
黑白の色彩
お前、死んだら?
きみを
お前、死んだら?
頸筋のそれは
死んで
守りたい
言えないから
タトゥー。それら
蔦、棘、薔薇。なぜ?
言えない
燃え上がる寸前
きらいな色は
まがりくねる色彩
ね?…なにげに、ね?
自分さえもう
ね?…実は、ね?
背中のそれは
きらいな色は
なぜ?
言えない
タトゥー。それら
絵柄は龍。それ
けなげだから
そう思った
莫迦?
太ももの色彩
莫迦なの?
きみを
莫迦なの?
最初のそれは
莫迦?
救いたい
けなげだから
タトゥー。それら
沙羅。どこにも射しこまれはしないかれのそれの、だから単なる擬態にすぎない腰のあばれる擬態に、ふいにわたしは振り向いてやる。飽きたから?もう、沙羅。褐色の沙羅。その交尾の眞似事には?かれの、しかしたしかにもう硬くはなっていたそれの触感と温度にも?鼻孔とうすびらきのくちびるに、感じてすぐに果てて仕舞いそうな、そんな息遣いをまでも丁寧に、かつ器用に擬態し、沙羅。だから、沙羅。その少年のほほにくちびるをかさねてやった。わたしは、そのほんの数秒になんども耳たぶと頬骨にこすりつけられながら。
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